韓国の人口減少の背景と政府の施策  ―青年の雇用と結婚に着目する少子化政策―

韓国の人口減少の背景と政府の施策 ―青年の雇用と結婚に着目する少子化政策―

2019年6月18日

未来への不安から結婚も放棄した若者

 韓国でこれほど急速に少子化が進んでいる現状には、どのような背景があるのだろうか。その主な要因は、若者の経済不安と婚姻率の低下である。就職難が深刻化する韓国社会では2011年以降、進学・就職・社会での成功を優先するがゆえに恋愛・結婚・出産の三つを放棄した世代を表す「3放世代」という言葉が盛んに使われるようになった。
 その後さらに「3放世代」を通り越し、人間関係や夢などすべてを放棄した「全放世代」という言葉まで使われるようになった。就職難から生じる不安が、結婚による経済負担やその後の子育て不安へと繋がり、若者が結婚を避ける社会的な雰囲気が広がっていったのである。
 実際に韓国の婚姻件数は、2007343600件から、2012327100件、2015302800件、2017264500件と下落傾向にあり、特に2012年以降6年連続で下落している(韓国統計庁「2017 婚姻・離婚の統計」)。
 韓国育児政策所が2039歳に実施したアンケートによると、結婚を延期する理由として、①経済的不安感、②低い所得、③雇用の不安・失業があげられた。また韓国は、非嫡出子の割合が1.9%(2014年)と、結婚をせずに出産する比率が欧米諸国等と比べてかなり低い。ほとんどの出生は結婚を前提とし、結婚が出産及び少子化の行方に直接繋がると言える。経済・雇用の不安によって晩婚化・非婚化が進み、それが少子化に影響を及ぼしていると考えられる。

若者の不安を排除し婚姻率増大を目指す政府

 このような韓国の現状に対して、政府はどのような政策を実施しているのだろうか。政府は、2006年から5年単位で「少子高齢社会基本計画」(以下基本計画)を実施し、第1次(200610年)、第2次(201115年)、そして現在の第3次基本計画(201620年)に至るまで見直しを繰り返してきた。
 第1次基本計画の際には、出産と育児の障害要因の排除という視点で少子化対策を立て、低所得家庭を対象とする保育支援を主な政策の内容とした。第2次基本計画では、共働き等、働く家庭を対象とする政策が打ち出され、政策の対象が中産層以上へと拡大した。
 しかし、政府は第1次、第2次の基本計画について、既婚家庭の保育負担の軽減に焦点をおいた政策という限界性を自ら指摘し、少子化の大きな理由である晩婚化に対処する結婚支援政策及び基盤の造成への努力が足りないとの観点から、政策の見直しを行った。
 このような流れから、現在の第3次基本計画では、青年の雇用活性化・新婚夫婦等の住居支援の強化といった、青年の就職に対する不安を緩和する事によって結婚を促す政策へと、少子化対策の色合いを変化させた。
 例えば、既存の保育支援政策では出生率の引き上げに限界があるため、「雇用・労働市場、住宅市場、教育システムなどの構造的改革」を進めている。そして、晩婚問題解決を少子化対策の核心的な議題として設定し、「学歴・スペック重視(注1)、長時間の勤務形態、女性中心の仕事・家庭両立制度(注2)、排他的家族観(注3)等の結婚を妨げる文化の改革」を主な政策内容としている。このように韓国の少子化政策は、少子化の究極的な理由ともいえる晩婚化・未婚化に焦点を当て、構造的・文化的な変化を目指すようになった。

青年の不安を緩和する当事者レベルの対策を

 しかし、このような韓国政府の三次にわたる計画にもかかわらず、2006年以降出生率は依然として超少子化現象から抜け出す事が出来ないでいる。これに対して独立財政機関である韓国議会予算局(NABO)は、韓国政府が青年の雇用や結婚に関する対策を打ち出したとしても、当事者である青年たちが結婚と出産に対する意思決定をし、人生の展望を変えるまでには相当な時間がかかると評価している。また、短期的な次元での少子化対策ではなく、これ以上出生率を落とすことが無いよう、長期的に社会・経済的インフラを造成していく事が重要だと指摘している。
 そのためには、韓国社会において青年の経済不安から生じる結婚放棄という社会的雰囲気を緩和する、当事者レベルでの対策がさらに必要となるであろう。

韓国の出生児数と合計特殊出生率の推移

 

<参考文献>

韓国議会予算局【経済懸案分析94号】「韓国の少子化の原因と経済的影響」

大韓民国政府「2016-2020 3次少子高齢化社会基本計画」

日本経済新聞 2019227日「韓国18年出生率、初めて1.0割れ 世界最低水準に」

 

注〉

1 韓国では学歴に加え、語学・資格・海外経験といった就職に必要な経歴をスペックと呼ぶ。韓国内ではスペックの有無によって社会での成功が左右されるという考え方が問題視されている。

2.政府が実施している「仕事・家庭両立制度」の課題として、男性の参与が足りない事があげられた。女性と男性が平等に育児へ関わる事を目指している。

3.韓国政府は、家族の形態に対する社会的・制度的差別が存在すると指摘している。また同国政府は、排他的家族観の対象的な概念として、抱擁的家族観を提唱している。

政策コラム
2019年2月、韓国統計庁は2018年の同国の合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の数の平均)が0.98になったと発表した。前年の2017年に記録した最低値1.05を更新し、データをとり始めた1970年以降、初めて1.0を割り込んだ。韓国の出生率は少子高齢化が急速に進む日本をさらに下回り、世界でも最低水準となっている。

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