政策オピニオン

2019年9月12日

子どもたちの養育環境を守る子ども家庭福祉政策とは―少子化時代の次世代育成支援策―

淑徳大学総合福祉学部教授 柏女霊峰
1952年福岡県生まれ。東京大学教育学部卒。千葉県児童相談所心理判定員、厚生省児童家庭局(児童福祉専門官)、淑徳大学社会学部助教授等を経て、同大学総合福祉学部教授・同大学院教授。臨床心理士。専門は子ども家庭福祉学。厚生労働省社会保障審議会放課後児童対策に関する専門委員会委員長、内閣府子ども・子育て会議委員、東京都子供・子育て会議会長、同児童福祉審議会副会長、流山市子ども・子育て会議会長、社会福祉法人興望館理事長等を務める。主な著書に『子ども家庭福祉論』『子ども・子育て支援制度を読み解く』『これからの子ども・子育て支援を考える』『混迷する保育政策を解きほぐす』『平成期の子ども家庭福祉』『子ども家庭福祉学序説』他。

はじめに

 我が国において公的な子育て支援の必要性が高まってきたのは、1990年代に入ってからである。90年以前、子育て支援はまだまだ血縁や地縁に基づくネットワークが担っていた。そのネットワークが、その頃までに核家族化や働き方の多様化によって弱体化し、公的な子ども家庭福祉に代替が求められたのである。
 2000年に始まった社会福祉基礎構造改革は、子ども家庭福祉を再整備するきっかけとなった。2015年に始動した子ども・子育て支援制度はその結実の一つである。
 しかし、子ども・子育て支援制度は依然精緻化が必要であり、子ども家庭福祉には制度や実施機関の違いによる支援の切れ目が多い。子ども家庭福祉における分断を是正するには、地域包括的な子育て支援体制を構築し、制度を貫く考え方を統合しなければならない。
 以下では子ども家庭福祉をめぐる現状と課題を整理する。

 

1.子ども・子育て支援制度

 子ども・子育て支援制度は社会福祉基礎構造改革の流れを受けて制定された。介護保険制度に倣い、サービス利用の決定を行政措置から利用者の選択に移行し、需要に即した量のサービスが供給されるように設計された。2019年現在で始動後4年が経過しており、2020年4月から始まる第2期計画の始動に向けてフォローアップが必要な時期にきている。

制定の背景

 本制度の制定背景をより具体的に見ると四つの要因が存在する。一つ目の要因は待機児童問題への対応である。社会福祉基礎構造改革が叫ばれていた当時は第3次ベビーブームの到来が予想されており、行政に任せた結果、保育需要を満たせなくなることが懸念された。二つ目の要因は全世代型社会保障の整備、三つ目の要因は幼児教育・保育の質の向上であった。そして、最後の要因は、親の就労状況によって子どもが施設を移動しなくて済む制度の構築が目指されたことである。保育所や幼稚園は親の就労状況や時期により入所制限がある。そのような制限のない、幼保連携型認定こども園への一元化が目指された。

制度の課題

 子ども・子育て支援制度はこうした四つの要因をソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)の観点から具体化する制度でなければならない。しかし、その観点に照らしてみると六つの課題がある。
 第一の課題は、先に挙げた幼保連携型認定こども園への一元化が進んでいないことである。幼稚園・保育所から認定こども園への移行が事業者の選択に委ねられていることに加え、移行を促すインセンティヴが用意されていないことが原因である。結果、幼稚園・保育所・認定こども園の三元化の様相すら呈している。
 第二の課題は、労働政策との調整ができていないことである。子育てと収入の両立を支える制度には乳児保育と育児休業中の所得保障が存在する。乳児保育の主な財源は税で、所得保障の中心は事業主の拠出金である。そのため、互いの財布を当てにして、国は育児休業取得を勧め、事業主は乳児保育の拡充、規制緩和を求める傾向にある。結果、支援全体のパイが広がらず、縮小均衡と呼ぶべき状況に陥っている。状況の改善には財源の統一が必要である。
 第三の課題は、障害児支援制度との間に分断があることである。例えば、児童発達支援センターと通常の保育施設は、障害を持つ子どものケアプランや状況の共有はしていない。そのため、障害児支援制度が充実するほど障害を持つ子どもは健常な子どもと分けられ、児童発達支援事業や放課後等デイサービスに囲い込まれる可能性が高くなる。
 また、子ども・子育て支援制度の内にある社会的養護施設には消費税財源を投入できるが、障害児支援制度の入所施設には消費税財源を使用できない。障害のある子どもたちは健常な子どもたちと同じ支援を受ける機会を十分に得られていない可能性がある。その結果、障害児に対する合理的配慮も進みにくい。
 第四の課題は、子どもたちの学校への囲い込みである。政府は新設される放課後児童クラブのうち、80%を小学校内で実施される放課後子供教室と一体的に実施する計画を進めている。放課後や休日も学校で過ごすとなれば、子どもたちは学校に囲い込まれ、地域の人々との交流は減る。この施策は地域共生社会の理念に逆行しており、子どもたちにとって有益かどうか疑問が残る。
 第五の課題は、地域包括的な切れ目のない支援体制を作っていくことである。後述するが、現行の体制では業務によって実施主体が市町村と都道府県に分かれている。財源と実施権限も分かれ、一体的な支援が提供されない体制になっている。
 最後の課題は、人口減少社会に備えてシステムを変えていくことである。特に地方では高齢者や子どもだけを個別に支援する方法では立ち行かなくなる。子ども・高齢者・障害者などに関する相談や支援を一つの拠点で受け付けられるように体制を整備する必要がある。
 子ども・子育て支援制度は全ての子どもたちに共通の土台となる支援を提供すべきであるが、上記のような6つの課題が立ちはだかっている。制度制定の背景に鑑みて、分断の無い子ども家庭福祉体制を構築していかねばならない(ちなみに、「子ども家庭福祉」は、子どもを中心として子育て家庭を公的責任や社会的責任の観点から社会全体で支えていくための制度である)。

 

2.地域包括的な子育て家庭支援

 子ども家庭福祉における領域ごとの分断を解消するためには、国レベルの仕組みを充実させるとともに、地域包括的・継続的(切れ目のない)支援体制を構築する必要がある。地域包括的・継続的支援とは、公民の諸組織の連携によって提供される、網羅的で切れ目のない支援のことである。地域包括的支援を実現するには、一元的な公的支援と社会的支援ネットワークからなる切れ目のない体制を構築することが重要である。

市町村と都道府県の分担を再編

 地域における公的支援を一元的なものにするためには、子ども家庭福祉の基礎構造を市町村中心に組み替える必要がある。
 図1は、子ども家庭福祉供給体制の平成期における経緯を図示したものである。(1)は少子化対策に端を発する保育・子育て支援政策でこれは市町村が実施主体である。これに対し、(2)は子どもの権利条約締結に端を発する社会的養護・子どもの権利擁護政策でこれは都道府県が実施主体である。このように、子ども家庭福祉供給体制は、財源なども含め市町村と都道府県に二元化しており、他の分野にはない特徴となっている。
 また、現行の制度では市町村と都道府県の間で適切な役割分担がされておらず、支援の提供に支障が出る場合がある。特に虐待対応ではその傾向が強く、市町村と都道府県の間で経費負担をめぐる縮小均衡が発生している。例えば、市町村は子どもを一時保護するまでのケアを担当し、都道府県は保護後の施設入所や里親委託を担当する。そのため、市町村は早期の一時保護を、都道府県は在宅でのケアを希望する傾向があり、在宅ケア、施設入所ともにサービス量が伸びていない。
 また、初期対応を都道府県が担っていることが人的・時間的ロスを発生させている。虐待の通告は全国共通ダイヤル(189=いちはやく)の場合、児童相談所が一義的に受け付けているが、多くの場合市町村の方がケア対象家庭と地理的な距離が近い。人的・時間的ロスは他の業務を圧迫し、子どもの命を危険にさらすことにつながるため、解消が望ましい。
 こうした問題は、市町村が一元的に安全確認や施設入所・里親委託の決定などを担えば解消することができる。経費も市町村の負担を業務間で一律にし、国や都道府県の支援を受けるようにすれば縮小均衡にはならず、在宅サービス、施設入所・里親委託サービスの均衡ある展開が期待できる。
 加えて、都道府県が介入業務や専門的業務の支援を行うと効果的である。市町村は地域密着のため、立入調査や出頭要求によって住民との間に軋轢を生むと業務に支障が出る。介入業務や裁判所との交渉は児童相談所が支援を行うことで円滑に進められる。また、親子再統合などの専門的支援のコーディネートも都道府県が支援すべきである。
 このように、メインのシステムを市町村中心の一元的なものとし、強制介入・専門的支援のサブシステムを都道府県が支援すれば、公的支援の一体性を確保しやすくなる。これを示したのが、図1の右側における一元化である。令和時代の最大の課題は、この両システムの一元化を図ることであるといえる。

社会的子育て支援ネットワークの構築

 しかし、公的支援が一律な制度である以上、単独では支援の切れ目が生じる。そうした支援の切れ目を補うために重要なのが、民間の社会的ネットワークによる制度外活動としての支援である。
 我が国の法体系も社会連帯による子育て支援の重要性を認めている。親が排他的に子どもの養育義務を果たす権利を持つという民法の規定(第820条)を前提に、児童福祉法では養育義務を果たす子育て家庭を支援する公的責任(第2条第3項、第3条の2)と、国民全体の努力義務(第2条第1項)を規定している。子ども・子育て支援法も社会連帯の視点を持っており、個人の責任に帰せない課題は社会全体で支援することを示している。
 ただ、社会連帯によるボランタリーな支援は一つの組織で担当できるものではない。そのため、複数の担い手が参加するネットワークで互いの不足を補うことが必要になる。例えば、民生児童委員やファミリーサポートセンター、一時預かり事業や児童館などが集まり、各々が提供できるサービスを出し合って支援を構築する。あるいはお互いのメリット・デメリット・限界などを議論することによって支援の隙間を無くしていく活動をすることができる。全国社会福祉協議会ではそのためのマニュアルや事例集も作成している。
 そして、もう一つ重要なことが社会的支援ネットワークを従来の血縁・地縁ネットワークと連携させることである。例えば、多忙な時に子どもを預けられるファミリーサポートセンター事業では地縁ネットワークの形成が鍵となる。自分の子どもを預けると同時に、可能な時は自分も預かる側にまわるという相互扶助の関係が築けると上手くいく。
 しかし、現代は相互扶助関係の構築が上手くいっていない。ファミリーサポートセンターでもサービスの利用者と供給者が二極化している。その上、利用者は料金を払っていることを理由に塾の送り迎えまで当然のように期待している。市場原理に染まりすぎて、助け合いの精神が置き去りにされている。
 昔は我が家もよその子どもに晩御飯を食べさせたり、自分の子どもが近所で食べさせてもらったりしていた。そういう社会をもう一度作っていくことが必要である。そのための媒介として、子ども・子育て支援事業が機能していくことが必要とされる。

3.全体を俯瞰する視点の重要性

 今後子育て支援を一体的に提供するためにもう一つ大切なことは、子ども家庭福祉全体をコーディネートする機能を整備することである。
 我が国は長い間専門分化によって子育て支援の充実を図ってきた。そうした細分化は、部分最適の集合を全体最適と誤解した“合成の誤謬”を生じている。これを乗り越えるために、子ども家庭福祉に関わる理念、人材養成、組織に全体を俯瞰する視点を導入していく必要がある。

教育と福祉の社会観

 支援の理念に関する合意形成の重要性は、教育と福祉の関係を見ると分かりやすい。教育と福祉はそれぞれ人づくりと社会づくりを担う。そのため、福祉がどのような社会が望ましいかを提示し、教育はその社会観と整合するよう設計されるべきである。しかし、我が国では教育と福祉の間で共通した社会観が存在しない。
 それゆえ、教育が過度に強調されることで、インクルージョンの考えに反した状況を生む場合がある。近年の保育の場における幼児教育の拡大はその一例と言えよう。今の教育では親を支援する対象と認識しておらず、その影響が保育士養成課程にも表れている。また、モンスター・ペアレントといった言葉も多用されるようになっている。福祉では保護者も支援の対象であり、援助の対象を「怪獣」と呼ぶことはあり得ない。
 保育士の法定化された業務には、子どもの支援に加えて、子育てをする親の支援も含まれている。離乳食などの日常的な事柄から深刻な事柄まで、保育士の助言は親にとって欠かせない。ところが、2016年に行われた保育所保育指針の改定により、保育士養成課程から「相談援助」(ソーシャルワーク)という科目が取り除かれた。親の力を引き出すような、保育ソーシャルワークはいらないと政府が決めてしまったのである。これは痛恨の極みといえる。
 また、教育は人間の生きるエネルギーを方向付けする行為であることから、援助や支援よりも指導という形態をとりやすい。そうした教育の性質自体は悪いものではない。しかし、日本の教育は画一的に子どもたちを同じ方向に向かわせる傾向が強すぎる。発達障害の子どもは特別支援学級で面倒を見るなど、教育内容に沿えない子どもは隔離され、各自に適した教育を受ける機会を持てないでいる。
 こうした画一性は、教育が福祉に由来する社会観を持っていないことに原因がある。福祉はソーシャル・インクルージョンや地域共生を基盤とした社会観を持っており、取り残された子どもも最適な教育を受けられるよう制度設計することを重視する。同時に、子どもの育ちのエネルギーを重視し、学びにおいても子どもの主体性を尊重する。主体性を尊重すれば子どもは当然失敗し、人に迷惑をかけることもある。その学びを間接的に応援していくのが福祉の視点である。
 教育が持つ指導という側面も重要だが、各自に適した学びを追究することも重要である。そのためには共通の社会観に基づき、教育と福祉を再編成しなければならない。「教育福祉学」という分野を構築することが必要であろう。

総合力のある人材養成

 人材養成においても福祉を総合的にコーディネートできる人材を育てることが必要である。子どもを包括的に支援していくためには、子育て支援や保育だけでなく、虐待や障害児の事情などにも精通した人材が全体を調整することが望ましい。
 同様の理由から、現在検討されている子ども家庭福祉に特化した国家資格の設置には慎重になるべきである。それは一見理に適っているが、現実的には医師とは別に小児科のみを扱う国家資格を作るようなものである。福祉に従事する機関にも予算制約があり、従事可能な業務が狭い者より、色々な事態に対応できる人材のほうが望ましい。
 とはいえ子ども家庭福祉の専門性を高めることは重要である。資格を細分化することとは別に、以下の三つの代替案は実行する価値があるだろう。一つ目の案は、介護支援専門員のように、子ども家庭福祉に関する上級資格を設置することである。社会福祉士や保健師として現場経験を積んだ者が、さらなる専門性を獲得するための資格ならば意味がある。
 二つ目の案は業界団体による認定制度を充実させることである。医師と小児科医の関係のように、日本社会福祉士会などが子ども家庭福祉の専門性を認定する制度を設置すればよい。
 そして三つ目の案は大学の養成課程で子ども家庭福祉に関する知識を付加的に学ぶことである。現在でも社会福祉士の基礎に加えて学校教育におけるソーシャルワークを学ぶコースを設置している大学は存在する。同様のことを子ども家庭福祉でも実施すればよい。子ども家庭福祉を枝分かれさせるより、これら三つの案のように積み上げ型の養成を行うべきである。
 ただし、保育士資格は分化を含めて再構築しなければならない。就学前の部分は教育に非常に近づいている。そうすると、18歳未満の子どものケアワークをする専門性が薄くなる。そのため、教育的な保育士・保育教諭と子どもの生活支援、ケアワークを担当する保育士・養育福祉士(一例)を分けて養成することを検討すべきである。

行政組織の統合

 ここまで、理念と人材養成において分断の解消を訴えてきたが、最終的に子ども家庭福祉を統合するためには国の組織が統括されねばならない。
 今、国に要望したいのは、その検討のために関係部局を統括する合同企画分科会を設置することである。内閣府の子ども・子育て会議、厚労省の児童部会と障害者部会の三つから人選をして、包括的な支援をするための企画を行うのである。本来文科省の中央教育審議会も加えるべきだが、まだ考え方が異なるので、まず内閣府と厚労省から始めるのがよい。
 いわゆる福祉八法改正の時に厚労省の中だけではあるが、高齢者・障害者・児童の分科会が、合同企画分科会を作っていたこともある。部局を超えて一体改革を行った実績もあるのだから、今こそもう一度同じことをやればよいのである。
 以上のように、子ども家庭福祉供給体制に関する理念、人材養成、組織に全体を俯瞰する視点を導入することが、今後切れ目のない支援を構築していく鍵となるであろう。

 

おわりに

 我が国は子ども・子育て支援制度の始動とともに、抜本的な子育て支援改革に乗り出した。しかし、いまだ制度や社会の事情により全ての子どもたちに十分な支援が行き渡っているとは言い難い。公的支援においては、何が子どもたちにとって最善かを全体で共有し、種々の制度のメリット・デメリットを考えて包括的な制度とそれに基づく支援を構築する必要があるだろう。そして、公的支援だけに任せず、社会全体で子どもにとっての最善を考えていくことが必要である。

(2019年7月18日)