同性婚が子供の発達に与える影響 ―アメリカの研究に見る子供の発達と結婚、家庭―

同性婚が子供の発達に与える影響 ―アメリカの研究に見る子供の発達と結婚、家庭―

2019年4月19日

米心理学会の見解をめぐって

 同性婚をめぐる議論で重要な争点になるのが、「子供の発達への影響」である。
 米国心理学会(APA)は2005年に発表した報告書(Charlotte Patterson, “Lesbian and gay parents and their children: Summary of research findings,” Lesbian and Gay Parenting, American Psychological Association. 2005.)で、「(同性のカップルが親になって子供を育てることは)親として不適格で、異性の父母と比べて子供の心理的・社会的発達が妨げられるという証拠はない。子供たちが何らかの面で不利益を受けていることを示す研究は1件もなかった」と述べている。この報告書は同性婚推進派の主張を裏付ける学術的根拠のひとつとなっていた。
 それに対して、APAの見解を否定する研究結果も相次いで発表されている。
 ルイジアナ州立大学のローレン・マークス教授は、APA報告書で用いられた科学的手法の問題点を指摘。その結果、59件のうち4分の3以上(77%)が100人に満たない少人数を調査対象とするものであり、また結婚を維持する実父母の家庭(intact biological family)を比較対照グループとして考慮していないという。従って、マークス教授は同性カップルと異性カップルの子育てに特別の差がないというAPA報告書の結論は、科学的根拠が不十分だとマークス教授は述べている。

「学業」「薬物」などの問題に直面

 また、同教授は、同性カップルの子供についても小児期から思春期にいたる時期だけでなく、成人早期・中期まで追跡した長期的な研究が必要だと指摘している。
 テキサス大学オースティン校のマーク・レグニラス教授は、2012年、多様な家族形態で育った18歳から39歳の男女約3千人を対象とした「新家族構造調査(NFSS)」と呼ばれる研究プロジェクトを実施し、結婚を維持している実父母の家庭、母親がレズビアン、父親がゲイなど、8つの異なる家族形態で育った人の経済的、社会的、精神的状況などを比較した。
 その結果、ゲイの父親やレズビアンの母親に育てられた人は結婚を維持している実父母に育てられた人と比べて、「学業成績」「マリファナの使用頻度」「逮捕された回数」「親や大人に性的接触を受けたことがある」「不倫の経験がある」などで、問題を抱えているという結果が出た。
 レグニラス教授は、立派な大人に成長するために例外なく母親と父親が必要なわけではないとしながらも、小児期のすべてを結婚している父母とともに過ごし、さらに現在も親が結婚を維持している場合にこそ、子供が成人して成功する可能性がもっとも高いと述べている。

情緒的問題を抱えた子供の割合

 また、米カトリック大学のポール・サリンズ教授は、子供のいる同性カップルと異性カップルについて、情緒的問題を抱えている子供の割合を比較した研究論文を2015年に発表している(『Emotional Problems among Children with Same-Sex Parents』)。
 同教授は「過去20年、数十の研究が同性カップルの子供は社会・生活面の成功と情緒的健康について異性の両親の子供と同じか、よりよい結果を出していると結論付けてきた。しかし、子供を養育している同性カップルは数が少なく、既存の研究で使用されてきたサンプルは十分に全体の性質を代表しているとは言えない」と指摘。
 同教授の研究では、米疾病予防管理センター(CDC)が実施している健康や人口統計的な情報に関する調査「The National Health Interview SurveyNHIS)」の計1598千人分のデータを用いている。この中には207千人の子供を含んでいる。また、サンプルには2751組の同性カップルを含み、18歳以下の子供を養育しているカップルは582組。子供の情緒的問題は、NHISで採用されている「子供の強さと困難さアンケート(SDQ)」のスコアとNHISによる親へのインタビュー調査によって評価した。
 その結果、同性カップルの子供は異性カップルの子供よりも情緒的な問題を抱えている割合が高いことがわかったという。

2倍以上の割合で困難を抱えている

 「SDQに関して、子供が情緒面・行動面で問題を抱える割合は、同性カップル家庭で9.3%あり、異性カップル家庭の4.4%と比べて2倍以上であった。同様に、インタビュー調査では同性カップルの両親は異性カップルの両親の2倍以上の割合(2.3)で、子供が明確ないしは非常な困難を抱えていると報告している(同性カップルが14.9%、異性カップルが5.5%)」
 「SDQとインタビュー調査の併用による最も厳密なテストでは、同性カップル家庭において子供が情緒的困難を抱える割合は63%に下がっているが、異性家庭の割合も2.1%に下がっており、リスク比は2.9倍となっている。SDQとインタビュー調査のいずれか片方のみで問題がみられる割合は、同性カップル家庭で17.4%、異性カップル家庭で7.4%である。数値は大きいがリスク比は2.3倍と小さくなっている」
 また、「SDQスコアが高く、両親が情緒的な問題を報告してきた子供たちの72%が、ADHD58%)、学習障害(49%)、知的障害(7%)のうち一つ以上を患っていると診断されたなど、同性カップル家庭の子供は異性カップル家庭の子供に比べてADHD、学習障害などの割合が高かったという。
 サリンズ教授は「十分なサイズのサンプルで計量分析を行ったとき、同性カップルの子供は異性カップルの子供に比べて情緒的問題にさらされているといえる」と語っている。

 

参考文献〉

Emotional Problems among Children with Same-Sex Parents: Difference by Definition Sullins, D. P.

政策コラム
子供の発達において、家庭が与える影響は大きい。結婚と子供の発達に関するアメリカの研究を紹介する。(参考文献の引用部分の訳は本誌編集部)

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