パラダイムシフト図る韓国少子化対策

パラダイムシフト図る韓国少子化対策

2020年2月13日
家庭基盤充実

出産適齢層の生活の質、向上を後押し

 文在寅大統領を委員長とする「少子高齢化委員会」は昨年末、文政権発足後、初めてとなる少子高齢化対策のロードマップを発表した。
 韓国女性家族省によると、その趣旨はまず第一に従来の出産奨励政策から脱却し、20代から40代の出産適齢層を中心とする生活の質の向上を後押しする政策にパラダイムシフトを図るというものだ。
 趣旨の第二は既存の総花的な対応への批判を受け、現在進行中の第3次少子高齢化社会対策基本計画(2016~20年)を核心課題中心に再整備し、同委で集中的に推進する課題を提示するというもの。そして第三に第4次基本計画(21~25年)に連携させられるよう中長期的課題まで含めるというものだ。
 文政権は保守系の朴槿恵・李明博両政権を「積弊」と位置付け、その否定と清算を国政課題の最優先に掲げてきたため、少子化対策のパラダイムシフトもそうした政治的思惑と無関係ではないとの見方もある。
 ただ、韓国の年間の出生児数と合計特殊出生率(15歳から49歳までの女性の年齢別出産率の平均値)は15年以降、低下し続けているのも事実。特に昨年の出生児数約32万7千人、出生率0・98はいずれも過去最低で、従来の少子化対策では歯止めが掛からないことが明白になっており、対策を急がざるを得ない事情にある。

出産・子育て費用の負担軽減策

 それではロードマップに盛り込まれた重点課題とは何か紹介しよう。
 まず出産・子育て費用の負担軽減。昨年基準で韓国の乳幼児1人当たりにかかる月平均の出費は約66万ウォン(約6万5千円)で、これが出産をするか否かを決める際の障害要因として作用してきたという。
 このためまず児童手当を来年までに6歳未満児全員に支給するよう拡充し、医療費の個人負担を来年までに1歳未満児で事実上無料とし、全体でも現行の21~42%負担を5~20%に軽減させる。
 また妊娠後に銀行やカード会社から発給を受けられる「国民幸福カード」の入金額を現在の50万ウォン(約4万6千円)から60万ウォン(約5万5千円)に引き上げる。同カードは出産に伴う診療費や健診費、入院費などの支払いに使うことができるものだ。
 一人っ子が多い現状を踏まえた政策としては、子供3人以上の世帯に対する支援を、25年までに子供2人以上の世帯にまで拡大する方針だという。
 さらに国民年金の加入期間を子供の数によって加算する制度をさらに充実させる。現行では2人目出産で12カ月加算、3人目以降は1人当たり18カ月加算(最大50カ月)するものを1人目から支援する方向で検討中だ。

男女平等の子育てキャンペーンを計画

 次に男女平等の職場と家庭を実現させるため来年から全国的なキャンペーン「男女平等の子育てに優しいわが職場(仮称)」を展開する計画だ。その具体的中身は勤労時間短縮、勤労者の休職保障、男性の育児参加拡大、職場と家庭のバランスを取る企業文化の拡散、育児休職制度の改善などだ。
 このうち勤労時間短縮では、妊娠・育児期の産休・育休を現行の妊娠初期(12週以内)および末期(36週以降)から妊娠の全期間に拡大する。これまでも産休・育休制度はあったが、所得減少や社内の理解不足などで制度活用が十分に行われなかったため、キャンペーンを通じて賃金支援や社内の理解促進を定着させたい考えだ。
 また男性の育児参加拡大では、配偶者の産休を現行の有給3日から10日に拡大したり、中小企業や専門職など育休を取りづらい職場ではケースバイケースの補完策を準備し、男性の育児参加が当たり前という認識を広げたいとしている。これらを通じて育児休職者に占める男性の比率を17年の13%から22年には20%以上に引き上げたい考えだという。
 ロードマップには就学前児童を対象にした保育の拡充策も盛り込まれている。
 国公立の保育園・幼稚園を1000学級増やし、全児童の40%がこうした国公立施設を利用するように誘導し、保護者の教育費負担を減らしたい考えだ。学級増設に向けては500世帯以上のマンション建設を認可する際、こうした国公立施設の設置を義務化する。
 職場内保育園の設置義務では、これまで従業員500人以上の基準を300人以上に拡大することで、職場内保育園を有する企業が2千社増える見通しを示している。
 一方、「全ての新生児が尊重される包容力のある社会」をキャッチフレーズに出生届時の嫡出子と非嫡出子の区別廃止や匿名による出生届を認める「保護出産制(仮称)」の導入などを目指しており、国内保守派の反発も予想される。

競争社会の課題に向き合う必要も

 これまで韓国では少子化対策が声高に叫ばれ、多くの予算が投じられてきたが、費用対効果を疑問視する声も根強かった。文政権が試みるパラダイムシフトはそうした矛盾を解消するいい機会になるとみられる。
 ただ、少子化の原因には法外な教育費に対する経済的負担だけでなく、過度な競争社会におけるストレスなどで本来、抱いてきた家庭や人生の幸せに希望を抱きづらくなってきた韓国社会全体が抱える問題が影響していると専門家は指摘する。文政権が発表した少子化対策のロードマップが功を奏するためには、こうした課題にも向き合う必要がありそうだ。

コラム
日本以上に猛スピードで少子化が進む韓国。文在寅政権はこれまでの総花的対応を見直し、単なる出産奨励から生活の質向上に重点を移すパラダイムシフトを図ると宣言している。以下にその中身を紹介する。 ソウル在住ジャーナリスト 一藤木充誠

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