持続可能な社会の創り手を育むために ―学校におけるSDGs教育についての考察―

持続可能な社会の創り手を育むために ―学校におけるSDGs教育についての考察―

はじめに

 SDGs(持続可能な開発目標)とは、2015年9月に国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた、持続可能な開発を実現するための世界共通の17の目標であり、2030年までの達成が目指されている。SDGsは世界的な潮流となっており、日本国内においても政府、企業、学校、NPO/NGOなど様々なアクターが取組を行っている。
 政府が掲げているSDGsアクションプランでは、3つの柱の一つに「SDGsの担い手としての次世代・女性のエンパワーメント」が掲げられており、学校教育現場でも、ユネスコスクール認定校を中心に、SDGs教育に力を入れる学校が増えてきた。SDGsは日本社会でも「流行」しており、SDGs教育も様々な形で進められている。SDGs教育を行う際、重要なのはSDGs教育を何のために行うのか、SDGs教育によってどのような人材を育成するのかという視点である。それらを置き去りにしていては、SDGs教育が流行りもので終わってしまう可能性がある。
 本稿ではSDGs教育の意義と価値を検討し、今後日本のSDGs教育が「持続可能な社会の創り手」の育成を達成するために必要な観点を提案する。

1.SDGsとは何か

 SDGsは「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略称である。「持続可能な開発」とは、「将来の世代がそのニーズを充足する能力を損なわずに、現世代のニーズを充足する開発」と定義されている。経済成長ばかりに重きを置いた開発が環境破壊を加速させてきたことへの反省を踏まえ、環境を保全しながら開発を行う必要があるいう考えに立脚している。また、経済成長と環境保全に加えて、社会的包摂の3つの側面を調和していくことが重要であるとされる。社会的包摂とは、社会的に弱い立場にある人々を含め市民ひとりひとりを、排除や摩擦、孤独や孤立から援護し、社会の一員として取り込み、支え合うことである。環境保全、社会的包摂、経済成長の3つの側面が調和されてはじめて、持続可能な開発が可能になるというのが、SDGsの基本的な考え方である。
 SDGsについては、経済成長第一主義から脱却していないという批判もあるが、SDGsが明記された2030アジェンダのタイトルは「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」であり、既存の価値観を変えていくという方向性が強く打ち出されている。国連主導のもと国際社会全体で共通の目標を掲げ、持続可能な未来の構築にあらゆるアクターの参画を促す初の試みがSDGsである。貧富の格差の肥大化や地球環境問題の深刻化により、近代科学技術文明の限界が指摘されるなか、SDGsはその負の部分を克服する新たな平和文明創造の一役を担いうる、国際社会としての大きな挑戦でもあるのだ。
 ただし、SDGsはあくまでも目標であるので、その目標達成によって成される目的が何であるかを理解しておく必要がある。SDGsが目指す世界は、2030アジェンダの「我々のビジョン」に下記の通り明記されている。

・すべての人生が栄える、貧困、飢餓、病気及び 欠乏から自由な世界
・恐怖と暴力から自由な世界
・すべての人が読み書きできる世界
・すべてのレベルにおいて質の高い教育、保健医療及び社会保護に公平かつ普遍的にアクセスできる世界
・安全な飲料水と衛生に関する人権を再確認し、衛生状態が改善している世界
・十分で、 安全で、購入可能、また、栄養のある食料がある世界
・住居が安全、強靱(レジリエント) かつ持続可能である世界
・安価な、信頼でき、持続可能なエネルギーに誰もがアクセスできる世界
・人権、人の尊厳、法の支配、正義、平等及び差別のないことに対して普遍的な尊重がなされる世界
・人種、民族及び文化的多様性に対して尊重がなされる世界
・人間の潜在力を完全に実現し、繁栄を共有することに資することができる平等な機会が与えられる世界
・子供たちに投資し、すべての子供が暴力及び搾取から解放される世界
・すべての女性と女児が完全なジェンダー平等を享受し、その能力強化を阻む法的、社会的、経済的な障害が取り除かれる世界
・最も脆弱な人々のニーズが満たされる、公正で、衡平で、寛容で、開かれており、社会的に包摂的な世界
・すべての国が持続的で、包摂的で、持続可能な経済成長と働きがいのある人間らしい仕事を享受できる世界
・消費と生産パターン、そして空気、土地、河川、湖、帯水層、海洋といったすべての天然資源の利用が持続可能である世界
・民主主義、グッド・ガバナンス、法の支配、そしてまたそれらを可能にする国内・国際環境が、持続的で包摂的な経済成長、社会開発、環境保護及び貧困・飢餓撲滅を含めた、持続可能な開発にとってきわめて重要である世界
・技術開発とその応用が気候変動に配慮しており、生物多様性を尊重し、強靱(レジリエント)なものである世界
・人類が自然と調和し、野生動植物その他の種が保護される世界

 上記の世界を実現するために設定された目標がSDGsである。目指す世界像は多岐にわたるが、端的に言えば、地球上のすべての人々が人間としての尊厳を尊重された状況で自然と調和し幸せに暮らす世界であり、平和な世界である。SDGs教育とは、SDGsが目指す平和な世界の実現に貢献する人材を育成するための教育であるといえる。

2.SDGs教育の位置づけ

持続可能な開発のための教育(ESD)

 政府が掲げているSDGsアクションプラン2020では、3つの柱の一つである「SDGsの担い手としての次世代・女性のエンパワーメント」のなかで、「新学習指導要領を踏まえた持続可能な開発のための教育(ESD)の推進」が明記されている。
 ESD(Education for Sustainable Development)は持続可能な開発を担う人材を育成するための教育であり、2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグサミット)」で当時の小泉総理大臣が持続可能な開発における人材育成の重要性を強調し、「持続可能な開発のための教育の10年」を提唱したところから形作られた教育手法である。
 同年、国連第57回総会決議により、2005年から2014年までの10年が「国連ESDの10年(DESD)」とされ、ユネスコが主導機関に指名された。それを受け、文科省及び日本ユネスコ国内委員会は、ユネスコスクールをESDの推進拠点として位置付けた。ユネスコスクールとは、ユネスコ憲章に示されたユネスコの理想を実現するため、平和や国際的な連携を実践する学校であり、ユネスコが認定する学校である。現在、世界182か国で11,500校が認定を受けている。日本では2005年には19校しかなかったが、国連ESDの10年の開始にあたりユネスコスクールを ESDの推進拠点と位置付け加盟校増加に取り組んだ結果、2019年11月時点で1,120校まで増加しており、1か国あたりの加盟校数としては世界最大となっている。
 「国連ESDの10年」はその後、「ESDに関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)」(2015年〜2019年)、「持続可能な開発のための教育:SDGs実現に向けて(ESD for 2030)」(2020年〜2030年)に引き継がれている。ESD for 2030はESDの国際的な実施枠組みであり、SDGsのすべての目標達成における教育の役割が強調され、持続可能な開発に向けた大きな変革や加盟国によるリーダーシップが重要視されている。
 ESDを通してSDGs達成に貢献するという国際的な潮流の中、日本においても新学習指導要領(平成29・30年改訂)において、全体の内容に係る前文及び総則に「持続可能な社会の創り手」の育成が掲げられ、各教科で関連する内容が盛り込まれた。新学習指導要領が「持続可能な社会の創り手」に言及したということは、これまでユネスコスクールを中心に行ってきたESDをより広範囲に広げ、SDGsの達成及び「持続可能な社会の創り手」の育成に力を入れていくという方針の表れである。

ESDによる「持続可能な社会の創り手」の育成

 文部科学省のホームページには、「ESDは現代社会の課題を自らの問題として捉え、身近なところから取組むとにより、それらの課題の解決につながる新たな価値観や行動を生み出すこと、それによって持続可能な社会を創造していくことを目指す学習や活動である」と記載されている。そして、そのために必要な観点として、下記の2点が挙げられている。

・人格の発達や、自律心、判断力、責任感などの人間性を育むこと
・他人との関係性、社会との関係性、自然環境との関係性を認識し、「関わり」、「つながり」を尊重できる個人を育むこと

 そのうえで、ESDの目標とESDによって育みたい力として下記の点が記載されている。

<ESDの目標>
・全ての人が質の高い教育の恩恵を享受すること
・持続可能な開発のために求められる原則、価値観及び行動が、あらゆる教育や学びの場に取り込まれること
・環境、経済、社会の面において持続可能な将来が実現できるような価値観と行動の変革をもたらすこと

<ESDによって育みたい力>
・持続可能な開発に関する価値観(人間の尊重、多様性の尊重、非排他性、機会均等、環境の尊重等)
・体系的な思考力(問題や現象の背景の理解、多面的かつ総合的なものの見方)
・代替案の思考力(批判力)
・データや情報の分析能力
・コミュニケーション能力
・リーダーシップの向上

 ESDを実践することでSDGsという目標の達成に貢献し、国内外で「持続可能な社会の創り手」となる人材を育成していくことが、教育現場に期待されている。ESDによるSDGs教育は概して、持続可能な社会のための価値観を教えると同時に子供たちが好奇心を持って主体的に学ぶことを促しており、社会課題について自ら考え行動するという経験が、「持続可能な社会の創り手」の育成に大きく寄与する可能性がある。

3.SDGs教育の意義と価値

持続可能な社会の中核としての教育

 ESDはSDGsの目標4「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯教育の機会を促進する」のターゲット4.7に位置付けられており、持続可能な開発目標を達成するために不可欠である「質の高い教育の実現」に貢献するものとされている。これは、2019年の第40回ユネスコ総会で採択されたESDの新たな国際枠組み「持続可能な開発のための教育:SDGs実現に向けて(ESD for 2030)」(2020-2030年)においても明確となっている。
 加えて、ESDはターゲットの1つとして位置付けられているだけでなく、SDGsの17全ての目標の実現に寄与するものであることが第74回国連総会において確認されている。持続可能な社会の実現のためには、それを担っていく人材が必要不可欠であり、SDGsの中核には教育がある。ここでいう教育は、学校教育に限定されないが、学校教育がESD実践の場として最重要であることには変わりない。
 ユネスコが発行している『グローバルエディケーションモニタリングレポート2016』は、「教育は人の価値観や物の見方を形成する。持続『不可能』な習慣を減らす、あるいは止めるために役立つ知識、技能、ツールの開発にも教育は貢献している。」として、教育が持続可能な開発にとっていかに重要であるかを説いている。人口、近代的な生活スタイル、個人の行動の3点が、環境悪化を引き起こしてきたことを指摘し、個人の行動が有効な解決策となることも示唆している。学校教育におけるESDの推進は、個人の行動変容を促す観点から、持続可能な社会の実現に大きく貢献しうるだろう。
 国際社会がSDGsによって目指す持続可能な開発の実現は、軍事・安全保障とは異なる角度から世界平和を成すプロセスであり、SDGsは地球上のすべての人々にそのプロセスへの参画を求めている。個人が「持続可能な社会の創り手」たる人間性を身につけること、そして、それを具体的に実践し地域社会の課題を解決すること、そういった個人レベル、地域社会レベルでの実践が持続可能な社会の実現に結びつくはずである。つまり、SDGs教育は人格教育・道徳教育の一環にもなるものであり、地域社会の課題解決においても重要な役割を果たしうる。

道徳的実践教育としてのSDGs教育

 ESDは子供たちに対して持続可能な未来を実現するための価値観と能力を育み、社会の変革を促していこうとしている。ESDが育む価値観は、「人間の尊重、多様性の尊重、非排他性、機会均等、環境の尊重等」であり、これは人格教育および道徳教育とも通じるものである。ESDでは、それらの価値観を具現化していくために必要な思考力・分析能力・コミュニケーション力・リーダーシップといった能力の育成も合わせて行うことが目指されている。
 中山(2020)によれば、特にアメリカの人格教育の中核には、若者が道徳的諸価値を理解し、道徳的共感性を養い、道徳的行動を実践できるよう支援するための徳育がある。一方、日本の道徳教育でも「道徳性」が重視されているが、その道徳性とは、道徳的判断力、道徳的心情、道徳的実践意欲と能力である。すなわち、このどれをとっても内面的な資質としての道徳性や能力という域をでておらず、アメリカの人格教育やサービスラーニングのように実世界での道徳の具体的実践を念頭に置いているものだとは言いがたい。その意味で、具体的な実践目標を掲げているSDGsを日本の道徳教育に導入することは、これまであまり重視されてこなかった道徳の実践面をさらに改善することへつながるのではないか。「持続可能な社会の創り手」の育成とは正に、持続可能な社会づくりの基盤となる道徳的諸価値観を理解し、道徳的実践の習慣を身につけさせるための教育であるといえる。つまり、SDGs教育は、人格教育・道徳教育を現代社会の文脈に落とし込んで行うものであると考えられる。

地方創生のカギとしてのSDGs教育

 SDGsが国連総会で採択された世界共通の目標であると聞くと、自分とは関係のないものと感じる人もいるかもしれない。しかし、先にも述べた通り持続可能な社会の実現は国連や政府がトップダウンで行えるものではなく、一人ひとりの行動の積み重ねの先にあるものである。目標はグローバルな次元で共有されていても、それに対する行動はローカルな現場で行われる。
 日本社会は少子高齢化、過疎化と限界集落、無縁社会や孤独死、子供の貧困など様々な社会課題を抱えている。日本が持続可能な社会であるためにはそれを構成する各地域やコミュニティ、そして人々の生活が持続可能である必要がある。持続可能な社会の実現は地域社会においても緊急かつ深刻な課題であり、SDGsは地域社会の中でも達成すべき目標であるといえる。日本政府も地方創生とSDGsを連結して考えており、内閣府が「地方創生SDGs」を推進している。実際にSDGs達成のための取組は各地域で行われるものが大半であり、身近な社会課題の解決がSDGsへの貢献となる。
 また、先に述べた日本の地域社会が抱えている諸課題は、他の国でも生じている文明史的な課題でもあるため、地域社会における課題解決はより普遍的な価値を持つ。SDGs教育は自分たちが直面している社会課題に主体的に取組むことのできる人材の育成であり、それはローカルかつグローバルな人材の育成なのである。
 ESD/ユネスコスクールに関する事業の中にも、ESD-SDGsコンソーシアムというものがある。これは、多様なESD/SDGs関係団体が協力する枠組みで、地域一体でのESDの普及から、特定のテーマに狙いを絞った実践まで、全国各地で多様な取組が行われている。地域社会の持続可能な開発、地方創生という観点からも、学校におけるSDGs教育がより一層地域社会と連携して展開されることが期待される。それは同時に、SDGs教育が学校教育にとどまらず、それに関与する多様な人々の生涯学習の一環となることも意味する。

4.学校におけるSDGs教育の現状と課題

小中学校の取組事例

 日本国内におけるSDGs教育の現状として、ユネスコスクールを中心に積極的に取り組んでいる学校もあるが、具体的な取組ができていない学校も多くある。まず、SDGs教育に積極的に取り組んでいる事例をいくつか紹介する。
 東京都の江東区立八名川小学校では、全ての教科・領域の学習を「環境・多文化理解・人権・学習スキル」という視点から統合的・横断的につなぐESDカレンダーや、主体的で対話的な学習指導法の推進を行っている。他にも、SDGsとESDの関係性を明確化する「SDGs実践計画表」を開発し、学習指導要領のカリキュラム・マネジメントを関連付けて普及している(外務省 ジャパンSDGsアワードHP)。
 神奈川県の川崎市立平間小学校では、「自分をつくり私たちのまちや学校をみんなで作り上げていく」という合言葉(平間プライド)を学校運営のマネジメントコンセプトに掲げ、子供発案による取組の実践や教職員による実践など、全ての教育活動をSDGsの視点からとらえて推進している。多摩川や地元商店街などの地域資源を最大限に活用して、子供たちが主体的に考えて行動する取組を重視し、保護者・地域・企業・行政・NPO等のステークホルダーを結集してSDGsを学び、実践する「平間SDGsフェス」等、地域を巻き込んだ様々な事業を展開している。子供たちがSDGsについて学んだことや考えたことを、家族や町の人に伝え、地域と共に以下に取り組んで行くかに力を入れており、多くのステークホルダーを巻き込んだ取組を川崎市内外に発信している(川崎市立平間小学校HP)。
 岡山県の山陽女子中学校・高等学校(現 山陽学園中学校・高等学校)地歴部では、瀬戸内海におけるプラスチックゴミやマイクロプラスチックなどの海洋汚染に注目し、地元漁師と共同して海ゴミの回収・分析を実践している。また、回収と併せてごみの発生量を減少させることを目的として、海ゴミの起源地である内陸部や沿岸地域で海ゴミ問題の啓発活動を行っている。この活動は、行政やNPO、地元メディアと協働することにより、地域に根差した継続的な取組となっている(外務省 ジャパンSDGsアワードHP)。
 また、学校単位ではなく教育委員会がSDGs教育に力を入れている例もある。福岡県大牟田市では、市内全ての小・中・特別支援学校がSDGsの達成に向けてESDを推進しており、一斉にユネスコスクールに加盟した。「大牟田市版SDGs」を作成して、市内全ての教職員や市職員、市民に配布した。また、各学校でSDGsの重点化を図り、子供たちが自ら地域の課題を見出し、自分で考えて行動する学びを展開し、SDGsについて考える授業を実施している(外務省 ジャパンSDGsアワードHP)。
 八名川小学校、平間小学校、大牟田市の事例は学校生活や日常生活における様々な事象をSDGsの各目標に結び付けて捉えなおし、持続可能な開発に対しての意識と行動を啓蒙する取組であるといえる。山陽女子中学校・高等学校地歴部の事例は、特に目標14「海の豊かさを守ろう」に直結するが、同時に目標12「つくる責任つかう責任」などにも関連している。このように、社会課題が相互に関連していることを17の目標を使って認識することができるのも、SDGsの魅力の一つである。

SDGs教育の課題

 ESDないしSDGs教育を積極的に推進している学校がある一方で、現場の声を聴いてみるとなかなか取り組めていない学校も多くあることがわかる。平和政策研究所が現役の教諭の方々を対象に独自に行った調査では、以下のように、なかなかSDGs教育を推進できていないという声が聞かれた。

・小学校教諭(徳島県):今の勤務校では、教職員間でSDGsに関する話題や議題は出ません。教育委員会からの書類で目にすることはありますが、教員にはまだ意識を向けるだけの余裕がないと思います。
・小学校教諭(静岡県):SDGsについては、学校の掲示板にポスターや掲示物が張られている程度で、特に意識した授業までは行われていません。
・小学校教諭(神奈川県):勤務校では、校長が職員会議の中で話題にしたり関心を持っている教員がクラスで紹介している程度です。市内のほかの学校でも、それほど認知度は高くなく、具体的な実践も少ないのではないでしょうか。

 SDGs教育の導入に関して、現状学校ごとに差があるのは仕方のないことであるが、その差を埋めていく取組が必要である。SDGsは広範囲に及んでいるため、各学校の文化・風土・教育方針などに応じて取組方を検討する必要があるが、実際の教育現場でそこまで手が回らないことも想像に安易い。既にSDGs教育に取組んでいる学校が、どのような観点で、どの目標に取組んでいるのかなど、具体的な取組や授業につながる情報の共有が必要であろう。そういった技術的な情報共有に加えて、教職員をはじめとする関係者がSDGs教育の意義と価値を深く認識する必要がある。

5.提言

(1)SDGs教育と道徳教育の連結を

 ESDには持続可能な社会づくりのための価値観の育成とそれに基づく実践を行う能力の育成が含まれる。現在学校教育現場において、ESDによるSDGs教育に関する単元は、社会科や総合的な学習の時間を主体として教育実践が行われ、その他、家庭科、英語科などで取り上げられている。関心のある教員によっては、国語科や美術科などの授業で取り上げている実践報告もある。しかし、道徳科におけるSDGsの扱いは明確ではない。
 道徳科とSDGsとの直接的な関連性については、新学習指導要領や解説には明記されていないが、指導上配慮すべき事項として、社会の持続可能な発展が現代的な課題として積極的に取り上げられることが求められている(上地2020)。道徳科でのSDGs教育の狙いは、事実や知識の習得ではなく道徳心・価値観の育成となるだろう。すでに実施されている社会科などでのSDGs教育や総合的な学習などでの実践教育と、道徳科でのSDGs教育が連結されることで、道徳性と知識や能力を兼ね備え、それらを実践につなげることのできる「持続可能な社会の創り手」の育成が行われることを期待したい。

(2)家庭や地域社会と連携した「持続可能な社会の創り手」の育成を

 先述した通り、ESDの根幹には「人格の発達や、自律心、判断力、責任感などの人間性を育むこと」および「他社との関係性、社会との関係性、自然環境との関係性を認識し、『関わり』、『つながり』を尊重できる個人を育むこと」という2つの観点がある。これらは学校教育のみで育まれるものではなく、家庭や地域社会での教育というアプローチも必要不可欠である。
 新学習指導要領のリーフレットには「目指すのは『社会に開かれた教育課程』の実現」という記載がある。そこには「保護者の皆さまや地域の皆さまのお力添えをいただきながら、 よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を達成していきます。」というメッセージが添えられている。また、別途保護者へのメッセージとして「お子さんが学校で学んだことについて、ご家庭で、ぜひ話し合ってみてください」と記載されている。新学習指導要領に記載された「持続可能な社会の創り手」の育成には、学校教育はもちろんのこと、その前提となる家庭での教育や地域社会との関わりも必要であり、それらが各々の役割を果たしながら「持続可能な社会の創り手」が育成されると考えられる。
 本稿で紹介した事例も含め既存のSDGs教育の取組にも、地域社会の他のアクターとのコラボレーションを実現している好事例が多くある。家庭・学校・地域が協力して身近な課題について考え、できることから実践していく草の根アクションがより一層広がっていけば、日本各地から社会課題の解決および「持続可能な社会の創り手」の育成が達成されていくのではないか。

(3)SDGs教育の成功事例を共有するプラットフォームの実現を

 学校教育現場においては、SDGs教育に取り組んでいる学校とそうでない学校との格差が懸念される。SDGsを学校で教育する意義や効果などをより多くの教職員に発信し、既存の成功事例とそのノウハウを共有するプラットフォームなどの仕組み作りが期待される。ユネスコスクール内では情報共有の仕組みがあるようだが、ユネスコスクールの枠組みを超えてSDGs教育を推進するためにも、文科省が主導して成功事例共有のためのプラットフォームを作るべきではないか。現在、文科省ホームページに、「教育現場におけるSDGsの達成に資する取組 好事例集」が掲載されているが、掲載されている事例数も少なく、十二分に改善の余地がある。トップダウンの仕組みづくりとボトムアップの実践共有が合わせて行われることで、学校教育現場にSDGs教育を普及させることが期待できる。

おわりに

 SDGsは2030年までの目標であるため、今後ポストSDGsに向けた議論が活発化することが予想される。SDGs後も続く持続可能な社会の構築に向けて、様々なレベルでSDGsに関連する取組を評価し改善していく必要がある。SDGs教育についての議論や取組が一層活発化し、「持続可能な社会の創り手」の育成のための教育が発展することを期待する。

 

■参考文献

岩下康子(2017)「SDGs達成に向けた教育の一考察−持続可能な社会の担い手を育成するために—」、『広島文教女子大学紀要』、広島文教女子大学、第 52号、pp.87−97。

上地完治(2020)「SDGsの学習が道徳授業にもたらすもの」『どうとくのひろば』、日本文教出版、No.027、pp2-5。
川崎市立平間小学校「平間小学校マネジメントコンセプト」http://www.keins.city.kawasaki.jp/2/ke203701/sdgs/concept.html(2021年6月7日閲覧)

後藤顕一(2016)「ESD の教育効果(評価)の現状と展望 国立教育政策研究所研究指定校を中心に」、『ESDの教育効果(評価)に関する調査研究 報告書』岡山大学、pp.88−99。

中山理(2020)「日本と欧米、アジアの人格教育と人材育成への提言 —道徳教育と人材育成の課題—」、平和政策研究所。
https://ippjapan.org/archives/4853(2021年4月21日閲覧)

文部科学省「ESD(Education for Sustainable Development)」
https://www.mext.go.jp/unesco/004/1339970.htm(2021年1月27日閲覧)

文部科学省「ユネスコスクール」
https://www.mext.go.jp/unesco/004/1339976.htm(2021年1月27日閲覧)

文科省・日本ユネスコ国内委員会 「ユネスコスクールで目指すSDGs 持続可能な開発のための教育」
http://www.esd-jpnatcom.mext.go.jp/about/pdf/pamphlet_01.pdf(2021年2月1日閲覧)

文科省ホームページ 「第1条(教育の目的)」
https://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/004/a004_01.htm(2021年4月21日閲覧)

JAPAN SDGs Action Platform「ジャパンSDGsアワード」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/SDGs/award/index.html(2021年1月29日閲覧)

UNESCO(2016)「グローバルエデュケーションモニタリングレポート2016 ユネスコ」独立行政法人国際協力機構(JICA)、ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)教育協力NGOネットワーク(JNNE)共同出版。

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