出向いて届ける訪問型支援
児童虐待家庭の子供の9割は家庭で養育される。虐待予防においては、子育て困難家庭を支援する地域の見守りと訪問型家庭支援が重要な役割を持つ。
厚労省の事業では2004年に養育支援訪問事業、07年から乳児家庭全戸訪問事業が始まった。養育支援訪問事業は、若年妊娠、妊婦健診未受診、心身の障害を抱える子育て困難家庭、虐待リスク家庭など、子育て困難家庭を対象に保健師やソーシャルワーカー(SW)やカウンセラーといった専門家やホームヘルパーが訪問・支援する。乳児家庭全戸訪問事業は、ほぼ全市町村で実施されている。
一方、文科省の事業では、06年改正教育基本法に家庭教育支援が明記されたことを受け、08年から「家庭教育支援チーム」による訪問型支援の取り組みが始まった。17年度時点で全国721カ所に拡大した。
千葉県野田市の女児虐待死事件のような最悪の事態を繰り返さないために、教育と福祉部門の関係機関の連携が求められる。2019年2月15日に行われた文科省と厚労省の合同作業チームの初会合では、改めてこの点が確認された。
教育と福祉の関係機関の連携
同年2月12日に開かれた文科省による「全国家庭教育支援研究協議会」の活動報告会でも、「教育と福祉との連携」が主要テーマとなった。活動報告から、いくつかの事例を紹介してみたい。
大阪府立大学の山野則子教授が関わった、大阪府大東市の取り組みは先駆的なモデル事例である。特徴はまず課題から逆算した組織化を行ったことである。従来の縦割り行政を解消し、生涯学習部門、福祉・医療部門を巻き込んだ一体的な実施体制のなかで、機能的な支援が可能になった。
もうひとつは市民サポーター157人を動員し、小1の全家庭訪問を実施。そこから対象を絞り込み、福祉部門と連携することで子育て困難家庭に限定した訪問支援につなげている。
さらに2018年8月、妊娠期から18歳くらいまでの子育てに関する情報相談窓口を一本化、教育・福祉・保健部局が連携した子育て世代包括支援センター「ネウボラだいとう」を開設した。ネウボラにはスクールソーシャルワーカー(SSW)を常時1名配置。保健師、保育士等が同席することで密な連携と相談対応が可能になった。
個人情報の共有化をどう図るか
大阪府能勢町では要保護児童対策地域協議会(要対協)中心の福祉が主体となり、教育委員会と家庭教育支援事業に取り組む「福祉・教育連携プラットフォーム」を整備した。
年長児(5歳児)及び小1〜3年生に年3回、家庭訪問し、その中から気になる家庭を福祉部局の養育支援訪問や児童家庭相談等につなげる。あるいは教育委員会や学校と連携し、早期に個別対応することで、様々な家庭の問題を改善している。
個人情報の共有については、専門家が参加する要対協の実務者会議と家庭教育支援員が参加する現場会議という二重構造にすることで、情報共有の区別化を図っている。また大東市では個人情報の取り扱いに関する特例の答申に例外事項を規定した。
「睡眠教育」で不登校を改善へ
山口県岩国市は、コミュニティスクールのメリットを生かし、地域人材をうまく活用し、不登校児童・生徒の家庭訪問など、学校と一体となって取り組んでいる。不登校や登校しぶりが改善されたほか、学校の教職員の多忙感の緩和につながっている。
また大阪府堺市は不登校生徒の心身の不調を改善するために「みんいく」(睡眠教育)に取り組み、ある中学校では0時以降の就寝割合が中1で3分の1弱減り、結果的に不登校生徒数が2年間で3分の1強に減少した。学習面でも授業中の集中力や自己肯定感が高まるなど、成果が生まれている。
地域人材の活用と育成がカギ
スクリーニングを活用した「チーム学校」作りに取り組む山野教授は、縦と横の「つなぎびと」として、SW、支援員の役割は大きいという。
山野教授によると、ある圏域全体をみると、児童相談所等の専門機関につながるのは1%、福祉的な支援・保護が必要な家庭が約10%〜15%とすれば、その下にいる約30%の家庭に予防・支援をすることによって、結果的に福祉的な要保護家庭を減らすことにつながるという。つまり、各機関、各専門家、現場の支援員等が各々把握している情報を一元化する仕組みができれば、問題の早期発見、早期対応につなげることができる。
ただ事業を継続し、成果につなげていくには、予算と人材が必要である。ところが年間予算200万円程度の自治体が大半である。
精神科医の原田正文氏は、現在の公的子育て支援に最も欠けているのは、「親と親、市民と市民をつなげようという姿勢、そして親や市民を主体にし、支援職は黒子に徹し支えていこうという視線である」(『子育て支援とNPO』朱鷺書房)と指摘している。
家庭に関わる問題は行政と専門家だけでは限界がある。地域人材を拾い上げ、地域課題を地域で解決する担い手をどう育てていくか。訪問型支援を推進し、定着させていくカギと言えよう。
(初出:EN-ICHI 2019年2月号)