Ⅰ.子供の発達と乳児期の重要性
子供の発達に関する研究や子供の脳研究が進み、エビデンスに基づいた子育てや教育の重要性が認識されるようになった。非認知能力(社会情緒的能力)を育む乳幼児期の重要性から、先進国では義務教育開始年齢を早める幼児教育義務化(無償化)が広がりを見せている。
子供の発達過程をみると、生後10カ月頃に大脳の海馬と扁桃体のネットワークが働き始めることで劇的な変化が起こる。その後5~6歳頃、10歳頃の思春期が始まる時期に、脳や体の大きな発達的変化が起こる。
「三つ子の魂百まで」という諺が示すように、人格の基礎が形つくられる3歳までの養育環境はきわめて重要である。赤ちゃんは母親(特定の養育者)との関係性の中で十分な愛情と栄養を与えられ、母親(養育者)との間に愛着形成がなされる。この愛着の絆(アタッチメント)は基本的信頼感や自律性の発達形成に関与すると言われている。さらに共感性や心の理解能力の発達にも寄与することが分かっている。
このように発達早期のアタッチメント形成が基本的信頼感、自律性、共感性を育み、非認知能力(社会情緒的能力)の発達につながると言われている。
Ⅱ. 良好な家庭的環境とは
共働き世帯が主流となった今日、日本では1・2歳児は2人に1人、3歳児以降は約6割が保育園で過ごす。0歳児は家庭保育が中心とは言え、0歳児の保育利用も6%近くいる。そして就学前児童が過ごす場は幼稚園より保育園が上回っており、子育てを保育に依存する傾向にある。
非認知能力が形成される乳幼児期、とりわけ3歳頃までの養育環境はその後の子供の発達に大きな影響を与える。子供にとって良好な養育環境とは、良好な夫婦関係の下、母と子の間に安定したアタッチメント形成が保たれる家庭的環境である。また子供が長い時間を過ごす保育園においても、子供の非認知能力を伸ばす、質の高い保育が提供されなければならない。
発達早期の愛着形成の重要性から、先進諸国の多くは0歳児保育を推奨していない。日本の保育は長時間化・低年齢化の傾向にあり、子供発達の観点から改善すべきところである。
Ⅲ. 子育てに共同養育の視点を
一方、生物進化の視点から親以外の沢山の人が子育てに関わる“アロペアレンティング”の重要性が指摘されるようになった。日本では共同養育あるいは代理養育と訳される。
母親以外に父親、祖父母、叔父叔母、兄弟姉妹、血縁のない地域の大人が子育てに関わる共同養育の環境である。
生物進化からみれば、ヒトの赤ちゃんは未成熟で生まれ、大人になるまで長い年月がかかる。他の哺乳類と違って、ヒトの子育ては大変な労力と時間を必要とする。こうした子育ての負担を緩和するために、人類700万年の子育ては「共同養育」が前提にあると考えられている。
小児科医の友田明美・福井大学教授らによる最新の脳研究によると、共同養育者の数が多いほど子供の成育機能、脳のワーキングメモリー、情動に関わる領域のネットワークが発達していることが分かってきた。
核家族化やコミュニティの崩壊により、子育ては危機的状況にある。核家族や母子家庭では母親1人に育児の負荷が掛かるため、虐待のリスクを高めてしまう。
共同養育の視点から、近年は祖父母の孫育てを可能にする三世代同居や近居暮らしが見直されている。子供の情緒的発達を促し、親の子育て不安や負担感を緩和するもので、家族の形として再評価されなければならない。
Ⅳ.父親が子育てに参画する
6月13日、ユニセフ(国際児童機関)が家族政策に関する報告書を公表した。家族にやさしい政策として「両親が少なくとも6カ月間の有給育児休業取得」を推奨している。報告書は「日本の父親の育休制度は41カ国中1位であるにもかかわらず、2017年の父親の取得率は20人に1人と低いレベルにある」と、父親の育休取得を促している。
子育ての最新研究では、子育てに父親が関わることで母親の育児ストレスが緩和されるほか、父と子の触れ合いがオキシトシン(=愛情ホルモン)を増やし、父子の絆が深まることが明らかになってきた。
日本は母子の関係性が強く、夫婦の関係性が弱いという特徴がある。父親と母親が共同で子育てに関わることで、夫婦の良好な関係が築かれる。働き方の見直しなど、父親が子育てに参画できる、「子育て共同参画」に向けた環境を醸成していく必要がある。
注 オキシトシンとは、出産や授乳の際に脳の下垂体後葉から放出されるホルモン物質で、最新の研究では寄り添い、触れ合い(タッチング)によって放出され、安らぎと信頼をもたらす絆物質と言われている。
参考文献:東京大学の遠藤利彦教授らによる『「非認知的(社会情緒的)」能力の発達と科学的検討手法についての研究に関する報告書』、2017年3月、国立教育政策研究所のプロジェクト研究。