夫婦・パートナー関係の変動による悪影響
2000年以降、アメリカでは同棲関係のまま子供を育てるカップルが増加している。米国疾病予防管理センター(CDC)によれば、同棲関係にある人の割合は2011~2015年の期間には男性で13.9%、女性で14.7%となっている。子供にとってどのような環境で成長することが望ましいのであろうか。
(Nugent&Daugherty(2018))
親の夫婦・パートナー関係が変動するほど、子供の情緒的健康には深刻な影響が及ぶ。コロラド大学のポーラ・フォンビー(Paula Fomby)氏とテキサス大学のシンシア・オスボーン(Cynthia Osborne)氏は、実母と暮らす子供を対象に、喧嘩・窃盗・器物破損といった問題行動について研究を行った。フォンビー氏らは「Fragile Families and Child Wellbeing Study(脆弱な家庭と子供の幸福についての調査)」という追跡調査を用いて子供の実母に結婚・離婚、同棲の開始・解消があるかを調べた。その上で、子供の問題行動を点数化し、実母の夫婦・パートナー関係の変動と比較した。
フォンビー氏らによれば、母親が未婚(同棲を含む)の場合、「3回以上パートナー関係の変動を経験した子供は、両親が定着している未婚家庭の子供に比べて、母親が報告する問題行動スコアが18%高く、教師が報告する問題行動スコアが29%高い」と述べる。また、母親が離婚や同棲の解消を経て結婚した場合でも「1回あるいは3回以上の家族構成の変化を経験することは問題行動の発生と関係している」という。
さらに「母親が未婚で子供の実父以外に2人以上の男性と新たな子供をもうけた場合」、元々いた子供は「母親が報告する問題行動スコアが22%増加し、子供自身が報告する非行行動が44%増加」するという。夫婦・パートナー関係の変動が子供に与える負の影響という観点からは、親が結婚していても深刻さは変わらない。
婚姻関係のほうが安定性が高い
しかし、関係の継続性・親の家庭への定着度という観点からは同棲関係の不安定さが浮き彫りになる。フォンビー氏らが研究に用いたデータに含まれる子供のうち、「結婚している母親の子供は、60%近くが実母と実父のいる安定した家庭で暮らしているが、母親が未婚の場合、安定した家庭で暮らす子供は13%のみである」。逆に、「母親が未婚の場合、半数近くの子供の母親は複数のパートナー遍歴を持ち、同時に複数人と子供を儲けている。母親が結婚している場合は12%のみである」。
(Fomby & Osborne(2016))
また、ボーリング・グリーン州立大学の特別教授(Distinguished Professor)であるウェンディ・マニング(Wendy Manning)氏によれば、「同棲関係が継続するのは平均18カ月程度」に過ぎない。他にも「同棲関係にある両親の子供は、婚姻関係にある両親の子供の3倍近い頻度で家族構成の変化(結婚・離婚、同棲関係の形成・解消)を経験する」という。さらに「同棲関係の両親の子供で、12歳まで安定した家庭環境で過ごせる子供は10人中3人に過ぎない。これに対して、婚姻関係にある両親の子供の場合は4人中3人である」という。婚姻関係のほうが子供に悪影響を及ぼす夫婦・パートナー関係の解消が起こりにくく、子供が親の複数のパートナー遍歴を経験する可能性が低いと言えよう。
(Manning(2015))
参考文献)
Fomby, P. and Osborne, C. (2017) Family instability, multipartner fertility, and behavior in middle childhood. Journal of marriage and family, vol.79, no.1, pp.75-93.
Jarnkivist, K. (2019) Children and marriage: Investigating the importance of context for meaning-making of first-time marriage. Marriage and family review, vol.55, no.1, pp.38-58.
Manning, W. D. (2015) Cohabitation and child wellbeing. The future of children, vol.25, no.2, pp51-66.
Nugent, C. N. and Daugherty, J. (2018) A demographic, attitudinal, and behavioral profile of cohabiting adults in the United States, 2011-2015. Center for disease control and prevention.