韓国社会を席巻した左翼勢力の実態

韓国社会を席巻した左翼勢力の実態

2014年1月10日

 日本では「韓国は建国以来反日教育をしてきた結果,現在のような反日国家となった」とよく言われる。また日本でよく聞かれる質問に,「韓国は反共国家だったのに,どうして左翼が支配する国になったのか?」というのがある。
 実は,理念戦争のレベルで言えば,今の韓国は,国家中枢部に左翼勢力が浸透するのを防ぐ段階ではなく,左翼勢力が完全に占領していた国家機関をどのよう奪還するのかという段階にある。
 日本で金大中・盧武鉉政権は,「親北政権」といわれているが,“親北”どころではなく完全に北朝鮮のために尽くした政権=「従北」政権であった。そのような勢力が韓国を10年間も統治して,韓国の国家基幹組織(軍,警察,司法,行政など)に「従北」思想に染まった人を配置してきた。更に言えば,その10年間を通して「国家的反逆体制が完成」したのである。
 盧武鉉大統領が首都移転計画を発表した時に,「支配階層を変えるために首都を移転する」と言った。「支配階層を変える」とは,まさに「革命」である。このような政権が10年も続いたのに,韓国が赤化されなかったのはむしろ「奇跡」としか言いようがない。
 朴槿恵政権においても,未だに前政権時代の左翼思想の持ち主が長官など主要な地位にある事実を知って欲しいと思う。左翼政権を終息させた選挙革命によって誕生した李明博政権が,本当は法治の正常化に取り組むべきだったのにそうしなかったために,その“残滓”が現政権を悩ませているのだ。
 従北勢力は,「文化大革命」時の紅衛兵のようなものだ。もし12年末の大統領選挙で文在寅候補が大統領に当選していたら,今頃どうなっていたか。“21世紀の紅衛兵”文在寅は,おそらく,(北朝鮮の主張と同じ)「南北連邦制」を既に宣言していたに違いない。

韓国にはびこる(左翼)従北勢力

 韓国にはびこる左翼「従北」勢力の深刻さは、普通の行政機関ではなく,国家の物理的権力を司る中枢機関にまで奥深くしっかりと根を下ろしている点である。
 軍について見てみると,金大中・盧武鉉大統領は軍事的専門性や自由民主主義の国家観よりも使いやすい人物らを昇進させた。将官だけでなく佐官クラスまで政権に忠誠する人物を昇進させた。先日,韓国軍のある幹部(将軍)が来日したとき会って話をしたが,彼は「韓国は韓米同盟より中国と親しくしなければならない」という。もちろん,軍幹部の中に正常な人もいるが,現状を見れば相当の教育が必要なことは確かだ。
 韓国には「大韓民国在郷軍人会」という組織(1952年創設,63年に法律に基づき法人化された)があるが,従北勢力はこれに対抗する「平和在郷軍人会」という任意団体を作って,「連邦制」を支持する運動など反国家的な活動を展開している。「国家的反逆体制が完成」したと言ったのは,このように民間組織まで左翼勢力が支配しているからである。
 韓国では大統領が任期を終えて辞める時に,在任中のあらゆる公的記録を国家記録院に移管することになっている。しかし盧武鉉大統領は,移管すべき資料の十分の一ほどしか移管せず,残りは破棄したか自分に家に持って行ってしまった。しかも,盧武鉉政府の大統領府がコピーした資料の大半が行方が分からないのだ。危機管理の次元では,それらの資料は敵‐北に渡った状況も覚悟せねばならない。あの政権の中枢には北の対南工作に連累した従北勢力が多数布陣していたからだ。
 裁判所に申請した検察の捜査令状もそのまま従北勢力に漏れてしまう。13年9月に蔡東旭検察総長が辞任した。蔡検察総長は,「隠し子」疑惑で民主党に弱みを握られ,民主党に有利に検察組織を指揮した。つまり、彼は朴槿恵大統領によって任命されたのに,任命者に反抗する行動をとったのである。今も蔡検察総長の残党が検察の正常化に抵抗している。国を正常化するための最大の障碍要素が法曹であるわけだ。そのほか,選挙管理委員会などを左翼勢力が押さえている。
 国会議員を見てみよう。13年9月に李石基議員が国会の同意で内乱陰謀容疑で逮捕されたとき,逮捕動議案に反対票を投じた議員が31人いた。韓国国会議員の定員は300人だから,(欠員や投票時の欠席者も考慮すると)少なくとも1割以上の議員が李石基議員に与する立場にあると言える。そして野党はもちろん,与党のセヌリ党議員の大半は、従北勢力の反逆や暴力行為を見ても立ち上がらない。彼らは自分の“(値段の高い)背広が破れる”のを恐れて体を張って戦わない。そのような議員が少なくとも3分の2を占めている。
 また,メディア全体を見れば,90%が左翼に牛じられているといっても過言でない。2011年に「朝鮮日報」「東亜日報」など4つの新聞社系テレビ局が開局したが(CATVなどに番組を供給する放送局),それまでの地上波(テレビ・ラジオ)は完全に左翼勢力に握られていた。
 李明博政権初期に,李明博大統領を“植物大統領”にしてしまった狂牛病問題に伴う米国産牛肉輸入反対デモやロウソク集会では,一方的にそれを捏造し扇動したのがテレビや新聞などマスコミだった。後で科学的根拠がまったくなかったことが明らかになったのだが,メディアはそのことには一切反省せず触れていない。仮に、日本ですべてのテレビ局が一斉に同じ論調のメッセージを発信し続けたら日本社会はどうなるのかを想像してみてほしい。

北と南で生まれた「空白」の世代

 過去30~40年の間に,韓半島の北と南では重大な世代的「空白」が生じている。
 まず北の住民の「小人化」についてみてみる。最近,韓国で「北韓住民が人種的に小人化した」という趣旨の博士論文が2本出された。
 どの国でも軍隊に入隊する前に身体検査を行い,ある一定の身長以下の人間は入隊免除となる。北朝鮮では今年その基準が143センチだったという。日本で言えば小学校5-6年生くらいの身長だ。
 独裁体制が人間の忠誠心を最大に引き出すために,食糧でコントロールするならばどれほどの供給でそれが可能か。だいたい人間に必要なエネルギーの8割を供給すれば,普通の人間は無条件に服従するという。これを7割以下に下げると,人間が死ぬか,あるいは生き残るため新しい環境に適応して体が小さくなるという。いま北でこれが起きているのだ。
 北朝鮮で慢性的な食糧難が起き始めたのが1970年代からで,そして1990年代「苦難の行進」という時期があった。当時人口の15%くらいが餓死するような過酷な環境の中で生まれた子供たちがまさに今軍隊に入る時期を迎えたわけだが,40年間の栄養の欠乏で“小人”化が進んだのだ。60年前には南と北は同じ体格だったのに,わずか2世代を経て15センチ以上の差が生じてしまった。
 韓国にきた脱北者の“小人”化した子供は,いくらよい食事を与えても身長が伸びないという。中国朝鮮族と中国人の間から生まれた子供は,よい食事を与えると背が伸びるが,北の場合はそうならないという。
 一方,韓国では,いま主に30代から50代までの世代に一種の“精神的な空白”が見られる。つまり「悪」との戦いで精神的におかされた世代であり,左翼思想に汚染されて“精神的に小人化”したのである。本当に嘆かわしく恐ろしいことだ。
 ここ二十年間あまり,韓国のほぼ全家庭で“内戦”が繰り広げられた。とくに選挙期間になると,親と子供の間で“内戦”が見られた。無条件に金大中・盧武鉉など閉鎖的民族主義を支持する子供と,そうではない親たちの間の熾烈な戦いだった。
 韓国では,左翼の組織活動を「意識化学習」という。とくに大学に入学するとすぐに,新入生たちは左翼(主思派など)先輩によって意識化学習に参加させられた。そこでは「お前らの親は保守反動のどうしようもないやつだ」と教え込まれる。今では,全教組(全国教職員労働組合)の教師によって,中学・高校でこれが行なわれている。
 韓国の“精神的に小人化”した世代や人々をどう治すべきか,これは韓国の主流世代の大きな悩みである。

戦争中の韓国

 韓国では13年10月に,政府が憲法裁判所に統合進歩党解散審判の請求を提出して,憲政史上初めての政党解散問題で揺れている。実はこの問題は今に始まったことではなく,かつては民主労働党,今は統合進歩党だが,それらの党綱領などが憲法の規定する自由民主主義という民主的な基本秩序に背いているとして,私たちが署名しただけでも少なくとも4回,同様の政党解散請求をするよう政府に請願してきた。
 韓国の国家保安法には,「反国家団体」の規定がある。北韓政権や朝総連・韓統連(在日韓国民主統一連合)などは反国家団体であり,統合進歩党も同様だ。ところが,反国家団体と判示されても、法律に反国家団体あるいは利敵団体に対して解散措置をとる法的根拠がないために何もできなかった。もちろん個人は国家保安法によって逮捕できるのだが,法的不備で反国家組織は手をつけられなかった。
 13年9月に(従北勢力である)李石基議員が起訴され裁判が始まったが,彼に指揮されたRO(革命組織)メンバーが130人ほどいた。韓国の人口5000万人の中で130人の「ウィルス」は大したことはないと考える人もいるかもしれない。しかし,考えてみてほしい。9.11事件は,アルカーイダの19人が旅客機をハイジャックして起こした戦慄すべきテロだった。仮に、130人の「ウィルス」が東京で一斉に国家中枢部を狙ったテロを起こしたらどうなるか。現代人はメディアを通して大きな事件や大きな数字があふれる情報に毎日接し続けているために,こうした数字には感覚が麻痺してしまっているようだ。
 昔の戦争は,戦場で大将同士が一騎打ちで勝負を決める,あるいは王を捕虜にするなどによって決着がついた。しかし,20世紀の大戦争は「総力戦」となり,相手の戦争能力と抗戦意志を破壊することが目標となった。
 東西冷戦もそうだった。米国が冷戦でソ連に勝利したのは,トルーマンからレーガンまでの40年間を通じて効果的にソ連の戦争能力と意志を制圧したためだった。とくに意志をくじいた。さまざまな工作によって,ソ連の若者たちが「もう共産主義は嫌だ。欧米式の生活がしたい」というように考えが変わり,共産全体主義独裁が崩れてしまった。もちろん,ソ連と中国も日本など自由世界に対して政治心理戦工作を展開したが,日本人の多くはそれに気がつかなかった。
 とくに「総力戦」においては,人間の意志と感情を支配しようとする“悪魔の戦い”が冷戦として熾烈に繰り広げられた。戦いはその本質が分からないと負けるのが当然だ。韓国では左翼政権のとき国家機関を敵が掌握したため,この戦いに対して普通の対応では自由民主体制を取り戻すのは不可能だ。
 日本人の拉致問題もよく考えてみると,人間の尊厳を虫けらのように考えた北朝鮮の日本に対する戦争である。それに対して証拠があれば刑事裁判にかけて処罰するというやり方で,対応ができるのだろうか。戦争状態にありながら,その解決を刑事事件として警察に任せるようでは絶対勝てない。いまも南・北は戦争中であり,左翼勢力がいまだ韓国社会のあらゆる分野で既得権勢力である。ゆえに「国家正常化」が緊急の課題だ。

長すぎた戦争と長すぎた平和

 韓国はなぜ左傾化してしまったのか。これについては,「ストックホルム・シンドローム」と「自己免疫」という言葉で説明できると思う。

<ストックホルム・シンドローム>
 例えば,誘拐された人は,長時間恐怖の中で監禁され続けると,自分を拉致し虐待する犯人に依存し一種のシンパシーを抱くようになる。人間は正常でない状況に長く置かれるとそれがまるで“正常”であるかのように考えるようになってしまう。

<自己免疫>
 からだの免疫体系が異常を起こすと,外からの異物ではなく,自らの正常細胞を異物と間違って攻撃するようになる。これは遺伝子次元の治療が必要だ。

 戦争状態が長く続くと,同様の現象が起きてくるし,また平和が長く続いても逆のことが起きる。これを日韓に当てはめてみると,「長すぎた戦争(韓国)と長すぎた平和(日本)」と言えよう。日韓両国とも,戦後70年近くの期間を戦争/平和の状態に置かれ続けたために,正常な感覚や判断ができず,逆のことを平気で行なうおかしな社会になってしまったのである。
 イスラエルでは1948年の建国宣言の翌日、アラブの攻撃で戦争が始まったが,韓国では1948年の建国前から戦争が始まった。憲法制定のための制憲議員選挙を妨害する暴動が,モスクワの命令で起きた。その後,1950年に全面南侵戦争が勃発し、これが冷戦の始まりで、米国はトルーマン大統領からレーガン大統領までの40年以上にわたる冷戦を戦った。だが韓国は,解放直後から戦争が始まり停戦後60年にわたる戦争(冷戦)が続いている。
 米国は冷戦に勝利した後,10年近く世界唯一の覇権国家として“歴史の休日”を楽しんだ。そこに9.11が起きた。米国が“歴史の休日”を楽しんでいる間に,一般の韓国人は「冷戦は終わった」と錯覚してしまった。米国が「(東西)冷戦が終わった」と宣言したことで,韓国は「冷戦が終わったから反共は要らない」と考えてしまったのである。これが韓国の第6共和国(1988年~)の左傾化が加速化するきっかけとなった。
 ソウル・オリンピック(1988年)を成功裏に開催した韓国は,これで一人前の国家になったと自信を持つと同時に,冷戦が終わったので「金日成王朝」は放っておいても自然に崩壊していくと考えた。スポーツ競技で,まだ競技中なのに競技が終わったと錯覚したようなものだ。
 以上からわかるように,韓国は金大中と盧武鉉時代に敵(左翼勢力)に完全に占領されてしまったわけで,いまそれを奪還して国家を正常化しようようとしているところなのである。ところが日本のメディアは,そういう事情を取材も報道もせず現実と懸離れた「反日」を探し回っている。韓国はいま左傾化を克服する戦いをしているのに,日本ではますます悪くなりつつあると見ている。このような認識のギャップがあることを指摘したい。
 国家正常化の例を挙げよう。2013年10月24日,金大中政権のときに法的に認知された労働組合であった全教組(韓国における事実上最強の革命政党の性格をもつ教職員組合)に対して,韓国政府(雇用労働部)は「法的労働組合として認めない」との決定(法外労組化)を下した。金大中政権が合法的な労組の資格を与えてから実に14年ぶりのことである。これによって今後,教育現場で全教祖の支配が終わることが期待される。
 こうみると,朴槿恵大統領は女性として華奢に見えるが,肝心な部分はちゃんとやっていることの証である。本当は,李明博政権がこれをやるべきだったのに,左翼・従北勢力におじけづいて何もやれなかった。

韓国が建国過程で左傾化しなかった理由

 20世紀世界の左傾化(左翼・社会主義政権誕生)を考えてみると,大きく二つの流れがある。一つは,共産主義思想に染まった先進国の知識人を発信源として途上国に輸出されたものである。
 20世紀の欧米知識人社会をみると,共産主義思想に染まった人が少なくなく,彼らによってさまざまな問題が引き起こされた。彼らは伝統的価値を破壊し新しい概念を持ち出して社会を混乱に陥れた。そのような風潮の先進国に留学した途上国の知識人や高位層の人々がその強い影響を受けた。つまり途上国の左傾化は,先進国がもたらしたと言っても過言ではない。
 もう一つは,共産独裁の始祖だったソ連が「赤化革命」を世界に輸出し,特に植民地からの独立した国々を社会主義に導いたことである。これが20世紀の左傾化の歴史だった。
 戦後独立した途上国の多くが社会主義体制を選択した。新生国家の中で,自由民主主義を選択した国は非常に少ない。そもそも植民地の遺産として残された国は,(共産圏の宗主国ソ連の支援によって)多くが社会主義体制からスタートした。その中で,米国と同盟を結んだ国(台湾,韓国,イスラエルなど)が資源も乏しく安保でも厳しい環境の中から成功の道を歩むことができた。
 韓国が1948年に自由民主主義に立脚する共和国になったのは,歴史の奇跡と言える。韓半島に進駐した米軍政が行なった調査によると,成人人口の四分の三が文字は読めず,ソウル市民の70%が社会主義を支持していたという。そのような中で自由民主主義体制が果たして根を下ろせるのか。
 ところが奇跡的に成功した。これは一言でいえば,李承晩の功績だった。彼は民族主義への傾倒を警戒し,共産主義と戦うためには韓国をキリスト教国家にするしかないと考えていた。また彼は米国の大統領などとも交流してきた最高の知性人だった。日本では反日の代表者のように思われて評判がよくないが,彼がいなかったら戦後日本が大陸の共産勢力から守られただろうかと思わざるを得ない。
 韓国の近代化過程を見ると,20世紀初めに韓半島に日本のシステムが移植された(植民地化)。その35年後,今度は米国のシステムが移植された。システムの移植は非常に難しい作業だが,この先進海洋文明の移植を成功させたのが李承晩だった。アジア大陸で唯一成功したと言っても過言ではない。
 アジア大陸で自由民主主義制度が本格的に根を下ろした国があるだろうか。例えば,トルコはイスラーム文明圏で唯一21世紀において先進国になる可能性のある国だと思っていた。トルコが共和制を宣布したのが90年前だが(1923年),いまだ自由民主主義体制になったとはいえないばかりか,最近ではイスラームへの回帰など後退現象すら見られる。
 ところで,20世紀の歴史を変えた三つの戦争とは何か。第一次世界大戦,第二次世界大戦,韓国戦争といわれる。これは東西冷戦が崩壊した後,旧ソ連の秘密文書がたくさん公開されてわかったことだ。
 韓国戦争はスターリンの大戦略‐陰謀だった。スターリンは,米中が手を結ぶのを非常に恐れ,米中を戦わす壮大な謀略をしかけた。それが韓国戦争だった。韓国戦争勃発当時(1950年),韓国を支援した国が67カ国(当時の独立国家は93カ国)だった。
 中国は北朝鮮を支援することによって米国を敵にし,西側諸国をも敵に回すことになった。つまり韓国戦争が,東西冷戦の本格的開幕だった。世界の覇権をかけた40年間の壮大な冷戦が,韓国戦争をきっかけに始まったのだ。韓米同盟ががんばり,自由民主主義体制の砦として生き残ったことで,ソ連と東欧が消滅した。
 日本が韓半島を植民地化した35年(あるいは40年)間に日本が投資して残したインフラなど物質的な遺産は,韓国戦争で中共軍が韓半島を侵略して国連軍と戦ったためほとんど破壊されてしまった。ゆえに 1953年に韓国戦争が停戦したとき,韓国は日本の植民地化の前の状態(19世紀末)に戻ったことになる。そして1953年韓米同盟を結び,35年後にソウル・オリンピックを開くまでに発展した。
 韓国は1948年の建国から今年で65年を迎えた。この間,第1共和国~第5共和国までの40年間,韓国は反共民主主義国家だった。それは韓国が“島国”だったからだ。1948年からソウル・オリンピックまで,韓国は完璧な“島国”だった。韓国の何千年の歴史上,中国の影響から切り離され,大陸から断たされたのはこのわずか40数年間だった。海洋文明とだけ交流して40年。韓国は,沙漠で僅かな時間に降る雨をいちずに待つ植物のように,海洋文明に出会うために何千年もの間待っていたかに見える。
 ここで「人類歴史上の20K-50Mクラブ」(一人当たりGDP2万ドル以上で人口5000万人以上の国)について見てみたい。
 韓国以外の国は,20世紀中に2万ドルを達成した。歴史的に覇権国家だったか覇権に挑戦した国々、植民地を経験した国々だ。韓国は侵略され植民地化された,戦争もしなかった国だ。
 人類歴史上,人口5千万以上の大国で2万ドルを最初に達成した国が非キリスト文明圏の日本で,最後に入ったのも非ヨーロッパ文明の韓国だ。今の世界を見渡しても,人口5000万以上の国で一人当たりGDP2万ドルを超える国はしばらくは出現しないと思われる。
 もちろん人口の少ない国は可能だが,そのような国は人口や産業基盤などの制約で大国にはなれない。中国はいつそうなるか見通しはない。まさにこの事実は,韓国が海洋文明と密接にかかわることによって実現したことを物語っている。

左翼の陣地

 すでに述べたように,金大中・盧武鉉政権の10年間は,韓国版「文化大革命」の時代であった。韓国における左翼は,「主体思想」(主体思想派)や「従北勢力」とよばれる。彼らは,イタリアのアントニオ・グラムシ(マルクス主義思想家)の提唱した「文化ヘゲモニー」あるいは「文化陣地」という戦略をもっとも忠実に実行し成功したのである。
 そして彼らは,①韓国の内部崩壊,②韓日関係の破綻を狙っている。さらに北朝鮮が危なくなった近年には,中国に付こうとして「従中勢力」となり,韓国の大陸国家化をも企図している。
 ところで,戦争(熱戦と冷戦)に勝つためにはいろんな要素が必要だが,重要なのが司令塔(司令部)で,これなしには戦争を遂行し勝利に導くことはできない。東西冷戦時代に,自由主義陣営が政治謀略戦でなぜ共産主義陣営にやられてしまったのかを考えてみると,共産主義陣営にはたとえ未熟でも司令部があって総合的に工作していた。ゆえに限られた資源しかなくても,それを集中的に投入して成果を挙げられる。
 一方,自由主義陣営は,体制の価値がいくら優れていても司令塔がなくてばらばらに戦っている始末だ。これは,「ライオンが率いるヒツジの群れ」と「ヒツジが率いるライオンの群れ」が戦った場合,どちらが勝つか,という譬えに表現できる。
 韓国はなぜ左傾化したのか。左翼はあらゆる分野で陣地を構築し司令部を中心とする総力戦で戦った。第1~第5共和国までは韓国政府が国運をかけて共産主義・主体思想と戦った。ところが,「民主化」されて国がその司令塔の役割を果たせなくなった途端,あっという間に共産主義にやられてしまった。「民主化」勢力の主力は元々自由民主主義者たちでなかったのだ。無菌室に菌が入ったら,あっという間にやられてしまうのは当然だろう。これが第1~5共和国と第6共和国の決定的な違いである。
 東西冷戦時代の韓国は,海洋文明の海洋同盟に属して徹底的に「島国」だったために成功して,自由民主主義体制を守り通すことができた。しかしその守りを解除した瞬間から,堰を切ったように左翼思想に侵略されてしまったのがこの25年間(第6共和国)だった。この最悪の時期が金大中・盧武鉉政権の10年間だった。
 第6共和国の左傾化は歴史の過渡期と言うべきかも知れない。ただ、今後も韓国が太平洋の中の島国であり続けることはできない。いまは韓国が真の自由民主主義国家になる過程だと思う。これを左翼勢力が大陸・中国に引っ張ろうとしているため,頭が痛いのである。
 13年9月にソウルで開催された学術シンポジウムで,公安関連研究機関の専門家が「北の3号庁舎(対南工作担当)の中には,秘密の南朝鮮革命資料館がある。そこには南朝鮮(韓国)を革命工作した英雄たちの資料が展示されているが,そこに金大中が入っていた」と語った。
 更に言えば,左翼(共産主義)の隠れ蓑・宿主が,表に出てその10年間を先導した。大学界では,聖公会大学などが北のスパイなど左翼勢力の巣窟だった。そのほかいくつかの大学が(北の)革命の陣地となっていた。
 左翼政権への道を開いた点から言えば,金泳三大統領が第一の戦犯だ。彼は自分が何をしたのかが未だ分かっていない。クリントン大統領が北の核施設を破壊しようとしたとき金泳三が反対して、北核を除去できたチャンスを失った。金泳三は武力を使用したら数万人が死ぬという理由で反対したのだが,その結果、その後200万人が餓死した。また韓米チームスピリットも中止させた。もしそれをあと何回かやっていたら,北の体制は崩れていた可能性がある。
 また日本では親日派として評価の高い金鐘泌元首相だが,彼のやったこともとんでもないことだった。彼は「保・革連立」と称して,金大中政権に加わり“反逆政権”の成立に一役買ったのである。日本の保革連立は自民党が社会党を利用したが,韓国は逆に金鐘泌(保守)が金大中(左翼)に利用されてしまった。日本ではその結果社会党が消滅したが,韓国では保守系が消滅の憂き目にあったのである。
 “悪”と戦うためには,善・正義であることだけでは不十分で,強くなければならない。韓国の保守勢力は今,国家の主要機関に巣食う左翼勢力をいかに無力化していくかに最善の努力を傾けている。韓国が今後も真の繁栄を享受するためには,自由陣営,海洋文明の国としてやっていくことが重要であることは,20世紀の韓国の歴史が証明している。
 そのためにも朴槿恵大統領が韓国に巣食う左翼勢力の排除にさらに努力してくれることを願うと同時に,それが日韓関係改善にも寄与すると確信する。それはまた韓国のみならず,日本,米国など自由陣営にとっても計り知れない利益をもたらされると思う。

(2013年10月25日,平和政策研究所主催「政策懇話会」における発題内容を整理)

政策オピニオン
洪 熒 元桜美林大学客員教授
著者プロフィール
1948年韓国ソウル出身。陸軍士官学校卒。ベトナムなどの野戦部隊に服務した後,国防部や外務部に勤務。駐日韓国大使館一等書記官,参事官,公使を歴任し,03年に退官。早稲田大学客員研究員,桜美林大学客員教授を歴任。現在,週刊「統一日報」論説委員。

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