憲法・民法から見た同性婚合法化の是非 ―婚姻制度の立法趣旨と子供の福祉の視点から―

憲法・民法から見た同性婚合法化の是非 ―婚姻制度の立法趣旨と子供の福祉の視点から―

2021年6月22日
家庭基盤充実
はじめに

 2021年3月17日、同性婚に関する訴訟で初めての判決が札幌地裁で出された。
 この裁判は、2019年2月、札幌の他、東京、名古屋、大阪の4カ所で計13組の同性カップルが同性婚容認を求めて国を提訴したもので、わが国では初めてのケースである(同年9月には福岡でも同様の訴訟が起こされた)。
 原告は、国が同性婚を認めていないのは、憲法で保障する「婚姻の自由」を侵害し、婚姻について定めた憲法24条と13条(幸福追求権)、14条(法の下の平等)に反すると主張。同性婚が法的に認められないことで、法定相続人になれない、手術の際の同意者になれないなどの差別・困難が生じており、この事態に対して国は「正当な理由なく長期にわたって立法を怠った」(立法不作為)としている。
 今回の札幌地裁の判決で武部知子裁判長は、24条については「両性」という文言からも異性婚を規定したものであるとした一方、異性婚のカップルに与えられる法的効果を同性カップルに一部でも認めない民法や戸籍法の規定は法の下の平等を定めた憲法14条に違反するとの判断を下した。
 わが国は、法律上の手続きにより婚姻が成立する「法律婚主義」を採用している(民法739条)。婚姻を届け出たカップルの関係を「夫婦」として社会的に認知し、権利を付与しながら法的に保護している。
 本稿では、憲法の立法過程、および民法の規定から婚姻制度の立法趣旨について考察し、法律婚に様々な保護・権利が付与されているのは、第一義的には子供の養育・保護のためであることを明らかにする。それを踏まえた上で、同性婚を合法化することの是非、同性婚が合法化された場合の社会的影響についても考察する。なお、同性カップルの人権擁護については、「婚姻」とは別の施策を検討すべきことを提案したい。

1.同性婚をめぐる国内外の状況

同性婚をめぐる国内の現状

 わが国は憲法24条で婚姻を次のように定義している。
 「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。2.配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」
 条文に「両性」「夫婦」とあることから、婚姻が男女間で行われることを前提としており、同性婚は想定されていないというのが、専門家の一般的な解釈である。
 自治体も同性カップルの婚姻届けを受理していない。2014年6月に青森市で同性カップルが婚姻届を市役所に提出したが、市は24条1項を根拠に受理しなかった。理由について市は「市町村長が戸籍事務を処理するに当たり、よるべき基準等については、国において定められて」おり、「青森市の戸籍事務を管轄する青森地方法務局の助言を受け、憲法第24条第1項を根拠として処理した」と説明している(同市ホームページ2014年6月6日)。
 国会では2018年5月、野党から憲法13条に「すべて国民は、個人として尊重される。」、14条に「すべて、国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的問題において、差別されない」と定義されていることから、24条において同性カップルによる婚姻の成立を認めることは想定されているとの質問が提出された。それに対して政府は「憲法第24条第一項は『婚姻は、両性の合意のみに基いて成立』すると規定しており、当事者双方の性別が同一である婚姻の成立を認めることは想定されていない」と答弁している。菅義偉首相も2020年10月30日の国会答弁で、同性婚について「家族のあり方の根本に関わる問題で、極めて慎重な検討を要する」と述べている。
 一方、2015年11月に東京都渋谷区と世田谷区で「同性パートナーシップ制度」が始まり、現在は全国100の自治体が導入している(2021年4月6日現在)。渋谷区は条例、世田谷区は首長権限による要綱とするなど、自治体によって方式は異なるが、同性カップルの権利擁護という趣旨で、カップルの関係を認める証明書(宣誓書)を発行している。
 制度は事実上、同性パートナーを婚姻に準じる関係と位置付けている。例えば渋谷区の場合、「パートナーシップ」の定義を「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える戸籍上の性別が同一である二者間の社会生活関係」と明記している。
 2019年9月には、アメリカで同性婚を行った日本人カップルの関係が破綻し、一方の女性が損害賠償を求める裁判をおこした。同裁判で、宇都宮地裁真岡支部は二人が事実婚に準ずる関係であったと認め、法的保護の対象になるとの判断を示した。この中で裁判官は、諸外国での同性婚の動向や国内での同性パートナーシップ制度の増加など社会情勢の変化を踏まえ、同性カップルでも一定の法的保護を与える必要性は高いとしている。
 ただし、法律で同性婚が認められてないことを踏まえ、男女間の法的保護の利益とは異なるとも述べている。同裁判では2020年3月の控訴審でも、東京高裁が婚姻に準ずる関係と認め、1審判決を支持した。

札幌地裁の判決

 こうした中で、2019年2月に札幌、東京、名古屋、大阪で、9月には福岡で、同性婚の容認を求める初めての訴訟が起こされた。原告の同性カップルは同性同士の結婚を認めないのは憲法が保障する「婚姻の自由」を侵害し、法の下の平等に反すると主張している。
 2021年3月、一連の裁判で札幌地裁が初めて判決を出した。この中で、憲法24条は「両性」「夫婦」という文言を用いていることから異性の婚姻を想定したものであり、13条の幸福追求権は包括的な人権規定であって同性婚及び家族に関する特定の制度を求める権利が保障されていると解釈するのは困難だとして、24条と13条については原告の主張を退け、損害賠償請求を棄却した。
 しかし、14条については、婚姻により生じる法的効果を享受することは重要な法的利益であり、異性愛者と同性愛者の差異は性的指向のみであることから、婚姻によって生じる法的効果は等しく享受しうるとした。このため同性愛者が法的効果を受けられないのは差別的であり、法的効果の一部も享受できないよう規定した民法は、法の下の平等を定めた14条1項に違反すると認めた。
 この判決を受けて、加藤勝信官房長官は「政府としては婚姻に関する民法の規定が憲法に反するものとは考えていない」と表明し、政府の見解に変更がないことを示した。

大きな論争を巻き起こし、新たな人権侵害も

 海外で同性婚を合法化しているのは29カ国・地域である(2020年5月現在)。世界の約15%で、大半は欧州、南北米の国だ。先進7カ国で同性婚を合法化していないのは日本とイタリアのみだと一部メディアは報じているが、世界的には同性婚を合法化しているのは少数である。
 婚姻制度は国の文化伝統や宗教に大きく関わるため、合法化した国でもその過程では、大きな論争が巻き起こった。また、合法化の後には、合法化に反対していた人たちへの新たな人権侵害が生じている。
 たとえば、2015年6月に同性婚を合法化したアメリカでは、婚姻の意義をめぐって激しい議論が巻き起こった(池谷、2019)。
 連邦最高裁判所は、1996年に連邦政府が制定した「婚姻防衛法」(婚姻は男女間に限ると規定)は婚姻の権利を侵害するものとして、違憲判断を下した。当時はオバマ政権下で、連邦最高裁はリベラル派の判事が多数を占めていたが、9人の判事の判断は5対4の僅差であった。
 これにより連邦政府レベルで同性婚が合法化された。しかし一方で、伝統的な宗教道徳から同性婚制度に反対する人々が「偏見の持ち主」として糾弾されるなど、深刻な人権侵害が生じたのである。結婚許可証の発行を拒否した地方公務員が一時拘束されたり、花屋を営む女性が同性婚の式典の注文を断ったことで、客だけでなく州の司法長官に訴えられた。他にも、社会的制裁を受ける事態が相次いだ。
 こうした事態について、ジャーナリストのウエッツスタイン(2015)は、同性婚合法化によって婚姻と家庭の価値をめぐる「文化戦争」が起きたと述べている。
 ウエッツスタインによると、同性婚合法化の道程は、「婚姻制度の抜本的な再規定」であったという。同性婚合法化の運動は、同性カップルが婚姻を望んで始まった運動というより、「婚姻と性生活に関わる規律や規範を変えるために」、一部の人々が始めた運動と分析している。
 同性婚が合法化されているフランスでも、2013年、同性カップルが養子縁組で子供を持つことを認める法案に対して、パリ市で30万人以上が参加した激しい反対デモが起きている。
 当時の世論調査では、同性婚については「賛成」が上回ったものの、「子供には絶対に父親と母親が必要」という意見が圧倒的多数を占め、同性カップルが養子縁組で子供を持つことに対して「反対」意見が上回った。また、同性カップルの女性が生殖補助医療で子供を持つことを可能にする法案が議論された際も、パリ市で法案に反対する市民らの大規模なデモが行われた。「子供に必要な父親像が奪われる」という理由からであった。結局、養子縁組は認められ、生殖補助医療の法案も2021年6月に下院で可決された。ただ、子供の福祉を重要視するフランス国民の意識が非常に強いことを示している。

2.憲法・民法からみた婚姻制度の立法趣旨

憲法24条の制定過程

 婚姻制度の趣旨については、大きく二つの考え方がある。一つは、「婚姻は、二人の人間によって自らの幸福の為になされる私的で親密で情緒的な関係であり、カップル自身によってカップル自身のためになされるもの」という考え方である。
 もう一つは、「子供や社会の利益のために、カップルによる性行為、出産、子育てを社会的に承認するものであり、子供と実の両親とのつながりを強くする社会的な制度」と位置付けるものである。婚姻制度を、もっぱら「個人の権利」として捉えるか、「子供の福祉」「子供の健全育成」の視点を組み込むべきという、考え方の違いである。
 この点について、まず、憲法24条の制定過程から見てみたい。憲法24条は、1946年、GHQ憲法草案制定会議の「人権に関する小委員会」メンバーだった当時22歳のベアテ・シロタ・ゴードンが女性の権利、男女平等規定を書き込んだ草案が元になっている。
 制定の過程では明治憲法の「家」制度の廃止に重点が置かれたが、ベアテは特に女性の権利を重視した。草案を作成する際、家庭と婚姻についてドイツのワイマール憲法119条を参考にしており、「生きていく人間にとって一番大切なものは“家庭”であり、その家庭の中では“男女は平等である”ことを謳っておかなければならない」と考えた(ゴードン、2016)。ワイマール憲法119条は「婚姻は、家庭生活及び国民の維持・増殖の基礎として、憲法の特別の保護を受ける。」と定めており、家族形成と子供の養育を支援する概念が込められていた。
 また、2項については「西欧のように、“個”という概念のない日本では、このチャンスに独立した条文としてしっかり憲法に謳っておかなければ、男尊女卑のこの国では、全く見落とされてしまうだろう」と懸念したという。
 そこで、最初の案として「家庭は、人類社会の基礎であり、その伝統は、善きにつけ悪しきにつけ国全体に浸透する。それ故、婚姻と家庭とは、法の保護を受ける。婚姻と家庭とは、両性が法律的にも社会的にも平等であることは当然であるとの考えに基礎をおき、親の強制ではなく相互の合意に基づき、かつ男性の支配ではなく両性の協力に基づくべきことを、ここに定める。」と書かれた。
 さらに、運営委員会の議論を経て、マッカーサー草案(23条)として次のようにまとめられる。「家庭は、人類社会の基礎であり、その伝統は、善きにつけ悪しきにつけ国全体に浸透する。婚姻は、両性が法律的にも社会的にも平等であることは争うべからざるものであるに基礎をおき、親の強制ではなく相互の合意に基づき、かつ男性の支配ではなく協力により、維持されなければならない。これらの原理に反する法律は廃止され、それに代わって、配偶者の選択、財産権、相続、本居の選択、離婚並びに婚姻および家庭に関するその他の事項を、個人の尊厳と両性の本質的平等の見地に立って規制する法律が制定されるべきである」。
 その後のGHQと日本政府の交渉において、「家庭は…国全体に浸透する」の一文は、文章として日本の法制の体裁に合わないという日本側の主張により削除された。家族の価値については当然のことで、あえて憲法に書き込む必要はないといった考えがあったとされる。当時、木村篤太郎司法大臣も議会で「従来の良き意味の家族制度、つまり親子、夫婦、兄弟が互いに助け合って良き家庭を作ることなど、どこまでも尊重して行かなければならぬ」と答弁しており、政府には家族の価値を重視する姿勢があったという(百地、2021)。

24条は「男女の婚姻」を想定

 24条には「両性の合意」「夫婦」と謳われている。これについて、同性婚の合法化に賛成する立場から、以下のような主張がなされている。
 一つは、戦前の家父長制度の下では当事者の意思だけでは婚姻が許可されなかったため、戦後の憲法制定の際に家父長制度を否定し、両当事者の合意のみで婚姻できると定めたのが24条1項であって、「両性」は「両当事者」を意味しているとの主張である(LGBTとアライのための法律家ネットワーク)。
 また、木村(2017)は、24条の条文は「異性婚」が「両性の合意」に基づいて成立することを意味しているに過ぎず、同性婚自体を禁止しているわけではないと述べている。
 しかし、条文に「両性」「夫婦」とあることから、憲法が定める婚姻は男女間でなされるものと解釈され、同性婚を法律上の婚姻と位置付けることは困難というのが、法学者・専門家による多数派の見解である。このため、同性婚は容認されない、というのが憲法解釈の主流となっている。
 憲法公布後の1948年10月に出版された解説書『註解日本国憲法』は、24条は「国民の家族生活に対する、憲法の根本的態度を明らかに」するもので、「一夫一婦の婚姻を、家族関係の基礎として、特に当事者の自主性を尊重するとともに、あらゆる家族生活の面において、その法律的基盤は、特に個人の尊厳と両性の本質的平等を期さなければならない」と記し、両性が一夫一婦つまり男女を意味していたと明らかにしている。
 また、前述のようにGHQによる憲法草案には根底に「男女平等」の理念があり、その上での「相互の合意」「男性の支配ではなく、協力により」と記していたことから、ここで謳われている「両性」は「男女」であることは自明であろう。
 これに関して、「同性同士の『婚姻』が異性同士の婚姻と同程度に保障されると解することは憲法の文言上困難である」(渋谷・赤坂、2019)、「憲法はあらゆる結合を『婚姻』としているわけでなく…(憲法24条1項の文言にある)『両性』や『夫婦』の言葉からも、男と女の1対1の結合だけを婚姻としている」(工藤、2005)といった見解が、専門家から示されている。
 辻村(2016)も、24条の規定が「(同性カップル等からなる)『超現代家族』への展開にブレーキをかける方向に機能することも十分に可能」と述べ、通説の24条の解釈では同性婚は容認されていないと指摘している。

「家族モデル」を想定し、子供の福祉を保障

 また、憲法は「婚姻」だけでなく「家族形成」を前提にしており、その観点からも同性婚合法化は困難という見解が示されている。
 中山(2019)によれば「夫婦(婚姻したひとりの女性とひとりの男性)と未成年の子からなる集団が、憲法が想定する標準的家族であるとする見解が有力である」という。山﨑(2009)は、24条1項で婚姻によって成立した「夫婦」を基礎とする家族を予定し、2項には「相続」が含まれていることから夫婦だけでなく親子関係も含んでいるとして、「24条は夫婦を中心とした、子どもを含む家族、いわゆる婚姻家族(核家族)を想定していることが理解される」と述べている。
 木下・只野(2019)によれば、24条の「両性」という言葉は婚姻の自由に同性婚が想定されていないことを意味しており、憲法は同性カップルの家庭生活を婚姻(異性カップルの家庭生活)と同程度に配慮に値するものとしては考えられていないという。
 もう一つの論点は、国が「婚姻」(法律婚)を特別に保護する理由として、「子供の養育」を保障するためだとの指摘である。
 篠原(2019)は、憲法24条2項に関する最高裁の過去の判断に触れながら、「『夫婦とその子からなる集団』を憲法上の軸となる家族モデルとしていると考えられる。このような解釈は、“殊更に男女の人的結合関係に注目する憲法24条は、婚姻する男女の間には子どもが生まれることを想定しており、憲法上、家族には将来世代の育成の場としての機能が期待されている”と考え」ることができると述べている。
 君塚(2010)は、「第一義的には未成熟の子の揺りかごとして家族の憲法的保障の意義がある」と、家族を法的に保護する意味が子供の養育にあると指摘している。
 さらに中山(2019)は、「憲法が『個人の尊厳と両性の本質的平等』と述べて、家族制度を形成する法律に与える基本的な任務は何かといえば、先に述べたように、ケア責任(にかかるコスト)を公正に分配して依存的な個人(とくに子ども)を保護することであると解される」としている。
 池谷(2019)も、「婚姻とは男女の間でなされるものとされてきた。なぜなら、夫婦が社会から承認された制度の中でのみ性的行為をし、責任を持って子どもを生み育てることで、子どもは誰が自分の本当の両親かを知ることができ、血の繋がった両親に育ててもらうことができるからである。それゆえ、基本的には一夫一婦制や貞操義務が夫婦としての当然の前提とされ、そのことが子ども達の健全な発育を助け、そこに婚姻制度の意義があると考えられてきた。婚姻制度は、社会の秩序を確保する最適な方法ともなっていると言える」と、婚姻の社会的公共性に言及している。
 “弱者”である子供が自身の成長発達に責任を持ってくれる養育者のもと、安定した家庭環境で育つことができるよう、親子・夫婦の関係を法制度で優遇し、婚姻関係を保護しているというのである。万一、貞操義務などが失われ、責任ある出産と育児が切り離されれば、子供が育つ家庭の安定性が喪失する可能性が高くなる。こうした憲法の想定からみれば、現行規定は男女の婚姻と子供の育成支援を趣旨としており、同性カップルの生活を法的婚姻と位置付けることは困難ということになる。

法律婚に義務と権利を定めている民法の趣旨

 子供の福祉を保障するという婚姻制度の趣旨は、民法ではより明確である。
 婚姻の本質を個人の幸福のための私的で情緒的な関係とのみ捉えた場合、一夫一婦制や貞操義務の意義が失われ、(一方の)当事者の選択により、いつでも解消可能な不安定な制度となる。こうした事態を防ぎ、婚姻関係と家族を保護するため、民法は婚姻カップルに義務と権利を定めている。
 義務には、「重婚の禁止」(732条)、「同居、協力及び扶助の義務」(752条)、「婚姻費用分担義務」(760条)、「日常家事債務の連帯責任」(761条)、直接の明文規定ではないが「貞操義務」(770条1項)、「未成年の子の監護・教育義務」(820条)親権者は、子供を監護する義務を負い、養育に必要な費用を負担する。
 また、女性のみを対象にした「再婚禁止期間」(733条)は、生まれてくる子供の父親を推定する上での重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐためのものである。子供の福祉を保障するため父子関係を法的に明確にする必要性から定められたものである。
 一方、婚姻カップルの権利として「財産分与請求権」(768条)、「相続権」(890条)、「遺留分侵害額請求権」(1042—1049条)、「配偶者居住権」(1028—1036条)、「配偶者短期居住権」(1031—1041条)、「配偶者への贈与持ち戻しの免除」(903条4項)などが規定されており、税制上の配偶者控除なども設けられた。
 こうした民法の規定について、「民法は、生物学的な婚姻障害をいくつか設けている。そこには前提として、婚姻とは『子どもを産み・育てる』ためのものだという観念があると思われる」(大村、2010)、「民法の定める実質的要件の多くは、生殖および子の養育という役割を婚姻に果させるために必要な要件である」(青山・有地、1989)と指摘されている。
 ちなみに、民法(家族法)自体の存在意義について、水野(2013)は歴史的、文化的に乳幼児の養育や高齢者のケアは第一義的には家族が担ってきたことから、「未来の次世代をはぐくみ人間社会を再生産するためには、ケアの問題を組み込んだ社会を構想する必要があり、ケアの与え手をも保護する枠組みを作り上げなくてはならない」とし、「家庭が子の幼い日々を守る温かい繭としての機能を果たせるように家庭を守る」点にあるとしている。
 以上のように、憲法と民法の視点から見て、婚姻制度は個人の権利や選択の自由にとどまらず、生まれてくる子供の福祉、実親との安定した親子関係の保護を第一義的目的とする社会的制度と解釈することができる。

3.札幌地裁の判断の概要と憲法上の矛盾点

「婚姻の自由」をめぐる憲法解釈

 同性婚訴訟では、原告は「憲法が保障する婚姻の自由を侵害された」と主張している。この点について、工藤(2005)は「婚姻の自由とは、憲法24条1項が『婚姻』と呼ぶ結合関係に入る自由であり、それ以外の共同生活や人的結合の自由は、婚姻の自由に含まれない」という。憲法24条が「婚姻」を規定していることから、男女間以外の「婚姻の自由」は想定できないというのである。
 また、婚姻の自由の根拠の一つとされる「憲法13条」(幸福追求権:「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」)などを踏まえると、同棲や同性カップルなどの人的結合は法的には禁じられていないが、同棲関係や同性婚を法律上の婚姻と認めることには無理があると指摘している。
 青山・有地(1989)は、「婚姻」が伝統的に生殖と子の養育を目的とする男女の結合であったと述べた上で、「婚姻は、当事者双方の任意的な合意を基礎にするとしても、実定法上の婚姻の内容は当事者の意思的効果として与えられるのではなく、婚姻締結前すでに客観的規範によって与えられている」と指摘している。婚姻が当事者同士の合意を前提にするのは当然としても、あくまで社会的規範の中で成立するというのである。
 先の札幌地裁の判決は、当事者二人の共同生活を法的に保護することを求めているが、子供の福祉のために婚姻を法的に保護するという趣旨からすると、生物学的に子供が生まれない同性婚を異性婚と等しく保護の対象にするという矛盾が生じる。
 また判決が、24条は異性婚を規定しており同性婚を想定していないと認めながら、同性カップルが婚姻の法的効果を享受できないのは14条が定める法の下の平等に違反するということは、24条と14条の間に矛盾を生じさせることになる。憲法上の婚姻を規定した24条に照らせば、同性カップルが婚姻の法的効果を享受できるとはならないからだ。
 同性婚を合法化するかどうかという問題の本質は、婚姻制度をどう定義するかに直結している。もっぱら当事者の権利と自由のためにあると見るか、それに止まらず子供の福祉と家族の保護を重視する制度と捉えるかの選択と言える。
 これまで見てきたように、立法趣旨から見れば、婚姻制度は個人の嗜好や自由権の範囲に留まるものではない。第一義的には、責任ある出産と安定した育児、そして親の支援という意図がある。婚姻制度から子供の福祉の視点が切り離されれば、次世代の育成という婚姻と家庭の意義が喪失してしまうことになる。

札幌地裁による判決の要点

 ここで、札幌地裁の判決の概要について、改めて詳しく見てみたい。武部知子裁判長は、3月17日の判決で以下のように述べている。

①24条は異性婚を規定している
憲法24条については「両性」「夫婦」など男女を想起させる文言を用いていることから異性の婚姻を定めたもので、同性婚を定めるものではないと認められる。

②13条は家族に関する特定の制度を求める権利を保障していない
婚姻と家族に関する個別規定である24条2項は、具体的な制度の構築を国会の立法裁量に委ねている。そのため包括的な人権規定である13条(幸福追求権)によって、同性婚及び家族に関する特定の制度を求める権利が保障されていると解釈するのは困難である。

③民放と戸籍法は24条と13条には違反しない
そのため、同性婚を認めていない民法と戸籍法の規定は、24条と13条には違反しない。

④婚姻の本質は両当事者の共同生活
婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を育むことにある。異性愛と同性愛の差異は性的指向の違いのみであるから、同性愛者であっても、その性的指向と合致する同性との間で、婚姻している異性同士と同様、婚姻の本質を伴った共同生活を営むことができる。

⑤婚姻の法的効果を一部でも享受できないのは14条1項に違反
現行規定は、夫婦が子を産み育てながら共同生活を送るという関係に対して法的保護を与えると共に、子の有無にかかわらず夫婦の共同生活自体の保護も重要な目的としていると解釈できる。また憲法24条も同性愛者の共同生活に対する一切の法的保護を否定する趣旨まで有するとは解釈できない。性的指向は本人の意思によって選択・変更できるものではなく、異性愛者と同性愛者の差異は性的指向のみであり、婚姻によって生じる法的効果は等しく享受しうる。このため、同性愛者が婚姻の法的効果をその一部でも享受できないよう定めた現行規定は14条1項に違反する。

憲法解釈の矛盾と婚姻の立法趣旨の抜本的変更

 憲法24条は、婚姻が異性間で行われることを規定しているとの札幌地裁の判決は、すでに述べたように憲法学の主流の解釈である。24条が婚姻を異性間と定義していれば、民法や戸籍法に同性婚の規定がないのは当然である。
 一方で、判決は14条を根拠に、同性カップルが婚姻の法的効果をその一部でも享受できないよう定めた現行規定を違憲と判断し、24条も同性カップルの共同生活に対する一切の法的保護を否定しているとは言えないと述べている。このように判決は、同性カップルを婚姻カップルと同様に扱えと言っているわけではない。
 しかし、異性愛者と同性愛者の差異は性的指向のみであり、婚姻によって生じる法的効果は等しく享受しうるとして、事実上、同性婚を容認している。これは、結果として24条の婚姻の定義を無視するものであり、憲法解釈に矛盾を生じさせる判断といえる。憲法上の婚姻の定義が失われれば、重婚などを否定する根拠がなくなり、制度としての婚姻に混乱が生じる可能性がある。
 札幌地裁の判決の最も重大な問題点は、婚姻制度の立法趣旨について、解釈が一面的であることだ。判決は、民法が子供の有無や生殖能力、子供をつくる意思の有無で夫婦の法的地位を区別していないこと、さらに「子を産み育てることは、個人の自己決定に委ねられるべき事柄」であるとして、実質的に「婚姻」を当事者二人の問題に限定し、婚姻制度から子供の福祉の視点を欠落させている。
 これは事実上、婚姻制度の立法趣旨の抜本的な変更を意味している。そうなれば、一部個人の嗜好や選択の自由の範囲にとどまらず、全ての異性カップルと子供たちにも多大な影響を及ぼすことになる。

4.提言

 わが国には、「子は社会の宝」とする伝統文化があり、子供の福祉、養育の保障を重視する考えは国民に広く浸透してきた。しかし現代は、大人の人権ばかりが強調され、子供の福祉の視点が薄れているのではないか。このことに改めて想いをよせ、婚姻制度における子供の福祉の視点を明確にした上で、同性婚合法化の是非について論ずるべきである。

(1)同性カップルの権利擁護は、婚姻制度と完全に切り離した施策の検討を

 同性婚の合法化は、すでに述べたように憲法24条の婚姻の定義を無視するものであり、憲法上、認められないと解されている。何よりも、同性婚の合法化は、婚姻制度の立法趣旨の抜本的な変更を意味する。婚姻制度を、もっぱら当事者(大人)の幸福のためになされる私的で情緒的な行為とのみ捉える考え方である。
 こうした考え方に立てば、子供のための婚姻制度の意義が揺らぎ、婚姻は(一方の)当事者の選択により、いつでも解消される不安定な制度となりかねない。一夫一婦制や貞操義務といった社会的規範は揺らぎ、婚姻のもつ社会的な意義は喪失することになる。その最大の犠牲者は、子供たちである。
 法には一律性と強制力があるため、同性婚を法的に容認することは社会全体に影響を及ぼす。「父親と母親の揃った子育てこそ、子供の発育に最善である」という自明の事実さえ公言することが難しくなる可能性もある(池谷、2019)。このように、同性婚合法化は同性カップル当事者だけでなく、全ての異性カップル、特に子供たちに多大な影響を及ぼすことになる。
 同性カップルの権利擁護の施策として打ち出されたものに、すでに自治体が導入している「パートナーシップ制度」がある。渋谷区の場合、「パートナーシップ」の定義を「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える戸籍上の性別が同一である二者間の社会生活関係」と明記している。
 渋谷区の条例について、八木(2016)は「結婚(婚姻)を男女の関係に限っている憲法や民法などとの間に齟齬を生じさせている」として、憲法違反の疑いが強いことを示唆している。それゆえ、同性カップルの権利擁護は、婚姻制度とは完全に切り離した上で、別の施策を検討すべきである。

(2)子供の福祉を明確にした婚姻制度の意義を再確認し、保護を

 児童虐待相談件数の急増に見られるように、子供たちの養育を担う家族、親子関係は深刻な状況に直面している。とりわけ夫婦関係が破綻した場合は、虐待の重大な要因となる。子供の養育環境としての家庭、夫婦関係を安定化させることは、今日極めて重要かつ緊急の課題となっている。
 したがって、子供の健全な成長にとって欠くことのできない家族の保護という点から、婚姻制度の意義を再確認し、子供の福祉の視点を改めて明確にすべきである。その上で、家族政策など家族を保護するための施策を充実させる必要がある。

(3)婚姻の保護をより明確にするため、憲法に「家族保護条項」を

 世界人権宣言第16条3項は「家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する」と謳い、国際人権規約社会権規約10条(家族、母親、児童に対する保護・援助)は「できる限り広範な保護及び援助が、社会の自然かつ基礎的な単位である家族に対し、特に、家族の形成のために並びに扶養児童の養育及び教育について責任を有する間に、与えられるべきである」と定めている。
 西(2019)によれば、世界では1990年以降、104カ国が新しい憲法を制定しているが、そのうち87カ国(約83%)が「家族保護」の条項を持ち、婚姻や家族の保護を規定している。
 憲法に「家族保護条項」を規定していないわが国では、民法(家族法)が婚姻の意義(子供の養育・保護)を定めている。しかし、子供の健全育成と社会の安定と公共性という観点から、憲法に「家族保護条項」を加えるなど、婚姻を保護する法的な意義を明確にすべきである。

(4)婚姻制度の立法趣旨に関する教育を

 若い世代に対して、学校教育全般(家庭科や道徳等)、あるいは自治体が実施しているライフデザイン教育の場などで、婚姻制度の主旨について子供の発達段階に応じて教育する必要があるだろう。また、小・中学校に乳児と母親を招き、児童生徒とのふれあい体験などが各地で行われている。こうした体験によって子供たちの婚姻への希望が高まるとの研究もある。キャリア教育の一環として、「人生設計(ライフデザイン)」の観点で取り組むこともできる。

 

■参考文献

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シェリル・ウェツスタイン『米国における同性婚−その経緯と展望』、IPP分析レポートNO.5、一般社団法人平和政策研究所、2015

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水野紀子『当事者の「願望」を叶えるのが法の役目ではない』、特集『生殖医療は人類の福音か?』中央公論2014年4月号

百地章『日本国憲法八つの欠陥』、扶桑社新書、2021

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自治体にペートナーシップ制度を求める会「日本パートナーシップ制度自治体導入状況」最終閲覧日2021年4月6日
https://twitter.com/partnership_

LGBTとアライのための法律家ネットワーク「【論点】日本国憲法は同性婚を禁止しているのか?」最終閲覧日2021年1月27日
https:// llanjapan.org/lgbtinfo/649

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