IPP政策ブリーフ

2019年9月10日

虐待予防に必要な家族支援の視点

Ⅰ.児相の体制強化

 東京都目黒区の5歳児虐待事件、千葉県野田市の小4女児虐待事件をはじめ児童虐待により子供が死亡する事件が相次ぎ、児童相談所(児相)など関係機関の対応に問題があったことが浮き彫りになった。
 政府は、児相の体制を強化すべく「児童虐待防止対策体制総合強化プラン」を作成。2022年度までに、児童福祉司を2020人増員する計画を立てている(現在3000人余り)。
 一方、児相の強化とともに、現在重要な課題になっているのが、虐待発生を予防するための行政による家族支援の充実である。

 

Ⅱ.虐待の背景に家族機能の低下

 この数十年間、わが国では「小家族化」が進行するとともに、家庭と学校、地域社会との結びつきが薄れ、家族の孤立化が進んだ。その結果、家族が元々持っていた「高齢者や子供、病人や弱者の保護機能」「子供を育てあげる社会化機能」「家族全体での娯楽の機能」「宗教的機能」などが急速に低下した。
 児童虐待が急増している背景には、こうした現代社会における家族機能の低下がある。「虐待の増加はシステムとしての家庭が壊れ始めていることの徴」と言ってよい。
 つまり、家庭が本来の機能を果たし、虐待を防ぐためには、行政や地域社会による支援が極めて重要になっているのである。
 では、家庭が持つ本来の機能とは何か。
 愛着形成期にある低年齢の乳幼児期は、家庭的環境で育つことが極めて重要とされている。児童福祉法でも「家庭教育優先原則」として示されている。それを保障するためには、子供たちが家庭で適切な養育を受けられるよう、家族支援を厚くすることが重要となる。

 

Ⅲ.家族支援の目標

 親子支援、家族支援の目標は、親子が良い関係を築き、愛着を形成することができるようにするところにある。早期の支援によって虐待を予防するとともに、幼児期における愛着形成を促進するのである。
 虐待が疑われ、実際に虐待が行われているケースでは、児童相談所に相談が寄せられるが、そうした虐待相談件数のうち95%は在宅支援、見守りとなる。また、虐待がエスカレートし、子供を一時的に親から保護、分離した場合でも、いずれは子供が家に帰ることができる状況を作り出し、家族の再統合が求められる。その点でも、家族支援、親支援が必要なのである。

 

Ⅳ.訪問型の家族支援事業

 では、虐待の発生予防策として、どのような家族支援がなされているのか。わが国では、厚生労働省と文部科学省が「訪問型家族支援事業」を行っている。
 まず厚生労働省が、2004年に「養育支援訪問事業の前進事業」、2007年に「乳児家庭全戸訪問事業」(こんにちは赤ちゃん事業)を開始した。
 「乳児家庭全戸訪問事業」は、生後4カ月までの乳児がいる全ての家庭を訪問する事業である。子育て家庭の孤立化を防ぎ、子育て支援の情報を提供しながら、問題を抱えた母子を関係機関につなぐ役割を果たしている。
 「養育支援訪問事業」は、養育困難家庭に専門家が指導や助言を行うもので、若年出産、虐待のおそれやリスクを抱える家庭に訪問する。
 「乳児家庭全戸訪問事業」は99%の市町村で実施されるなど、大半の自治体に普及している。この二つの事業は総務省の施策評価の対象になっており、3歳未満児の虐待発生予防に関わる取り組みとして有効性が認められている。
 文部科学省は、2008年から家庭教育支援チームによる「訪問型家庭教育支援事業」を実施。地域人材を活用し、家庭を訪問して個別の相談に対応し、情報提供を行っている。

 

Ⅴ.支援事業の課題

 これらの訪問型子育て支援事業の課題は、一つには一家庭への平均訪問回数が3回程度と極めて少ないことである。予算が限られ、支援者の質を担保する研修、虐待の発生予防に関する支援体制も十分ではなく、専門職による積極的な家庭支援の強化が必要とされている。
 家庭は社会の基本単位である。家族機能の低下が進み家庭病理が進行すれば、社会病理が深刻化する。社会全体の生産性が低下するだけでなく、社会病理への手当のために多額の財政が必要となる。
 虐待予防の取り組みには十分な予算と専門的な人材を確保することが必要である。それにより一時的に予算がかかったとしても、児童虐待が防止され、子供の健全に育成が図れれば、長期的にはむしろ少ない財政支出で済むことになろう。
 もう一つの課題は、訪問支援を行っている厚労省と文科省の連携がなされておらず、自治体の中の首長部局と教育委員会の連携なども不十分であるということである。
 これまで日本では児童や家族の福祉に関する政策は厚生労働省が、教育に関しては文部科学省が担ってきた。前述のような訪問型支援の政策を迅速かつ実効性あるものにするためには、両者の政策的連携が重要だが、現状では連携が取れていない。両者の連携を図り、家族支援を充実させるには、その司令塔となる「家族省(家庭省)」のような省を設置することも必要である。