日韓関係をどうみるか ―社会構造の変化と新たな関係再構築に向けて―

日韓関係をどうみるか ―社会構造の変化と新たな関係再構築に向けて―

2019年12月26日
平和外交・安全保障

はじめに

 最近の日韓関係は、「最悪の」と形容されることが多い。しかし、そもそもなぜ昨年以降急激に関係が悪化してしまったのかについては、きちんとした説明がなされる事は少ない。例えば「韓国(人)とは、あのような(国/国民な)のだ」という人もいるが、そうならば関係は不変な筈だが、現実にはそうではない。また「文在寅政権が左派政権だからこうなった」という人もいるが、それならば文政権が成立した2017年5月の直後から険悪な関係にならないとつじつまが合わない。しかし、関係悪化が深刻化したのは昨年の後半に入ってからだ。
 一方、韓国では「安倍政権が右派だからこうなった」という言説もあるが、それならば少なくとも第二次安倍政権が成立した2012年以降はずっと関係が悪くてはならないが、実際にはそれほど単純ではない。そして「次の大統領選挙で左派の文政権から保守政権に変われば日韓関係は良くなるだろう」という言説もよく聞くが、文政権の前の保守政権(李明博政権および朴槿恵政権)の時の状態を考えれば、その観測が楽観的に過ぎることは明らかだ。
 このように巷には、日韓関係悪化の原因について(特定の人やグループにその原因を押し付けたような)さまざまな言説が飛び交っているが、実際にはそのほとんどはきちんとした説明にはなっていない。
 実際の日韓関係には浮き沈みがあり、また長期的な変化と短期的な変化が存在する。この二つは分けて説明する必要がある。会社の経営に譬えて表現すれば次のようになる。例えば、ある会社の経営が長期的に悪化しているとする。しかし、それが倒産に至るまでには、ほとんどの場合、直前になんからの特別なきっかけがある。それは例えば、取引先の倒産であったり、メインバンクの資金繰りの悪化であったりする。当然のことながら、自分の会社の経営の悪化は、取引先の倒産やメインバンクの資金繰りの悪化の原因にはならないので、両者は別々に考えなければならない。同様に、日韓関係も、長期的な関係悪化の原因と、短期的な関係悪化の原因を分けて考える必要がある。
 そこでここでは、昨今の日韓関係をどう見るかについて、データをもとに具体的に分析してみよう。

 

1.長期的な変化

(1)歴史認識をめぐる日韓関係の波と交流の限界

 図1は、戦後から最近までの「朝鮮日報」(韓国最大の発行部数を誇る保守系新聞)の記事に掲載された歴史認識問題にかかわる記事の頻度を調べたものである。このデータから分かることは、歴史認識に関わるキーワードの頻度が高くなるのは、そのほとんどが1990年代以降だということである。重要なのは、韓国人は戦後一貫して、同じ頻度で歴史認識問題を議論してきたわけではないということである。
 例えば、教科書問題が初めて登場したのは1982年のことであり、慰安婦問題は1990年代初めまで韓国内で議論されることはほとんどなかった。そもそもそのころまでの韓国の歴史教科書には、「慰安婦」のことは取り上げられてさえいなかった。その他のキーワードを見ても、同様の傾向が見られる。
 このように1990年代以降になって、歴史認識に関わる内容が議論され始め、次第にそれが厳しさを増してきた。このデータからも、長期的傾向として韓国の対日認識が悪化していることが分かる。それではなぜそうなってきたのだろうか。
 この点について、日本が右傾化していることが問題だという人がいる。しかし、本当にそうだろうか。例えば、1966年生まれの私やその上の世代が学んだ日本の歴史教科書について考えてみよう。そこでは、果たしてどれほど朝鮮半島における植民地支配に言及されていただろうか。この点について、かつて私は日韓歴史共同研究(注:2002-10年にかけて2回にわたり日韓両政府が主導して進めた歴史研究)の委員を務めた際に、日韓の両国の高校歴史教科書を全部読んで調べたことがある。結果は明らかである。当時の歴史教科書には日本の朝鮮半島に対する植民地支配についてはほとんど何も記載されていないのである。
 ちなみに私が学んだ高校の歴史教科書(81年度発行版)には、「韓国併合」と「万歳事件(注:現在でいう「三一独立運動」のこと)」が記載されているだけだった。そして70年代までに遡れば、その記載すら怪しくなる。これに比べて、90年代以降の日本の教科書における植民地支配に関わる記述は遥かに充実している。そしてそれは、時に批判される自由社や扶桑社の教科書ですら例外ではない。2005年以降の記述は減少しているとはいえ、少なくとも80年代以前と比べた時、90年代以降の日本の教科書が右傾化しており、植民地支配に関わる記述が減少している、という事実は実は存在しないのである。
 それでは一体何が起こったのか。例えば、90年代からの日本のマスコミでは次のような言説がしばしば語られていた。「これからは日韓の間で往来が活発化し交流が進み、植民地時代を知らない新しい世代の人々が主役となる。そうばれば日韓両国の国民はが分かり合える時が来るだろう」と。
 確かに、2000年代にはワールドカップ日韓共同開催(2002年)や第一次韓流ブーム等があり、相互交流は活発化した。しかし、それにより日韓関係がよくなったかといえばそうではない。つまり、交流の量が拡大するからといって、関係がよくなったわけではないのである。最近の傾向を見ても、ここ数年韓国からの訪日客は増え続けて、2018年は700万人を突破した。しかし、それによって韓国で歴史認識問題について、日本に対する理解が進んだとは到底言えない状況になっている。
 だとすれば、我々は何か重要なポイントを見落としていることになる。

(2)日本の経済的重要度の低下

 結論は簡単だ。日韓間の交流は、(国交回復以降)今日まで量的には拡大を続けてきた。しかし、量の拡大が即ち、相手側の重要性の増加を意味しているか、と言えばそうではない。そのことは、会社間の取引を例に取って説明してみるとよくわかる筈だ。急成長する会社A(韓国)との取引は、彼等が成長している以上、当然量的拡大を伴う。しかし、その事は会社Aにとって、我々の重要性が増している事を意味しない。何故なら、会社Aの全体の取引量が増加しているのだから、彼等の他の相手先との取引量はもっと速い速度で増加している可能性があるからだ。つまり、A社にとって我々がどの程度重要かを考えるには、この会社の取引全体にとって、我々との取引量がどの程度の割合を占めているかを見なければならない。


 図2は、1965年から今日までの韓国貿易に占める主要国の割合の変化を示している。70年代は、日本は韓国貿易の約4割を占めていたが(米国と合わせると約75%)、日本の貿易の中で韓国貿易が占める割合はせいぜい5%程度に過ぎなかった。こうした力関係にあっては、(中小企業と大企業の取引関係と同じで)弱者(韓国)は強者(日本)に頭が上がらない。ところが現在では、韓国貿易に占める日本の割合は7%程度にまで低下してしまった。
 つまりは次のようになる。40~50年前の韓国にとっての日本は、圧倒的に大きな存在だったので彼らは日本との関係を重視していた。しかし今や韓国が大きく経済成長し、経済のグローバル化によって取引相手国の多角化が進んだ結果、彼らにとっての日本の存在は嘗てよりはるかに小さなものになった。以前の韓国は自らにとって大きな存在であった日本に対して、あまりものを言うことができなかった。もし誰かが問題について提起しようとしても、それをできるだけ押しとどめようというメカニズムが存在した。
 例えば、80年代に歴史教科書問題が韓国で起きたときに、当時の朝鮮日報は「日本に学ぼう」というキャンペーンを張った。日韓関係が悪化すると、サプライチェーン等で経済を日本に依存している韓国企業は大きな影響を受けるために、政治家やマスコミに働きかけて関係悪化を防ごうとしたわけだ。当時はそのようなメカニズムが働いて問題は早期に沈静化した。
 重要な事は、歴史認識問題や領土問題が激化する要因には、そのこと自体の重要性以上に、相手国が自国にとってどれほど重要かが作用してくるということだ。相互に重要視している場合には妥協の余地があるものの、片方だけが重要視している場合は、重要視している方が不承不承ながらも妥協する。かつての日韓両国の間にはそんなメカニズムが働いていた。
 しかし、現在の日韓関係は、対等とはいえないまでも、それに近い関係に変化している。例えば、李明博大統領が、「そろそろ日本に言いたいことを主張してもいいだろう」という趣旨の発言をしたのは今からもう7年も前の事になる。
 歴史認識問題や領土問題の重要性は、時間の経過とともにゆっくりと変化する。しかし、韓国にとっての日本の重要性の度合いは、それ以上の速度で急速に低下している。そのためにこれまで日本に示していた配慮を止めて、自己主張しやすい状況が生まれている。さらに言えば、日韓間で問題が起きても誰もそれを抑制しようとしない状況が生まれている。こうした韓国の状況の変化は、日本からはなかなかわかりにくい。


 図3は、日本の貿易に占める主要国のシェアを示している。日本にとっての韓国のシェアは6%前後で推移しておりあまり変化がない。日常生活では韓流ドラマの普及などで、寧ろ韓国の影響力が増えているようにすら見えるかもしれない。日韓間の貿易量は当然両国にとって同じだから、それが韓国にとっては減って見えて、日本にとって同じように見えるのは、日韓両国の貿易量の変化に大きな差があるからだ。
 こうした現象は実はあちこちに存在する。例えば、日本の貿易に占める中国のシェアは、過去30年間に急成長し、今では20%を超えている。だから、日本は日中関係を重視する。しかし同じことを中国から見ると、日本のシェアは、むしろ大きく低下して今や7%程度にしかなっていない(図4)。その背景にあるのは、日本経済の停滞と中国経済の急激な成長だ。その結果、日本にとっては重要になっている日中関係であるが、中国にとってその重要性はむしろ減じているわけである。


 いずれにせよ、韓国の立場から対日関係をみると、日本の重要さは劇的に低下している。だから、「昔の感覚」で韓国の人々と議論が全くかみ合わない事態が出現する。相手国の自国に対する理解を考える上では、このように自国が相手国にどう見えているかを考える必要がある。

(3)対日問題に対する関心の低下

 さて、ここで少し話を変えてみよう。例えば、世論調査で「韓国が好きか、嫌いか」などという質問をしたりする。しかし、こういう調査は時に我々の感情を上手く表現するものにはならない。なぜなら、そもそも「好きか嫌いか」とは別に、そもそもその質問が我々にとって「どの程度重要」なのか、という問題が別にあるからだ。好きであっても、重要でなければ人は動かないし、逆に嫌いであっても重要であれば人々は自らの利益のために、その関係を維持するために行動する。
 そこで日本人が韓国を「どの程度重要」だと考えているかを見てみよう(図5)。結果は明らかで、2002年から継続して、韓国が重要だと考える人の割合が低下していることがわかる。


 この図5でピークを示している2002年6月は、日韓ワールドカップ共催の時期にあたる。その後韓流ブームが訪れるわけだが、それによっては韓国が重要だと思う人の割合は増えていない。もちろん、同じ現象は日本人の韓国に対する歴史認識にもほとんど影響を与えていない。そしてそれは当たり前のことである。「韓国ドラマが好きだから竹島は韓国のものでいい」と考える方が、おかしいからだ。そして、それは韓国人にとっても同じことだ。日本を旅行して楽しかったから、日本人の友達が出来たから、「だから慰安婦問題では譲ってもいい」と考える韓国人が増える、と期待することの方がナンセンスだからである。
 さて、このような韓国の変化は、当然歴代の韓国政権の対日政策の違いになって表れて来る。韓国が1987年に民主化されて以後、暫くの間、盧泰愚、金泳三、金大中、盧武鉉、李明博各政権と続いた各政権の対日政策は同じパターンを辿った。つまり、政権発足当初は「日韓関係は重要だから、未来志向でいこう」といいながら、政権末期に近づくにつれて、世論の動向や与党内の意見対立、裁判判決などによって、日本に対して強硬な姿勢を取る、というパターンだった。その背景には、韓国にとって日本の重要性がある程度あり、だからこそ自らの支持率が高く力がある間は、この関係を阻害する動きを押しとどめようとするものの、やがては力を失ってこれができなくなる、というメカニズムがあった。
 ところが2013年に発足した朴槿恵政権は、このパターンを辿らなかった。この政権は、政権発足時から日本に対して歴史認識問題について強硬な態度を示したからである。つまりそこには既に、日本が重要だから協力しないといけない、という理解は存在しなかった。朴槿恵政権は最終的に、オバマ政権に圧力をかけられてしぶしぶ慰安婦合意を結んだものの、自ら積極的に「日本は重要だ」というメッセージを出す事はなかった。
 そして2017年に文在寅政権が誕生した。この政権の対日政策には著しい特徴が存在する。例えば朴槿恵政権は、日本に対して厳しい姿勢で臨み、その外交政策には「日本に対して歴史認識問題で強硬に対応する」と明記していた。つまり、日本は「味方」としては重要ではなくても、「敵」としては重要だったことになる。しかし、文在寅政権の対外政策には、そもそも日本に対する記載が殆どない。つまり、彼らは日本そのものの存在をあまり意識しないで対外政策を作り上げている。

 

2.短期的変化

 とはいえ、以上のような説明で長期的な日韓関係の変化は理解できたとしても、なぜ2018年夏以降、急激に日韓関係が顕著に悪化したのかは理解できない。そこで次に2018年以降の短期的変化をもたらした状況について見ていこう。

(1)米国に対する日本の影響力

 2018年は朝鮮半島の歴史において注目すべき年だった。日韓関係が悪化したのみならず、米朝首脳会談が初めて行われた年でもあったからである。文在寅政権は、2017年5月に誕生したが、日韓関係についていえば、最初の1年間は何の動きも行わなかった。文大統領は、大統領選挙期間に「日韓慰安婦合意の見直しを行う」と主張していたが、最初の1年間は具体的に何も行おうとしなかった(「和解・癒し財団」の解散手続きは1年後の2018年11月から)。この間、米朝首脳会談とともに南北の交渉も行われ、南北交渉に進展が見られた。
 それでは何故に文政権は、日本に対して何の動きも取らなかったのか。文政権の最大の外交課題は北朝鮮と対話を進めることであるが、その実現は韓国単独では不可能であり、米国の協力が不可欠だ。だからこそ、文政権はトランプ政権に積極的に働きかけ北朝鮮との対話へと導こうと試みた。
 ここでは少し説明の補足が必要かもしれない。時に日本では、文政権は「左派」なので、さぞかし中国との協力関係が進んだだろうと、言われる事がある。しかし、実際にはこの政権は中国との間で、ほとんど何も行っていない。むしろ、中国への接近を試みたのは、「右派」の朴槿恵政権の方だった。何故なら、中国市場への依存度が高い韓国では、財界が中国との良好な関係を望んでいたからだ。しかし財閥敵視の姿勢を見せる文大統領には、この配慮をする必要はない。対北朝鮮関係でも、中国への仲介を求めると、逆に中国の影響が強くなりすぎて韓国の立場が埋没する事を恐れている。だから、彼らは中国カードはあまり使いたくない。だからこそ、寧ろトランプ政権に積極的に働きかけていくことになった。
 それではここで日本はどういう存在になるか。ここで韓国にとって重要だったのは、2015年12月の「日韓慰安婦合意」時の経験だ。当時の日韓両国は、慰安婦問題で国際社会の支持を得るべく競争し、とりわけその中でも最も重要なターゲットは米国だった。しかし、韓国はこの競争に敗れ、当の米国によって、自らに不利な慰安婦合意を飲まされる事となった。
 だからこそ韓国政府は、ここで一つの教訓を得た。確かに韓国にとっての日本の重要性は低下した。しかし米国への影響力という意味では、日本の方がまだ強い、という事である。だからこそ、対北朝鮮交渉において、日本に米国で妨害されては困る。
 文政権としては、トランプ大統領に北朝鮮との交渉をリードしてもらい、それによって南北の融和・友好関係を築いていこうと考えた。米国を動かすときに、もっとも障害になる可能性のあるのが日本だった。そこで当初は、日本を刺激するようなことはできるだけ控えるという姿勢をとった。これが文政権の初期においては対日関係は「何もしなかった」最大の理由だった。つまりは、日本を刺激しない、ことを選択した訳である。
 しかし、2018年、事態は劇的に展開した。当時の安倍首相は対北朝鮮交渉には積極的ではなく、初の米朝首脳会談(2018年6月)が行われるまでのプロセスにおいてほとんど何の役割も果たさなかった。にも拘わらず、米朝の交渉は順調に進んだ。日本は「蚊帳の外」におり、日本政府の消極姿勢はワシントンの行動に影響を与えているようには見えなかった。
 だからこそ、韓国は、対北朝鮮交渉においては、日本の力は無視できる、と考えた。こうして文政権が日本を刺激する政策を控えて来た最大にして、唯一の理由が失われた。その最初のあらわれが、国際観艦式での「旭日旗」問題(2018年10月)であり、それに続く韓国最高裁元徴用工訴訟判決(2018年10月)後の、問題解決に極めて後ろ向きな姿勢だった。
 以前であれば、日韓関係がこじれたり問題が起きた時には、日韓関係が一定上には悪化しないように韓国政府は何らかの努力を行った。しかし、今の文政権にはそういう姿勢は全く見られない。繰り返しになるが、それは彼らが最も重視する北朝鮮に対する交渉においても日本を無視しても大丈夫だという認識を持ったことに起因している。つまり文政権としては、無理をしてまで日韓関係を維持する必要はない、と考えた事になる。
 文政権の対日姿勢はその後も一貫していた、つまり、韓国海軍レーダー照射問題(2018年12月)や韓国国会議長の天皇謝罪要求発言(2019年6月)などでも、彼らは傍観者に徹し、問題収拾への積極姿勢を一切見せなかった。韓国があえて譲歩する必要もなければ、問題がこじれて大きくなったとしても、自国の利益に大きな影響はないだろうと考えた。つまり、日本に対して慎重な配慮をする必要性がなくなり、対日政策に関する「統制」(ガバナンス)が失われた。これにより、韓国内からは一斉に、日本側を刺激する言動が噴出するようになったのである。
 そのような韓国政府の姿勢に対してしびれを切らした日本政府は、今年に入ってついに「経済カード」を切ることになった。日本の輸出管理規制措置によって韓国経済に影響が出るという予想の下、韓国国内で大きな反発が生まれた。しかしそれでも、韓国内では日本に譲歩せよという声は生まれない。そこには、日本は韓国にとって、かつてのように重要な存在ではなくなったという一貫した基本認識が存在する。

(2)世論の動向と政権への影響

 次に、現在の韓国の世論についてみてみよう。
 日本政府による「輸出管理」については、複数の世論調査をみても、多くの日本国民から「妥当だ」との支持があり(約7割)、安倍政権不支持者でも半数以上が支持している(FNN世論調査)。この状況は以前から同様であり、例えば2015年の段階でも、慰安婦問題に対して「日本政府見解を支持するか」という調査に対して、自民党支持者はいうまでもなく(8割以上が支持)、民主党や共産党支持者までも6割を超える人々が支持している。
 そして、今、韓国でも同様の状況を見ることができる。日本政府による輸出管理規制措置発表以降、韓国の対日感情は大きく悪化している。例えば「韓日葛藤解消のための外交的妥協論は必要だと思うか」という質問に対して、「賛成」は40.8%にとどまり、「反対」は48.8%に上っている。ここでいう「外交的妥協」には、全面的に日本に屈服することを意味しているのではなく、代案を示してそれで妥協するということも含めているので、韓国の世論の大きな部分も、日本に対しての譲歩を望んでいないことがわかる(韓国リアルメーター社世論調査、以下同)。
 より重要なのは、その内訳だ。同じ調査機関は「日本の経済報復にかかわる韓国政府の対応」についても調査している。これに対して、「強硬過ぎる」と答えた人が12.3%、「適切」だとする人が39.2%、「弱腰に過ぎる」とした人が33.8%になっている。つまり7割以上の人が、文政権が行っているのと同じかそれ以上の強硬な措置を日本に対して求めていることになる。そして同じ数字を、保守・中道・進歩別に見てみると次のような結果になる。「弱腰に過ぎる」と批判するのが一番多いのは、保守派であり、文政権支持者である進歩派では、「適切」という回答が最も多くなっている。つまり、与党である「左派」よりも野党である「右派」の方が、日本へのより強硬な措置を求めていることになる(図6)。


 こうして見れば明らかなように、日本のマスコミでよく聞かれる「左派政権から保守政権に変われば日韓関係はよくなるだろう」という言説は、明らかな間違いである。実際、現在の保守党である自由韓国党(旧セヌリ党)は、日本に対する譲歩の姿勢は全く打ち出していない。仮に党首が日本に妥協するような発言をすれば、寧ろ支持者たちの反発を買うであろうことはこのデータから明らかだ。
 同じようなデータを幾つか紹介しておこう。「日本の輸出管理規制に対する効果的方法は何か」との質問には、順に、「日韓首脳会談」25.4%、「米国・WTOによる仲裁」24.9%、「不買運動」19.1%、「対日輸出入規制」13.9%となっている。そもそも交渉により解決しようとする人が少数派なのがわかる。
 2020年の東京五輪についてもデータがある。韓国では、福島原発事故の放射能に対する懸念が大きいこともあって、福島県沖の水産物について輸入禁止措置を取っている。因みにこの問題については、WTOを舞台に日韓が争った結果、WTOは韓国に軍配を上げている。これに関連して「福島産農水産物が選手村に提供されるとする東京五輪へのボイコットについてどう思うか」という調査がある。何と「賛成」が68.9%に上り、「反対」が21.6%という結果になっている。2019年8月の段階で「日韓軍事情報協定(GSOMIA)破棄について」は、「賛成」47.7%、「反対」39.3%。この数字は11月の段階では更に上昇し、賛成が過半数を超えることになっている。
 このように見てくると、韓国の世論が如何に強硬かがわかる。つまり、現在の韓国の現状は、政権が世論を煽っている、というよりは、寧ろ、政権が世論に押される形で動いているという方が正確である。GSOMIAを巡る問題では何とか踏みとどまった韓国政府であるが、この状況は時が進み、政権の支持率が下がればさらに苦しくなる。
 実際ここに至るまでの間で、文政権は何度か事態の読み間違いを行っている。例えば、日本が輸出管理規制措置を発動した後、韓国では不買運動が発生したが、その見通しについて、政府に近い人々は「こうした不買運動は過去と同様、大きなものには発展しないだろう」と話していた。しかし実際には、不買運動は大きく拡大し、日韓両国の貿易や人の交流にも大きな影響が出るに至っている。
 だからこそ、いまや世論の状態をしっかり把握しないと、韓国の政権の動向は正確に読み解くことはできない。政権が何らかの特殊な意図を持ち、事態がその意図によって動かされているなら、事態は政権交代によって解決するかもしれない。しかし、事態が政権ではなく世論によって動かされているからこそ、状況は極めて困難なのである。状況は日本についても同様で、安倍政権もまた世論の支持する方向へと対韓国政策の舵を切っている。だからこそ、日本においてもまた政権が変わったからと言って事態が、大きく変わる訳ではない。

(3)関係悪化の転換点となった輸出管理規制措置

 日韓両国とも世論の動向が非常に重要になっており、政権の動向に大きな影響を及ぼしている。しかし、それでは政治家は、本当に世論に反して行動することはできないのだろうか。
 まず2012年に李明博大統領が竹島に上陸したころの支持率の変化を見てみよう。竹島上陸や天皇謝罪発言をしたとき、それに連動して李大統領と与党への支持率も上がっていることがわかる(図7)。


 これだけを見ると、「韓国の政治家や政権は、自分たちの支持率回復のために、反日を煽っている」という言説が正しいように見える。しかし、これは7年前の事象であることが重要だ。その後、「日韓慰安婦合意」がなされた2015年12月の、朴槿恵大統領の支持率の変化を見てみると、李明博政権期と異なる現実が見えてくる。
 この合意は当時の韓国内では、日本に屈辱的に譲歩したものだとして非常に評判が悪かった。だから合意を発表した直後、多くの研究者はこれにより朴槿恵の支持率は下がるだろうと予想した。しかし、実際にはこの合意が発表された12月28日以降も、支持率には大きな変化がみられなかった(図8)。


 当時の世論調査から韓国人の大半がこの合意を拒否していた事は明らかであり、にも拘わらず、どうして支持率への大きな影響は出なかったのか。それは当時の韓国人には対日関係よりも重要なイシュー――この当時は北朝鮮による核や弾道ミサイルの開発――があったからである。つまり、日本との関係は、数ある外交イシューのごく一部にしか過ぎず、しかも、外交それ自体、大統領や政権の支持率を決定づける要素の一部でしかない。
 そしてその事の意味は、日本の政治を考えればわかる。例えば、先の参議院議員選挙で、有権者が投票先を決める際に、日韓関係がどの程度重要であったかを考えてみて欲しい。当然の事ながら、一般の国民にとっては、外交問題の、そのまた一部でしかない日韓関係よりも、社会保障や医療、教育問題の方がはるかに重要である。そしてそれは韓国においても同じなのである。
 だからこそ、現在の韓国においては、2018年10月の元徴用工判決の直後においても(図9)、またレーダー照射問題の時(2018年12月)においても、大統領の支持率にはほとんど影響はない(図10)。


 そして同様の事は、2019年7月の輸出管理措置発動以降の動きについてもいう事が出来る(図11)。文政権が対日政策により一時的に2~3%の支持率増減は見られるものの、その影響はすぐに吸収され、元の水準に戻っている。


 結局、何が起こっているのか。確かに、韓国において日本政府が輸出管理規制を発表した衝撃は大きかった。背景には、そもそも今の韓国人が日本人が有する韓国に対するフラストレーションをよく理解していなかった事があった。例えば、今年前半(2019年)、来日した韓国の要人は判を押したように「日本の状況がこれほど悪いとは思わなかった」と述べている。つまり韓国内では、日本の対韓感情がどれほど悪化しているのかにについて、まったく実感されていなかった。だからこそ、日本が輸出管理規制措置をした引いた衝撃は大きかった。
 この衝撃を更に大きなものにしたのは、日本の政府や政治家、メディアの輸出管理規制についての説明だった。例えば、読売新聞はこれを「事実上の禁輸措置」と表現した。読売新聞は、日本でも韓国でも首相官邸に近い立場で知られており、だからこそ韓国の人々は「日本政府は本気で韓国に対して経済制裁を実施しようとしている」と考えた。
 重要なのは、韓国人にとって経済問題は歴史認識問題とは比べ物にならない重要性を持っている事である。歴史認識問題は多くの人々、とりわけ若い世代の人たちにとっては、教科書で学ぶような過去のできごとであり、自らの生活には直結しない。ところが、輸出管理規制措置の発動によって、歴史認識問題が経済問題、つまり彼らの生活に連結した。韓国の経済状況は、例えば、成長率の様なマクロレベルでは悪いわけではない(今年の韓国の成長率はIMFの予測で2.0%、日本は0.9%)ものの、経済格差の拡大や失業問題等、さまざまな問題を抱えている。とりわけ、若年層の失業問題は深刻で、日本の東京大学に相当するソウル大学の卒業生でも卒業時の就職率が60%前後に留まっている。そのような厳しい韓国経済に更に打撃を与えるべく日本が制裁を開始した、と考え、韓国世論は大きく反発した。
 しかしそれでも、結局は支持率には大きな影響を与えることはなかった。


 例えば、文大統領の支持率の変化を就任時から見ると、図12のようになる。「文大統領の支持率は下がっていて(文政権は)崩壊寸前だ」という言説がまことしやかに言われることがあるが、少なくとも2019年12月までの段階ではそれは全く正しくない。就任時の80%からすればかなり下がっているとはいえ、それでもここ数カ月間45%から50%前後の水準に留まっている。この水準は安倍政権と同等であり、米国のトランプ政権より遥かに高いものになっている。
 この事が示すのは、結局、日本カードは、大統領の支持率に大きな影響を与えていない、という事だ。韓国ギャラップの調査によれば、大統領を支持しない理由として、外交問題をあげる人は5%前後に留まっている。当然の事ながら、支持率を最も大きく左右しているのは経済問題である。そして、輸出管理措置発表から既に5カ月を経過した今、日本による措置は韓国経済に大きな影響を与えていない。だからこそ、文大統領の支持率も、日韓関係の悪化とは関係なく水平飛行を続けることとなっている。

 

3.今後何ができるのか

(1)失ったものは戻らない

 さて、今後はどうなっていくのだろうか。実は、輸出管理措置のような政策を行うと、その後何が起こるかは、過去の事例からある程度シミュレーションすることができる。何故なら、日本から韓国への部品等の供給が大規模に停止した事例が、近い時期にあるからだ。言うまでもなく、2011年3月11日の東日本大震災直後の状況がそれである。当時は東日本を中心とする地域の工場が物理的に生産を停止し、モノによっては半年くらい日本から韓国への部品の供給がストップした。現在、日本が行っている輸出管理措置は、それまで一括して行われていた輸出許可を、包括的にではなく個別に行うだけのものなので、それが韓国経済に与える影響は、東日本大震災時に比べれば遥かに限定されたものだと言える。つまり、東日本大震災は今回の輸出管理措置よりも遥かに韓国経済にとって大きな「制裁」だった事になる。
 それでは当時、何が起こったか。重要なのは、一旦モノの流れが止まると、それを元に戻そうとしても簡単には戻らないことである。例えば、日本から韓国に輸出されていた自動車部品の一部の輸出が東日本大震災でストップしたとき、韓国企業はリスク回避のために輸入先の多角化や自社生産のための投資を行った。そうして新たなる供給先から部品が順調に供給されるようになると、韓国企業には最早もう一度、供給先を日本に切り替えるインセンティブは存在しない。
 この講演が行われた神戸の人々にってもっとわかりやすいのは、1995年の阪神淡路大震災の事例だろう。当時は神戸港のインフラにも影響が出て、神戸港は一時その機能を停止する事になった。多くの人々は復旧が終わった後、船が元に戻る事を期待したが、実際にはそうならなかった。理由は簡単だ。船会社にとっては、震災により一旦、上海や大連、釜山に移した拠点をもう一度神戸に戻すのは寧ろコストがかかるからである。
 だからこそ今後、更に日韓両国の貿易や人の交流に影響が出れば、やがてはこれはサプライチェーンや流通経路の変化として現れることになる。観光産業も同様だ。これまで多くの韓国人観光客が日本に来ているのは、観光のためのインフラが整備され、旅行しやすい環境が整備されているからである。しかし、観光客の途絶はこうしたインフラを破壊し、蝕んでいく。そのインフラ部分(航空便の減便・路線廃止など)がなくなれば、当然韓国人観光客は中国や東南アジアなどへとシフトしていく。一旦離れた観光客は、そう簡単に戻っては来ない。
 ここまで日韓関係がこじれてしまうと、今後の日韓関係は縮小方向に向かうことは避けられないだろう。こうして相互に相手国におけるマーケットを失うことになりかねない。

(2)新たな日韓関係再構築に向けて

 結局、重要なのは事態の背景には日韓両国の世論の悪化があり、この悪化する世論をどうするかがカギになるということだ。
 嘗ての日韓関係は、両国の力の差からくる垂直的な関係にあり、韓国は日本のいうことをある程度聞いてくれた。しかし、今日ではその関係は水平的なものとなり、韓国側もいいたいことを自由に主張できる立場になった。言うまでもなく、この水平的な関係を垂直的な関係へと戻す事は不可能であり、だからこそ、日本もまたこの新たなる状況へと対応する必要がある。
 そこにおいて最大の障害となるのは、垂直的な関係であった時代の「過去の幻想」だ。そして残念なことに、この「過去の幻想」が、今日の日本において最も顕著に表れているのが文政権への対応なのである。「文政権は放っておけばいい。韓国は必ず頭を下げてくるはずだ」。そういう時に人々の頭にあるのは、過去の弱かった時代の韓国の「過去の幻想」である。
 しかしながら、今の韓国はそういう国ではなく、仮に政権が交代したとしても、そのままの状態で日本に頭を下げて来るような状況ではない。そしてそれは韓国の世論が望んでいない以上、当然の事である。
 であれば、彼らをしてどうやってもう一度日本との協力関係へと回帰させるか。そのために必要なのは、彼らにとって日本との関係が如何なる意味があるのかを、説明する事である。政治家にせよ財界にせよ、そしてマスコミにせよ、人間は結局自らにとって利益がなければ積極的には動かないからだ。
 そしてここで考えなければならない事がある。それはそもそも日本人が、韓国に対してのみならず、他国との関係においても、日本がどうして彼らにとって重要なのかについて、明快な答えを持っていないことである。例えば、米国であれば「自由と民主主義」、中国であれば「経済」というメリットを主張する。日本もまた、90年代まではアジア唯一の経済大国だったから、何も説明せずとも多くの国に大事にしてもらえた。ところがその経済的地位を失った今、我々は何故に世界にとって日本が重要であるかを説明する論理を有していない。
 こうして考えるなら、日韓関係の悪化は、わが国の国際社会における立ち位置の変化を示す「鏡」である事がわかる。依然として世界第三位のGDPを持つ国がその重要性を他国に認識されず、それを他国に対して説明する論理をも有していない。まずは日本人が日本そのものについて考える事からはじめる必要がありそうだ。

(2019年9月30日に開催された「新時代の日本を考える兵庫フォーラム」IPP共催の研究会における発題内容を、その後の状況の変化を一部入れて再整理して掲載)

政策オピニオン
木村 幹 神戸大学アジア総合学術センター長
著者プロフィール
1966年生まれ。90年京都大学法学部卒。同大学院法学研究科修士課程修了。その後、愛媛大学講師、神戸大学大学院国際協力研究科教授を経て、2017年より同大学アジア学術総合センター長を兼務。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。この間、オーストラリア国立大学客員研究員、ワシントン大学客員研究員、高麗大学校国際大学院招聘教授、第1次・第2次日韓歴史共同研究委員会研究協力者・委員等を歴任。NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。主な書著に『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識 朝貢国から国民国家へ』『朝鮮半島をどう見るか』『民主化の韓国政治 朴正煕と野党政治家たち』『日韓歴史認識問題とは何か』他多数。

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