IPP政策ブリーフ

2019年11月12日

「単独親権」と「共同親権」―子供の視点から離婚後の親権制度を考える―

 親権を巡る子供の連れ去りが問題となっている。離婚で親子の交流が断たれるのは子供の福祉を損なうという理由から、親権制度の見直しを求める声がある。子供の最善の利益の視点から、離婚後の親権制度の在り方を探る。

 

親権制度の現状

 離婚後の親権について欧米諸国は原則、父母が共同で子供の監護・教育に関わる「共同親権」である。一方、日本は父母の一方を親権者と定める「単独親権」の形を採っている。
 また日本は協議離婚が9割を占めており、親権等の取り決めは夫婦間の協議で決まる。近年は「母性優先」「子供の養育環境の継続性」という理由から、離婚後の親権は9割近くが母親である。

 

離婚後の親権制度見直しの背景

 法務省が今年から親権制度について見直しの検討を始めた背景には、一つに婚姻中に監護親(主に母親)が子を連れて家を出てしまう「子の連れ去り問題」など、親権を巡るトラブルが頻発してきたことがある。例えば、2015年の面会交流調停の新規受理件数は1万4241件と、この10年で約3倍に増えている。
 2011年の民法(第766条)改正で、面会交流及び養育費の取り決めが明文化されて以降も、離婚時に「養育費の取り決めをしている」は母子世帯で42.9%、父子世帯では20.8%。「面会交流を現在も行っている」は母子世帯で29.8%、父子世帯で45.5%である(厚労省調査「平成28年度全国ひとり親世帯等の調査」)。そのため、子との面会交流を制限する「単独親権」は子の利益に適わないと、非監護親(主に父親)から親権制度の見直しを求める主張が強まっていることがある。
 もう一つは、日本が批准している「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」(ハーグ条約)や「子どもの権利条約」など国際規約と国内法との整合性を図る必要性に迫られていることがある。
 ハーグ条約では国境を越えた子の連れ去りを禁止、原則子を元の居住国に返還することを義務付けている。また「子どもの権利条約」には、「親子不分離の原則」(9条3項)、「父母の共同責任の原則」(第18条1項)が明記されている。
 このため国連子どもの権利委員会は今年2月、日本政府に離婚後の親子関係に関する法律を見直すよう勧告を出している。

 

子供の視点でみた共同親権の問題点

 まず民法が規定する親権の内容には、子の監護や教育、子の居場所の指定、子の職業の許可・制限、子の財産管理、子の法律行為への同意がある。特に問題となってきたのが面会交流など子の監護・教育に関する部分である。
 子との面会交流が制限された非監護親の要望を受けて、2016年に超党派の議員連盟から「親子断絶防止法案」が提案された経緯がある。この時、司法、心理の専門家等から様々な問題点が指摘されている。
 子の監護・教育を巡るトラブルについては、単独・共同いずれの制度であっても、基本的に両親間の意見の不一致が起こった場合に深刻化する。
 単独親権の場合は子供の教育や医療、財産管理などを親権者一人で決定することができる。一方、共同親権の場合は、父母の関係が良好であれば適切な合意形成が可能だが、悪い場合は両者の合意形成は簡単ではない。つまり、今以上に親権の内容を巡る父母間の摩擦や係争が増える懸念がある。
 二つ目には、共同親権が導入された場合、現行の法制度ではDV(ドメスティックバイオレンス)や虐待など親の問題を適切に把握し対処するのが困難であるため、子供の福祉と安全が脅かされる恐れがある。つまり子供の虐待が深刻化する可能性が高いと専門家は指摘している。
 三つ目に、子供の監護・教育の安定性と継続性が保証されにくいという点がある。例えば、再婚した場合、親子の関係性が複雑になり、子供に与える精神的ダメージは大きい。
 ハーバード大学のフランク・E・A・サンダー教授は共同監護の前提として、①両親それぞれが監護権を持つのに適格な親である。②両親間に十分な意思の疎通がある。③両親が子育てについて共通の価値観を持つ。この3点を挙げている。
 DVや虐待など離婚理由が深刻な日本では、上記の前提が成り立つ家庭は少なく、共同監護が必ずしも子供の福祉に適うわけではない。

 

離婚で子供を犠牲にしないために

 欧米諸国は裁判所が関与する裁判離婚だが、日本は当事者の話し合いで離婚が成立する協議離婚である。つまり日本の家族法の特徴は家族の問題に司法や行政による公的介入が弱いというところにある。
 例えば、離婚時に子の養育に関する取り決めをしても、法的に罰則規定がないため、養育費支払いの行使は3割に止まっている。司法や精神医学や心理学等の専門家による支援体制が整っていない現状では、面会交流時に子供やDV被害親の安全性の確保、子供の虐待予防という観点から弊害が大きい。まず共同親権を検討する以前の課題として、欧米のように公的機関や専門家が関与できる法的整備が不可欠である。
 子供にとって親の離婚は心に深い傷を残す。離婚によって子供に多大な犠牲を負わせないために、困難家庭への公的支援、家族関係の再構築に向けた家族再統合の取り組みが重要である。