政策オピニオン

2018年11月1日

児童虐待の発生予防と家庭訪問型子育て支援

大正大学児童福祉プロジェクト研究所教授 西郷泰之
中央大学法学部卒。東洋大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士課程単位取得満期退学。英国イーストアングリア大学子ども家庭研究所客員研究員、玉川大学准教授等を経て現職。厚生省、文科省、地方自治体の審議会委員なども務める。

はじめに

 少子化時代の次世代育成支援策をテーマに、「家庭支援、子育て支援」についてお話しさせていただく。
 虐待予防にはいくつかの段階がある。まず虐待が発生する前の発生予防の段階(一次予防)。次に予防しきれなかった場合は、とにかく早期発見、早期対応(二次予防)である。初期の段階で見つけて、早く支援して、養育環境の不善を防止する。早期発見できなかった場合、子どもが命の危険にさらされないように、生活が安定するように、社会的に子育てをする。里親委託や養護施設、乳児院で育てる段階である(三次予防)。そういう段階を経てアフターケア(4次予防)がある。大きく分けてこのような4段階がある。
 今日のお話は、最初の発生予防の段階、特に訪問型の子育て支援や家庭教育支援についてである。

世界の動向

 家庭訪問型子育て支援(ホームビジティング)は、1800年代半ば、近代看護教育の母と呼ばれるフローレンス・ナイチンゲールの時代から行われていた。1900年前後にはメアリー・リッチモンドが活躍した。リッチモンドは社会福祉の母と言われている。この当時は、貧困家庭に対する訪問支援が積極的に行われていた。その後、第一次世界大戦、第二次世界大戦によって、訪問支援はいったん影を潜めた。
 再び社会的な関心が高まったのが小児科医のケンプが虐待を発見した1962年以降である。虐待は以前からあったが、「虐待」として認識して、社会的に大きな課題であると知らしめた。ケンプは、虐待を防止するためには家庭を訪ねて、家庭の中に入って子育てを応援しなければならないという問題意識から、「ケンプ・コミュニティケアリング・プログラム」を開始した。虐待が起こってしまってからでは遅い。外で講座をやったり、トレーニングをしても、家庭では活かされないと考えたわけである。1973年にはアメリカが「ヘッドスタート」という貧困家庭の親と子どもたちへの支援を開始した。それこそ、税金を納められる国民をつくる。つまり、より生産的な安定した国民をつくる。そして、将来の生活の安定を保障するということで、子どもへの支援も行ったが、重点は親に対する子育て支援であった。家庭訪問による支援はこの時代から現在に繋がっている。
 一方、ヘッドスタートと同じ時期にイギリスでは「ホームスタート」が始まっている。これは民間の活動である。
 アメリカでは1985年頃から積極的に家庭訪問が行われるようになる。この頃から、子育て困難な家庭に対しての専門家やボランティアの訪問も活発になっていく。
 1999年、イギリスでトニー・ブレア政権の時、イギリス版の子育て支援政策、シュア・スタート政策が打ち出された。これは国際的にも有名で、ブレア政権の他の政策は評価が分かれると聞いているが、シュア・スタート政策については肯定的な評価が多く、現在も家庭支援がイギリスの施策の軸になっている。
 ブレア首相がシュア・スタートを始めたときに掲げた目標は、貧困の撲滅である。当時のイギリスは日本より貧困率が高かったが、ゼロにすると言い切ったのである。ゼロにするには、普通の方法ではまず不可能。だからアウトリーチとホームビジティングを基軸に据える。
 そして、全ての子どもに教育や福祉、保健、医療、さらに仕事の斡旋を含む支援が行われた。ただ、仕事の斡旋は親の経済的な安定につながるが、そういう人たちは職業安定所や保健所で待っていても来ない。そこで、一日の半分は地域に出る、家庭を訪問することを徹底したのである。
 このシュア・スタートのキーワードが、アウトリーチ(外に出て行く)、ホームビジティング(家庭に入っていく)であった。開始から20年経過した現在、ホームビジティングは当たり前になっていて、いい意味でこの言葉は死語になっていると言える。

日本は2003年に開始

 では日本はどうか。日本では2003年、ひとり親、生活が厳しい親たちにヘルパーや保育者を派遣する日常生活支援の事業を始めた(「ひとり親家庭等日常生活支援事業」)。この事業は以前から行われてきたが、2003年に制度を立て直したのである。
 2004年には、養育支援訪問事業の前進事業が始まっている。そして2007年からは乳児家庭全戸訪問事業が始まった。今、日本ではこの二つが家庭訪問の施策の軸になっている。軸というのは、重要度ということもあるが、実施されている市町村の数が極めて多いということで、普及の度合いからもこの二つが軸になっていると言っていいだろう。
 また、2008年から、文科省は訪問型家庭教育支援事業の前進となる事業を始めている。文科省もこの頃から、公民館や学校などで講座を開いて参加者に来てもらうという、「待ち」の家庭支援では不十分だと判断したわけである。

乳児家庭全戸訪問と養育支援訪問が軸

 現在、家庭訪問型子育て支援の軸になっているのは、乳児家庭全戸訪問事業と養育支援訪問事業である。
 乳児家庭全戸訪問事業は、4カ月までの乳児がいる全ての家庭に訪問する事業である。かつての新生児訪問は、第一子が生まれた時に家庭訪問して、第二子、第三子の出産時はよほど問題がなければ訪問しなかった。
 それに対して、乳児家庭全戸訪問事業は、第一子でも第二子第三子でも、赤ちゃんが生まれた時に必ず訪問する。目的は子育ての孤立化を防ぎ、様々な不安や悩みを聞くことにある。育児や健康上の問題をはじめ様々な問題に広がることが多いが、主には母子の健康上の話を聞くことで問題を発見する。また、様々な子育て支援の情報を提供する機会になり、問題を抱えた母子を関係機関に繋ぐ役割も担っている。
 一方、養育支援訪問事業は、養育困難家庭に対して、指導や助言を行う。対象は、次のような家庭である。
 ①妊娠期からの継続的な支援を特に必要とする家庭。これは若年の妊婦や妊婦健康診査を未受診でいきなり出産したケース、望まない妊娠等、不安定な妊娠期を迎えている人である。
 最近、18歳の女性が病院に入院して、出産したばかりだったことに気づいた医師が警察に通報したところ、車の中から生まれたばかりの赤ちゃんの遺体が見つかった事件があった。養育支援訪問事業は、このような事件を無くすための施策である。妊娠していることを誰にも言えない、親にも言えないという人たちに対して、可能な限り支援する。
 ②子育てに対して強い不安や孤立感等を抱える家庭。誰でも子育てについては多かれ少なかれ不安や孤立感はある。その中で、少しストレス度が高い、例えば産後うつの家庭である。個人差もあるが、産後うつは子どもが小学校に上がるくらいまで続く可能性があるもので、保健師等が訪問する。
 ③虐待のおそれやそのリスクを抱え、支援が必要な家庭。食事や衣服、生活環境等、不適切な養育状態にある家庭である。これはある意味もっと深刻で、子どもが亡くなってしまう可能性があり、家庭訪問をして専門的な助言などを行う。
 ④アフターケアで里親委託や児童養護施設、乳児院を利用していた子どもが帰ってきた家庭。しばらくいなかった子どもが帰ってくると、家庭がまた不安定になることは珍しくない。それを防ぐために訪問する。

乳児家庭全戸訪問は99%の市町村で実施

 では、こうした家庭訪問事業がどれくらい普及しているか。2008年度の実績を見ると、乳児家庭全戸訪問事業は99.5%の市町村で実施されている。ただ、赤ちゃんが生まれた全ての家庭に訪問できたかというと、90%以上は訪問できているのだが、数%はどんなに連絡を取ろうとしても行くことができない家庭がある。それが大きな課題の一つである。
 それから、養育支援訪問事業は84.4%が実施していて、増えつつある。この事業は、困難家庭に専門家あるいはホームヘルパーが訪問して支援する事業だが、全国平均で一つの家庭に3回しか訪問できていないという課題がある。困難を抱えた家庭に3回では不十分である。これは財政的な問題だと考えられる。
 乳児全戸訪問事業と養育支援訪問事業は総務省の施策評価の対象になっていて、3歳未満児の児童虐待の発生予防に関わる取り組みとして有効性が認められている。
 実際、児童虐待で亡くなった子どもの数を見ると、平成20年には142人が亡くなっているが、21年から22年にかけて20人から30人減少している。この時期は、二つの訪問事業が各市町村に普及した時期と重なっている。特に虐待の対象になる乳幼児の保護に効果があったことが分かる。

支え合いの子育ての場

 次に、上記以外の保護者を対象にした家庭訪問支援事業として、行政が実施しているもの4つと民間が行っているもの2つを紹介する。
 行政が実施しているものでは「地域子育て支援拠点の地域支援事業」がまず挙げられる。主な事業目的は、乳幼児と親たちが交流する場をつくることである。いわゆるママ友をつくって、お互いに支え合いの子育てをしようという場である。これは厚生労働省が担当しているが、行政側では交流に重点を置いている。ただ、そういう拠点に関わってくる人たちはいいが、そこに来ない人、来ることができない人たちをどう支援するかという課題がある。これについてはスタッフが地域に出て行って、家庭に入って支援する事業が制度上は可能である。ただ、現状では後で説明するが、ホームスタートを導入している事業所を除いてほとんど行われていない。
 「利用者支援事業」は、子育てが困難という段階までは行かないが、特にストレスが高い乳幼児の親たちを支援する事業である。この中には、保育所を希望しても入れない親たちに対して、保育所情報を提供することも含まれている。そして、家庭に訪問して支援することも可能になっている。すでに一部で家庭訪問が行われている。
 「ひとり親家庭等日常生活支援事業」は、母子家庭、父子家庭に対する、ヘルパーと保育者による支援事業である。親の病気や修学等で忙しくて家事・育児ができない家庭にはヘルパー等を派遣する。親が残業で延長保育では十分に対応できない時、保育者を利用できる地域もある。地域によって違うが、かなり多くの方に活用されている地域もある。東京も盛んに活用されている地域である。

ボランティアによる訪問

 「妊娠出産包括支援事業の産前・産後サポート事業」は、助産師などの専門家が訪問するタイプと、子育て経験者がボランティアで訪問するタイプの二種類がある。今、日本で多く活用されているのはボランティアで訪問するタイプである。
 「ホームスタート事業」は、民間のボランティアが一定の訓練を受け、コーディネーターが調整して訪問し、傾聴するボランティア活動である。経験がなくても、一定の訓練を受ければ活動できる。助言や指導は一切しない。助言や指導が必要な場合は、助産師や保健師につなぐ。
 「ヘルシースタート」はアメリカで行われているが、日本の保健師のイメージで考えていいと思う。アメリカでは日本のように行政側の保健師が積極的に訪問することはあまりない。民間の資格を持った人たちが日本の保健師のような仕事をしている。これはアメリカの民間の資格に基づく事業なので、日本では実施されていない。しかしヘルシースタートの支援方法を準用したヘルシースタート「的」な事業は日本でも一定程度普及しており、民間で所定の訓練を受けた有償のスタッフが出産後の家庭に訪問して助言やお手伝いをしている。
 また、文科省の事業として「訪問型家庭教育支援事業」がある。(詳細は後述)

背景にあるのは家庭の孤立

 次に、子どもを対象にした家庭訪問支援である。
 一つは、「児童訪問援助事業(ホームフレンド・ひとり親家庭生活支援事業)」。また、「学習支援ボランティア(ひとり親家庭等生活向上事業)」、「学習支援事業(生活困窮者自立支援法)」、「児童養護施設等入所児童に対する学習ボランティア」もある。学習支援ボランティアは里親の家に行く場合もある。「メンタルフレンド」は不登校や精神的なケアが必要な家庭にボランティアが出かけるサービスである。一定の訓練を受けた大学生や年齢の近い人が家庭に行くが、決まった場所でボランティアが一緒に遊んだりスポーツをしたりして交流することもある。
 こうした支援が必要とされている背景にあるのは、家庭の孤立であろう。親たちが集まり孤立を防ぐ地域子育て支援拠点の数は6000カ所以上あると思われる。ベネッセ次世代育成研究所の「第2回妊娠出産子育て基本調査」(2011年)によると、親同士の交流を促進する子育て支援拠点は5年間(平成18年度から23年度)で約1000カ所増えている。それにもかかわらず、「子ども同士を遊ばせながら、立ち話をする程度の人」、「顔を知っている程度よりもう少し関係の深い人」がいるという親の割合は1割程度減少している。つまり、施設を作って交流を進めても交流できていない人が増えているのである。
 厚生労働省の委託研究(UFJ総合研究所「子育て支援策等に関する調査研究」2003年、三菱UFJリサーチ&コンサルティング「子育て支援策に関する調査」2014)を見ると、「子育ての悩みを相談できる人がいる」は2003年は7割以上(73.8%)いるが、2014年は4割(43.8%)にとどまっている。さらに「子どもを叱ってくれる人がいる」は、2003年には46.6%いた。それが2014年には半分以下の20.2%になっている。他の子を叱るのは、親同士の関係がしっかりできていないと難しい。いきなり叱ると隣近所との関係が悪くなってしまうからだ。以前は隣近所の関係がしっかりしていたので、叱る人がいた。子どもも近隣関係で相当育てられた。現在は近隣関係がなくなって親だけが子育てをしている状況である。人類歴史300万年だとすると、ここ20~30年で社会の構造が激変したと思わされる。人類はこの激変に対応できていないのではないか。

待つ支援ではなく届ける支援

 ここまでの話をまとめると、家庭訪問型子育て支援は決して複雑なものではなく、ひと言で言えば、より積極的な支援であるということに尽きる。待つ支援ではなく届ける支援である。対人援助に関わる全ての人たち、医師や保健師、ソーシャルワーカー、教師やカウンセラーなどが、問題を抱えて相談できない家庭に訪問して支援を届ける。家庭訪問型子育て支援は、そのためのキーワードであり、支援の方法である。
 もう一つは、支援の可能性を広げるということである。孤立している家庭にただ呼ばれて行くだけでは、その家庭の孤立を解消することは難しい。だから、親たちの交流を目指してこちらから積極的に訪ねていく。それに家庭訪問すると、話を聞くだけでは分からない「リアル」な情報を集めることもできる。その家庭を支援するために何が必要か、適切な情報を得ることができる。家庭は親子、家族の城だが、そこに入れてくれて話ができるようになった瞬間が、親との信頼関係を作るチャンスである。

各自治体の状況

 ここで、家庭訪問型子育て支援の状況について、数値をご紹介したい。今から5年ほど前だが、子ども未来財団の委託研究として活動の実態や課題を調査した。
 家庭訪問事業の中で最も多く行われている養育支援訪問事業は、46.9%の自治体で取り組まれていた。
 また、1カ月間の上限訪問回数は1家庭2.9回である。予算の問題で平均3回しか訪問できないのではないかと推定できる。
 ただし、多いところは9回から10回以上である。お金に関係なく訪問しているところもある。沖縄は訪問回数が比較的多い。必要に応じて訪問しているということであろう。
 1回あたりの訪問時間は1時間~1時間半が29%、1時間半から2時間が33%である。これは訪問して何をやるかによる。専門的な指導だけであれば、1時間程度で終わるかもしれない。しかし、専門的な指導の前段階で家庭と信頼関係をつくるための面接などは、ある程度時間をかけて行う必要がある。
 実際に家庭を訪問するのは保健師が37.8%で最も多く、助産師、看護師など看護系の職種が約65%を占める。次いで保育士19.1%、ホームヘルパー17.8%である。現在は保育士が増えている。
 訪問者に対する研修は約2割が行っていると答えたが、4分の3が無回答だった。つまり行っていなかった。研修時間は6時間以上行っているが6%だが、6時間もそれほど長い時間とは言えない。1時間から2時間の研修も8%だった。コーディネーターに対する家庭訪問研修も、55%は行っていなかった。研修自体がまだ脆弱であると言わざるを得ない。
 ただ、家庭訪問型子育て支援に対する行政の評価は高く、期待も大きい。この支援が有効だと評価する回答は8割を超えている。
 それでは課題は何か。行政の担当者に聞くと、一番は事業の成果を数量的に把握することが難しいこと。二番目に、スーパービジョンなど質の確保が十分でない。さらに、利用者への情報提供が不十分という点も挙げられている。
 利用者の一部負担が必要な場合もある。困難を抱えた家庭が費用を一部負担してまで利用することはほとんどないということも分かった。また、もともとの予算が少なく、予算の範囲内で小規模にせざるを得ないことも多い。ボランティアも十分に活用されていない。
 まとめると、家庭訪問型支援に対する行政の評価は非常に高い。しかし、実際の一家庭平均訪問回数は3回程度と少なく、支援者の質を担保する研修や支援の過程管理が不十分である。また、虐待を予防する発生予防の領域における支援が空白状態でほとんど見るべきものが無く、ボランティアの活用も積極的ではない。効果測定も十分ではなく、機関や制度間の連携ができていないことなども挙げられる。
 そこで提言として、次の四つをあげたい。

 提言1 訪問支援体制(人的・組織的体制)の充実― 訪問頻度の充実・支援体制強化
 提言2 ニーズに対応した訪問支援者・方法の多様化 ―ホームスタートなど発生予防療育の充実
 提言3 訪問支援の「質」の担保
    a)訪問支援研修の充実
    b)訪問支援マネジメントの確立
 提言4 効果測定ツールの開発
 提言5 支援のための包括的マネジメント機関の強化

アウトリーチ型の支援

 続いて、文科省の訪問型家庭教育支援事業を紹介する。文科省の事業は、広い意味ではアウトリーチ型の支援である。家庭教育支援は、学校での家庭教育学級で行われたり、公民館や教育会館で講座が行われたりするのが一般的である。
 しかし、そういう場に来ることができない親たちへの支援も急を要する。そこで、より地域に出て行って、アウトリーチ型の支援をする。例えば企業に出かけて、働いている人たちを対象に家庭教育講座を開催する。今までの公民館より、さらに遠方にある公民館に出かける。訪問型家庭教育支援の広義の定義は、「地域における親子の居場所づくりや、企業に出向いて家庭教育に関する講演を行ったりする取組など、行政や家庭教育支援チーム等による幅広いアウトリーチ型の支援」である。日常の拠点ではない所で行う支援だと説明している。
 ただし、今回文科省が発行した手引書は、狭義の意味の支援、「家庭を訪問して個別の相談に対応したり、情報提供する活動」を前提にしている。私もこの手引き作成に関わった。事前の調査研究にも加わっているので、そのデータを紹介する。
 広義の訪問型家庭支援事業は、全国約400カ所で行われている。一方、狭義の家庭訪問型は全国で120から130カ所である。文科省は狭義の訪問型を広めようとしてテキストをつくったが、家庭訪問まで行えるところが少ないのが現状である。
 文科省の訪問型家庭教育支援事業は、大きく三つのパターンに分かれている。文科省委託調査「家庭教育の総合的推進に関する調査研究」(2017年)によると、一つは、その地域に住むすべての学齢期の子どもを訪問する「全家庭訪問型」である。今回、我々は37カ所の現地調査を行ったが、そのうちの3カ所がこれに該当した。もう一つは「不登校型」である。不登校の子どもがいる家庭に訪問して登校刺激をする。文科省事業なので最終目標は学校に通うことである。三つ目が「標準型」である。利用したいという家庭にあまねく訪問する。最も数が多いので標準型と命名した。
 「全家庭訪問型」は、学齢期になったときに入学祝いで訪問する。それほど長い時間はかけない。玄関でお母さんやお子さんの様子を見て、元気そうであればいい。家庭教育に関する資料を手渡す。
 支援が必要な家庭については、再訪することもあるが、一般には家庭教育の専門機関に来てもらっての継続相談になる。
 「不登校型」の対象は不登校児の家庭である。子どもに学習支援をする際は2時間くらいの時間が必要になる。朝起きることができずに不登校になっている子どもには、朝に訪問して起きられるように声をかける。その場合は、着替えをさせて学校に送って終了である。家庭に滞在する時間は短い。
 「標準型」は傾聴が中心で、特に母親への傾聴が多い。十分な時間をかけて傾聴する。担当部局は生涯学習部局、社会教育部局である。訪問する方たちで作るチームの年代は40代から60代が多い。チームの人数は、自治体の規模によるが、だいたい6人以上。メンバー構成は、非専門職のチームと専門職のチームのどちらかに分かれている。なかには混合チームもある。専門職のチームは近畿地方に多い。近畿地方は臨床心理士などによるチームが不登校のいる家庭に行って登校できるように応援している。特に大阪府がそのパターンである。しかし、専門職チームが訪問するところは少なく、一定の訓練を受けた有償スタッフが訪問し、必要に応じて専門家が一緒に行くことが多いようである。
 活動拠点は、地域の子育て支援拠点、乳幼児が集まる交流拠点、公民館、小学校などである。スタッフは有償スタッフが中心で、一部無償の人たちがいるのは1カ所だけであった。学校、教育委員会、支援拠点から要請を受けて有償スタッフが家庭訪問する。訪問するメンバー同士では話し合いをしているが、助言したり指導したりしてくれる人はあまりいなかった。研修も十分ではない。こうした点も先ほどの養育支援訪問事業と類似している。支援対象は、乳幼児の保護者と小学生の保護者が多い。

支援内容は傾聴が中心

 訪問している家庭は、困難を抱えている子どもを持つ、もしくは悩みや不安を抱えている、保護者自身が困難を抱えている、社会的に心配な家庭が対象である。
 申し込みは、保護者本人からが68%。それ以外をみると、学校が71%で、教育委員会、放課後児童クラブ、保健師など、関係機関からの申し込みがある。
 メンバーは、傾聴を中心にした有償スタッフで、基本的に専門職のメンバーはいないが、時々専門職が加わることもある。近畿地方の、特に大阪のような専門職だけによる訪問もある。
 訪問時間は30分以上、1時間未満が55%と半数を超えている。これは担当する業務による。つまり「朝起きてね」と声をかけに行くのであれば30分で済むし、自宅に迎えに行って学校に送る場合も30分程度で済むだろう。学校の授業を家庭で教えたりすると長時間になる。
 支援内容は、傾聴が中心で、不安や悩みへの具体的な相談対応や子どもとの遊び方などの助言、家庭教育の情報提供などがある。主に有償スタッフが担当する。教員免許や保育士免許を持っていて、その職で働いていない人がスタッフになっていることも多い。

日本版ネウボラの事業として活用

 先ほどの養育支援訪問事業の一環で、ホームスタートを利用している市町村もある。そして、妊娠出産包括支援事業の中の産前産後サポート事業の中で、ボランティア型のホームスタートを利用している自治体がかなり多いので、ここでもう一度ホームスタートについて若干説明させていただく。
 ホームスタートは、無償で地域の子育て経験者などが週に1回2時間程度、定期的に家庭訪問して、傾聴を行う。訪問型家庭教育支援事業と似ているが、違いは指導とか相談事業はしないということである。
 ボランティア活動なので、さまざまな制度の隙間に柔軟に入り込むことができる。例えば、親子交流の場に来ることができない人のところに訪問して、信頼関係ができたら一緒に交流の場を利用できるようにするのである。
 それから養育困難家庭でなく、支援対象にならないけれども、何か気になる家庭がある。そういう家庭にもボランティアなので気軽に行くことができる。
 また、子育て当事者による傾聴は、きわめて共感性が高いということで、精神的な健康度が上がるというエビデンスもある。そういうことから、ボランティアであるがゆえに、つまり子育て経験者であるがゆえに力を発揮できるということが言える。
 現在、このホームスタートのシステムは全国約100カ所で展開されていて、日本版ネウボラの産前産後サポート事業としても活用されている。

課題と提言

 最後にまとめとして、家庭訪問型子育て支援の課題と今後について提言したい。
 ①支援の基本的姿勢の転換。家庭に入っていく専門家のボランティアも含めて、姿勢を転換して行く必要がある。家庭に入っても親との関係が悪くなることもある。困難な家庭に対して、どのような姿勢で対応していくのか、姿勢の徹底した転換が望まれる。さまざまな専門家やボランティアが家庭に入っていくことは非常に有効で、積極的な支援ではあるが、家庭自身の主体性を奪ったり、家庭の尊厳を無視するような態度にならないようにすることは、社会福祉法にも定められた原則である。しかし、現実にはできていいないところがあり、まだまだ不十分と感じている。まずは担当する側の姿勢を課題としてあげたい。
 ②専門職によるより積極的な家庭訪問による支援の強化。専門職が、学校の教師も含めてもっと家庭訪問した方がいいと考えている。かつて教師は1学期に1回は必ず家庭訪問していた。それが今は無くなっている。専門職の家庭訪問が望まれる。介護保険を見ると、あらゆる専門職が家庭に入っている状況があるが、子育て支援の分野は一部の専門職しか入っていない。必要に応じてもっと入っていく方がよいと考える。
 ③ボランティアなど市民の参加による訪問支援の推進。専門職だけではやりきれないこともある。そうであればボランティアでできることはボランティアで、市民参加型の支援も進めるべきだと思う。特に傾聴では、住民の力はかなり大きいと考えられる。親たちの精神的な健康度の回復力は決して小さくないので、専門職が連携しながらボランティアでやっていくことが必要だと考える。
 ④教育委員会と首長部局など部局を超えた多職種連携によるケースマネジメントの実施。自治体の中でも、教育委員会と首長部局で違う判断がされることがあり、必ずしも情報交換が十分ではない。家庭訪問に限ったことではないが、部局を超えることが必要である。
 ⑤訪問支援の量の確保・予算の確保。予算の関係から、養育者訪問事業は1家庭あたり3回ほどしか訪問できていない実情がある。これはあまりにも少なすぎる。
 ⑥訪問支援の質の保証。また、質については、非専門職に対する一定の訓練が必要である。
 ⑦施策評価(効果測定)。施策の効果測定の指標や方法が無い。

支援のシームレス化を

 さて、我々は生活の自由、家族内の自由や地域社会のしがらみを超えた自由など、さまざまな自由を求めてきた。そのために行政も様々な施策を実行してきた。ところが現代は、自由を求めながら生活の孤立化に陥るという極めて難しい状況が生まれている。これにどう対応すればいいのか、家庭訪問のあり方にも関わる難しい課題である。
 さらに、児童健全育成の施策と要保護児童への施策のシームレス化、継ぎ目のない対策が、昔から言われていることであるが、日本ではなかなか成功していない。例えば、不登校の子どもがいる家庭にボランティアが行ってお母さんの傾聴をして支援をし、さらに専門のカウンセラーが行って子どものカウンセリングをするといった支援が望まれる。同じ家庭に一種類でも二種類でも入ることができるようにすべきだが、今はどちらかというと、支援の手立てが少なすぎて、一つ行ったらそれで終わりということになりがちである。家庭訪問事業から見ても、シームレス化が大切である。

(本稿は、2018年7月25日に開催したIPP政策研究会の発題をもとにまとめたものである。)