プラスチックに起因する地球環境問題 —次世代への責任観に見る産業の経済至上主義と消費者エゴ—

プラスチックに起因する地球環境問題 —次世代への責任観に見る産業の経済至上主義と消費者エゴ—

2019年12月23日
グローバルイシュー・平和構築

 国連の地球キャンペーンSDGsが発進して5年になる。社会活動の多くを網羅する期限付き17ゴールに終着点はないが、わかりやすく232のターゲットが示されているから、総じて怠惰な人間には具体的な小ターゲットがあれば行動しやすい。国や社会の格差を無くすのが主題であろうが、筆者の関心は気候変動と地球環境の保全にあり、同時にそのカギを握る産業経済の次世代への責任と生活者の生活スタイルにある。
 生活の渦中にあると感じにくいが、この社会は生活の隅々まで企業活動に依存し、産業による市場操作と国策の下に人々は生活する。その影響は複雑かつ普遍的であり、自由で個性的と信じている生活スタイルでさえ産業活動の一環に組み込まれ、産業は巧みに生活者を操る。いわば大都会と住人、釈迦とその掌中の悟空の関係といえよう。
 社会基盤が自由経済であろうとなかろうと地球環境破壊の主因が経済活動の未熟さにあるのは間違いない。その未熟さの積み重ねがいまの日常生活と産業スタイルになっているから、地球環境を改善するには経済における価値観を変えるパラダイムシフトが求められる。この変革には地球環境を搾取して積み上げた富と財産を次世代へ還付する決意と修復作業が伴うが、それがわれわれ世代の責任、そこに逡巡は許されない。

責任意識の希薄な産業界

 前置きが長くなったが、筆者が取り組むプラスチック(以下、「プラ」と略記)と地球環境問題の関係は産業責任の未熟さを示すよい例である。生活スタイルが原因の環境破壊行為は産業側が演出したものといえ、また生活者の欲望も同じである。そこにはプラ製品を使い終わったあとの処方箋はなく、再生可能な廃プラは回収再生産されず、産業は儲けを妨げる不都合な事実を公表せず、廃プラは自社の利益にならないと燃やしてCO2を排出し、その罪悪感を紛らわすために焼却処分をリサイクルと詐り人々を騙すから、生活者は廃棄行為を悪とは考えない。これが産業と行政の姿である。
 そうとは知らず生活者は、虚飾のリサイクルを信じて自治体の決めた分別回収法には従うも安価なプラ製品を際限なく求める。この需要と廃棄の増加は産業の思うつぼであり、次世代への責任を欠く産業界は重い罰則を受けるべきであろう。
 類似の問題に植物由来プラ(以下、BBPと略記)の政策的普及がある。原料の資源が石油か植物かの差はあるが、BBPも石油由来プラ(PBPと略記)も一般に元と同じプラ原料へリサイクル可能でありその技術も出来上がっているから、両者はともに再生可能なプラ工業品である。ただし、前者を農林作物から作るためのエネルギー(CO2を排出)は後者を石油から作るよりも大きい。それにもかかわらず地球環境のことになると、学識者でさえ石油系は悪人、植物系は善人のように差別する。実際は両方とも善者であり悪人は使う人間側だが、故意か誤りかこの種の流布行為は絶えることがない。
 製造から廃棄までの人間活動が膨らみ地球環境と資源の可逆可能な許容度を超えたにも拘らず、社会が地球有限性の概念を組み込んだとは思えない。SDGsの文言にも有限性の概念は見当たらず次世代への責任観念は不透明である。人工知能を使って地球の有限枠を推定すれば、問題緩和への指針が見えて地球環境を経済活動に優先する理由が示されよう。加えて、環境の発する警告を無視して後者を優先してきたことが人類存続に関わる環境破壊につながったことをわれわれは知っている。それにも拘らず日本をはじめ経済大国は有効な改革を避けている。だから次世代から“How dare you!”と嘆かれ、吉野彰氏の受賞報告から批判と叱咤を感じるのは当然である。中核世代は経済活動の一方通行を急ぎ、次世代を心配するのは高齢世代ばかり。有限性基盤の市場経済を整えない政治と産業の遅さに怒りを覚える。

作った責任と使った責任の自覚を

 プラは一般に長寿命材料である。形や材料の性質を思い通りに表現したい欲求を叶える材料であり、細かな造形が可能であるから3Dプリンターに使う立体インク材料にもなる。一般に化学毒性は低く軽量で安価だから国内だけで年間1千万tもの廃プラが排出されている。
 そこに新たな問題が生じた。それは量の多さが原因の社会毒性と環境毒性である。このことは「政策オピニオン」No.114IPPHPに掲載)に述べたから詳細を省くが、廃プラの海洋汚染問題もその氷山の一角であり、素材を替える程度で解決できるものではない。樹を診て山を知るのを忘れているからだ。プラを材料余命まで使い切らずに安易に廃棄して視野から消せば満足する消費者と、多売と市場効果を信奉する経済人にそれを支える科学技術者がいるかぎりプラ問題は解決しない。原因は未熟な市場経済と生活スタイルにあるから、プラ素材をPBPからBBPへ置き換えるだけでは問題は解決しない。
 たとえ生活に支障が生じようと、次世代への責任を果たさない産業と行政をボイコットするほどの私たちの勇気は称えられよう。科学と技術、大学と企業は地球環境への謙虚さと同時に改革する行動力を欠いてはならない。関連してSDGs12ゴールの主題「作る責任と使う責任」を「作った責任と使った責任」に読み替えてはどうか。なぜなら、地球環境への取り組みとは、未来を見て過去の負債を継承する仕事だから、責任をとる経済が発動して環境問題が緩和するまで当事者が負い続ける次世代への負債だから。
 SDGsの背景にあるスローガン“no one left behind”も、ここでは“no one left in the desert”と読みかえよう。過去と現在の世代が地球にどれだけ不毛の環境を産んできたかを若い世代は見抜いて怖れているからだ。

政策オピニオン
奥 彬 京都工芸繊維大学名誉教授
著者プロフィール
京都大学工学部卒業、同大学院工学研究科博士後期課程修了。京都工芸繊維大学教授、財団法人生産開発科学研究所を経て、現在、京都工芸繊維大学名誉教授。専門は有機合成反応と環境資源科学。瑞宝中綬章受賞(2018年)。主な共・著書に『バイオマス~誤解と希望』『化学と社会』『グリーンケミストリー~持続的社会のための化学』など。

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