家庭教育支援条例・支援法がなぜ必要なのか ―子供の健全な発達を保障するための支援―

家庭教育支援条例・支援法がなぜ必要なのか ―子供の健全な発達を保障するための支援―

2020年5月20日

家庭教育の第一義的責任は父母

 社会全体で子育て家庭を支えていく支援体制を整えようと、全国自治体で家庭教育支援条例制定の取り組みが進んでいる。
 2006年に教育基本法が改正され、「家庭教育における父母又は保護者の第一義的責任」「生活のために必要な生活習慣を身に付けさせる」「国及び地方公共団体の家庭教育支援施策を講じる努力義務」が盛り込まれた。
 改正を受けて、全国自治体で「早寝早起き朝ごはん」運動がスタート、家庭教育支援の取り組みが本格化した。2013年、全国に先駆けて「家庭教育支援条例」を制定したのが熊本県だ。
 熊本県は条例制定以前から、「くまもと家庭教育10か条」を作成、2009年に「子ども輝き条例」を制定した。そして2011年から子供の成長段階にあわせて、「親としての学び」、「親になるための学び」プログラムを作成し、家庭教育を推進してきた。
 熊本県の条例をモデルに、全国8県6市(2018年6月現在)で条例が制定された。(※2022年6月現在、全国10県6市で制定されている 。)

国際規約に規定された「家庭に子供の教育の責任」

 条例制定の動きに対して、「国や行政が家庭のことに介入すべきではない」と、条例や支援法の法制化に反対する声がある。その主張は、個人の権利を第一と考え、「法は家庭に介入すべきではない」「国や行政が家庭教育に介入し、特定の価値観を押し付けるべきではない」、また「親(母親)に教育責任を押し付けている」といったものである。つまり、支援条例及び支援法は、個人の尊重や基本的人権を保障する憲法に抵触する可能性があるという。
 しかし、国際規約である世界人権宣言、児童の権利条約は「家庭は社会の基礎的単位」で、「家庭に子供の教育の責任がある」と規定している。
 また2015年7月1日、国連人権理事会では「家族の役割と保護」を謳った決議を賛成多数で採択している。その内容は以下の通りである。「1、家族は社会における自然かつ根本的な集団の単位。2、家族は子女の養育と保護の第一義的な責任を有する。3、家族は文化的同一性や、伝統、道徳、社会的遺産や価値体系を継承する上で決定的な役割を果たす。4、各国政府に、居住、職業、保健、社会保障、教育等の分野で家族重視の政策を実施・促進する事を求める。」

児童福祉法は「家庭養育の原則」

 教育基本法、児童福祉法は、こうした国際法規に沿ったものである。2009年の児童福祉法改正では、乳児のいる家庭訪問事業など市町村が行う子育て支援の強化や、里親制度の拡充など、施設養育から家庭養育に転換が図られた。2016年の改正では、すべての子供の良好な養育環境を保障していく、「家庭養育の原則」が明記された。
 児童虐待では、法的(児童虐待防止法)にも行政が虐待の疑われる家庭に関与しやすくなった。子供の保護と育成と言う観点から、行政が家庭の問題に積極的に関与することが求められている。

家庭の孤立化、子供の問題を未然に防ぐ

 また予防的観点から、ひとり親家庭等、子育て困難家庭を支援する体制整備を整えていかなければならない。困難家庭であればあるほど、家庭教育の講座やイベントに足を運ばない。あるいは乳幼児健診の未受診など、行政の支援が届いていないのが現状である。また虐待には至らなくとも、不適切な養育によって、子供の健やかな育ちが損なわれている実態がある。
 こうした子育て困難家庭を地域社会が支えることで、家庭の孤立化を防ぎ、虐待、不登校、ひきこもり、家庭内暴力など問題の発生を未然に防ぐ効果が期待される。
 2014年10月に条例制定した静岡県は、施行後、家庭教育支援員を養成し、教員経験者やPTA役員経験者、カウンセラーなどで、家庭教育支援チームを組織。3カ年で320名の支援員を養成し、親の学びを支援する活動を展開している。
 条例を制定した自治体では、条例ができたことで職員の意識が変わり、横の連携をとりやすくなり、また学校と地域との連携も進んでいるという。

子供の健全な発達を保障する

 家庭教育支援に取り組む自治体の共通課題は、いかにして制度の狭間にある困難家庭を制度につなげていくかである。直接家庭に出向いていく訪問型支援が各自治体で行われており、行政の支援が困難家庭に届くことで、深刻な子供の問題に対応する学校現場の負担を減らすことが期待されている。そのための家庭教育支援員等の人材育成も必要となっている。
 くまもと家庭教育支援条例の前文の最後は、「子供の健やかな成長に喜びを実感できる熊本の実現」で結ばれている。条例の目的は、子供の健全な発達を保障するために親や家庭を支援することにある。
 少子化が深刻な地方にあって、何よりも結婚、妊娠、出産、そして子供が一人前になるまで、切れ目ない支援体制を機能させることは最重要課題の一つである。そのための施策の基本となるのが家庭教育支援条例であり、それを支えるのが家庭教育支援法である。

(初出:EN-ICHI 2018年6月号)

政策レポート
家庭教育支援条例が全国8県6市(2018年6月現在)で制定され、家庭教育支援法の法制化が検討されている。これに対して、「家庭への行政の不当介入」「国家による統制」との批判も繰り返されている。家庭教育支援条例及び支援法の意義と課題について考えてみたい。※2022年6月現在、当該条例は全国10県6市で制定されている (編集部)

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