IPP分析レポート

2018年3月16日

トランプ米大統領初の一般教書演説 ―中間選挙を乗り切れるか―

筑波学院大学名誉教授 浅川公紀
1944年山梨県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了。筑波女子大学教授、筑波学院大学教授、武蔵野大学教授、同・国際交流センター長を歴任。専門は国際政治、米国政治外交論、日米関係論。著書に『国際政治の構造と展開』、『戦後米国の国際関係』、『アメリカ外交の政治過程』、『アメリカ大統領と外交システム』など多数。

継続する米国民の分断

 トランプ米大統領は2017年1月20日の就任から1年を経過した。11月8日には政権運営への審判となる中間選挙が実施される。ツイッターその他で繰り返される暴言と挑発で米国内、世界を翻弄し、混乱させてきた。この1年間を通じて、世論調査による支持率は40%前後で低迷し、就任1年目の大統領支持率としては歴代での最低水準だ。CBSニュースの調査では、就任後1カ月目も1年目もともに、共和党支持者の8割強、民主党支持者の1割弱、無党派層の3割強が大統領を支持と、米国民の態度は殆ど変化していない。トランプ大統領をめぐり米国民の分断が継続している。
 1月に入ってからは、共和党と民主党、ホワイトハウスと議会が移民問題などで激しく対立し、連邦政府の支出を手当てするつなぎ予算に合意できず、米上下両院が22日、連邦政府の2月8日までのつなぎ予算案を可決、トランプ大統領の署名を経て成立した。20日に始まった政府機関の一部閉鎖は3日目の22日に解除された。
 トランプ大統領は30日、米議会上下両院合同会議で一般教書演説(State of the Union Address)を行った。これは合衆国憲法(第2条第3節)に義務付けられており、通常、議会が招集される1月下旬に行われる。国の現状 (State of the Union) についての大統領の見解を述べ、主要な政治課題を説明する。同大統領は2017年2月にも米議会上下両院合同会議で演説したが、就任の年に行った演説は一般教書とは言わない。したがってトランプ大統領の一般教書演説は初めてである。
 トランプ大統領は、共和党と民主党の協力、国民の団結を呼びかけた。「我々は1つのチーム、1つの国民、1つの家族だ」、「違いを脇において共通点を探り、我々を選んだ人々に応える仕事をするため結束しよう」といった大統領の言葉に、その目標が反映されていた。トランプの演説は、米国社会の破綻を強調し「米国内の殺戮(さつりく)(carnage)はたった今ここで終わる」と過激な言葉で米国の現状を形容した1年前の就任演説に比べ、前向きのトーンで比較的穏健だった。融和的な言葉で、分断を癒そうとする努力は見られた。
 一般教書演説では、大統領が国民の代表を7~8人ゲストとして招待し、演説で模範的市民として紹介するのが慣例になっている。トランプ大統領の場合、15人もゲストとして招待した。トランプは人の気持ちを無視し、無礼で挑発的な発言をするということで定評がある。政策以上に、トランプ自身の人柄が多くの米国民を反トランプにしている原因になっている。トランプの実績や政策に関係する15人のゲストを呼び、その人生物語を紹介することにより、演説内容に人間味を持たせ、受け容れやすくすることに狙いがあった。確かにこれが演説内容をカラフルにし、感情を訴える場面を作ったことは確かだが、トランプの思考や政策内容にあるトゲを打ち消すことはできなかった。
 しかし、トランプ大統領の意図に反して、この最初の一般教書演説も米国民の分断を反映したものになった。CNNによると、少なくとも14人の民主党議員が演説参加をボイコットした。この人数は史上最大規模である。また分断を煽るような演説など聞きたくないというのが、ボイコットの理由の1つだった。演説に参加した民主党下院議員65人はじめ多くが一様に喪服を思わせる黒い服を着ていたのが目立った。トランプ大統領や議員によるセクハラ疑惑が相次いで浮上していることから、黒い服を着て抗議の意思を示すためだった。2017年にハリウッドから世界に広がったセクハラ被害を訴える女性の運動「#MeToo(私も)」に連帯を示すジェスチャーでもあった。ジャッキー・スパイア―下院議員(カリフォルニア州)は、一般教書演説のゲストにセクハラ被害を訴えている元議会職員1500人の代表を招待した。
 演説は5190語から成り、1時間20分かかった。演説は拍手で115回中断した。クリントンに次いで長い一般教書演説だったが、その間、議場の共和党議員は何度も起立して演説に拍手喝采を送った。それに対して、民主党議員の殆どは拍手せず無表情で座ったままだった。トランプ大統領の演説の後に、慣例に従って、民主党の反応を代表する公式演説がケネディ元大統領の弟、ロバート・ケネディ元司法長官の孫(で3期目の故ロバート・ケネディの孫)のジョー・ケネディ下院議員(マサチューセッツ州)により行われた。ケネディ議員は、大統領が統合と平等という共有目標の概念を破壊したと批判。「現政権は我々を守る法律だけでなく、我々全員が保護される価値があるという考えも攻撃している」と述べた。
 さらにチャック・シューマー民主党上院院内総務(ニューヨーク州)は、「分裂を煽る長い1年の後、多くの米国民は国が結束するビジョンを大統領が示すことを切望していた。残念ながら、大統領の今晩の演説は我々を団結させるどころか、分裂の火種になった」と述べた。

一般教書演説の中身

 演説の中身はどうだったのか。一般教書演説の伝統に従い、米国の現状、内政・外交の課題について所信を表明、超党派で政策の実現にあたるよう強く呼びかけた。トランプ大統領は、「米国民は強いがゆえに、米国の結束も強固である」とアピールした。また、「違いを脇において共通点を探り、我々を選んだ人々に応える仕事をするために結束しよう」と融和姿勢を示した。また「政府と市民との信頼の絆を取り戻そうと模索している」とも述べた。
 トランプ大統領は、ます過去1年間の実績として、米経済の成果を並べ立てた。製造業での20万人の雇用を含む240万人の新規雇用、賃金上昇、過去45年間で最低水準の失業率、黒人、ヒスパニック系の史上最低水準の失業率、株価上昇で株時価総額8兆ドル増。トランプ大統領は、「税制改革法が成立して以来、約300万人の米労働者がすでにボーナスを受け取っており、その多くは1人当たり数千ドルを手にした」とアピールした。
 そのため、オハイオ州から減税で恩恵を受けた経営者、従業員3人をゲストとして招待し、紹介した。また規制緩和の推進により、自動車産業が復活し、米国はクリーン石炭などの開発によりエネルギー輸出国に転換したことを強調した。自動車産業はじめ多くの企業が、海外から米国内に工場を移していると述べた。
 大統領としての実績、この1年間の成果を列挙したうえで、米国の現状を「新しいアメリカの時代が来た」「アメリカンドリームを実現するのに、今より良い時はなかった」と強調した。
 トランプ大統領は1月26日のスイスのダボスでの世界経済フォーラム(WEF)でも、こうした株価の記録的な上昇や雇用拡大など米国経済の強さを強調した。「米国が成長すれば世界が成長する」との認識を示した。
 今後の政策の優先課題として、インフラ投資を挙げ、今後10年間で少なくとも1兆5000億ドルを投じて道路や橋梁や空港、港湾、鉄道の建設・補修を進めるビジョンを打ち出した。「崩れつつあるインフラを今こそ再建するときだ」と述べ、超党派の協力を訴えた。
 トランプ大統領は、「企業や雇用、米国の富を海外に流出させ、繁栄を犠牲にする不公正な状況から局面を変える」とし、改めて「米国第一主義」の通商政策を推進すると言明。貿易不均衡の是正に向け、「公正かつ互恵的な貿易を約束する国々との新協定を追求する」と述べた。最大の貿易赤字相手国である中国の名指しは避けたが、「労働者と知的財産権を守る」と強調した。大統領はインフラ、貿易などの政策課題で、「経歴、人種、信条を問わず、全ての米国市民を守るため、今晩、私は民主、共和両党メンバーに協力を呼びかける」と訴えた。
 大統領は、もう1つの国内政策の優先課題として、「米国の労働者と家族の利益に最もかなうことに重点を置いた移民政策」を強調した。ホワイトハウスは1月25日、幼少時に親に連れられて米国に不法入国したドリーマーと呼ばれる不法移民の米国滞在を認めるオバマ前政権下のDACA(幼少時入国者遅延措置)プログラムの廃止問題で、トランプ大統領が10年から12年以内に180万人のドリーマーに対して市民権取得の道を与えることを提案すると述べた。トランプ大統領は一般教書演説で、この提案を公式に明らかにした。
 オバマ前政権下でDACAプログラムにより米国に滞在することが認められたドリーマーは約69万人で、米国滞在を許容したが市民権取得の可能性については明確にされないままになってきた。ホワイトハウスが公表したトランプ大統領の提案では、対象になるドリーマーが3倍に増加し、市民権取得の道を与えるとされている。ドリーマーなど約300万人の不法移民に合法滞在資格を認める民主党提案よりは控え目だが、トランプとしてはかなり妥協した人道的ジェスチャーと言える。
 ただ移民を積極的に奨励してきた過去の米政府の基本政策に逆行するトランプの移民制限政策は基本的に変わらない。一般教書演説では、不法移民の若者を中心とする凶悪ギャング組織MS-13などに娘を殺害された米国民の家族をゲストとして呼び、危険な不法移民の国外追放を訴えた。この姿勢は、大統領選期間にメキシコからの不法移民を「強姦者」、「犯罪者」と呼んで揶揄(やゆ)した時と大差ない。最近の米国内でのテロ攻撃の容疑者が連鎖移民(米国に合法移民した者が家族や親戚を呼び寄せる形での移民)、永住権抽選で移住した者だったことを指摘し、連鎖移民の大幅制限、米国永住権の抽選交付の廃止を議会に要請した。連鎖移民はこれまで移民の家族メンバーには許容されてきたが、トランプは移民の配偶者と未成年の子供以外は移民申請を受け付けないという方針を発表した。
 トランプは、これらを包括した移民制度改革パッケージ法案を提出するとし、移民税関取締局(ICE)捜査官の増員を主張した。過去1年間に、ICE捜査官による不法移民の摘発、国外追放が増加しているが、それをさらに積極的に推進する構えだ。トランプは、移民制度改革パッケージの4つの柱として、(1)180万人のドリーマーを対象に教育、技能などで一定の資格を満たす者への市民権獲得への道付与、(2)米メキシコ国境の壁建設、国境警備隊員増員による国境完全防護、(3)永住権抽選付与(ビザ・ロッタリー)廃止と能力ベースの移民制度、(4)連鎖移民の制限を挙げた。
 トランプは外交・安保政策で、ならず者国家、テロリスト・グループに言及した後、中国とロシアを「米国の国益や経済、価値観に挑戦するライバル国家」と規定した。過去の政権では、中国を戦略的パートナーなどとして協力関係を模索する姿勢を示してきたが、中国はパートナーではなく敵対するライバルとして明確に規定した。これはトランプ政権が米国の過去の対中政策を大転換することを確認したものである。
 米国が世界の平和と秩序を維持するには、「比類ない力」を持つ必要があると強調。オバマ政権時代の国防支出強制削減(シクエスター)を廃止し国防費の大幅増額を進める意思を明確にした。また「世界から核兵器を廃絶する時は残念ながらまだ来ていない」とし、核兵器の安全、近代化を進めることを明らかにした。核戦力を増強して「力による平和」を堅持する表明である。
 またスラム教スンニ派過激組織「イスラム国(IS)」の掃討作戦で、シリア、イラクでのISの支配地域をほぼ完全に解放したが、ISの勢力はまだ残っておりIS掃討のための戦いを継続すると述べた。トランプはまた、テロ容疑者を敵国戦闘員と見なし、キューバのグアンタナモ米海軍基地のテロ容疑者収容施設に収容する方針を示した。オバマ前大統領は就任早々、グアンタナモ基地のテロ容疑者収容施設の閉鎖を命じる大統領令を発令したが、トランプ大統領は今回、同基地テロ容疑者収容施設を維持する大統領令を発令し、同収容所維持をマティス国防長官に指示した。
 また、アフガニスタン駐留米軍に関しては、人工的な撤退期限を決めないと明言し、それを敵が分かるように公表することもしないと述べた。これらはいずれも、オバマ前大統領のレガシーを否定し無効化する措置である。強大な米軍事力を背景にした国際関与の方向性を明瞭に示している。
 トランプは北朝鮮問題について異例の5分もの時間を割いた。飢餓に苦しみ列車に轢かれて左手脚を失い中国と東南アジアを経由して韓国に亡命した脱北者の男性、北朝鮮で起訴、1年半収監され昏睡状態で釈放され帰国した後に死亡した米国人青年オットー・ワームビアの両親をゲストに呼び、北朝鮮の金正恩政権の国民を抑圧する性質を非難した。トランプは、過去の北朝鮮政策について、「自己満足と譲歩は攻撃と挑発を招くだけだ。私は過去の政権の過ちを繰り返さない」と述べた。また。北朝鮮の核・ミサイルが「もうすぐ米本土を脅かす可能性がある」と警戒感を示し、「それを防ぐため、最大限の圧力をかけ続ける」と強い決意と厳しい姿勢で臨む方針を示した。北朝鮮とイランは「ならず者国家」という位置づけで、これは昨年12月の国家安全保障戦略でもそのように規定されている。トランプは、イラン核合意の改善を米議会に期待している。
 またトランプは、エルサルムをイスラエルの首都と認定したことに対して、国連で米国から海外援助を受けている多くの国が非難決議を支持したことに言及し、これらの国への海外援助を停止することを示唆した。年間200億ドルの米海外援助について、友好国だけに提供し敵国には与えないと明言。米国の国益にかなった援助だけ行うと述べた。

トランプ政権に影響与える国内政治

 トランプ政権にとって、今後国民から求められるのは、国民にとって有益な法案の成立である。インフラ投資、医療保険改革などである。そのためには、ホワイトハウスが米議会の共和党と連携関係を確立することが必要である。また議会の民主党との協力が必要だ。現在、米議会では、与党・共和党内の穏健派と強硬派の対立が激化しており、トランプ大統領と議会の溝も深まっている。議会の民主党は反トランプで概ね固まっている。トランプ大統領が一般教書演説で、共通基盤の重視と超党派的な協力、結束を呼び掛けたのは、今後成果を出すにはそれが必要だからだ。
 しかし米国内政治の2018年の焦点は、中間選挙である。上下両院で多数派の奪取を目指す民主党は、トランプを助けることは選挙にプラスにならない。より非協力的になる政治的要因がある。
 トランプに対する支持率は40%前後で低迷しており、米国民の分断は当分継続しそうである。トランプの選挙戦略は、最低限自分の支持層をつなぎ留めることである。一般教書演説は、主としてトランプ支持者を喜ばせる内容だった。ただ米国経済状態が良好で景気が拡大基調にあり、それが今年は継続しそうであることは、トランプに有利に働いている。何といっても、米国で大統領選挙、中間選挙で勝敗の最も大きな要因になるのは、国民の懐具合、経済であるからだ。2018年2月には現在継続している景気拡大は過去2番目に長い景気拡大期間と等しくなり、2019年には史上最長となる。
 トランプが議会の上院、あるいは上下両院で共和党の多数派支配を失えば、法案の成立を含め、国の運営ははるかに困難になる。2020年大統領選で再選を狙うには、中間選挙で議会の共和党支配を何としても維持し、できれば拡大することが最も有効な方策である。
 ここにきて、マイナスになりうる要因は、トランプ自身の問題である。トランプ政権の関係者や選挙対策委員会関係者へのインテビューをもとに書かれた暴露本「炎と怒り」は、トランプの精神状態を疑うコメントが多く含まれている。トランプは自己愛的パーソナリティ障害者で、その言動はその症候がぴったり当てはまるという見方もある。このため、トランプ大統領の精神が正常かどうかについて米国内では議論が起こっている。トランプがツイッターで、自分を天才であり、それも安定しているとコメントしたのは、トランプ精神異常説を気にしているからだ。
 トランプ政権1年目の米経済の成長も、トランプ自身の手腕や凄腕の取引能力によるものとの見方と、トランプ政権の上級実務官僚ポストの多くが空席になっていてトランプのマイナス的政策の多くが実行まで至らなかったという政権運営能力の欠陥が幸いしたのだという見方がある。最近、トランプがTPPへの態度を柔軟にしたり政策を変化させているのも、精神的不安定の反映という見方と1年間を通じての政策面での試行錯誤による学習の成果という見方がある。またトランプが頼りないだけ、連邦準備理事会(FRB)が小幅な利上げを慎重に行っており、それが米景気の浮揚を持続させているという見方もある。トランプの精神状態に問題があるとすれば、今後の米国の経済的発展の保証はない。いくら立派な国家戦略がまとめられても、それを実行することは難しくなる。大幅減税には成功したものの、次の大きな課題であるインフラ投資は向こう10年間1兆5000億ドルという資金を必要とするが、その財源はまったく不明確である。また財政赤字問題が悪化する恐れもある。
 またモーラー特別検察官によるロシアゲート疑惑調査は、マイケル・フリン、マナフォート起訴などを経て、山場に来ている。トランプ大統領本人へのインタビューも遠からず行われる予定で、疑惑調査がトランプの内政、外交の運営に黒い影を落とす可能性もある。トランプが2017年5月にロシアゲート疑惑を調査していたコミーFBI長官を一方的に解任したことは、司法妨害の疑惑を生んだ。最近は、トランプが2017年6月にモーラー特別検察官(元FBI長官)までの解任しようとしたが、思い止まったという情報も出てきている。またコミー前FBI長官に近かったマケイブFBI副長官が1月29日に辞任したが、トランプはマケイブに嫌がらせや批判を繰り返していた。ホワイトハウスはマケイブの辞任に大統領は関与していないと公式声明を出したが、トランプがマケイブの居心地を悪くするのに大きな役割を果たしたことは確かだ。トランプの司法妨害疑惑はさらに深まっており、トランプ自身が足元から脚をすくわれる可能性もある。中間選挙で民主党が上院あるいは上下両院で多数派になれば、司法妨害などを理由にトランプ弾劾の動きが強まることが予想され、この面からもトランプにとって中間選挙で議会の共和党支配を維持することが重要になっている。

(2018年2月25日)