人口減少と若者の未婚化から考える ―結婚・出産・子育ての意義と次世代につながる社会づくり―

人口減少と若者の未婚化から考える ―結婚・出産・子育ての意義と次世代につながる社会づくり―

2019年12月26日

はじめに

 厚生労働省のまとめによると、平均初婚年齢は夫が31.1歳、妻が29.4歳(2017年)、第一子出生時の母親の平均年齢は30.7歳である。生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚したことがない人の割合)も上昇を続け、男性23.4%、女性14.1%(2015年)に上る。
 急速な少子化、若者の未婚化の一つの要因には雇用の問題がある。ただ、それだけではなく結婚や出産など将来のビジョンを持てなくなっていることも大きい。実際、10代では8~9割が「いずれ結婚したい」という希望を持っているが、年齢が上がると徐々に低下していくのが現状である。
 また、家庭において幼少期から両親の険悪な夫婦関係を目の当たりにして、結婚に希望を見出せない若者もいる。

政策と課題

 各自治体では子育て支援の母親学級など、家族支援の様々な取り組みが行われている。その中で、少子化への対応という意義付けがあるのが「ライフデザイン教育」である。
 副読本などを作成し、地元の少子化の現状や産業、文化、子育て環境などを紹介。結婚と出産に関する肯定的な情報を伝えることが中心になっている。高齢になると妊娠や出産率が低下することに触れ、子供を持つ時期を考えさせるものもある。また、高校生や専門学校生などを対象にセミナーを開催している自治体もある。
 こうした取り組みは、若者の進路選択において、就職だけでなく結婚や出産、育児等のライフイベントを視野に入れて、総合的に考えられるようにするものである。少子化対策には、若者の家族形成(結婚)と子供の健全育成、家庭機能の基盤強化を目指す、総合的な施策が必要であろう。
 ライフデザイン教育は全国の自治体に広がっているが、課題は自治体主催のセミナーなどの場合、参加人数が限られるため、本当に情報が必要な人に届けることが簡単ではないということである。
 この点で、若い世代に確実に伝えることができるのは公教育である。例えば、家庭科や道徳(「特別の教科 道徳」)には、結婚や家庭、子育ての意味を教えることが可能な内容がある。
 高校家庭科の学習指導要領には、「男女が協力して主体的に家庭を築いていくことや親の役割と子育て支援等の理解、高齢者の理解…等に関する学習活動を充実する」とある。家庭科教科書には、「家族とそれ以外の集団との大きな違いは、家族のみが子どもを生み育てる機能を持っているということである。結婚や家族が制度化され、法律によって権利・義務が規定されているのは、家族が子どもを生み育てることを通して、種の再生産と社会の維持・存続に貢献しているからである」「結婚とは個人的な、男女2人の愛と意思の問題である。同時に、社会の基礎単位となる家族をつくるという意味で、社会的な側面も持っている」と記述。結婚や家庭、子育てに特別の意味があることを伝えている。
 また、「特別の教科 道徳」では、学習指導要領に「父母、祖父母を敬愛し、家族みんなで協力し合って楽しい家庭をつくること」(小学3、4年)、「父母、祖父母を敬愛し、家族の一員としての自覚をもって充実した家庭生活を築くこと」(中学)を学ぶとしている。
 学校での具体的取り組みとしては、小・中学校に乳児と母親に来てもらい、子供たちとのふれあい体験なども全国で行われている。こうした体験で子供たちの結婚願望が高まるなどの効果があるという。
 ただ、公教育でこうした教育を実践する際の課題は、教員の日常の業務が多いこと、また母子家庭や父子家庭の児童生徒がいる中で、結婚・出産・育児の幸福感を語りにくい状況があるということであろう。
 また、わが国では結婚や出産といった個人の問題に価値や規範をもちこむことを良しとしない風潮がある。学校で結婚・出産・家族について教えることにも一部に反発の声がある。さらに、家庭科教科書では上記のような記述だけでなく、近年は家族の拡大解釈や家族多様化論を積極的に擁護する記述も見られる。

提言

 公教育で実践する際の課題に対しては、現在も多くの学校で行われているキャリア教育の一環として、職業選択にとどまらず「人生設計(ライフデザイン)」という観点で、学校全体で取り組むことができるだろう。
 母子家庭や父子家庭の児童生徒がいる場合でも、今どのような家庭に育っているかだけでなく、将来どのような家庭生活を送るのか、自分が親になったらどのような家庭を築くのかという人生観、幸福感を考えていくことが大切であると伝えるべきであろう。例えば道徳で、「父母が結婚して、その父母から命を半分ずつ受け取ったから今のあなたが存在する」という言葉で家族愛を伝える授業を行うこともできる。
 また、わが国は妊娠や出産に関する正しい知識を伝える妊孕性についての教育が遅れており、妊娠適齢期などの知識がない若者も多い。そのため、少なくとも客観的なデータと研究に基づいた知識を伝えることは重要である。
 もちろん、家族の中でこのような内容が伝達されることが望ましいが、近年は小家族化が進み、子供の養育を担う家族機能が低下している。この点で、家族を支援する体制を充実させるべきである。
 結婚や出産、子育ての意義を伝えることで、次世代につながる社会づくりに国民が共通して取り組めるようにすべきである。

政策オピニオン
急速に進行する少子化、人口減少の要因として指摘されているのが、晩婚と晩産化、そして若者の未婚化である。対策として、結婚や出産、育児の意味を次世代にどう伝えるかという視点から考える。 編集部

関連記事

  • 2015年4月17日 家庭基盤充実

    渋谷区「同性パートナーシップ条例」の問題点

  • 2015年12月7日 家庭基盤充実

    米国における同性婚 ―その経緯と展望―

  • 2018年10月1日 家庭基盤充実

    「成育基本法」による結婚・妊娠・子育て支援を ―子どもの養育環境改善の提言―

  • 2020年7月14日 家庭基盤充実

    外国人児童の不就学問題と教育の充実

  • 2019年1月17日 家庭基盤充実

    子どもの命と育ちを守る養育支援・家族支援とは

  • 2019年9月19日 家庭基盤充実

    韓国大学生の社会意識 ―LGBT への世論の動向から―