海外情報

2019年12月23日

愛着に基づいた家族療法のケーススタディ

月刊『EN-ICHI FORUM』2019年11月号より
欧米では親子間の葛藤がうつや自殺傾向につながるという認識が広がっており、親子関係に焦点を合わせた家族療法に期待が寄せられている。子供の問題行動・情動問題にどうアプローチするのか、家族療法の実践事例を概観する。

愛着とうつ・自殺の関係

 青少年のうつ症状や自殺の原因の一つと考えられているのが愛着障害である。愛着は子供が保護者に寄せる信頼の一種で、自分を世話し、無条件に保護してくれるという期待を表す。ドレクセル大学(アメリカ)のステファニー・エウィング(Stephanie Ewing)氏らは、「これらのニーズが満たされないと、子供は不安定な愛着を形成する危険が」あり、不安定な愛着関係は「親と10代の子供の関係を衝突に満ちたものにする」と述べている。そして「親と子供の衝突は10代の子供のうつ症状や自殺リスクの増大と重大な関係がある」とまとめている。
 そうした愛着とうつ症状・自殺傾向の関係を理由に、有効なうつ・自殺対策の一つとされているのが、「愛着に基づいた家族療法(Attachment-Based Family Therapy: ABFT)」である。同じくドレクセル大学のシリータ・スコット(Syreeta Scott)氏らによれば、ABFTを通して愛着関係を修復することにより、「思春期の子供と親の間でより直接的なコミュニケーションが可能となり」、「自殺念慮(自殺に思いを巡らすこと)やうつに対抗する能力を強めることができる」という。スコット氏らは親子間の愛着関係の修復がうつや自殺傾向をやわらげることを一組の家族の観察によって示した。

 

愛着に基づいた家族療法

①背景

 観察された事例では、14歳の少女レイチェル(仮名)と両親の間にある愛着関係の歪みに焦点が当てられた。レイチェルは数年間いじめを受けたことにより、うつ症状と自殺念慮、慢性不安を抱え、不登校に陥っていた。レイチェルは実の両親と生活していたが、両親に自分の状態を話さなかった。両親は彼女が自傷行為と自殺未遂を起こしてはじめて、娘が苦しんでいることを知ったのである。
 レイチェルの精神面に関する事前調査では、自殺傾向を測る指標である「年少者用自殺念慮アンケート(SIQ-JR)」とうつ症状を測る指標である「ベックうつ病調査票2(BDI)」による評価が行われた。SIQ-JRは84点、BDIは42点となり、ともに深刻な状態を示していた。

②感情の表面化

 カウンセリングセッションでは、セラピストが親子に自分の本当の気持ちを自覚させる役割を担った。まず、レイチェルに自分が親子関係に傷ついていることを認識させた。レイチェルは当初、自分のうつ症状や自殺念慮について両親に話さなかった理由について、「両親のせいではない」と述べていた。自分が勝手に「両親の重荷になりたくなかった」と気持ちを抑えたというのである。
 しかし、セラピストがより深く理由を聞いていくと、より核心的な理由を話した。レイチェルは6年生のとき学校の食堂でプラスチックのナイフを手首にこすりつけた。そのことを両親に話したが、両親はただ「やめなさい」というだけで理由を聞いたり助けたりする素振りを見せなかったという。レイチェルはこの出来事を「私がもう両親に話しに行かない理由の一部だと思う」と述べた。
 また、セラピストがその時の気持ちを聞くと、「本当につらかった。私は当たり前と思うことをやった。両親のところに行った。でも両親は私を遠ざけただけだった。気持ちはもっと悪くなって私は一人ぼっちになった」と愛着が揺らいだことを仄めかした。
 次にセラピストは、両親が養育に関してどのような思いを持っているか明らかにすることに取り組んだ。すると、セッションを通じ、両親は養育をめぐって衝突があることがわかった。母親によると、父親のレイチェルに対するコミュニケーションの取り方は「タイミングを外していて、レイチェルに厳しすぎる」という。そのため、母親が仲裁するのだが、父親によればその方法が「私(父親)を黙らせ」、「会話をやめさせる」だけのものだった。
 父親は母親の仲裁に腹を立てるが、母親は慢性的な不安の持ち主であることを知っているため黙ってしまう。しかし、そうすると、不安を抱える母親はなかなかレイチェルの問題と向き合えず、結果的に誰もレイチェルを助けないという状態に陥っていた。スコット氏らによれば、こうした夫婦のコミュニケーションのパターンについて父親が自ら気づき、両親は「新しい養育技術を学ぶことに対して動機を持つようになった」という。

③関係の修復

 そのように子供・両親ともに自分たちの感情や課題を自覚した後、親子関係を修復すべく話し合いが行われた。最初、レイチェルは両親を擁護していたが、セラピストが促すと「プラスチックのナイフの時のように、大したことない、やめなさい、と言われることが不安だった」と本音を述べた。父親は「もっと君が言うことに注意を払うべきだった」と述べ、レイチェルの気持ちを受け止める姿勢を示すことができた。スコット氏らによれば、「この瞬間が、不当な仕打ちを感じていたことを承認され、レイチェルにとって力づけられる瞬間であり」、「愛着関係が修復された瞬間であった」。
 このように、つらい記憶を共有して安心を感じたため、レイチェルはいじめの経験や自殺念慮について話すようになった。また、スコット氏らによれば、両親は「レイチェルに自分たちが彼女の感情的痛みを受け止めることができると示す機会を得た」。レイチェルは両親のサポートを受け、徐々に学校にいる時間を増やしていけるようになったという。そして全てのセッションを終える時にはSIQ-JRスコアは0で自殺念慮は消滅し、BDIスコアは16で軽度のうつ症状を残すのみとなった。
 以上のような観察から、親がうつや自殺念慮などの子供の心理問題に立ち入るためには、愛着関係の見直しが必要となることがわかる。ABFTは親自身に子供の問題への当事者意識を与えることで、子供の抑え込まれたつらさや悲しみを受け止める素地を作り、愛着関係の修復に役立った。
 ABFTの実践は、子供の問題が親子・夫婦の関係に起因していることを示しているという点で示唆に富んでいるといえる。

(月刊『EN-ICHI FORUM』2019年11月号より)

 

参考文献

Ewing, S. K., Diamond, G. and Levy, S. (2015) Attachment-based family therapy for depressed and suicidal adolescents: theory, clinical model and empirical support. Attachment and Human Development, vol.17, no.2, pp.136-156.

Scott, S., Diamond, G. S. and Levy, S. A. (2016) Attachment-based family therapy for suicidal adolescents: a case study. Australian and New Zealand journal of family therapy, vol.37, pp.154-176.