米国は、2024年まで存在し続けるか?

米国は、2024年まで存在し続けるか?

2020年8月14日

 この原稿が印刷される頃には、多分、米大統領選挙が終わり、新しい大統領が決まっているはずだ。トランプ大統領(共和党)の再選か、バイデン元副大統領(民主党)の政権奪回か、世界をにぎわせていると思う。ただ、誰が米大統領になろうとも、その先の2024年の任期満了で、ひとつの時代が終わり、大きな変化がやってくる可能性が高い。

ソ連崩壊を予告したアマルリク論文

 実は、最近、米ジョージ・タウン大学のチャールズ・キング教授が、米『フォーリン・アフェアーズ』に、ちょっと面白い論文を投稿していた。論文のタイトルは「大国は、どのようにして分裂し、崩れたのか?」だった。
 キング教授は、国際政治問題の専門家で、ロシア問題にも詳しい。ブレジネフ・ソ連時代に活躍した反体制・歴史家のアンドレイ・アマルリクの論文「ソ連は、1984年まで、存在し続けるのか?」(1970年発表)を、今回、もう一度取り上げ、分析し直したのだ。
 アマルリクは、その論文で、ソ連崩壊を予告したことになり、その後、西欧に亡命し、1984年スペインで事故死した。予告したソ連崩壊を目撃することはできなかった。
 キング教授は、アマルリク論文の50周年記念に、「大国(ソ連)が、何故崩壊したのか」とのタイトルで、大国崩壊論を再び考察したのだった。現在の大国・米国の状況については、ひとことも触れていない。
 しかし、ロシアの国際戦略問題専門家のフョードル・ルキヤノフ氏は、教授の論文を読み、「これはソ連のことを書いたのではなく、米国の現状を、アマルリク論文に重ねて書いたのではないか?」と指摘した。
 ルキヤノフ氏によると、キング教授は米国崩壊の実証分析はしていない。しかし、明らかに、ソ連崩壊と米国崩壊の可能性を比較し、米国の現状を炙り出して見せたという。論文のタイトルは「米国は、2024年まで、生存し続けるか?」という方が適切だと主張した。 

自己保存に終始して「終わり」を体験

 キング教授の論文要旨は、以下のようになる。
 「ソ連という国家は、政治的にも、経済的にも、自己崩壊へと向かっていた。国家崩壊は、過去に戻って気が付くプロセスであり、当時は、すべてがうまくいくと考え、衰退の最後の段階になっても、(ソ連崩壊を)誰も信ずることができなかった。危機の予想はなく、すべてがもつれて、破滅的にやってきた。人々は互いに競争し合う陣営ごと、または、強硬派左翼、国家主義者、リベラルなど様々な同調者ごとに、分裂していった。国家は分裂し、異なる見解の相違を、どのようにまとめるのか、誰も分からなかった。官僚と政治家たちは、今いる地位を離れたくないと考え、労働者たちはより高い生活水準を求め、インテリ層は社会的に受け入れ可能な国家アイデンティティの問題提起を行った。唯一の解決案は、自己保存で、これまで通りの権威を認め、なじみのない改革で制度をぐらつかせないことが重要だった。それでも、人々は、財産格差、低い賃金、過酷な住居環境、必要品の欠如などに怒りを募らせていた。大国の自己欺瞞と自己隔離の体質は、国家利害に応えることはなかった。大国は世界から離れ、人類が築いた体験の蓄積から学ばず、別の国や制度で出現した疾病には、関心がなく、自分は感染しないと考えた。そして、現実が必然になる事態がやってくると、すべてがバラバラに四散し始めた。ソ連の場合、改革は、当時存在した国家と共に生きることが無理だとの結論だった。すべての国は、遅かれ早かれ、その終わりを体験する。われわれは、どれだけ、ここに留まるべきなのか?」――だった。

日本にとっても検討に値する内容

 ルキヤノフ氏は、キング教授がアマルリク論文を読み返しながら、過去に例のない米国内分裂の時代を見つめ、ソ連社会で起きた宿命的崩壊の情景を思いめぐらし、「もはや、(米国を)変化させるのは遅いのではないか」と米国没落論を展開したと主張した。
 ルキヤノフ氏は、今回の米大統領選で、どのような結果になろうとも、米露関係が良くなるということはないという。そして、米国のグローバルな覇権体制からの退却が始まるが、それは、トランプ大統領のせいではなく、世界の勢力配置図の変化によるもので、ロシアにとっては、どのような配置になるのか、理解していくことが重要になってくると分析する。
 また、現在、ロシアを席巻している「米国中心主義」の政策論から脱却し、基本的な問題に集中すべきで、米国の家主が誰になるのかというような名前の問題ではないという。
 果たして、米国の崩壊が、本当に始まったのか?また、2024年までに米国は崩壊するのか?多分、そんな現実は、時期尚早だと思う。
 しかし、「大国内部にいる者は気づかない」というアマルリクの警告は、頭に入れて置いた方がいいかもしれない。
 そして、「米国中心主義」からの脱却という問題提起は、日本も十分に検討に値する話だと思う。ロシアの外交官は、日露両国は、国際社会の中では、よく似た場所にいると語ることが多い。覇権主義のトップにいるわけではないが、そのせめぎ合いから抜け出た訳でもないという指摘でもある。
 さて、2024年には、何が起きるのだろうか?ちなみに、ロシアのプーチン大統領は、2024年に、一応、任期が切れることになっている。

石郷岡 建 ジャーナリスト
著者プロフィール
1947年生まれ。モスクワ大学物理学部天文学科卒業。毎日新聞社入社、中東特派員(カイロ)、アフリカ特派員(ハラレ)、東欧特派員(ウィーン)、ソ連・ロシア特派員(モスクワ、2回勤務)、特別編集委員(論説室兼務)などを経て、日本大学総合科学研究所教授、日本大学国際関係学部兼担教授、麗澤大学非常勤講師を務めた。著書は『さまざまなアフリカ』、『ルポ・ロシア最前線』、『ソ連崩壊1991』(アジア太平洋賞)、『ユーラシアの地政学』、『北方領土の基礎知識』など。

関連記事