アメリカで認識される肯定的な養育の重要性

アメリカで認識される肯定的な養育の重要性

2019年10月30日

 親に大切にされているという感覚は子供の健やかな発達にとって極めて重要である。しかし、現実には威圧的な言葉や暴力によって強制的に子供を従わせるようなしつけをしてしまう親は少なくない。アメリカでは親に肯定的な養育手法を伝えて支援する必要があるという認識が普及している。

威圧的・強制的養育の蔓延

 威圧的・強制的な方法による養育は一般に考えられているよりも蔓延している。サウスカロライナ大学のロナルド・プリンツ(Ronald Prinz)氏は、アメリカでは公的児童福祉が把握している以上に危険な養育を行っている親が多いと指摘する。
 プリンツ氏は「親による問題のある養育実践は、チャイルドプロテクションサービスが公表しているデータを見て我々が思っているよりもずっと多い」と述べる。また、「8歳以下の子供が少なくとも1人いる家庭を対象に行った電話調査では、10%の親が『頻繁』か『とても頻繁』という頻度で物を使って子供を叩いてしまうと申告した」という。そのうえ、「49%以上の親が、子供の振る舞いに対して強制的なしつけを行う養育に極めて依存している」と指摘している。

親支援の必要性

 威圧的・強制的養育を行ってしまう場合、親自身の課題を解決することが必要なことが多い。プリンツ氏によれば、親は「直接には食料や住居、ヘルスケア、子供へのケア、教育などの資源不足から」、「間接的には近隣の治安や有毒な環境、薬物使用問題など」からストレスを受けているという。また、「コミュニティの3分の1以上の親は毎日の養育に自信がない。」そのため、親は子供に気を配る余裕がなく、「家族を基盤とした介入によって最小化できるはずの子供の社会的、感情的、行動的問題による事件が深刻なことになっている」というのである。
 このような点から、子供の健やかな発達を促し、薬物使用などの問題を改善するためには、親自身が抱える問題を解決し、養育能力向上を支援する必要があるといえる。
 アリゾナ州立大学のトーマス・ディション(Thomas Dishion)氏らは、親の養育能力向上に対する支援実践として、オレゴン・モデル(Oregon Model)を紹介している。オレゴン・モデルでは親を「変化の主な担い手」と位置付ける。親が「子供に対するわかりやすい指導方法、自分の感情の明確化とコントロール、コミュニケーションスキル」などを習得し、子供に対して肯定的な養育(positive parenting)を行えるように支援するのである。
 ディション氏らによれば親が肯定的な養育を身につけることで、子供の「法律違反や家庭内外での暴力の減少、警察に逮捕される可能性や回数の低減、収監期間の短縮化、学校への適応力の向上、非行の減少、抑うつ状態に陥ることの減少」などの恩恵が見られるという。

肯定的養育による成果例

 実際に肯定的な養育が提供されていると青少年の問題行動が少なくなるという研究もある。ニューメキシコ大学のデイビッド・ラーディエ(David Ladier)氏らは、アメリカ北東部におけるヒスパニック系青少年について、家族の結びつきと社会的支援(教師、仲間、親、兄弟、カウンセラーなど)の利用が薬物使用に与える影響を調べた。ラーディエ氏らによれば、男女で差はあれども、「肯定的な子供支援や他の社会的支援に触れている青少年は学業成果への意欲や自尊心の向上、精神的問題の軽減や薬物使用の減少を経験している。」
 ラーディエ氏らは、家族の強い結びつきは子供の学校に対する態度の改善とコミュニティ活動への参加をとおして薬物使用の減少に寄与するという。学校やコミュニティへの関与が大きくなることで、「大人の相談相手に支援を受けられる関係を構築できる」ことが大きな要因となっている。
 そして、コミュニティや学校への関与は家族との結びつきが強いほど効果が大きくなると推測される。特に男子はその傾向が強かった。最尤推定という、ある結果に対して考えうる複数の原因がそれぞれどの程度影響しているかを調べる手法で分析すると、男子について「家族の結びつきが薬物使用の減少に与える効果のうち、33%はコミュニティへの参加を介していた。」また、「55%は学校を重視する態度の獲得による影響であった。」女子については「家族の結びつき自体が、薬物使用の減少に直接影響を与えていた。」
 ラーディエ氏らによれば、家族の結びつきが強いと子供は「家族に誇ってもらいたいために学校で努力する」ようになる。ラーディエ氏らの研究から、親を支援することで子供の社会的支援を受ける機会を増やし、問題行動を改善できる可能性が示されたと言える。
 以上のように、アメリカの例からは、子供の養育に困難を抱えている親に適切な方法を示して支援することが、子供の問題を解決する近道になることがわかる。

参考文献

Dishion, T. J., Forgatch, M. S., Chamberlain, P. and Pelham Ⅲ, W. E. (2016) The Oregon model of behavior family therapy: From intervention design to promoting large-scale system change. Behavior therapy (2016), pp.1-26.

Ladier, D. T., Barrios, V. R., Garcia-Reid, P. and Reid, R. J (2018) Preventing substance use among Hispanic urban youth: Valuing the role of family, social networks, school importance, and community engagement. Journal of child and adolescent substance abuse, vol.27, pp.251-263.

Prinz, R. J. (2016) Parenting and family support within a broad child abuse prevention strategy: Child maltreatment prevention can benefit from public health strategies. Child Abuse & Neglect, vol.51, pp.400-406.

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