国連海洋会議から生まれた海洋行動コミュニティに注目

国連海洋会議から生まれた海洋行動コミュニティに注目

2018年7月4日
21世紀のグローバルな取組みの進展

 近代国家を構成要素とする国際社会は、20世紀後半に、経済、環境、科学技術等の分野を先頭にしてグローバル化が進んだが、21世紀に入ると、20世紀末にスタートした「環境保全及び持続可能な開発」を目標とするグローバルな取組みの進展が目覚ましい。
 その代表的なものが、「国連持続可能な開発サミット2015」での17の「持続可能な開発目標(SDGs)」を掲げる「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の採択とそれを実施するための取組みの進展である。

国連海洋会議の成果とその後の取組みの進展

 その中で昨年6月には、地球表面の7割をカバーする海洋について、「持続可能な開発目標(SDG14:海洋と海洋資源の保全と持続可能な利用」(以下、SDG14)」の実施を推進するためのハイレベルの「国連海洋会議(The UN Ocean Conference)」が、各国政府、国連システム及びその他の国際組織、NGO、アカデミア、科学コミュニティ、民間セクターから4000人以上が参加して国連本部で開催された。
 国連海洋会議は、「我らの海、我らの未来:行動の要請(Call for Action)」採択、7つの「パートナーシップ対話」開催・共同議長サマリー発表、参加した各国及び様々な組織・団体等がSDG14実施に関する「自発的約束(Voluntary Commitment)」を1400以上提出など、大きな成果を挙げ、SDG14 実施の取組みが大きく動き出している。
 昨年6月以降のSDG14の実施に関する重要な進展をみていくと、
 ①国連事務総長、SDG14の実施を推進するため前国連総会議長ピーター・トムソン氏を海洋特命全権公使に任命。
 ②国連、上記のSDG14実施の「自発的約束」をフォローアップするとともに、新たな「自発的約束」を引き出すため、9つの「海洋行動コミュニティ(Communities of Ocean Action: COA)」を新設。
 ③国連総会、「持続可能な開発のための海洋科学の10年(20212030)」を宣言。
 ④国連総会、国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)の保全と持続可能な利用に関する国連海洋法条約の下での国際的に法的拘束力のある文書作成に関する政府間会議招集を決定。
 等があげられる。

「自発的約束」をフォローし、支援する海洋行動コミュニティ

 中でも注目したいのが、各国政府、国連システム及びその他の国際組織、NGO、アカデミア、科学コミュニティ、民間セクターから提出されたSDG14のターゲット達成に向けた「自発的約束」の取組みをフォローアップするとともに、新たな「自発的約束」を引き出すために立ち上げられた9つの「海洋行動コミュニティ(Communities of Ocean Action: COA)」の活動である。
 立ち上げられた「海洋行動コミュニティ(以下、COA)」は、次の9つである。
 ①サンゴ礁、②国連海洋法条約に示されている国際法の実施、③マングローブ、④海洋・沿岸生態系管理、⑤海洋汚染、⑥海洋酸性化、⑦科学的知識、研究能力開発、海洋技術移転、⑧持続可能なブルーエコノミー、⑨持続可能な漁業
 各「COA」には、国連本部や国連専門機関等、条約事務局、国際NGOなどのトップ又はトップクラスの著名人がフォーカル・ポイントとして指名されてコーディネーターを務めていて、国連事務総長の海洋特命全権公使ピーター・トムソン氏及び国連経済社会部と協働して活動を進めている。このことからも、国連が総力を挙げてSDG14の実施のために取り組んでいることが見えてくる。

国連が主導する新しいグロ-バリゼーションと日本

 この国連が立ち上げたCOAは、世界のさまざまな組織・団体・個人が、「海洋環境の保全と持続可能な開発」という共通の目標達成のために自分ができること・やりたいことを「自発的約束」として登録したのを受けて、それらの取組みを励まし、同じ目的を共有する人々が互いに連携協働して取り組んでいくコミュニティを立ち上げて見える化する、というこれまでにないユニークな国際的仕組みである。国連が主導する新しいグローバリゼーションの動きとして注目される。
 日本では、まだこのCOAの活動はあまり一般には注目されていないが、国際組織、NGO、アカデミア、科学コミュニティ、民間セクターなど様々なセクターが自発的に参加して連携協働していくCOAの活動は、21世紀のグローバリゼーション進展の一つの方向を示しているように思われる。海洋国日本の我々もそれに積極的に参加していくことを考えるべきではないだろうか。
 SDG14に関心を持つ皆さんに、下記の国連のCOAウェブページでその活動を覗いてみることをお奨めしたい。

https://oceanconference.un.org/coa

政策オピニオン
寺島 紘士 笹川平和財団参与
著者プロフィール
1965年、東京大学法学部卒業、運輸省入省。30年の勤務の中で、旅客船、離島航路、フェリー、外航海運、内航海運、海上安全、油濁問題、港湾、物流、海洋調査、海洋情報、海上保安などの業務に関わり、大臣官房審議官のとき「海の日」の祝日化に取り組む。1994年、日本財団((財)日本船舶振興会)常務理事、海洋・船舶事業を担当。2002年シップ・アンド・オーシャン財団海洋政策研究所所長、2005年海洋政策研究財団常務理事。2015年4月、海洋政策研究財団と笹川平和財団の合併後、笹川平和財団常務理事・海洋政策研究所長を経て、現在、笹川平和財団参与。また海洋基本法戦略研究会事務局長、日本海洋政策学会副会長、日本海事科学振興財団評議員会議長、神戸大学経営協会委員を兼務。

関連記事

  • 2017年10月11日 グローバルイシュー・平和構築

    持続可能な未来に向けた日本の進路 ―エネルギー・環境イノベーションの創出―

  • 2019年2月18日 グローバルイシュー・平和構築

    生物多様性の保全と持続可能な水産資源利用 ―BBNJ交渉の課題と展望―

  • 2018年5月23日 グローバルイシュー・平和構築

    海の環境危機と持続可能な海洋利用 ―資源・エネルギー・食糧―

  • 2019年8月20日 グローバルイシュー・平和構築

    深層海洋大循環と気候変動 ―未だ解明されない深海の謎―

  • 2016年9月26日 政策オピニオン

    海洋における生物資源管理・環境保全の国際協力 ―東アジアと南極海の事例を踏まえて―

  • 2019年11月27日 グローバルイシュー・平和構築

    物質循環と気候変動による人間社会への影響 ―環境・資源と将来の地球―