愛着を築くための父母、家庭支援

愛着を築くための父母、家庭支援

2020年3月24日

「愛着障害」の増加

 愛着(アタッチメント)は、乳幼児が特定の養育者(多くの場合は母親)との間で築かれる情緒的関係性のことである。愛着は、基本的信頼感や自律性、自己肯定感、共感性、さらには社会性などの基礎になるもので、乳幼児期にとどまらず、生涯にわたって影響を与える。特定の養育者とは母親であることが多いが、愛着は、父親、祖父母、その他の養育者との間にも形成される。
 近年、教育現場では発達障害の子供が増えていると言われるが、実際には愛着形成が難しい「愛着障害」による子が相当数含まれているのではないかという指摘もある。子供たちには衝動的な行動や自己肯定感の欠如が見られるが、精神科医の岡田尊司氏によれば、摂食障害やADHD(注意欠陥多動性障害)なども不安定な愛着と関連が深いという。
 親自身が子供の頃に虐待を受けたり、親子関係が不安定な状況で育つと、愛着に課題を抱えたまま、結婚後に配偶者との関係に葛藤したり、子供への接し方が分からず虐待につながるような問題も起こりうる。つまり愛着の問題が世代間連鎖してしまうことになる。
 では、こうした愛着の問題にどのように対応すればいいだろうか。

親、家族全体の関係性を回復する

 愛着理論では、母親をはじめとする養育者は子供にとって「安全基地」に例えられる。大河原美以・東京学芸大学教授は、親の前で不安や怒り、悲しみなどの不快感情を表出しても愛されるという関係性、子供が困った時に親の顔を見ると安心するという関係性を回復することが重要な援助になると言う。養育者は子供に安心感を与えられる存在になるわけである。
 また岡田氏は、長年非行少年に関わってきた経験から、不安定な愛着による子供の問題行動の改善に最も効果的な方法は、子供に対する治療以上に、親の関わり方を変えることであると述べている。
 その意味で、愛着障害の対応に必要なのは、親が子供との関係性を改善するための適切な支援である。友田明美・福井大学教授は、児童虐待の問題について虐待の世代間連鎖の可能性を踏まえ、子供だけでなく傷ついている親に対しても温かく寄り添い、家族まるごと支援することの必要性を強調している。
 つまり、愛着障害の修復には、子供だけでなく、親、家族全体の関係性を踏まえて支援する必要がある。母子関係や父子関係、夫婦関係に注目しながら、親自身に愛着不足の過去がある可能性を踏まえ、子育ての基本を学ぶ体験や、孤立を防ぐ支援を行うのである。
 友田氏は、親が子供への関わり方を学ぶペアレント・トレーニングの有効性を述べている。子供の行動に対して親がネガティブな認知を行うのではなく、中立的に捉え、人を褒める視点を身につけていくという。
 また、夫婦関係においては、父親が育児に積極的に関わり、夫婦が一緒の時間を長く過ごしたり、会話が多いほど夫婦関係の満足度が高まる。それによって母親の育児ストレスが大きく改善される。
 この時、子育てに関わる父の方にも、父子の触れ合いによって愛着に関係するホルモンであるオキシトシンの分泌が高まると言う。こうした関係性を重ねていくことで、親子、夫婦の愛情が深まることが期待される。
 そして、親になる前の若い独身世代でも、保育園などで乳幼児と触れ合う機会を持つことで親子の関係を体験し、情動的な働きが活発になることが、研究によって明らかになってきた。そうした親になるための準備教育も必要であろう。

母子が安心できる環境を整える

 近年、親以外にも祖父母、兄弟姉妹、地域の大人などが子供の養育に関わることで子供の発達が促されるとして、共同養育の重要性が指摘されている。これには、親以外の人も子育てに関わることで母親の孤立を予防し、母子が安心できる環境を整えるという意味があるという。
 現代は核家族化が進み、共同養育を担い得るような地域社会のつながりも薄れている。共同養育の環境を再構築するような取り組みが必要だが、一部の自治体が取り組んでいる三世代同居・近居に対する支援も、祖父母の孫育てを支える共同養育のための貴重な施策であると言えよう。
 また、昨年末に施行された成育基本法は、子供の妊娠時から成人するまで医療・教育・福祉など必要な支援を提供し、心身の健やかな成長を保障するという趣旨である。例えば、妊産婦が健康診断を適切に受けられるようにして孤立を防ぎ、科学的な知見による医療や子育ての情報を適切に提供する。今後の政策への具体的展開が期待される。

参考文献
『子育て支援と心理臨床』福村出版、2014.9
岡田尊司『死に至る病』光文社、2019
友田明美『親の脳を癒やせば子どもの脳は変わる』NHK出版、2019
大河原美以『子どもの感情コントロールと心理臨床』日本評論社、2015

政策オピニオン
子供たちの養育環境改善という課題について、子育てにおける愛着(アタッチメント)理論、愛着障害の観点から考える。

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