「学びの保障」総合対策パッケージ
学校の臨時休校措置が解除となり、6月から全校で授業がスタートした。文科省は6月5日、感染拡大の状況にかかわらず、子供たちの学びを最大限に保障しつつ、新学習指導要領が目指す学びを着実に実現するために、「『学びの保障』総合対策パッケージ」(以下、パッケージ)を公表した。
分散登校の実施、時間割編成の工夫、長期休業期間の見直し、土曜日の活用等の取り組みを行う。それでも年度内終了が困難な場合は、次年度以降に繰り延べ編成するなど、特例的な対応も認めた。また入試学年の高3、中3学年が不利益にならない措置を講ずるとした。
その上で、国全体の学習保障を実現するために必要となる人的・物的支援を打ち出した。人的支援として、例えば分散登校に伴う教員や指導員等の人的体制を整備するために、退職教員、学習塾講師、大学生など地域人材を活用する。また物的支援として、子供「1人1台端末」の早期実現など、「GIGAスクール構想」を加速的に進めることを打ち出した。
ICT活用教育の4つの柱
「GIGAスクール構想」とは、「児童生徒1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備し、多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化された創造性を育む教育を、全国の学校現場で持続的に実現させる構想」である。
昨年6月21日、「学校教育の情報化の推進に関する法律」が成立。同年12月に閣議決定した「安心と成長の未来を拓く総合経済政策」のなかに、「GIGAスクール構想」の実現が盛り込まれた。
日本は学校のICT活用がOECD加盟国中で最下位にある。文科省調査では学校の学習用端末は子供5.4人に1台、自治体間の格差も拡大している。また臨時休校中の4月に実施した公立小中高校等の家庭学習の取り組み状況調査では、デジタル教科書や教材の活用は29%、双方向型のオンライン指導は5%に止まった。
そこで文科省はICT活用の遅れと休校期間の学習の遅れを同時に解消しようと、2023年度実現予定の「GIGAスクール構想」の前倒し実施を決定した。
文科省はICT活用の柱として、一斉学習、個別学習、協働学習、遠隔学習の4つを挙げている。
従来型の一斉授業を電子黒板で行う一方、単語習得や発音練習など基礎的な反復学習は一人ひとりの習熟度や適性に合わせた個別学習で実現する。
また新学習指導要領が示す、発表や話し合い、共同制作など主体的で生きた学びをICT活用による協働学習で実現する。さらに離島やへき地校と他の学校、外部の講師と繋げることで遠隔学習が可能になる。
さらに学習支援が遅れている不登校児やひきこもり、外国人児童生徒や病気療養中の子供への教育をオンライン授業で実現できる。
教育へのICT活用の意義
ICT活用の意義は、一つに休校中の学びの遅れを公正に効果的に保障するとともに、新学習指導御要領が示す「主体的・対話的で深い学び」を実現できることにある。
もう一つは自治体間のICT格差を是正し、教育支援が遅れている不登校児や外国人児童生徒など、すべての子供に等しく学びを保障することで、教育の格差是正を図ることにある。
端的な例では、島根県の隠岐島前高校は遠隔教育の導入などで高校魅力化を図り、地域振興に繋げることができた。
また神奈川県横浜市の鴨居中学校では昨年からオンライン学習教材「デキタス」を試験導入、不登校児の通学意欲の向上や成績向上、学習意欲の向上など、短期間で高い成果が出ている。
日本財団が新型コロナウイルス感染拡大による休校長期化の影響について、全国の17〜19歳男女千人に意識調査したところ、58.6%が「教育格差を感じた」と回答した。多くがオンライン学習の遅れによるものだった。
AIを活用した個別最適化教育により、単語習得や発音練習など基礎的な反復学習を効率的に達成し、標準授業時数に束縛されることなく学びの保障が可能になる。さらに新学習指導要領が示す、主体的で対話的な学び、アクティブラーニングに繋げていこうというのが文科省と経産省が進める「GIGAスクール構想」による学び方の革命である。
Withコロナの学校教育
6月21日公表の内閣府の調査によると、小中学校で「オンライン教育を受けている」は、全国平均45.1%だったが、都市部先行で地域によるばらつきがあった。文科省は夏休みまでにオンライン授業ができるように、デジタル教科書の普及など学校のIT環境整備を加速させていく方向だ。
今回の学校の一斉休校をきっかけに、ICT活用に消極的だった教員もオンライン授業に取り組むようになるなど、教員の意識にも変化が生まれつつある。ICT環境が急速に整っていくなか、教員のIT活用指導能力をどう向上させていくかが当面の課題となる。
その上で、新学習指導要領が目指す主体的な学びをどう実現するか。新型コロナ収束後の新しい時代の教育のあり方について、文科省中教審分科会で教師による対面指導とオンライン教育をうまく融合させたハイブリッド型授業など、様々な議論が行われている。
教育は国家百年の大計と言われるなか、新型コロナをきっかけに明治以来の教育のあり方について抜本的な見直しが進むことになる。