出生率が下がり始めたフランスの最新事情 ―出産年代の女性減少、移民2世も少産の傾向―

出生率が下がり始めたフランスの最新事情 ―出産年代の女性減少、移民2世も少産の傾向―

2020年5月20日

出生率の低下が続くのか

 国立統計経済研究所(INSEE)の統計では、フランスの2017年の女性1人当たりの合計特殊出生率は1,88人で、2015年以降3年連続で低下している。2014年以前は2人以上だったことから、3年連続の低下は注目されがちだが、欧州連合(EU)内では、アイルランドを抑え、依然優等生だ。
 2017年にフランスで生まれた子供の数は76万7000人で、2016年に比べ、1万7000人減少した。その2016年も出生率では2015年の1.96人から1.92人に減少。フランスの出生率は2014年をピークに下がり続けている。
 注目点は、この減少傾向が今後、長期化するのか、それとも一時的なのかということだ。INSEEは出生率低下の要因の一つに、フランス人の出産・育児年代に当たる女性の減少を挙げている。つまり、1945年から1964年のベビーブームに生まれた女性が出産年齢を過ぎる一方、1990年代以降、20歳から40歳の女性の数が減少している現実があるということだ。
 2000年以降、25歳から29歳で子供を産む女性の数は減少しており、2015年以降、さらに減少が加速しているとINSEEは指摘している。実際、フランスの女性が出産する平均年齢は30.6歳で、10年前の29.8歳から初産の高年齢化が進んでおり、女性の出産の年齢幅が狭められている。
 産む側の女性の事情でいえば、フランスの高い出生率を支えてきた移民家庭の2世、3世の女性たちが、1世よりも子供を産まない傾向が強まっていることも影響している。フランス生まれの18歳から30歳までの移民2世の約5割の親がアフリカ系で、子だくさんのイスラム教徒は480万人もいる。
 仏国立人口統計研究所(INED)によれば、フランスの小学生への聞き取り調査で、アルジェリア系移民家庭の子供の平均兄弟数(自身を含む)は、2008年時点で4.5人と白人フランス人家庭より圧倒的に多かった。ところが2世、3世の女性は子供を産まないか、少なく産む傾向が強まり、出生率低下に影響を与えている。
 実際、白人夫婦の場合は、事実婚など多様な形態の夫婦の婚外子が社会保障上、法律婚と変わらない扱いを受けていることで、出生率を支えている。一方、移民家庭の高い出生率がなければ、フランスは出生率で優等生ではいられない現実もある。

出生率と経済の関係

 もう一つの減少の要因は、オランド前政権時代、子供手当の減額や受給条件の厳格化などで、以前より子育てに経済負担が掛かるようになったことだ。フランスが高出生率を保ってきたのは、きめ細やかな手厚い社会保障制度、低い育児費用、大学まで無料の教育費が後押ししていたが、海外留学が増え、教育費は増大している。
 実はINSEEも出生率と国の経済状況は影響し合っていることを認めている。2008年のリーマンショックやギリシャの財政危機などで緊縮財政を迫られる中、公共支出予算は厳しさを増し、その影響も指摘されている。
 フランスは2012年以降、家族に対する公共支出を減らしており、育児スペースも当初の計画では、全国に27万5000カ所増設される予定だったのが、5万カ所にも達していない。原因の一つは政府が地方自治体に給付する助成金が減らされ、自治体自体も雇用創出など他のプロジェクトが優先され、先送りされてきた影響が今出始めているという。
 パリ大学ソルボンヌ校の人口学者、ジェラール・フランソワ・デュモン教授は、「40年間、出生率の変化は家族に関する政府の政策に連動している」と指摘し、出生率は政府が投資した額に比例していると断言している。無論、政府による過剰な家族支援の効果に疑問を投げかける専門家はいて、出生率の増減の原因を探るのは難しい。

無視できない結婚観と家族観

 たとえば、ドイツ連邦統計局によれば、2016年のドイツの出生数は79万2131人で、前年比7%増とフランスとは逆の曲線を描いている。出生率も前年の1.50人から1.59人に上昇し、この43年間で最高の数字となっている。
 フランスと大差ない家族手当の支給効果がようやく実を結んだという分析もあれば、この数年で100万人の移民・難民を受け入れた影響も指摘されている。実際、統計的にも移民系女性の生んだ子供の数は、白人ドイツ女性の子供の数を圧倒している。
 確かにドイツは好況感があり、経済的安定は他のEU諸国を頭一つ飛び出している。しかし、白人ドイツ人女性の出生数が3%程度の上昇に止まっている事実をみれば、簡単に経済だけでは語れず、彼らの結婚観、家族観など考え方の影響は無視できない。
 人口の安定には、女性1人当たり出生率2.07人が必要と言われるが、出生率上昇中のドイツも目標には遠い。移民政策のある欧州諸国では、移民した国で生まれた2世以降は、移民とは見なされない。そんな彼らに助けられてもなお、人口減少をくい止めるには至っていない。

(初出:EN-ICHI2018年12月号)

政策コラム
西洋先進国では、アイルランドと並び突出した高い出生率を誇ったフランスで、生まれる子供の数が下降線を辿り始めている。少子化対策のお手本のように言われ、実際に成果を出してきたフランスでいったい何が起きているのか。在仏ジャーナリスト 辰本雅哉

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