親教育に見る養育力向上の可能性

親教育に見る養育力向上の可能性

2019年9月19日

 近年、発達障害と診断される子供や、感情をコントロールできずに学校で暴れてしまう子供が増えている。その背景には子供をうまく養育できない親の存在があり、親たち自身も苦しんでいる。世界には、そのような親たちに適切な養育方法を教える親教育(parenting education)の効果を伝える研究がある。

スペインの養育支援プログラム

 オビエド大学(スペイン)のラクエル・アマヤ=マルティネズ・ゴンザレス(Raquel-Amaya Martinez-Gonzalez)氏らはスペインのアストゥリアス地方で行われている養育支援プログラムの効果を伝えている。アストゥリアス地方では、地方政府の支援を受けて「感情・教育・養育能力を開発するためのプログラムガイド」(Program-Guide to Develop Emotional, Educational and Parenting Competences:以下、『プログラムガイド』)という0歳から18歳の子供を持つ親を対象とした養育支援プログラムを実施している。少人数のグループでのディスカッションなど、「協調学習」を取り入れ、自主的な気づきを重視した構成となっている。マルティネズ氏らは『プログラムガイド』によって親たちがどのような恩恵を受けているか調査した。

養育能力の要素

 マルティネズ氏らによれば、『プログラムガイド』は親の養育能力を六つに分類して養成する。①子供の発達段階と生活環境に応じて、その子供の性格的・行動的特徴を把握できること、②感情の自己制御能力、③自己肯定感と自己主張の力、④コミュニケーション方法、⑤対立と交渉を解決する方法、⑥肯定的なしつけを促進するための子供と共通の規範、制限、結果を構築するための方法の六つである。この六つの分類のうち、②~⑤の五つに関係する指標を用いて親が自分の養育能力に対して持つ評価に関するアンケート調査が行われた。

子供への接し方と養育への自信

 調査の結果、五つの養育能力すべてにおいて、親たちが自分の養育能力に関する認識を前向きに変化させたことがわかった。マルティネズ氏らによれば、②の感情の自己制御能力について「親たちは感情の自己制御能力を著しく高め、子供に本当は言いたくないことを叫んでしまう頻度を減らすことができた」という。
 ③の自己肯定感については「子供が思い通りにならなくても肯定的な面を見る姿勢が発達した」と述べた。そして、この態度が「罪悪感をコントロールすることを可能にし」、「親としての役割を果たす時に自信をもって主張できるようにした」という。
 ④のコミュニケーション能力も向上した。「親たちは以前より相手を傷つけずに他者や子供にものを言う方法を知っている」。
 ⑤の対立解決方法についても、親たちからは「ずっとうまく他者や子供と合意に至ることができるようになったと報告があった」。
 最後に、子供と共通の規範、制限、結果を共有する、つまり親も子供に言いつけたことを守ることによる大きな進展があった。「子供たちに忍耐と不満の自己コントロールを学ばせ」たり、「間違った行動や責任感に欠けた行動をとるとどうなるかを教え」ることができるようになったという。
 このように、マルティネズ氏らの研究では、『プログラムガイド』によって親の行動が変わり、その結果子供に前向きなしつけができるようなったという報告が寄せられている。

正しい知識へのニーズ

 初めて親になる人々を対象にした親教育のニーズを探る研究も存在する。マニトバ大学(カナダ)のクリスティーン・アティア(Christine Ateah)氏はもうすぐ親になる人々が乳幼児の安全確保のための信頼できる知識を求めていると述べる。
 アティア氏はカナダ中西部の都市で公衆衛生分野の看護師による親教育のパイロット・プロジェクトを行った。プロジェクトでは乳幼児にとって安全な睡眠環境、乳幼児揺さぶられ症候群、体罰の危険性とポジティブ・ペアレンティング、予期される発達と安全上の考慮事項などについて知識が提供された。これらの知識について、参加者からは「この情報の半分以下しか知らなくて反対のことを実践している人を知っている」、「第一子の出産を控えた親が広く利用できるようにすべきで、直接本人にプレゼンするのが一番よい共有方法だ」などの感想が聞かれたという。
 また、アティア氏の研究では、乳幼児の世話や安全確保に関して、信頼できる情報源へのアクセスが意外と少ないことも指摘されている。参加者にプロジェクト以外で同様の知識を得た場合の源を聞いたところ、「家族・友人が54.7%、養育に関する書籍が52.2%、ヘルスケアの専門家が46.5%、パンフレットが30.9%、テレビが30.9%、雑誌が31.6%、ポスターが8.4%」となった。一方、情報源として認識している人の割合が最も多い「家族・友人は必ずしも最新の情報を持っているわけでは」なく、ヘルスケアの専門家の割合も高くない。そのため、プロジェクトを通して乳幼児の安全について学ぶニーズは高いと推測されている。

 以上のように、世界には親教育によって前向きな養育や乳幼児の安全に関する知識の習得が可能とする研究がある。親は適切な技術と知識を備えることで余裕をもって子供と向き合うことができ、養育能力を向上させられる可能性が高い。

参考文献)
Ateah, C. A. (2013) Prenatal parent education for first-time expectant parents: “Making it through labor is just the beginning”. Journal of Pediatric Health Care, vol.27, No.2, pp.91-97.

Martinez-Gonzalez, R-A, Rodoriguez-Ruiz, B., Alvarez-Blanco, L. and Becedoniz-Vazquez, C. (2016) Evidence in promoting positive parenting through the Program-Guide to develop emotional competences. Psychosocial Intervention, vol.25, pp.111-117.

政策コラム
親たちに適切な子供の養育方法を教える親教育。その効果について海外で行われている研究を紹介する。編集部

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