Ⅰ.はじめに
国が同性婚を認めないのは憲法が定める婚姻の自由や法の下の平等に反するとして、今年2月14日、13組の同性カップルが国に損害賠償を求めて、東京、大阪などで一斉に提訴した。
同性婚を求める理由として、法定相続人になれないことや、どちらかに子供がいる場合は共同で親権を持てないこと、手術の際の同意者になれないなどの差別・困難があるとしている。そして国会が民法や戸籍法の改正をしてこなかったことに対して、「正当な理由なく長期にわたって立法を怠った」(「立法不作為」)としている。
一方、台湾では今年2月、同性婚を認める特別法案が閣議決定した。同性婚の是非を問う昨年11月の国民投票で反対が多数を占めたため、民法改正ではなく、同性パートナーの関係を「婚姻」と認める法案を提出。今年5月から施行される見通しとなっている。
Ⅱ.論点整理
憲法24条の解釈から
日本において同性婚の問題は、主に次の2点が争点になる。
一つは憲法24条の解釈である。
24条は婚姻について次のように定めている。「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。2.配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」
同性婚推進派は、戦前の婚姻は家制度のもとで行われていたが、24条は当事者2人の合意で婚姻できるよう規定したものであって、同性婚を排除したものではないと主張している。
しかし、「両性」「夫婦」とあることから、学界では憲法は婚姻を男女間で行われることを前提としており、同性婚を認めていないという解釈が主流とされる。国は昨年5月に閣議決定した答弁書で「憲法は同性婚を想定していない」との見解を示している。
民法学者も同様の解釈である。「民法は、婚姻の当事者は性別を異にすることを前提としている。…憲法24条の『両性の合意』という表現、あるいは民法731条の『男は…、女は…』という表現や民法750条以下の『夫婦』という文言に、このことは示されているともいえる」(大村敦志『家族法』第3版)。
「婚姻制度」と立法趣旨
もう一つの争点は、「婚姻制度の定義(婚姻をどう見るか)」である。
同性婚推進派は、婚姻は「個人の権利」であるとして、婚姻の自由を主張する。それに対して同性婚反対派は、「子供の福祉」の観点から婚姻制度の目的を主張している。
では、立法趣旨からはどうか。
法制度上、男女の婚姻関係は他の人間関係と比べて特別に保護・優遇されている。民法上は「同居、扶助義務」(752条)、「婚姻費用分担義務」(760条)、「日常家事債務の連帯責任」(761条)、「貞操義務」(770条1項)、さらに「未成年の子の監護義務」(820条)といった義務規定を定めている。親権者である両親は子供を監護する義務を負い、養育のために必要な費用を負担する。
一方で、権利として「財産分与請求権」(768条)、「相続権」(890条)が規定されており、税制上の配偶者控除や企業団体等の家族手当て、公営住宅への入所などもある。
子供が生まれ育つ場として社会的公共性
男女の婚姻制度に、このように様々な社会的保護・優遇措置が設けられているのは、一般的に見て、婚姻によって形成される家族(家庭)は子供が生まれ育つ場であり、社会的公共性があるからである。
「民法は、生物学的な婚姻障害をいくつか設けている。そこには前提として、婚姻とは『子どもを産み・育てる』ためのものだという観念があると思われる」(大村・同)。
「婚姻は単なる男女の性関係ではなく、男女の共同体として、その間に生まれた子の保護・育成、分業的共同生活の維持などの機能をもち、家族の中核を形成する」(佐藤隆夫『現代家族法Ⅰ』)。
結婚制度は「安全な性的関係、責任ある出産、最善の子育て、健全な人間関係の発達、親の役割」を保護し、結果として長期的な家族関係を保つものである。子供の心身の健全な発育を図るために、一夫一婦制や貞操義務などにより両親の関係が強化・保護されている。
国としても将来の社会を担う子供が生まれ育つ制度として、婚姻関係を特別に優遇・保護している。子供の福祉や親の責任が排除されれば、子供に多大な犠牲を強いることはもちろん、社会的にも大きな損失になるからだ。男女の婚姻制度が特別に保護されていることには、合理的な根拠があると言える。
Ⅲ.見解
次世代の子供のために特別の保護
以上の事実を踏まえれば、婚姻制度は単なる個人の権利や選択の自由の問題と考えるべきでなく、次世代の子供のために社会的に特別の保護が与えられている制度と見るのが妥当である。
同性カップルからは自然には子供が生まれない。その点から見て同性カップルへの配慮は男女の婚姻関係とは別に考える必要がある。社会生活で不都合があるとすれば、別の手当てを考慮すべきであろう。