アフリカをめぐる日・米・中の国連PKO政策の現状 ―南スーダン撤収後の日本の課題―

アフリカをめぐる日・米・中の国連PKO政策の現状 ―南スーダン撤収後の日本の課題―

2018年3月16日

はじめに

 日米中の関係を国連PKOという視点でみれば、三カ国が国連PKO活動に関して直接的な接点を持つ機会は少なく、日米中の外交関係との関連性は低い。国連PKO活動の現状をみると、これまで主要アクターは国連安全保障理事会の中でもP3と呼ばれる米国、イギリス、フランスであった。特にアフリカに関しては、イギリスとフランスが長い間影響力を持ってきた。現在はこれに中国が加わりP4になりつつある。中国はかつてPKO自体に慎重であった。現在は政策を大きく転換し積極的に関与している。米国も対アフリカ戦略の変化とともにPKO政策を変化させている。
 では、日本は国連PKOに対して何ができるのか。現状の国連PKOはアフリカが中心であり、「文民保護」が主要な任務のひとつとなっている。その中で日本が自衛隊派遣という形で出来ることは少なく、今後国連PKOといかに関わっていくべきかは難しい課題となっている。

1.各国のPKO政策-国連PKOは「有益」か?

要員、予算、人事からみる各国比較

 国連加盟国がPKOにヒト・モノ・カネを出すのは、有益だと考える何らかの理由があるからだ。図1は、国連ミッションへの各国の軍事要員・警察要員・司令部要員の派遣状況を示している。国連PKOは122カ国による多国間協力枠組みだが、長い間エチオピア、バングラデシュ、インドの3カ国が上位を占め、途上国が人材面でPKOを支えてきた。

 特にインドは、イギリスの植民地だった時代から伝統的に規律のとれた軍隊を持っており、冷戦期のコンゴや中東などさまざまなPKOで頼りにされてきた。近年、アフリカでのPKOが増えてくるとルワンダも上位に入るようになった。パキスタンもインドやバングラデシュとともに伝統的に多くの人材を派遣している。
 中国が11位に入っているが、これは10年前には考えられなかった変化である。中国が本格的にPKOに人材を派遣するようになったのは、2008年頃の国連AUダルフール合同ミッション(UNAMID)が最初である。国連PKOを人材面からみるとき、中国の変化は大きな要素となっている。中国は長いあいだ内政不干渉原則を根拠に国連PKOには否定的であり、国連安保理の決議にも賛成票を投じない姿勢をとってきた。その政策を大きく転換し、現在は積極的に資金も人材も出している。
 米国は73位で基本的に文民以外の人材を出していない。日本は2017年5月に南スーダンから自衛隊の部隊を撤収し、その後は司令部要員のみ出しているため112位である。フランス、ドイツ、イギリスが30~35位に入っているが、国際的な潮流としては、先進国は実働部隊を出さず途上国に出してもらうという国際的分業がみられる。

 図2は、日米中のPKO要員提供数の推移である。米国は1993~94年頃をピークとしてソマリア、カンボジア、旧ユーゴスラビアなどにPKO要員を派遣していたが、98年頃から大きく減少し、現在まで減少傾向が続いている。それに対し、中国は2008年頃から大幅に増加し、2004年頃を境に米国と入れ替わる形となっている。日本については大きな変化はみられない。

  図3は、2014年の時点で日本、中国、韓国、ドイツがどこに国連PKO・政治ミッションの要員を派遣していたかを示している。中国、韓国、ドイツに共通する特徴は、単一のミッションに多数の人材を派遣するより、複数のミッションに幅広く派遣している点である。たとえ少人数ずつであっても広範囲に派遣することで、世界全体を俯瞰できる政策をとっていることがわかる。日本はかつてゴラン高原の国連兵力引き離し監視軍(UNDOF)を始めとする活動に自衛隊を派遣していたが、14年の時点で派遣先は南スーダンのみであった。こうして比較してみると、日本の派遣状況が他国とかなり違っていることがわかる。
 またPKOの事務総長特別代表(SRSG)や軍事司令官(Force Commander)の出身国をみると、米国は人数は多くないが中央アフリカ多面的統合安定化ミッション(MINUSCA)とコンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)にSRSGを出し、中国は西サハラ住民投票監視団(MINURSO)にForce Commanderを出している(2017年11月23日時点)。その他のミッションではアフリカ出身のSRSGが増えている。デンマークやスウェーデンなど先進国出身のSRSGもいるが、アフリカからの要員の派遣数増加に伴ってPKOのトップにもアフリカ出身者が増える傾向にある。
 トランプ大統領が国連への拠出金を大幅に見直すと述べ、国連の次年度のPKO予算は14%削減されることになったが、この中で最も多く削減されるのがコンゴ民主共和国のMONUSCOの予算である。MONUSCOは長期にわたる困難なミッションで、人道危機も深刻である。中央アフリカのMINUSCAも、PKOの中では過激派対策や文民保護など複合的な安全保障が必要な難しいミッションである。このように、米国は要所を外さず重要なミッションには米国人を入れていることがわかる。
 これに対して国連でPKOの業務を取り扱うPKO局(DPKO)、フィールドの支援を担当するフィールド支援局(DFS)の責任者は現在もフランス人やイギリス人であり、日米中の出身者が務めることはほとんどない。ただし、今後中国人がトップを務める日も遠くないとの見方もある。

米国の国連政策

 このような状況のもと、米国は国連や国連PKOをどのように考えているのか。米国は国連を無用な存在と捉えているわけではない。依然として自国の政策のauthorityの源泉と認識し、国連という場を政策実現のツールとして活用しようとしている。その上で、米国は「責任ある分業」によるPKOを指向している。つまり、どうしても米国がやらなければならない活動、あるいは米国にしかできない活動以外は他国に任せるというやり方である。特にアフリカについては、南スーダンを例外として、基本的にイギリス、フランスに任せている。テロ対策や国連PKOではないオペレーションには米国が出てきて主導権を持つ。
 米国のこうした動きにかんがみて、非常に重要なのがEUのPKO政策である。2000年代に入ってから、アフリカにおけるEUの存在感が非常に大きくなっている。EU加盟国が個別にPKOに参加している場合もあるが、コンゴ民主共和国の東部のミッションなどにはEUとして部隊を展開している。また国連PKOが展開していないソマリアでは、EUがAUの活動を支援している。米国が責任ある分業を求める中、EUおよびEU諸国が担っている役割が大きいと考えられる。
 米国のトランプ大統領は国連に懐疑的だと言われていた。しかし、2007年9月の国連総会における演説を聞く限り、必ずしもそうではないのかもしれない。むしろ自国の利益に適うように国連を改革したいと考えているのではないか。大統領として最初の国連演説であれば、「自分が大統領になったからにはこれまでとは違う国連にしてみせる」といってもおかしくない。しかしトランプ大統領やニッキー・ヘイリー国連大使の国連政策は、何より無駄を省くことを基本としているようだ。その意味では、前述したコンゴ民主共和国におけるPKOミッションの予算削減も妥当だと認識されている。MONUSCOは拡大し過ぎていて、国連PKOの能力以上の任務を任されているため、米国が予算を削減するのは理に適っているという理由だ。
 ただし、今のところトランプ政権から国連に対して具体的な政策は示されていない。オバマ大統領とスーザン・ライス国連大使の時代からトランプ大統領とニッキー・ヘイリー国連大使に変わっても大きな混乱が起きていないのは、おそらく国務省レベルで政策の一貫性が保たれているためであろう。米国の国連政策はワシントンで決められているというより、スーザン・ライスやニッキー・ヘイリーなどニューヨークにいる国連大使が中心になって直接動かしている面も少なくないとみられている。

「普通の大国」としての中国

 中国については、「普通の大国」になろうとしている。前述のとおり、かつては内政不干渉原則を主張して国連PKOには参加せず、予算も人も出してこなかったが、90年代に入ると政策を転換して反対しなくなった。現在は、特にアフリカのPKOミッションに対して積極的にお金も人も出している。国連の事務局レベルで高いポジションに就いている中国出身者はまだそれほど多くはないが、中国が負担する国連予算の割合は増しており、存在感が高まっている。国連総会で予算について議論するPKO特別委員会でも、中国は自国が拠出する予算の使途について以前より具体的なコメントをするようになったといわれている。国連分担金やPKO予算を自国の政策の中で実質的に位置付け、重視していることの表れであろう。またPKOのフィールドに多くの人材を出すことで、現場でも存在感が増している。

日本はPKO総括の時

 日本については、国連PKOがアフリカを中心に展開している現況では、今後直ちに自衛隊の要員提供を行う可能性は低いと思われる。しかしそうであればこそ、南スーダンの事例も含め、過去25年にわたる日本のPKO活動の総括をしておくべき時ではないか。この点に関しては研究者の役割も大きく、日本のPKO政策の議論を活発化させる努力が必要であろう。そうした総括を踏まえてこそ、今後日本がどの地域にどのように関わってゆくべきか、具体的に見えてくるのではないか。
 なお、内閣府が毎年実施している「外交に関する世論調査」によれば、国連PKOへの参加について、国民の考え方にこの10年間で大きな変化はみられない。「これまで以上に積極的に参加すべきだ」という意見はやや減っているものの、「これまで程度の参加を続けるべきだ」が半数以上を占めていてもっとも多い。
 ちなみに米国の世論は、ギャラップの最新の調査(図4)によれば、「国連が良い仕事をしている」との評価が6割を超えない範囲で上下している。2001年に58%でもっとも評価が高く、その後徐々に下がっている点は興味深い。しかし、「米国は国連から脱退すべきか」との問いに対しては、常に10%程度の国民が「はい」と回答しているのに対し、最新の統計(2005年)では85%が「いいえ」と回答している。国連に対する評価を支持政党別にみると、概ね共和党員は低く、民主党員は高い。ギャラップの調査では「無党派(independent)」の人々が国連をもっとも高く評価している(図5)。米国はこうした世論の中で国連PKOに予算や人材を出すか否かを判断する状況となっている。
 

2.南スーダンをめぐって-なぜ各国はアフリカに関与するのか?

複合的危機としての南スーダン

 各国がなぜアフリカの国連PKOに参加するのか、南スーダンの事例から考えてみたい。南スーダンの場合、最大の特徴は複合的危機を抱えているという点である。もともとスーダンでは北部と南部の内戦が続いてきたが、2005年に南北包括的和平合意(CPA)が成立し、一応の終結をみた。その後、2011年1月に南部スーダンで住民投票を実施した結果、98.83%の圧倒的多数が独立を支持し、7月に南スーダンが独立した。南スーダンはもっとも若い独立国であると同時に、国連にとってももっとも新しい加盟国である。
 南スーダンが独立した時点で、それまでスーダンという一つの国に展開していた国連スーダンミッション(UNMIS)というPKOが国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に切り替わった。国連は南スーダンの独立以前からこの地域に継続的にPKOを派遣している形である。

PKOによる文民保護

 2011年に開始したUNMISSの主要マンデートは、当初、独立国の安定と発展を目指す「国づくり」であった。ところが、2013年12月に大規模な戦闘が発生し、それが大きく変化することになった。大量の市民が保護を求めてPKOの施設に駆け込み、国連がPoCサイト(Protection of Civilians Sites)と呼ばれる文民保護区を設定したのだ。これは国連PKOミッションとして初めての措置であった。この時点から、南スーダンにはすでに達成すべき和平がなく、人々が人道危機に直面しているという事実が懸念材料として持ち上がってきた。
 2016年2月、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や国境なき医師団などのNGOが活動していたマラカルという地域で襲撃事件が発生し、さらに7月には首都のジュバで戦闘が起きた。この頃から日本では自衛隊による「駆け付け警護」に関する議論が本格化し、自衛隊の新たな任務として付与されることになった。2017年になるとコレラが流行し、衛生上の問題に対する懸念も新たに広がり始めている。
 UNMISSが公表している数字では、2017年11月16日現在、UNMISSのPoCサイトで保護を受けている文民の数は20万9885名にのぼる。南スーダンだけで相当な人数を保護しているが、国連がPKOを展開する中でこうしたPoCサイトを今後も維持し続けるのは、現実的には困難とみられている。文民保護はUNMISSの主要マンデートのひとつではあるが、現地の状況は単純に大統領派と副大統領派の政治的対立というレベルを超え、各地で群雄割拠の様相を呈している。何を解決すれば南スーダンの和平が持続的に達成できるかというアジェンダが簡単には見えてこないのが実情だ。
 独立当時と比べ、和平交渉をするための状況はますます複雑化している。その中で多くの市民が攻撃対象となり、さらには市民を保護する国連PKOも攻撃対象となって活動が困難な地域もある。このような状況の中、UNMISSは国連PKOの中でももっとも多くの予算と人材を要するミッションとなった。前述のように、米国がPKOの効率化を求める中で、今後も長期的に活動を維持するのは容易でない。文民保護は、その必要性は広く認識されているものの、達成が難しいマンデートになっている。

米国の対アフリカ戦略の変化

 南スーダンでは、90年代から国連世界食糧計画(WFP)などを中心とするOperation Lifeline Sudanという人道支援のオペレーションが行われていた。米国も同時代から国際開発庁(USAID)のGreater Horn of Africa Initiative(GHAI)というプログラムを通じて「アフリカの角」地域に重点的な人道・開発援助を行っており、継続的にスーダンを支援してきた。しかし、1998年のケニア・タンザニア米国大使館爆破事件を契機としてテロ対策を本格化させ、2001年9月の同時多発テロを機にアフリカ諸国との連携が不可欠だと認識した。そうした背景のもと、2007年にブッシュ大統領が設置した「米国アフリカ軍」(AFRICOM)や国連PKOでは、紛争予防を目的とした能力開発に焦点を当て、アフリカの平和と安定を図ろうとしている。

中国のアフリカ関与強化

 中国は南スーダンのUNMISSにも部隊を派遣しているが、2016年7月のジュバにおける戦闘で自国の要員に犠牲者が出た。このときはCCTVなどのメディアでも大きな批判の声が上がることはなく、南スーダンからの撤退を求める世論も起きなかったといわれている。他方、マラカルやジュバでの戦闘の際にUNMISS要員として現地にいた中国部隊が、文民を保護するよう求めたSRSGの指示に従わなかったとして批判された。中国は南スーダンに要員を派遣していることで、良くも悪くも話題に上ることが多くなっている。中国がアフリカへの関与を深める動機としては、①自国の経済活動に必要な資源の獲得、②市場の開拓・確保、③大国としての名声などが挙げられる。

実働部隊としての地域機構

 現在、南スーダンはどのような状況になっているのか。国連安保理は、治安が悪化した南スーダンの困難な状況に対し、アフリカ諸国が実働部隊として地域保護軍(Regional Protection Force)を編成して現地に展開することを許可した。実は、アフリカ諸国は以前から地域機構のAUあるいは準地域機構の政府間開発機構(IGAD)として部隊を展開することを国連に提案していた。国連がアフリカでPKOを派遣する地域、あるいは派遣したいができない地域においては、地域機構や準地域機構が独自にミッションを展開し、国連がそれをバックアップするというスキームができている。その一例として、2017年8月から地域保護軍が南スーダンでの活動を開始した。このようなケースから、アフリカにおける紛争の「現地化」の傾向が強まっていることが読み取れる。

3.国連PKOの変容と日米中-南スーダンは試金石か?

2000年代以降のPKOの潮流

 国連PKOが変容する中で、日米中のPKO政策は今後どのように変わるだろうか。2000年代以降、国連PKOの潮流には二つの大きな変化があった。ひとつはカンボジアや東ティモール、コソボのケースにみられるように、PKOが暫定統治や選挙監視などを通じて国づくりを担う「複合化」である。もうひとつは積極的なPKOともいわれるが、武力行使の権限も付与する「ラバスト化」である。PKOが変化する背景として、紛争そのものが複合的危機、特に人道危機を抱えるようになっている。

HIPPO報告

 そうした中、2015年以降、国連が重点を置くポイントがより明確になってきた。2015年にはラモス・ホルタ元東ティモール大統領を座長とする国連平和活動ハイレベル・パネル(High level Independent Panel on Peace Operations, HIPPO)が報告書を出した。これは現在のグテーレス事務総長による改革にも引き継がれている。
 報告書のポイントは3つある。第一に、国連PKOの展開が必要な紛争についてもっと和平を達成することに注力し、和平交渉に重点的に資源を投じるべきだとして「政治の卓越性」を強調している。第二に、パートナーシップを重視しAU、IGAD、EUなど地域機構・準地域機構との協力の必要性を強調している。これは特にアフリカの紛争に関して顕著な特徴である。
 例えばソマリアのケースでは、安保理の決議に基づきPKOを展開することが検討されるはずだったが、いまだに実現していない。国連PKOではできない武力行使が必要な事態が想定されるためである。そこで、AUの実働部隊としてAUソマリア・ミッション(AMISOM)が展開することになった。国連はAMISOMやIGADの活動をロジスティクスやノウハウ、能力構築面で支援している。ほぼ国連加盟国のみでPKOを展開していた時代から、地域レベルのアクターに実際の活動を任せる時代へと変わってきているのである。
 第三に、複合的危機に対応するために人道開発分野とのリンケージの必要性が高まっている。これについては90年代、2000年代にも指摘されていたが、最近国連はsustainable peace(持続可能な平和)というキーワードを使っている。平和をより持続性のあるものにするため、平和維持と人道開発分野の連携を組織間の協働においてもPKOの考え方としても、より深める必要があると提案されている。
 このような国連PKOの新しい潮流は、まさに南スーダンのケースから浮かび上がってきた問題を、限られた資源のなかでどのように扱えばよいか、加盟国が試行錯誤した結果として生み出されてきた。

おわりに-日本はPeacekeeperたるべきか?

オールジャパンと包括的アプローチ

 では、果たして日本はこのような国連PKOにおいてPeacekeeperになれるのか、あるいはPeacekeeperたるべきなのか。明確な答えはないが、いくつかの点を指摘しておきたい。
 まず、研究分野でも実務分野でも、オールジャパン体制や包括的アプローチの必要性が指摘されている。人・お金を出すためには、国連PKOを外交・安全保障政策全体の中に位置づけなければならない。南スーダンから自衛隊が撤収したあと、メディアはこの問題にほとんど触れなくなってしまった。そのような状況の中で、日本は本当に国連PKOに貴重な資源を出すべきなのか、議論が必要である。そのためには南スーダンを含め、25年にわたる国際平和協力活動の検証が不可欠である。
 これまで述べてきた国連PKO改革の潮流は、日本にとっても親和性のある外交政策として取り入れることが可能であろう。
 さらに、PKOを含め予算や人材を投じて何らかの活動を続ける際には、その基準や規範を誰が作っているのかを考える必要がある。米国はここ数年、国連総会で自らPKOサミットを主催し、国連PKOがいかに重要かというアジェンダ・セッティングを積極的に行っている。例えば、2017年のPKOサミットではペンス副大統領が演説し、トランプ大統領のいう「アメリカ・ファースト」は決して「アメリカ・アローン」を意味するのではないと述べた。米国は自国の利益を追求するため、必要であればいつでも多国間協力を行う用意があるということだ。日本もこのような場で自国にとっての国連PKOの重要性を表明することは可能だろう。

日本と中国のPKO政策の共通性

 日中のPKO政策には共通性があるという指摘がある。日本には憲法9条があり、中国には内政不干渉原則がある。これらを乗り越えてでも要員を派遣するには、世論に対してそれなりの説得力がなければならない。その意味で、日中はPKOに要員を提供するという面ではある程度似た状況にあるのかもしれない。
 中国国防部ウェブサイトに、中国がPKOに参加する目的は「漢方的な発想」に基づく平和構築であるという興味深い表現があった。つまり、西欧諸国が人道的介入をしたり、グローバル・ガバナンスの名のもとで対象国の政策や指導者を変更したりするのとは違うという意味だ。あくまでもその国が持つ「自然治癒力」を支えるのが中国の役割だとしている。このような考え方は、実は日本の「人間の安全保障」の発想ともよく似ている。
 一方で、中国は2017年の国連PKOサミットでAUの軍事的キャパシティ・ビルディングに1億ドル拠出することも表明している。王毅外相の演説は簡潔だったが、PKOを支えるにはAU支援が必要であり、そこに中国は資金を提供すると述べて明確な路線を打ち出した。

ジブチの「軍事拠点銀座」

 なお、国連PKOから話題は逸れるが、アフリカへの関与については現在ジブチが「軍事拠点銀座」と化している。日本も自衛隊が拠点を持っているが、すぐ近くには米軍、フランス軍、イタリア軍も駐留している。中国はそこから少し離れた場所に独自の拠点を築いており、中国の支援による港湾もあわせて整備されている。ジブチは地理的に重要な位置にあり、対岸のイエメン情勢が不安定化し非常に危機的な状況である。アデン湾では海賊対処も行われている。アフリカをめぐって同じ空間に日米中が存在しているわけだが、中国は初の海外軍事拠点をジブチに置いた理由として、アフリカの国連PKO支援に必要だからだと説明している。

日本のPKO政策の方向性

 日本には自衛隊の施設部隊による多くの活動経験があり、その点では他国に対して優位性がある。より広い視野でみれば、日本としては平和維持あるいは安全保障に関する活動と開発・人道分野の活動のリンクをより深めていくことが現実的であろう。これは日本が独自に進めるというより、国連のPKO政策自体がそのような潮流になっているためでもある。
 また、現在のアフリカの紛争の多くは国家間の紛争というより、いわば“No peace to keep”(維持すべき平和がない)の状態だ。PKOが展開するために必要な和平合意すら達成されていない状態で活動を開始しなければならない場合もある。現地では紛争によって一般市民が攻撃の対象になるなど、非常に深刻な状態もある。国連PKOを展開する場所や状況が複合的な人道危機を抱えているのである。
 前述したとおり、国連はアフリカの紛争にPKOを展開する場合、これまで以上に平和維持と開発・人道支援などのリンクを深める方針を打ち出している。日本はグテーレス国連事務総長が進めるPKO改革の方向性に親和性を持った政策をとることができるのではないか。

【本稿は、2017年11月24日に開催した政策研究会における発題を整理してまとめたものである。また、発題は、科学研究費補助金 基盤研究(C)「国際平和活動におけるアクター間協力生成の因果メカニズムに関する学際研究」(16KT0159)の成果の一部である。】

政策オピニオン
井上 実佳 東洋学園大学准教授
著者プロフィール
津田塾大学大学院 国際関係学研究科博士課程 単位取得満期退学。コロンビア大学 SIPA訪問研究員、外務省調査員、広島修道大学法学部准教授、広島平和研究所客員研究員等を経て、現在、東洋学園大学グローバル・コミュニケーション学部准教授。専門は国際政治学、国際組織研究、特にPKOの変遷とアフリカの紛争など。著書・論文に『平和と安全保障を考える事典』(共著、2016年)、「アフリカの安全保障と国連―国連平和維持活動(PKO)における地域機構との関係を中心に」(『国連研究』、2011年)、「国連のアフリカPKO派遣―スーダンを事例として」(『国際平和活動における包括的アプローチ』、2012年)、「保護する責任と国連平和維持活動―アフリカを事例に」(『国際安全保障』、同)など多数。

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