家族機能の回復に向けた家族支援を考える ―子供の養育環境改善に向けての課題―

家族機能の回復に向けた家族支援を考える ―子供の養育環境改善に向けての課題―

2020年2月13日
家庭基盤充実

児童虐待の背景に家族の構造的問題

 子供の養育環境について考える時、最も憂慮される問題の一つが児童虐待である。
 児童虐待への対策として、国は昨年、児童相談所の体制を強化するため児童福祉司など専門職の増員を打ち出した。具体的には2022年度までに児童福祉司2020人、児童心理司790人を増員する。そして児童福祉司の配置基準を4万人に1人から3万人に1人に引き上げ、児童相談所職員1人当たりの担当件数を平均50件から40件に減らすというものである。
 ただ、昨年の時点で3000人余りだった児童福祉司を3年程度で増員することは困難との見方も出ている。また、虐待の業務に精通する専門性を持つには10年かかると言われており、質をどう保つかが課題となっている。
 一方、虐待増加の要因として指摘されるのが、家族機能の低下である。過去数十年間、わが国では「小家族化」が進行するとともに、家庭と学校、地域社会との結びつきが薄れ、家族の孤立化と言える事態が進行した。その結果、家族が本来持っていた「高齢者や子供、病人や弱者の保護機能」「子供を育てあげる養育機能」「宗教的機能」などが低下した。厚生労働省の専門家委員会は、虐待の背景にはその家族が抱える複合的問題があり、家族全体へのアセスメントが必要であると指摘している。例えば、一昨年に東京目黒区で起きた5歳女児の虐待死事件などに見られるように夫婦関係に問題を抱えるケースも少なくない。
 つまり、虐待を予防し、子供たちの養育環境を改善するためには、家庭が本来持っている機能を果たせるよう、行政や地域社会による家族支援を進めることが重要である。

 

家庭的環境で養育

 家庭が持つ機能を子供の発達という視点から考えれば、子供が育つ十分な生活環境を保障するということになる。特に乳幼児期は特定の養育者(多くの場合は母親)との愛情関係で愛着(アタッチメント)が形成され、それによって基本的信頼関係や自律性、共感性などが発達する。そのため児童福祉法でも家庭養育の原則が明記されている。
 この点について児童の権利条約も、「児童がその人格の完全なかつ調和のとれた発達のため、家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべきであることを認め…」(前文)、「児童は…できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する」(第7条)と記している。いわば「子供が家庭で育つ権利」である。そのために家族に対して必要な保護と援助が与えられるべきだと述べている。
 こうしたことからも、良好な家庭環境、養育環境を保証することができるよう、行政には家族支援を推進し、子育ての質を向上させる施策が求められる。

 

行政による訪問型家族支援

 実際に家族支援としてこれまで行政で行われてきたのは、例えば厚生労働省の「乳児家庭全戸訪問事業」(こんにちは赤ちゃん事業)や「養育支援訪問事業」、文科省の「訪問型家庭教育支援事業」がある。「乳児家庭全戸訪問事業」は生後4カ月までの乳児がいる全ての家庭を訪問する事業で、子育て支援の情報を提供しながら、問題を抱えた母子を関係機関につなぐ。総務省の施策評価で虐待発生予防策として有効性が認められている。
 課題としては、一家庭への訪問回数が平均3回程度と限られることや、訪問する支援者の質を担保する研修の充実などが指摘されている。

 

家族機能強化のために

 家族支援の強化には、まず専門的な人材の確保、養成が必要である。児童福祉司の増員を進める場合も、新たに配属される職員を現場で指導する経験豊富な人材が少ない。子供家庭福祉の分野を総合的にコーディネートできる指導的な人材を併せて養成しなければならない。
 そのためには、大学の専門課程で子供や家庭、虐待対応などを学ぶ時間を増やす必要がある。
 また、家族機能低下の背景として、家族関係、あるいは夫婦関係に問題を抱えている場合も少なくない。例えば子供の問題では、母親だけの責任ではなく、夫婦関係の問題を認識する必要があるという専門家の指摘もある。
 家庭が果たしてきた機能を取り戻していくために、家族の関係性、特に夫婦関係への働きかけが課題となる。欧米では、離婚が全ての解決にならないという考え方が一般的になり、婚姻関係を維持することに焦点があてられるようになった。夫婦関係を修復する手法も開発されている。このように夫婦関係を含め、家族関係の改善を支援できる家族療法の専門家の養成が重要である。
 夫婦関係の改善という点では、近年、育児に関わる父親が増えているが、夫が育児に積極的に関わったり、夫婦が一緒に過ごす時間が長かったり、休日の会話が多いほど、夫婦関係の満足度が高まり、出産の意欲も高まるという研究がある。父親が子育てに関わることで母親の育児ストレスを緩和し、夫婦の良好な関係を築くことにつながるわけである。
 また、友田明美・福井大学教授によると、女性は出産によって脳に劇的な変化が起き(養育脳)、記憶力や学習能力の向上など子育てに必要な能力が高まっていく。こうした脳の変化は男性にも起こり得るもので、青少年期の男女に乳幼児と触れ合う体験を繰り返すことで親になる準備ができるという。青少年の人生設計に関わる教育を進めることも、大きな意味での家族支援となるだろう。

政策オピニオン
急速に進む少子化は日本社会の大きな政策課題だ。一方で、生まれてきた子供たちの養育環境を改善していくことも重要な課題である。

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