ソウル・釜山市長選挙後の韓国政局 ―2022年大統領選の展望と日韓関係への影響―

ソウル・釜山市長選挙後の韓国政局 ―2022年大統領選の展望と日韓関係への影響―

2021年6月17日
平和外交・安全保障
はじめに

 2021年4月8日に行われたソウル・釜山市長選挙は与党の惨敗だった。しかし、それはただちに野党の圧勝を意味するわけではない。また、その後の与野党に「市長選挙の結果」が反映されているとも言い難い。本稿では、2つの市長補選の分析と、2022年大統領選の展望、対日政策への影響に関して述べたい。

1.市長補選の結果

 ソウル市長選では野党「国民の力」候補で元ソウル市長の呉世勲(オ・セフン)が市長に返り咲いた。得票率は57.5%。敗れた与党「共に民主党」候補の朴映宣(パク・ヨンソン)は元ニュースキャスターで知名度も高く、文政権で閣僚も務めた重みのある人物だった。得票率は39.2%。首都ソウルには全国から人が集まるため、浮動票が多いが、今回は野党勝利に傾いた。一方の釜山はもともと野党が強いので、与党が負けても仕方がないといえよう。


 韓国テレビ局が行った出口調査によれば、40代では与野党が拮抗していた。50代でも与党は善戦したとみていい。60代には与党はもともと不人気である。今回の市長補選では、20代と30代の動向が大きな影響を与えた。結果は真逆だが、与党に歴史的勝利をもたらした2020年総選挙と同じ傾向である。


 18歳から29歳では、男女間でも投票傾向に大きな違いがみられた。男性の73%は野党に投票した。若い男性の多くは与党が推進するフェミニズムに反発し、被害者意識が強いといわれている。また、多くの若者が厳しい就職難に直面しているにもかかわらず、与党幹部の子息は権力によって容易に就職・進学しているとの報道もあり、与党への不満が溜まっていた。
 一方、女性の投票傾向では与野党が拮抗した。市長補選は前市長のセクハラ疑惑が発端であり、文政権は身内(加害者)をかばおうとしたため、若い女性の反発を買った。だからといって、彼女たちの投票先が野党(保守)になるわけではない。若い女性は野党に対して「旧態依然のおじさん党」的なイメージを持っている。そのため、その他(投票率15%)や棄権を選択した女性も少なくなかった。
 今回の市長補選に至るまでの文政権の支持率推移を簡単に紹介する。政権発足後の約1年間は朴槿恵弾劾の反動や、平昌オリンピックを契機とした南北・米朝対話で、70%程度の支持率を維持してきた。2019年に入り、米朝対話が停滞し、内政でも曺国問題などがあったが、支持率は40%台を維持した。2020年になると、2月後半に到来したコロナ第一波を、検査と隔離でうまく抑えることに成功。3月末から4月初旬には新規感染者が一桁台となり、政権支持率は50%後半にまで上昇した。このタイミングで総選挙が行われたことで、新型コロナが強力な追い風となり、与党は300議席中180を獲得するという歴史的な圧勝だった。
 2021年に入り、支持率は30%台後半を推移していたが、4月には支持率30%に対して、不支持率は60%を超えた。政権発足からまもなく5年目を迎える中で、文政権も支持率は低下してきたが、それでも歴代政権に比べれば高い支持率を維持している。任期最後の年に支持率が低くなるのは当然なので、むしろ持ちこたえていると言った方がいい。

2.二大市長補選の分析

(1)与党の敗因

 選挙後に実施された世論調査(図3)によると、与党の敗因としてあげられたのは「住宅、不動産政策」(43%)、「過ちを認めない態度」(18%)、「一方的な政策推進」(15%)、「前任市長の過ちへの対応」(10%)など。
 文政権発足以来、不動産価格がものすごい勢いで上昇している。日本でいえば、1980年代のバブルが今なお続いているような感覚である。「日本のようにバブルが崩壊する」といわれて20年が経つが、なかなか崩壊しない。むしろ時折急激な上昇なども見せながら、今に至っている。ソウルでは100平方メートル前後のマンションでも日本円で1億円を超える億ションは当たり前になっており、若者はとても購入できない。一方で、50代は高騰する前にマンションを購入しており、中産層以上には複数の不動産を所有している人も少なくない。格差が深刻な社会問題となっており、若者の不満は大きい。
 さらに追い打ちをかけるように、与党のスキャンダルが相次いだ。選挙一ヶ月ほど前に、土地住宅公社の職員が内部情報をもとに開発予定地を事前に購入していたことが発覚。不動産賃料の過度な引き上げを禁じる法律が施行される2日前に、大統領の側近が他人に貸していたマンションの家賃を上げていたことが発覚した。引き上げ幅は、新しい法律の制限を大きく上回るものだった。住宅関連のスキャンダルは、選挙後にも続いている。

 世論調査(図3)であげられた敗因の2位〜4位は「過ちを認めない」「一方的だ」など、基本的に同じことを指している。文政権は以前から、「傲慢な態度」「偽善」「身内に甘い」などと指摘されていた。2020年総選挙の圧勝は明らかにコロナの追い風がもたらしたものだったが、与党主流派は「改革を実行せよとの強い支持を受けた」と受け止めた。それ以後、与野党の対立する法案では、審議を尽くす態度さえ見せずに強行採決を繰り返すようになった。与党の傲慢ぶりは露骨だったといえよう。
 敗因の2位〜4位を足すと、ちょうど43%である。つまり、今回の与党敗因は「住宅政策とスキャンダル」(43%)、「与党の傲慢さや偽善」(43%)だったということができる。
 その他にも敗因に挙げられるものを数点紹介する。
 与党は今回の市長補選に際して、「自党所属の公職者が起こした不祥事で生じた欠員の補選には候補を立てない」という党規約を改正した。この規約は朴槿恵政権のときに文在寅氏が主導してつくったものだ。「(現在の第一野党・国民の力の前身で、当時は与党だった)セヌリ党には、こんな党規約を作れない」という政治的アピールの意味合いが強かった。しかし今回は、1年後に大統領選挙を控える中での首都と第2の都市での市長補選だ。与党の前職市長がセクハラ疑惑で自殺、辞職したことに伴う補選ではあるものの、与党としては「候補を出さないわけにはいかない」となった。
 与党主流派は586世代といわれるグループだ。以前は386世代(1960年代生まれ、80年代に大学で学生運動をやった世代)と呼ばれた人々である。この主流派世代と、下の世代との深刻な認識ギャップがある。それは選挙後にもみられた(後述)。
 2020年総選挙ではコロナが追い風となったが、今回はコロナが逆風になった可能性もある。昨年までの韓国はコロナ対策に自信を持っていた。日本などに比べると、遥かに感染を抑えられていたからである。しかし、ワクチン接種は遅れており、世論の不満は高まっていた。

(2)野党の勝因と中道戦略

 世論調査(図4)で野党の勝因としてあげられたのは「与党が駄目だったから」(61%)、「前任市長への審判」(18%)など。前任市長は与党なので、「与党が駄目だったから」と考える人が8割ということになる。「野党の政策と公約」「野党の候補」「野党の政治活動」は合わせても7%であり、勝因が野党側にあったとは言いにくい。勝因はあくまでも、敵失であった。
 ただし、野党側で候補を一本化できたことは勝因の一つだろう。これに関しては、金鍾仁(キム・ジョンイン)非常対策委員長による中道戦略が功を奏した。韓国政界では選挙に惨敗すると党指導部が総退陣し、非常対策委員会体制で抜本的立て直しを図ることが多い。絶大な権限を持つ委員長には外部人材を招き入れることも珍しくない。金鍾仁は経済学者出身で、全斗煥政権下で国民皆保険制度などの社会保障政策づくりに携わり、盧泰愚政権で社会福祉相を務めた政界長老、選挙のベテランである。2016年の総選挙では、「共に民主党」の非常対策委員長も務めた。
 金鍾仁は「旧態依然の強硬保守を脱しなければ、野党に勝ち目はない」とみた。冷戦下では安保保守、冷戦後の1990年代は経済保守でよかったが、国民の関心事は近年、福祉や生活など身近なイシューに移っている。それにもかかわらず、保守野党は安保の重要性ばかりを強調し、北朝鮮に甘い進歩派に外交安保をまかせることなどできないと声を上げてきた。
 金鍾仁は、光州事件の被害者を悼む施設へ足を運び、保守派の大統領経験者である李明博、朴槿恵両氏の引き起こした事件への謝罪を表明するなど、対立勢力に歩み寄る姿勢を見せた。そうした行動を通じて、「保守は変わった」というイメージ戦略を展開する中道路線を志向した。その延長で、中道派「国民の党」代表だった安哲秀との候補一本化に成功した。

(3)選挙結果への評価

 世論調査では今回の市長補選の結果に対する国民の評価(図5右)も出ている。「世論を適切に反映した」(62%)、「政権・与党に厳しすぎ」(18%)なので、市長補選の結果に国民は概ね満足している。一方、選挙結果の意味を問う設問への回答は興味深いものだ(図5左)。
 選挙結果を政権・与党に「期待を残し、警告した」と解釈した人、「期待を失い、背を向けた」と解釈した人は、どちらも46%だった。補選の結果をもって、与党の衰退と言うことも難しいということだ。

3.選挙後も「懲りない」与野党

(1)与党:反省なき再出発

 市長補選の敗北を受けて、与党の指導部は総退陣した。しかし、与党の敗因だった「傲慢さ」を反省しているとは言い難い。与党の一回生議員5人が連名で「曹国問題から反省」と表明したところ、彼らの事務所に抗議の電話が殺到した。さらに議員の携帯番号が流出し、抗議のショートメールが殺到した。一日に数千件にもなったという。
 これら問題に関して、与党重鎮は沈黙を貫いている。与党主流派は「曹国問題は2019年の夏から秋だ。それでも20年春の総選挙では圧勝した。今回の市長補選で負けたのは、中途半端な改革で国民の期待を裏切ったからだ」と考えている可能性が高い。与党内における主流派と下の世代との認識ギャップは広がる一方である。
 与党は4月16日、文在寅大統領に近い主流派の尹昊重(ユン・ホジュン)を院内代表に選出した。尹昊重は「野党との協力よりも改革を押し進める」と述べており、強引な国会運営に変化はなさそうだ。

(2)野党:「強硬保守」へと先祖返りする気配

 市長補選の翌日、金鍾仁は非常対策委員長の任期を終え、党を離れた。金鍾仁が非常対策委員長に就任した2020年6月以降、野党は中道路線を取り、強硬保守を党から排除した。無所属の議員の一部を復党させたこともあったが、たとえ大物でも強硬保守の復党は許さなかった。代表的なのは、ハンナラ党の代表を務めて2017年の大統領選挙で自由韓国党の候補として出馬した洪準杓(ホン・ジュンピョ)などがそうだ。
 しかし、金鍾仁が野党を去って、強硬保守の復党を認めようという動きが広がりつつある。野党が先祖返り、すなわち中道から強硬保守へウィングを戻すのであれば、来年の大統領選挙で勝ち目はない。
 野党は市長補選で圧勝したが、ソウル・釜山市長の任期は来年の統一地方選挙までの一年間である。呉世勲は選挙期間中に、住宅供給を増やすなどの大風呂敷を広げていたが、ソウル市長の判断でやれることは少ない。文政権との調整を必要とする公約は履行不可能である。ソウル市議会の議席(109)は与党102、野党7なので、予算も通らない。

4.2022年大統領選挙の行方

(1)ジェットコースターのような韓国政局

 市長補選は大統領選挙の前哨戦ではあるが、まだ10ヶ月以上もある。韓国政局ではジェットコースターのような急展開がつきものなので、市長補選の結果が大統領選に直結するとは言い難い。ジェットコースターの一例として、私がソウルで直接取材した、2002年大統領選挙を紹介したい。
 大統領選挙の一年前の記者アンケートで勝者としてあがったのは、李会昌ハンナラ党総裁72.6%、盧武鉉8.0%だった。2001年4月の仮想対決では李会昌36%、盧武鉉49%(朝鮮日報4月27日付)と逆転したものの、5月に金大中大統領(当時)の三男が逮捕され、6月の統一地方選で与党が惨敗。同月、金大中の次男まで逮捕された。7月には李会昌44.8%、盧武鉉33%(朝鮮日報7月1日付)で差をつけられた。
 他方で、6月に閉幕したサッカーW杯効果で、FIFA副会長まで務めた鄭夢準(無所属)の人気が急上昇。与党内で候補差し替え論も浮上し、9月に鄭夢準が出馬表明した。10月には李会昌34%、盧武鉉18%、鄭夢準31%(文化日報10月18日付)となり、盧武鉉は見る影もなくなった。しかし11月に、盧武鉉は鄭夢準との間で候補一本化に成功した。
 全く別のイシューでも政局は大きく動くことになった。同年6月に米軍装甲車の事故で女子中学生が亡くなっていたのだが、過失致死の疑いで起訴された米兵に対して、軍事裁判所が無罪の判決を下したのだ。これで世論の反米感情に火がついて、反米と目された盧武鉉の支持も高まった。それでも選挙直前まで、多くの地元記者や政治家は「勝つのは李会昌」と話していた。
 2022年大統領選挙まで10ヶ月以上あれば、その間、何が起こるかわからない。政局はどうにでも転ぶ可能性がある。

(2)混迷する与野党

 2021年4月の時点で、与党候補では李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事と李洛淵(イ・ナギョン)元首相の二人が意味のある数字(支持率)を出しており、主流派の候補者は不在である。李在明は「韓国のトランプ」と呼ばれており、言動はかなり過激である。文在寅に近い与党主流派とは距離を置いているため、親文派から候補が出てくれば、瞬く間に抜かれてしまう可能性がある。
 李洛淵は今回の市長補選で選対本部長だったため、大敗の責任を免れない。もともと強い個性を打ち出すタイプではないため目立っておらず、勝ち上がるのは簡単ではない。
 一方の野党候補に関しては、尹錫悦元検事総長が注目されている。検察改革と曺国スキャンダルなどで文在寅政権と真っ向から対決したことで、国民から高い支持を得た。本人も政界進出をうかがっているようだが、大統領になるのは簡単ではない。尹錫悦は検事総長という立場で、政権からの圧力に反発したことで高い支持を得た。圧力がなければ反発もできず、自らの力で人気を保ち続けることは簡単ではない。政治経験もゼロである。
 ソウル市長になった呉世勲が立候補する可能性もある。「ソウル市でやろうとした住宅政策を、文政権にことごとく潰された」と、政権への対決姿勢をうまく演出できれば、国民の支持を得られるかもしれない。
 「国民の党」の安哲秀は「国民の力」との統合を足場にしたいと考えている。「国民の力」が中道路線でいく場合、中道派の安哲秀を担がざるを得ないのではないか、という声もある。しかし、安哲秀は人心掌握が不評である。
 過去の大統領選でも、第三勢力を模索する候補者が出たことはある。しかし最終的に、二大勢力に収斂されるのが常である。韓国の政治風土や小選挙区という政治制度が理由だと考えられる。
 今回の市長補選の後、私は文政権を毛嫌いする保守のベテラン記者に電話した。「補選の結果、野党は盛り返したのか」という質問に、彼は「与党51、野党49」と答えた。文政権が嫌いだとしても、現状では与党の優勢を認めざるを得ないのだろう。

5.対日政策への影響

 文政権は、対日政策の優先度が低い。対外政策の最優先は北朝鮮であるため、米国の意向が重要である。バイデン政権は同盟関係である日米韓の連携を重視するため、文政権は対日関係改善の方針を表明した。しかし、外交レベルで具体的な動きは見られず、現状では変化を期待できない。
 他方、市長補選の敗北により、与党の「大統領離れ」(レームダック)が進まざるをえない。そうなれば、政権の力は全般的に弱まり、思い切った政策を取るのは簡単ではない。
 日本では「文在寅は反日」とよくいわれるが、本人にそうした意識は希薄なはずだ。そう言われる主な理由は、政敵・保守派を「親日派」というレッテル張りで攻撃するからであろう。親日派とは、日本の植民地支配に協力した売国奴の系列を指しており、韓国人としてはそんなレッテル張りをされたくない。実際に植民地支配に協力した人々の系譜は現在の保守派につながっていることが多く、保守派を攻撃するには好都合なカードである。しかし、文在寅には日本そのものを批判・攻撃している意図はなく、自覚もない。
 実際の文在寅は反日感情などを持っているわけではないので、対日関係改善に葛藤などはない。ただし日本に対する関心が全般的に低いため、元慰安婦や元徴用工に対しても「弱者は救済されるべき」程度の意識しかない。慰安婦合意を批判し、「和解・癒し財団」を解散させたが、それ以上の動きはない。元徴用工判決に対しても日本企業へ厳しい処置を取るつもりはなく、日本との間でうまくまとまればいい、と考えている程度のようである。

(2021年4月20日、政策懇談会における発題内容を整理して掲載)

政策オピニオン
澤田 克己 毎日新聞論説委員
著者プロフィール
1967年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。91年毎日新聞に入社し、政治部などを経てソウル特派員を計8年半(99年10月~2004年3月/11年5月~15年4月はソウル支局長)、ジュネーブ特派員を計4年務める。論説委員、外信部長を歴任し、2020年4月から再び論説委員。著書に『「脱日」する韓国』、『韓国「反日」の真相』、『反日韓国という幻想』、『新版 北朝鮮入門』(共著)など。
2021 年4 月に行われたソウル・釡山市長選挙は与党の惨敗だった。しかし、それはただちに野党の圧勝を意味するわけではなく、選挙の結果が与野党に反映されているとも言い難い。

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