父親が子供の発達に独自に影響を及ぼす可能性

父親が子供の発達に独自に影響を及ぼす可能性

2020年7月14日

 親子関係が子供の社会・情緒的な発達を決定的に左右することは、日本でも多くの研究で指摘されてきた。加えて、欧米では母親と父親それぞれの影響についても研究が盛んである。子供の性別や、社会生活との関連において、父親が独特な影響を与えることを示唆する研究がある。

子供の寂しさとアタッチメント

 オハイオ州立大学(アメリカ)のジア・ヤン(Jia Yan)氏らは、父親との親密さが思春期前の子供の寂しさ(loneliness)と関係があるかを調べた。
 児童期の子供が感じる寂しさは、抑うつ症状や自殺念慮(自殺について思いを巡らすこと)といった情緒的健康に良くない症状を引き起こすほか、社会性や学力も低減させる。ヤン氏らは「児童期の中頃では、子供が寂しさを感じることは珍しくない。児童期の中期における重要な仕事は有意義な友人関係を作ることであるが、深刻で継続的な寂しさはこの仕事を達成することを困難にさせる」と述べている。
 寂しさが友人関係の構築を妨げる経緯は、アタッチメント(愛着)理論の観点から説明できる。アタッチメント理論によれば、子供は親などの主な養育者との関係から、自尊感情や、人間関係に何を期待できるかという表象(イメージ)を形成する。親との関係が疎遠だったり、対立的である場合、子供は自分が親密な関係を結ぶのに相応しくないと無意識に判断する。その上、友人関係において適切に振る舞えなくなり、それも寂しさを感じる要因となる。ヤン氏らも「十分でない親子関係は、親からのサポート水準がより低いことと、子供が知覚する拒絶感がより高いこと、モデルとして観察できる良質な社会的交流が少ないことを通して、子供により大きな寂しさを与える」としている。

父親の娘への影響

 ヤン氏らは、そうした理論的背景を踏まえ、子供の寂しさと親子間の親密さの関係を統計的に分析した。1364家庭の、小学1年生(6歳)から5年生(11歳)の子供を対象としている。また、父—息子、父—娘、母—息子、母—娘のそれぞれの二者関係が調べられた。
 結果、父親と娘間でのみ、親密さが成長と共に減少する速度と、娘の寂しさの減少速度に統計的に有意な負の関係があった(構造方程式モデルを使用、有意水準p=.03)。すなわち、父親との親密さの減少が緩やかであればあるほど、娘の寂しさの減少が速かった。この関係は母親と子供の親密さを一定にして比較しても同様だった。
 父—娘間で親密さと寂しさの減少に負の関係があった理由について、ヤン氏らは次のように述べている。まず、一般的に父親が娘の悲しみや不安に敏感であることがあげられる。父娘の仲が良いと、悲しい時や不安な時に父親から大きなサポートが得られ、寂しさを感ぜずに済む可能性が高い。また、父親と仲が良いことは、娘にとって社会性に関わるスキルを実践する機会を生み、友人や他の大人と社会的関係を築く際の土台になったとも考えられる。このように、父親は娘に対して独自に影響を及ぼす可能性がある。

社会適応力への影響

 父親との関係が、母親との関係以上に子供の問題行動に影響を与えるとする研究もある。オタワ大学(カナダ)のジャン・フランソワ・ビューロー(Jean-François Bureau)氏らは、107組の家族を対象に、父母それぞれとのアタッチメントが子供の問題行動に与える影響を分析した。父母とのアタッチメントは「就学前愛着記述体系」(PACS)によって、子供の問題行動は「子供の強さと困難さのアンケート」(SDQ)によって評価され、分析された。
 その結果、父親とのアタッチメントが不安定(insecure)であることは、母親とのアタッチメントが不安定であることよりも、子供の社会的不適応に関係していることが分かった。ビューロー氏らによれば、「父親とのアタッチメントは、母親とのアタッチメントをコントロールしても、子供の問題行動と関係していた。」さらに、「父親とのアタッチメントは、母親とのアタッチメントよりも強く子供の問題行動と相関していた」とも述べた(相関係数は順に−0.31(p<.01)、−0.02(有意でない))。
 父親とのアタッチメントのほうが子供の問題行動に関係が強い理由として、ビューロー氏らは父親の活動的傾向を指摘している。ビューロー氏らによれば、「父親とのアタッチメントと問題行動の関係は、父親が攻撃的・活動的(aggressive)な振る舞い(ラフで動きの激しい遊びなど)のモデルとなる可能性をより多く持っていることで部分的に説明される。」すなわち、そうした活動的振る舞いが「子供のニーズに敏感で応答的、かつ適切な制限の設定(安定的アタッチメントの性質)と結びついていない場合、子供は激しい振る舞いを容認されたものと考え、社会的文脈にも適用してしまう可能性がある」という。ネガティブな気持ちで激しい行動に及ぶため、問題行動に発展する可能性があると言える。
 以上のように、子供の発達において母親の影響とは別に父親の影響も存在することが示唆されている。また、発達の領域によっては父母で与える影響が異なる可能性もある。もちろん母親は子育てに極めて重要な役割を果たすが、父親も主体的にかかわる必要があると言えよう。

 

引用文献

Bureau, J. F., Martin, J., Yurkowski, K., Schmiedel, S., Quan, J., Moss, E., Deneault, A. A. and Pallanca, D. (2017). Correlates of child-father and child-mother attachment in the preschool years. Attachment & human development, 19(2), pp.130-150.

Yan, J., Feng, X. and Schoppe-Sullivan, S. J. (2018). Longitudinal associations between parent-child relationships in middle childhood and child-perceived loneliness. Journal of family psychology, 32(6), pp.841-847.

政策コラム
近年、父親の子育て参加の必要性が広く認められている。男女平等や母親の育児負担軽減も大切な理由であるが、子供の健全な発達のためにも、父親が子育てをすべき理由がある。編集部

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