海外情報

2019年9月19日

韓国大学生の社会意識―LGBT への世論の動向から―

月刊『EN-ICHI FORUM』2019年8月号より
韓国の大学生の社会意識について、近年のLGBT、性的少数者に対する世論の動向を参考に見ていきたい。編集部

「個人の自由」や「人権」

 韓国社会は第二次世界大戦、高度経済成長を経て急速に西洋化し変化してきた。同時に、様々な社会問題に対して、「個人の自由と権利」を重視する、進歩的な声が若者層を中心として大きくなってきた。急速に変化する韓国社会において、「個人の自由」や「人権」に関わる社会的課題は、今後韓国の政策内容を大きく変化させる要因となる可能性がある。
 一例をあげると、アメリカの政治においてはLGBTが、保守かリベラルかを分ける重要な要因である。一方、韓国においては安全保障・経済・南北関係等が保守かリベラルかを分ける主な要因であり、LGBTのような社会的な要因は、政治的課題になりにくいのが特徴であった。しかし2000年以降、「クィア・カルチャー・フェスティバル (Queer Culture Festival)」という性的少数者による運動がソウルを中心に盛んになり、LGBTに対する世論の変化や、賛成・反対派団体の衝突などから、これ以上政府が無視出来ない課題となっている。

LGBTに寛容な若者

 毎年「クィア・カルチャー・フェスティバル」の期間にはパレードが開かれ、世論に一定の影響を与えている。2000年、50余人から始まったパレードは、本年2019年6月には約7万人が集まる大規模のパレードとなった。牙山政策研究院 (The Asan Institute for Policy Studies)は、2010年から2014年の間の同性愛・同性結婚に対する意識を19歳上の男女を対象に調査した(注)。それによると、「同性愛者に対して拒否感が無い」と答えた割合は2010年15.8%だったのが、2014年には23.7%と増加した。また、「同性婚を合法化させるべき」という意見もやはり増えている。2010年16.9%だったのが、2014年は28.5%であった。社会的要因が政治的な課題になりにくかった韓国において、2000年以降、市民の意識が少しずつ変化し、それに伴いLGBTに寛容な人達の声が大きくなってきている。

社会問題に対する学生の意識の高さ

 これには、韓国の大学生がもともと社会問題・社会運動に対して意識が高いことも影響している。
 パレードが開かれる場所が、多くの若者が集まる大学周辺というのも、クィア・フェスティバルの特徴である。牙山政策研究院が行った「世代別同性愛に対する寛容度」の結果からも、20代~30代の寛容度が増加している。2010年、20代は26.7%が「同性愛者に拒否感が無い」と答えたが、2014年には47.7%と、2倍近く増えた。一方、50代・60代以上の老年層では2010年各々11.2%、6.2%、2014年は13.8%、7.1%と、ほとんど変化が無かった。
 パレードはソウルをはじめ様々な都市で開催されているが、その中でも大学周辺で行われるパレードには、多くの大学生が参加する。参加する意向が無い学生たちも、必然的に登下校時にその様子を見るようになる。牙山政策研究院による研究でも同性愛に対する寛容度は20代が一番高かった。
 それでは、20代の中でも特に大学生の意識はどうなのか。
 20代をターゲットにした韓国の研究調査機関、UnivTomorrow Research Laboratory for the Twentiesでは、韓国大学生のLGBTに対する意識調査に加え、「同性愛の内容を扱ったコンテンツの利用状況及び利用経路」について、4年制大学に通う大学生406名にアンケートを行った。調査結果によると、LGBTコンテンツの利用理由として、「内容を知らずに見たら同性愛の内容が含まれていた」という理由が一番多かった(46.1%)。利用経路として一番多かったのが、映画 (20.1%)であり、その次にウェブ漫画 (16.1%)、ブログ・オンラインコミュニティー (14.2%)を通して大学生たちは同性愛に関連するコンテンツに触れていた。そして利用後、男女共に「同性愛を認めるようになった (男性56.8%・女性78.4%)」と答えた。

家庭重視や孝行文化は残る

 韓国社会において若者層を中心に年々LGBTに対する声が大きくなるなか、プロテスタント系教団の連合機関である「韓国教会総連合」は、2019年3月、「国家人権政策基本計画(NAP)に対する韓国教会総連合の立場」という声明書を発表した。2019年6月に開かれた「クィア・カルチャー・フェスティバル」では、反対デモが起きるなど、LGBT支持者と反対派間での対立も毎年激しくなっている。
 このように、韓国の学生たちはもともと社会問題・社会運動に対して意識が高く、「個人の自由」や「人権」を尊重する進歩的な声も大きくなっている。ただし、一方で若者の間には依然として伝統的家庭像を重要視する社会的雰囲気や、両親を敬い孝行する文化が深く残っているのも事実である。韓国社会でのLGBTに対する意識の変化が、これから政府の政策や教育、そして若者の意識に影響を及ぼしていくのか。なお国内の議論や葛藤が続くと見られる。

 

(注)調査対象は19歳以上の男女。2010年・2011年は2000人に、2012年・2013年・2014年は1,500人に調査を行った。

〈参考文献〉
The Asan Institute for Policy Studies, Issue Brief「韓国有権者とイシューⅢ:LGBTに対する認識」
UnivTomorrow Research Laboratory for the Twenties, 研究レポート「大学生が同性愛を見つめる姿勢:男女大学生の同性愛認識調査」
韓国経済 2019年6月1日「史上最大規模 ‘クィア祝祭’を前に性的少数者と基督教団体の対立」