外国人児童の不就学問題と教育の充実

外国人児童の不就学問題と教育の充実

2020年7月14日
家庭基盤充実
外国人児童生徒の実状

 昨年4月、改正入管法(「出入国管理及び難民認定法」)が施行。政府は今後5年間で35万人の「特定技能」の外国人労働者の受け入れを決めた。日本で暮らす外国人は約300万人、毎年15万人ペースで増加している。在留外国人の増加に伴い、外国人の子供の教育が深刻な問題となっている。
 文部科学省が初めて実施した「外国人の子供の就学状況等調査」によると、学齢相当の外国人の子供は昨年5月1日時点で12万3830人に上った。うち約2万人が不就学あるいは就学状況が確認できていないことが明らかになった。
 また日本語指導が必要な児童生徒は、外国籍・日本国籍含めて5万759人(18年5月1日時点)。うち2割に当たる約1万人が日本語指導を受けていない。
 近年、外国にルーツを持つ子供の国籍・言語は、ベトナム語、タイ語、インドネシア語など多様化する傾向にある。

なぜ外国人の不就学が増えるのか

 外国人の子供の「不就学」がなぜ増えるのか。外国人児童の教育に詳しい東京女子大学名誉教授の佐久間孝正氏は、一つは日本語教育の指導体制の遅れによる日本語能力の不足、もう一つは制度上の問題を挙げている(『多国籍化する日本の学校』勁草書房)。
 文科省の調査によれば、日本語指導が必要な高校生等の中退率は、全高校生等の7.4倍、進学も就職もしていない人の率は2.7倍と高い。また進学率は全高校生等の6割程度に止まっている。
 制度上の問題については、日本国憲法、及び学校教育法は日本国民の教育の権利と義務を規定しているが、外国籍の子供には就学が義務付けられていない。そのため保護者及び子供が就学を希望しなければ、不就学になりやすい。現行の教育法規が社会のグローバル化に対応できていないと佐久間氏は指摘している。
 外国人児童生徒の教育問題は、グローバル人材の育成という観点から、放置できない問題である。とくに外国にルーツを持つ子供たちは、グローバルな視点をもって社会で活躍できる人材になりうる可能性がある。外国人の子供が適切な教育を受けられず、かつ社会生活上の困難を抱えたまま、成人になっていくことは、少子高齢化の日本にとって大きな人的損失と言える。

政府が進める外国人児童生徒の教育支援

 外国人労働者受け入れ拡大に舵を切った政府は、2018年12月に「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」(以下「総合的対応策」)を取りまとめた。
 そのなかに生活者としての外国人に対する支援として、「円滑なコミュニケーションの実現に向けた日本語教育の充実と日本語教育機関の質の向上」、「外国人児童生徒の教育等の充実」、「留学生の就職等の支援」などを盛り込んでいる。
 「総合的対応策」を踏まえて、政府は19年6月に「日本語教育の推進に関する法律」(以下「日本語教育推進法」)を制定。外国人児童生徒や留学生らに日本語教育を受ける機会を最大限確保することや外国にルーツを持つ子供の家庭における母語への配慮など、7つの基本理念を示した。また国と自治体には日本語教育を推進する責務、外国人雇用事業者の責務を明記した。
 一方、文科省は19年5月に「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議」を設置、今年3月に報告書(「外国人児童生徒等の教育の充実について」)をとりまとめた。
 報告書では、「共生社会の一員として今後の日本を形成する存在であることを前提に制度設計を行う」とし、すべての外国につながる児童の就学を目標に、就学前段階や高等学校段階、卒業後も包括的に支援する必要があるとした。
 その上で、速やかに施策すべき課題として、日本語指導の教師等の確保、日本語指導の体制確保、ICTを活用した教育の充実、地域の関係機関等の連携を挙げた。

日本語教育推進法の意義

 入管法の改正を契機に、外国につながる子供の教育について、就学前、高等学校段階、卒業後も包括的に支援する方向性が示されたことは、人材育成という観点から大きな意義がある。
 とくに日本語教育の法的根拠となる「日本語教育推進法」の制定は、地方自治体が外国人の子供の就学支援に取り組む上で大きな後押しとなる。文化庁審議会は3月10日、優れた日本語教師を養成・確保するために日本語教師の国家資格化を提言した。国内の日本語学習者約26万人に対して日本語教育人材は約4万人だが、その約6割がボランティアに依存している現状にある。
 都道府県の多くは日本語が不十分な外国人生徒に対して、特別定員枠、試験教科の軽減、学科試験の免除を設けているが、高校中退率は高い。国家資格化によって、日本語指導や教育支援が充実していけば、進学率も向上すると期待される。

共生社会の実現に向けて

 今後、地方自治体では、就学案内の対応言語の数を増やす、日本語指導教員や母語支援員を増やす、就学状況の把握や継続した就学支援など、きめ細やかな対応が求められる。
 すでに外国人との共生に取り組む岐阜県可児市、静岡県浜松市、愛知県豊橋市など特定の地域では独自で不就学ゼロに力を入れている。
 「不就学ゼロ作戦」を掲げる可児市は、住民票登録(転入)手続き時に就学を案内し、就学手続きを全面サポート。市民課と教育委員会が連携し、就学状況を把握、就学支援に取り組み、成果を挙げている。
 先進事例を参考に、今後、外国人児童生徒を抱える地方自治体は施策を策定し、日本語指導教師、母語支援員など人材育成にも力を入れていくことになる。多様な国籍・言語に対応できる質の高い教育人材をどう確保するか。財源の確保を含めて課題が大きい。
 一方、共生社会の実現に向けては、異文化理解、母語・母文化への配慮が求められている。学校教育においては英語一辺倒ではなく、多文化共生の意識をいかに醸成していくか。学校・地域社会全体の課題である。

政策オピニオン
文部科学省の調査で、約2万人の外国人の子供が不就学状態にあることが分かった。外国人材受け入れが進むなか、国籍・言語が多様な外国人の子供の学習支援は喫緊の課題である。

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