持続可能な地域開発とコミュニティづくり ―家庭を基盤とした「日本型SDGsによる地方創生」―

持続可能な地域開発とコミュニティづくり ―家庭を基盤とした「日本型SDGsによる地方創生」―

2020年8月18日
持続可能な地域社会づくり
はじめに

 現在、わが国は急激な少子高齢化による人口減少社会に突入している。地方の農村・中山間地域は、過疎化による地域コミュニティの衰退や集落消滅の危機に直面しており、地域コミュニティの強化と新たな地域づくり、コミュニティづくりが急務の課題となっている。
 政府は、地方創生の推進を図るべく、「持続可能な開発目標」(SDGs)の「主流化」を掲げている。「持続可能な開発」は途上国だけでなく、先進国を含む世界共通の課題となっている。各自治体は、地方創生のためにSDGsを積極的に活用することが要請されおり、それには地域の特性を活かしたSDGsの活用が求められる。
 本稿では、地方創生におけるSDGsの位置づけとその課題、持続可能な地域づくりとコミュニティづくりに向けた「日本型SDGsによる地方創生」のあり方について検討したい。

1.日本の地方創生と「持続可能な開発目標」(SDGs)

過疎化が進む、日本の地域社会が直面する危機

 わが国は、少子化による急激な人口減少と超高齢社会の到来という、これまで経験したことのない危機に直面している。日本の総人口は2008年の1億2,808万人をピークに、今後100年間で明治時代後半の水準、すなわち100年前の4,000〜5,000万人に戻ると推計されている。高齢化率(65歳以上人口が総人口に占める割合)も上昇を続け、2036年には国民の3人に1人(33.3%)、2065年には約2.6人に1人(38.4%)が65歳以上となる。
 少子化と首都圏への人口流出により、東京圏以外では2000年から15年間で若者人口(15〜29歳)が約3割(532万人)減少した。地方からの人口移動は10代後半から20代の若者が大半を占めており、特に近年は男性より女性の方が多くなっている。
 こうした変化は、とりわけ地方の農村・中山間地域において急激な過疎化をもたらしている。地域の産業衰退や生活環境の悪化は、人口減少を加速化させ、最終的には地域コミュニティの衰退や集落消滅の危機を招く。地方自治体は、人口増加を前提としたこれまでのような住民サービスを提供することは、もはや困難になりつつある。限られた人的・物的資源を最適な形で活用し、地域社会の維持と持続可能なコミュニティづくりに向けた新たなモデルを確立することが求められている。

地方創生における「持続可能な開発目標」(SDGs)の活用

 2014年5月、「日本創成会議」(増田寛也座長)は、全国1800自治体のうち半数以上(896)が2040年には「消滅」する可能性があるとのレポートを発表し、大きな衝撃を与えた。政府は同年9月に「まち・ひと・しごと創生本部」を設置し、地方創生への取組を本格的化させた。2017年12月には、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」2017改訂版を閣議決定し、「地方創生の一層の推進にあたっては、持続可能な開発目標(SDGs)の主流化」を図ることを明記、地方創生においてSDGsを積極的に活用する方針を打ち出した。
 他方、2015年9月に開催された国連サミットでは、SDGsを中核とする「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(通称2030アジェンダ)」が、全加盟国(193カ国)による全会一致で採択された。これを受けて、2016年5月、日本政府は総理大臣を本部長とし、すべての閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」を設置、同年12月第2回会合で、SDGs達成のための国家戦略「SDGs実施指針」を決定した。
 「SDGs実施指針」は、「SDGsを全国的に実施するためには、広く全国の地方自治体及びその地域で活動するステークホルダーによる積極的な取組を推進することが不可欠」とし、自治体の役割の重要性を指摘した。さらに、2017年12月の第4回会合では「SDGsアクションプラン2018」を決定。日本の「SDGsモデル」を特色づける柱のひとつとして、「SDGsを原動力とした地方創生、強靭で環境に優しい魅力的なまちづくり」を掲げ、ここでも地方創生の取組に積極的にSDGsを活用する方針を打ち出している。
 このように、現在、わが国では地方創生の取組においてSDGsが重要な政策の柱として位置づけられている。SDGsを活用した施策を通じて、地域コミュニティを強化し、地域の課題を「統合的」に解決することが、全国の自治体に要請されているのである。

2.SDGsの特徴と自治体・コミュニティの役割

「経済」「社会」「環境」の統合的発展

 SDGsは、「経済」「社会」「環境」を不可分のものとして捉え、地域社会の広範な課題を統合的に解決しながら、バランスのとれた持続可能な開発を目指すことを特徴としている。かつての「開発」では、経済成長を優先し、「環境」や「社会」は制約条件として捉えられていた。しかし、1992年の「国連環境開発会議」(地球サミット)から2012年「国連持続可能な開発会議」(「リオ+20」)にいたる一連の議論を通じて、「経済」「社会」「環境」の統合的発展、すなわちこれら三つの課題を同時に解決するという考え方が定着していった。わが国におけるSDGsを活用した地方創生にも、こうした考え方が採り入れられている。
 2015年9月国連サミットにおいて全会一致で採択された「2030アジェンダ」は、人類と地球の持続可能な開発のために、国際社会が2030年までに達成すべきSDGsとして17のゴール(貧困、飢餓、健康、教育、ジェンダー、環境など)と169のターゲットを設定。キーワードとして、「人間」(People)、「地球」(Planet)、「繁栄」(Prosperity)、「平和」(Peace)、「連帯」(Partnership)の「5つのP」を掲げた。17のゴールと169のターゲットは「5つのP」を具現化したもので、相互に関連し、多岐にわたる課題を統合的に解決することが求められている。
 SDGsのもう一つの特徴は、「誰一人取り残さない」という理念を掲げていることだ。誰一人取り残さない「包摂的」な世界をつくるために、開発途上国だけでなく先進国を含むすべての国と関係者が協調的なパートナーシップの下で、行動計画を実行する必要があることを強調している。SDGsは国家だけでなく、公共・民間部門などあらゆるレベルでの取組が重要とされ、自治体やコミュニティによる取組にも大きな期待が寄せられている。

地域住民・コミュニティ主導による開発

 持続可能な開発を実現するには、国連が定めた目標をもとに国家が政策決定し、地方自治体がそれに従うトップダウン方式では限界がある。地域住民やコミュニティが開発の主体的な役割を果たす「ボトムアップ」アプローチが必要とされるからだ。その意味でも、SDGsの達成に向けた地域社会における取組は必要不可欠な要素となっている。SDGsの「ゴール11」に「住み続けられるまちづくりを」という目標が掲げられているのは、そうした自治体行政への期待の表れである。
 「コミュニティ主導の開発(Community-Driven Development: CDD)」は、国際開発の分野でも、世界銀行が貧困解消に向けた包括的な開発アプローチとして提唱している。CDDは、開発に関する意思決定や資源配分を受益者であるコミュニティに委ねるという考え方に基づいている。
 わが国では、1969年に国民生活審議会コミュニティ問題小委員会が発表した報告書『コミュニティ—生活の場における人間性の回復—』を嚆矢として、コミュニティ概念が政策に導入されるようになった。そこでは、コミュニティとは「生活の場において、市民としての自主性と責任を自覚した個人および家族を構成主体として、地域性と各種の共通目標を持った、開放的でしかも構成員相互の信頼感のある集団」と定義されている。
 この報告書で示された概念や基本的な考え方は、わが国におけるコミュニティ政策の原点とされ、以降、国や地方自治体においてコミュニティを重視する様々な政策が展開されてきた。少子高齢化や個人化が進んだ今日の日本社会においても、国が地域開発を主導的に行ってきた時代から、自治体、地域コミュニティ、住民などが自らの知恵と資源を活かして地域経営を行うことが要請されているのである。

自治体がSDGsに取組むことの意義

 新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、中央と地方の権限、責任関係があいまいな従来の中央集権的体制の限界が明らかになった。コロナ後の社会においては、人びとの生命や生活を守るために地方自治体や地域の果たす役割が決定的に重要になっている。今年(2020)7月に閣議決定された政府の「経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太の方針)」においても、「新たな日常」が実現される地方創生に向けて、「東京一極集中型から多核連携型の国づくり」を目指すことが明記された。
 では、地方創生の取組にSDGsを活用することで、自治体にはどのような具体的メリットがあるだろうか。内閣府の「自治体SDGs推進のための有識者検討会」がまとめた「地方創生に向けた自治体SDGs推進のあり方」(2017年11月)では、以下のような点を挙げている。

①SDGsを活用することで、短期的な生活サービスや利便性の向上だけでなく、中長期的な視点から持続可能なまちづくりのビジョンや具体的な活動目標を構築することが可能となる。

②自治体には様々な歴史的経緯や立地条件があり、それぞれの強み、弱みがある。SDGsという世界共通の物差しで各自治体の魅力や弱点を客観的に自己分析することにより、特に注力すべき政策課題を明確にすることができる。

③SDGsは、経済・社会・環境の三側面を不可分のものとして扱い、統合的な取組を促すものとしてデザインされている。SDGsを活用することで、経済・社会・環境の三分野にわたる相互関連性を踏まえて多様な課題に取組むことが可能となり、相乗効果が期待できる。

④地方創生の取組には、市民や民間企業、NPOなど多様なステークホルダーの参画を得ることが重要である。SDGsにもそうした連携やパートナーシップの主流化が強く謳われており、地方創生の施策との親和性が高い。またSDGsは世界共通の言語であるため、専門性を持ったNGO・NPO、大学などの科学者コミュニティとの連携やパートナーシップを進めやすい。

⑤自治体で持続可能な開発が推進されることは、産業・経済の活性化に大きく貢献する。例えば、社会貢献活動または本業にSDGsを取り込み、ビジネスを通じた社会的課題の解決を目指す企業などとの連携により、域内の循環型経済の進展と自律的好循環の社会・経済の構築が期待される。

⑥SDGsは、先進国にも途上国にも利用される普遍性のあるグローバルなゴールである。この世界の共通言語ともいえるSDGsを用いれば、自己の自治体で実現した魅力的で先進的取組等を国内外、特に海外へより効果的かつスムーズに発信することができる。

地域の特性を踏まえた包括的ビジョンが必要

 自治体が取り組むSDGsには課題も指摘されている。例えば、自治体や企業が特定のゴールやターゲットのみに焦点を当て、従来型の政策や活動と結び付けるだけのいわゆる「SDGsのつまみ食い」がある。これは、一つにはSDGsが目指す社会変革の理念や各項目の相互連関性に対する理解不足からきているものだ。
 もう一つは、地域社会でSDGsの取組を進めるには、各地域の特性を踏まえた包括的な地域社会のビジョンが必要とされる。その上で、地域ごとの課題に対応した指標を設定するなど、「SDGsのローカライゼーション(地域化)」を行うことが求められる。しかし、SDGsは非常に多岐にわたるゴールやターゲットを網羅しているものの、それらを通じて目指す地域社会の「包摂的」ビジョンは必ずしも明確ではない。そのため、地域社会に密着した身近で具体的な問題として捉えにくい面がある。
 SDGsを活用することで、多様な人びとが地方創生に向けて目標を共有することが可能となる。ただし、日本の地方創生にSDGsを活用するに際しては、各地の特性を活かした地域社会の包括的なビジョン、すなわち環境と調和した地域開発(経済・社会・人間開発)のビジョンを描いた上で、自律的かつ自立的な「日本型SDGsによる地方創生」を目指す必要がある。それによって初めて、少子高齢化など、日本の地域社会が直面する様々な課題を克服することもできるであろう。

3.家庭を基盤とした「日本型SDGsによる地方創生」

「課題解決先進国日本」への挑戦

 グローバル化の進展に伴い、今日、地域社会は国際社会と密接不可分な関係にあり、国内問題と国際問題を分けて考えることは困難になっている。日本国内の課題は、同時に国際社会の課題でもある。
 例えば、日本では少子化による深刻な労働力不足を背景に、途上国から多くの若者が技能実習生として来日し、安い労働力として活用されている面がある。日本の産業を低賃金で働く途上国の技能実習生が支えているという構図は、先進国と途上国の関係が、そのまま日本国内に持ち込まれ、国内問題として内包されていることを意味している。産業面を含む持続可能な地域社会づくりは、国際社会の問題でもある。
 また、日本の地方は、経済・社会・環境問題など、途上国と同様に構造的問題を抱えている。少子高齢化、過疎化と限界集落、地域産業の衰退、無縁社会や孤独死、多文化共生、貧困問題、環境破壊等々は、日本の地方が世界の国々に先駆けて経験している課題でもある。持続可能な開発は、日本の地方が直面している課題であると同時に、一人ひとりの生活の場である地域社会が直面している人類社会共通の課題でもある。
 このように、SDGsによる地方創生は「課題解決先進国」日本として、持続可能な新しい開発モデルを世界に示すことにもつながるものだ。特に日本には、里海・里山に代表される環境と調和した経済社会を築いてきた歴史がある。加えて、日本は先進国の中では例外的に婚姻制度が保持され、社会やコミュニティの核としての家庭基盤が今も機能している。
 持続可能な社会を築く上で、「家庭」に焦点を当てた施策は極めて重要となっている。しかし、SDGsでは「家庭」の視点の重要性は、必ずしも明確ではない。わが国は、環境と調和し、家庭を基盤とする強い絆で結ばれた地域社会と地域経済をつくる「日本型SDGsによる地方創生」を目指すべきである。それにより、日本こそ、SDGsの目指す経済・社会・環境を統合した持続可能な社会の新しいモデルを世界に示すことができるのではないか。

地域コミュニティの核としての「家庭」

 第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2019年12月決定)は、地方創生に向けた施策の方向性として「地域コミュニティの維持・強化」を挙げている。地域コミュニティを強化するためには、コミュニティの社会的機能それ自体の開発、すなわち人々の社会関係を強めることが不可欠である。こうした社会を社会として機能させる諸要因は「社会関係資本」(social capital)と呼ばれ、開発分野でも注目されてきた。
 「社会関係資本」は、社会的な信頼関係や規範、ネットワーク等のことで、社会関係資本が豊かな地域では、地域住民の健康状態が良好で、経済や社会面において良い効果があるという。日本でも、社会関係資本が豊かな地域では、大規模災害後の復興のスピードや充実度が高いことが分かっている。
 ところで、アジェンダ2030が言及している世界人権宣言には、「家庭は、社会の自然かつ基本的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する」とある(第16条第3項)。家庭が社会の基本単位であるとすれば、強い絆で結ばれ、機能している家庭こそ「第一の社会関係資本」と言える。また、地域社会が持続可能であるために、最も重要なことの一つは次世代の育成である。次世代を生み育てる第一の環境基盤も、基本的に「家庭」にある。
 このように多様なコミュニティから成る地域社会は、「家庭」を基本単位として構成されており、家庭はコミュティの核でもある。家庭基盤の充実を図る施策は、社会関係資本を豊かにし、「地域コミュニティの維持・強化」と地域社会の活性化、次世代育成へとつながる。それは、社会問題を解決し、持続可能な地域社会を築く上で最も重要な社会政策の一つと言ってよい。
 SDGsの「ゴール11」(住み続けられるまちづくりを)には、ターゲットとして住宅や基本的サービス、輸送システム、緑地、公共スペースの提供、さらに世界遺産の保護・保全や防災、生活環境保全などが挙げられている。「住み続けられるまちづくり」のためには、こうした点に加えて、コミュニティの核である家庭基盤を充実させ、家庭本来の機能を強化することが、何よりも重要である。
 例えば、SDGsには、以下のようなゴール及びターゲットがある。「ゴール1」(貧困をなくそう)では、「各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、すべての年齢の男性、女性、子供の割合を半減させる」というターゲットが設定されている。わが国でも、子供の約6人に一人は相対的貧困状態にある。
 また、「ゴール3」(すべての人に健康と福祉を)では、「薬物乱用やアルコールの有害な摂取を含む、物質乱用の防止・治療を強化する」こと。「ゴール4」は「すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供する」こと。「ゴール16」(平和と公平をすべての人に)では、「子供に対する虐待、搾取など、あらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する」ことが挙げられている。
 これらのゴールやターゲットは、どれも子供たちの家庭生活と密接に関係している。これらを達成するには、子供たちの養育環境を改善する必要があるが、それには家庭が持っている本来の機能を果たせるよう、行政や地域社会による包括的な家庭支援が不可欠となっている。「家庭」に焦点を当てることで、地域コミュニティを維持・強化するだけでなく、SDGsが掲げるゴールを包括的に達成することも可能となる。

「少子化対策」から「家族政策」への転換

 さらに、わが国では、少子化による人口減少に歯止めをかけることが、持続可能な地域社会をつくる上での最大の課題となっている。「家庭」に焦点を当てることは、「地域コミュニティの維持・強化」だけでなく、少子対策にとっても不可欠となっている。
 これまで行政は、家庭の構成員である親や子供「個人」を主たる対象とし、問題ごとに対処してきた。しかし、少子化対策のためには「家庭」に焦点を当て、家庭を保護し、支援する包括的な「家族政策」が重要になっているのである。
 少子化の主要原因は、「若者の未婚化・非婚化の進行」「若者の晩婚化・晩産化の進行」「夫婦の子ども数の減少」にある。内閣府少子化担当参事官を務めた東京通信大学の増田(2017)は、その背景には、「経済的に不安定な若者の増大」「結婚観や価値観の変化」「育児・教育コストの負担が重い」「仕事と子育ての両立の負担が困難」「母親(妻)の精神的・身体的負担が重い」ことなどがあるという。そして、これらの問題に対処するには「少子化対策」という従来の政策では困難なこと、子育てや子育て家庭に対する社会的支援、家庭機能の維持・強化を目的とする「家族政策」に切り替えることが必要であると述べている。
 「家族政策」とは、「家族機能を維持していくために、家族や家庭内の問題を未然に防ぐこと、あるいは解決することを目的として、家計や生活面に対して、社会的に家族を支援する政策」である。「家族政策」の範囲には、①出産や子育て等の生活面を支援する分野、②家計の経済的支援に関する分野、③就労支援に関する分野(雇用政策分野は除く)、④家族法に関する分野や意識改革・啓発等に関する分野がある。
 「意識改革・啓発等」に関連する分野として、全国の自治体で広がっている若者への「ライフデザイン教育」がある。副読本などを作成し、地元の少子化の現状や産業・文化・子育て環境などを紹介、結婚と出産に関する肯定的な情報を伝えることが中心となっている。高齢になると妊娠や出産率が低下することに触れ、子供を持つ時期を考えさせるものもある。また、高校生や専門学校生などを対象にセミナーを開催している自治体もある。
 こうした取り組みは、若者の進路選択において、就職だけでなく結婚や出産、育児等のライフイベントを視野に入れて、総合的に考えられるようにするものである。少子化対策には、若者の家族形成(結婚)と子供の健全育成、家庭機能の強化を目指す、総合的な施策が必要だからである。
 ただし、自治体主催のセミナー等の場合、参加人数が限られ、本当に必要な若者に情報を届けることが難しいという課題がある。若い世代にこうした内容を確実に伝えるには、学校教育の中にライフデザイン教育を位置付けることが考えられる。学校・家庭・地域が連携して、将来の地域社会を担う若者教育に積極的に取り組む必要がある。
 このように、持続可能な地域社会を実現するには、地域コミュニティの核である家庭を保護し、家庭機能を強化する包括的な「家族政策」が不可欠である。SDGsでは家庭の視点が明確にはなっていない。「日本型SDGsによる地方創生」は、何よりも強い絆で結ばれた家庭を基盤とした「強靭で環境に優しい魅力的なまちづくり」を目指すこと、そのための社会政策の柱として包括的な「家族政策」を据えることを提案したい。

伝統や文化を維持してきた、コミュニティにおける宗教的伝統の役割

 日本では、神社やお寺等が地域社会の伝統や文化を維持し、人びとの心の結びつきを強めるコミュニティの形成に重要な役割を担ってきた。神社仏閣の数はコンビニエンスストアよりも多く、地域住民の生活と密接に関係してきた。
 茨城大学の野田(2018)によれば、国際開発の分野において、これらの伝統文化、宗教および宗教組織もコミュニティを形成する重要な「社会関係資本」と考えられており、社会開発の主体として重要視されている。野田は、開発における伝統・文化、宗教の重要性について三点をあげている。
 第一に、宗教組織は社会の重要な構成要素であり、社会サービスの担い手やコミュニティの中心として機能してきた。
 第二に、コミュニティをコミュニティとして成り立たせているのは単なる地縁や行政区画に限らず、文化的・宗教的な紐帯が重要な役割を果たすことが知られている。
 第三に、2000年以降の国際開発の潮流において、コミュニティ主導の開発や社会規範、価値・倫理が重視されるようになり、新たな開発パートナーとして「信仰基盤組織(Faith-Based Organizations: FBOs)」の役割が注目されている。
 日本の地域社会においても、歴史的に宗教的伝統基盤は人びとの暮らしと密接にかかわっており、精神的に豊かなコミュニティの維持・活性化、さらに防災拠点としても大きな役割を果たしてきた。
 現在、多くの自治体では、地域活性化の起爆剤として「祭り」を活用し、経済的効果や祭りの担い手の確保など、一定の成果を上げている。しかし、これには一時的効果に過ぎないとの意見もある。「祭り」は、もともとは豊作祈願や厄除けなど、地域住民の祈りや感謝の現れとして、地域社会の宗教的行事として行われてきたものだ。
 「祭り」は地域活性化の重要なイベントの一つとなっているが、それが持続可能であるためには、経済的視点だけでなく、宗教的伝統精神の若者への継承と活性化が不可欠である。宗教的伝統基盤の重要性については、「家庭」の視点同様、SDGsでは明確ではない。「日本型SDGsによる地方創生」では、「社会関係資本」としての宗教的伝統基盤の役割を重視し、尊重する視点も必要であろう。

4.提言

(1)自治体はSDGsに積極的に取組み、持続可能な地域社会の実現を

 急激な人口減少と超高齢化を背景に地域コミュニティの衰退や地域経済の縮小など様々な課題に直面している自治体は、SDGsを原動力とした地方創生の施策を積極的に活用し、持続可能な地域開発とコミュニティづくりを推進すべきである。SDGs推進本部は「SDGsアクションプラン2018」により、これまでに94の自治体を「SDGs未来都市」に選定、先導的な事業提案を行った自治体は「自治体SDGsモデル事業」に認定している。2024年間までに、累計210の自治体が選定される予定で、今後もSDGsを導入する自治体は増えていくものと思われる。
 自治体がSDGsを活用する際には、既存の施策をSDGsの中身に合わせて並べ替えるだけの表面的な取組で終わってはならない。各自治体は、SDGsの達成を目指す国際的な時代の潮流に歩調を合わせつつ、それぞれの地域的・歴史的特性を活かして課題解決のための政策を立案し、持続可能な地域社会を実現すべきである。

(2)「経済」「社会」「環境」課題の統合的解決を図り、自律かつ自立型地域社会の確立を

 SDGsでは、「経済」「社会」「環境」の諸課題の統合的な解決を強調しているが、自治体においてもこれまで経済成長、社会課題の解決、環境保全に別々の政策で対応してきたアプローチを見直し、複雑化する経済・社会・環境課題の同時解決を図るべきである。SDGsの要素を取り込むことによって自治体、民間企業、金融機関、大学、NGO/NPO、多様な地域コミュニティなど、これまで関係の薄かった異分野のアクターが連携できるプラットフォームが用意され、個々の課題が統合的に取組まれて同時解決へ向かう相乗効果が期待できる。
 これについては、すでに政府の「SDGs未来都市」事業などを通じて自治体の実践事例も蓄積されている。このようなプロセスを通じて地域に固有の魅力や弱みを再発見し、「ローカル・アイデンティティ」を確立するとともに、地方分権を実現することで自律かつ自立型の地域社会を確立していくことが期待できる。

(3)「家族政策」に力点を置いた「日本型SDGsによる地方創生」を

 SDGsを活用した地方創生の取組においては、地域社会やコミュニティの核である家庭を支援し、家庭機能を強化する包括的な家族政策がきわめて重要である。社会や国家は「無縁社会」という言葉に象徴される、砂のようなバラバラな「個人」の集合体ではなく、温かみのある人間関係と縦横の秩序からなる「家庭」の集合体である。
 また、持地域社会が持続可能であるためには、地域の未来を担っていく人材が育つことが何よりも必要とされる。家族政策の一環として、学校・家庭・社会教育の連携を図りつつ、将来の地域社会を担う子供たちへの「ライフデザイン教育」を学校教育においても実施する必要がある。
 同時に、お寺や神社を始めとする宗教的伝統基盤は、地域コミュニティにおける世代を超えた個人や家庭の情緒的な結びつき、地域の伝統文化を継承・強化する機能を果たしてきた。地域社会は、家庭や宗教的伝統文化のこうした役割を抜きには成り立たない。それらを重視する施策こそが地域コミュニティの活性化、さらには地域社会全体の発展と地方創生の鍵となろう。

 

■参考文献

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■政策研究会

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政策レポート

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