若者の結婚と出産の希望をかなえる環境をどう創るか ―第4次少子化社会対策大綱を決定―

若者の結婚と出産の希望をかなえる環境をどう創るか ―第4次少子化社会対策大綱を決定―

2020年7月14日
人口減少幅の拡大

 厚生労働省が今月公表した「令和2年人口動態統計(概数)」によると、昨年1年間の出生数は86万5234人(前年比5万3166人減)で過去最少、初めて90万人を下回った。合計特殊出生率は1.36(同0.06ポイント低下)、自然増減数(出生数から死亡数を引いた数)はマイナス51万5864人で、減少幅は前年(44万4070人)からさらに7万1794人大きくなり、過去最大となった。減少は13年連続である。
 また、2015年時点の生涯未婚率(50歳時の未婚率)は、男性23.37%、女性14.06%。年齢別では25〜29歳で男性72.7%、女性61.3%。30〜34歳で男性47.0%、女性34.6%で、上昇傾向が続いている。
 こうした状況下、政府は少子化対策の指針となる「第4次少子化社会対策大綱」を5月29日に閣議決定した。

従来の対策の成果は不十分

 大綱はこれまで、2004年(平成16年)、2010年(平成22年)、2015年(平成27年)に出された。
 前回2015年の大綱では、それまでの子育て支援に重点を置いた対策に、新たに結婚や教育における支援を加えた。重点課題として、第一に「子ども・子育て支援新制度」の円滑な実施、具体的には保育の受け皿確保や待機児童解消が示された。そして2番目に「若い年齢での結婚・出産の希望の実現」をあげ、若者の雇用の安定、自治体や商工会議所による結婚支援(出会いの機会の創出など)が打ち出されていた。
 ただ、内閣府の有識者による検討会は、昨年12月、大綱に基づく取り組みや「ニッポン一億総活躍プラン」などの取り組みに対して「依然として個々人の結婚や子供についての希望がかなえられていない状況があ」るとし、対策の成果が出ていないと指摘している。

若者の希望をかなえる

 今回の第4次大綱では、少子化の主な原因が未婚化・晩婚化、有配偶出生率の低下にあり、特に若い世代の未婚率の上昇や初婚年齢の上昇が大きいとして、若い世代の結婚や出産の希望をかなえる「希望出生率1.8」を掲げている。
 そして、基本的な考え方の最初に「結婚、子育て世代が将来にわたる展望を描ける環境をつくる」として、雇用環境の整備とともに「結婚を希望する者への支援」の必要性を提示。また、「地域の実情に応じたきめ細かな取り組みを進める」ため、結婚や子育てに関する地方公共団体の取り組みを支援するとしている。さらに「結婚、妊娠・出産、子供・子育てに温かい社会をつくる」という目標を示した。
 その上で、重点課題として次のような取り組みをあげている。
「若い世代が希望を持てる雇用環境整備」「仕事と子育てを両立できる環境整備(保育の受け皿整備、育児休業などの充実等)」「子育てで離職した女性の再就職支援」「男性の家事育児参画の促進」「在宅子育て家庭や多子家庭支援」「妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援(産後ケア事業の全国展開等)」「子育ての担い手の多様化と世代間での助け合い(NPOやシニア層などによる地域での子育て支援、3世代同居や近居しやすい環境づくり)」「結婚を希望する人を応援し、子育ての経済的支援や子育て世帯をやさしく包み込む社会的機運の醸成(子育て支援パスポート事業の普及・促進、「家族の日」「家族の週間」などを通じた理解促進)」「結婚や妊娠・出産、子育ての適切な情報発信」などである。
 これらの課題の中でも、若者の雇用の安定や高齢者からの資産贈与税の非課税制度、結婚と子育てに関する地方公共団体の取り組みを支援することなど、若者の結婚支援は施策の大きな柱になっている。
 また、ライフステージに応じた支援も前回から引き継がれる形で、「結婚前」から「結婚」、「妊娠・出産」、「子育て」の各段階で必要な施策を提示している。

今後の課題

 家族関係支出の対GDP支出について、日本は1.58%(2017年度)で、フランス(2.93%、2015年度)、スウェーデン(3.54%、同)、ドイツ(2.28%、同)に比べて低く、家族政策全体の財政的規模が小さいと指摘されている。施策の実施において、こうした財政の裏付けが課題になっている。
 地方公共団体の取り組みについては、福井県や愛媛県などの結婚支援が先進的事例として評価されている。一方、これまでの自治体による出会いの場の提供などの対策は効果が小さく、費用・便益の観点からは政策として成り立っていないと指摘する声もある。この点は、教育なども含めて今後の課題である。地方の人口政策も定住優遇策にみられるように、地方同士で人口の取り合いになる可能性がある。より若い、10代の教育、地方で活躍できる人材を育てるという観点も必要ではないか。
 また、若者の未婚化の要因として雇用の問題は大きく、その支援は当然必要になる。それと共に、結婚や出産などの将来のビジョンを描きにくくなっていることも大きい。10代では8割から9割が将来の結婚の希望を持っているが、年齢が上がると、その希望が徐々に下がってくる。結婚は個人の選択ではあるが、国や自治体の責任として、選択のための情報を提供し、結婚の意味、この社会を次の世代につないでいくことの重要性について、若い世代に伝えていくことも大切であろう。

政策オピニオン
5月29日、政府の「第4次少子化社会対策大綱」が閣議決定した。少子高齢化、人口減少が急速に進む中、どのような方針が打ち出されたのか。

関連記事

  • 2019年6月16日 家庭基盤充実

    新たに求められる家族政策

  • 2017年10月11日 家庭基盤充実

    少子化対策に代わる「家族政策」の提言

  • 2020年7月14日 家庭基盤充実

    父親が子供の発達に独自に影響を及ぼす可能性

  • 2019年12月30日 家庭基盤充実

    加速度的に進む少子化:政府は対策に本気なのか…

  • 2016年9月30日 家庭基盤充実

    待機児童問題にどう取り組むべきか ―問題の本質と対策―

  • 2017年10月30日 家庭基盤充実

    日本型家族政策の考察 ―少子化対策はなぜ成果をあげないか―