IPP分析レポート

2018年12月14日

再選に挑むトランプ―米中間選挙は通過点―

筑波学院大学名誉教授 浅川公紀
1944年山梨県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了。筑波女子大学教授、筑波学院大学教授、武蔵野大学教授、同・国際交流センター長を歴任。専門は国際政治、米国政治外交論、日米関係論。著書に『国際政治の構造と展開』、『戦後米国の国際関係』、『アメリカ外交の政治過程』、『アメリカ大統領と外交システム』など多数。

中間選挙結果

 トランプ米大統領にとって初めての米中間選挙の投票が、11月6日(火曜日)に実施された。4年に一度ある大統領選挙の中間にあたる年に実施する議会選挙。トランプ政権に対する米国民の評価が明らかになる選挙でもあり、2年後の大統領選の行方を占う材料になる。上院は共和党、下院は民主党が過半数を占めた「ねじれ」の新議会は年が明けた1月3日に始まる。
 米議会の現在の勢力図は、下院(定数435)で共和党239議席、民主党194議席、上院(定数100)で共和党51議席、民主党47議席、独立系2議席となっている。これまで米議会での現職の再戦率は80%以上である。注目された米連邦議会選挙では、上院の33議席、下院の全議席である435議席が改選される。上院で改選になるのは、民主党24議席、共和党8議席で民主党改選が圧倒的に多く、民主党上院改選議席のうち10議席は2016年にトランプが勝利した州であるため、上院では共和党が勝利して多数派を維持する可能性が高いとされた。無党派の政治アナリスト、スチュー・ローゼンバーグのように、民主党の上院過半数奪還は「ほぼ不可能な道のり」(ロイター)とまで評する専門家もいた。但し、共和党が直面している逆風を考慮すれば「上院選挙の情勢が動く可能性がある」と付け加えた。しかし、下院では、共和党が苦戦し、多くの選挙区で民主党が議席を奪う勢いを見せた。このほか、全米50州のうち36州の州知事も改選された。共和党は6州の知事を失った。

主要紙の論調

 ニューヨークタイムズ紙は、今回の中間選挙を「トランプへの信任投票」と呼び、トランプをめぐり国民が賛否両論に分かれているように、選挙結果も米国の分断を浮き彫りにしたとしている。同紙は、「政治面でも文化面でも、分断が進んでいることが浮き彫りになった」と評した。確かにトランプは、与党・共和党候補への投票は「私への投票だ」と繰り返し、中間選挙が自身への信任投票との位置づけを強調した。
 共和党は、上院で過半数を維持したことから、トランプは選挙から一夜明けた11月7日に行った記者会見で「素晴らしい1日だった」として大勝利を宣言した。しかし、上院で共和党が過半数を維持したのは当たり前のことで、大勝利とは言い難い。上院の改選議席の大多数は民主党の議席だった。上院の非改選議席は、共和党が42議席、民主党が23議席だった。改選議席では、共和党は9議席で勝利し、民主党は少なくとも21議席で勝利した。
 上院の場合、構造的に民主党が逆転して過半数を奪還することは、最初からほぼ無理と見られていた。現実には、民主党は逆境の中で相当善戦したのだ。次の上院選挙、すなわち2020年大統領選挙では、上院では共和党議席の多くが改選となり、共和党が構造的に不利な立場に立つ。共和党は上院で過半数を失うリスクが今後より大きくなりうる。共和党にとって2020年対策の一つだ。
 ワシントンポスト紙は、選挙後、選挙の勝者は誰だったかを分析した。同紙は、8年ぶりに下院の過半数を奪回した「民主党」と「民主党の多様性」を勝者と呼んだ。民主党の勝利の原動力になったのは、女性票だった。トランプ政権になって、トランプ自身の女性スキャンダルが問題になり、カバノー判事の連邦最高裁判事指名、指名承認公聴会、就任で改めてセクハラ問題がクローズアップされた。トランプは、カバノー判事に高校時代に性的暴力を受けたと名乗りをあげた女性大学教授を、公然と茶化し、女性蔑視の態度を露骨に見せた。これは、女性の政治、社会進出の気運を高めた。

民主党の左傾化

 下院では100人以上の女性議員が当選し、今や下院議員の約3分の1が女性になった。改選前、下院435議席のうち女性議員は84議席で史上最も多かったが、さらに大幅に増える。女性の中でも教育水準が高い郊外型の女性はトランプへの反発を強め、ブルーウェーブ(青い波)の中心になった。民主党のシンボルカラーは青、共和党は赤。国のトップに立つトランプは保守的な政策を推し進めているが、トランプへの反発を引き起こしているのは政策以上にトランプの人柄であり、挑発的な言動である。この女性の反トランプの波は、2020年の大統領選までさらに拡大する可能性がある。反トランプの女性運動は、2020年再選を目指すトランプにとって大きな脅威になる。
 民主党は、反トランプの波の中で、より左派へと傾斜している。下院では、イスラム教徒の女性が2人初めて下院議員になり、原住民の女性下院議員2人が初めて誕生したことがニュースになった。注目された女性の1人はアレクサンドリア・オカシオコルテス(29)で、史上最年少で下院議員に当選した。彼女は、社会主義団体のメンバーで、民主党内で台頭しつつある急進左派を代表する。民主党急進左派の重鎮であるエリザベス・ウォーレン上院議員も楽々と再選を果たし、2020年にトランプに挑戦する有力大統領候補の1人として注目されている。また2016年の米大統領予備選で旋風を起こした社会主義者のバーニー・サンダース上院議員も再選を果たした。

共和党のトランプ化

 大統領1期目の中間選挙は大統領の政党に不利だと言われる。新大統領が2年目に迎える中間選挙は鬼門として知られているが、1つには新大統領への国民の期待が大きいだけに、その期待が満足されない場合の不満も大きく、それが与党に不利に働くということだ。20世紀に入って、大統領1期目の中間選挙で与党が勝利したことは2回しかない。クリントン政権の時の1994年中間選挙では大統領の政党である民主党が下院で54議席を失い、オバマ政権の2010年中間選挙では民主党は63議席を失った。トランプの場合、下院では共和党が30数議席を失い、上院では過半数を辛うじて維持した。ダメージが比較的少なかったと言えよう。
 トランプの政党である共和党のダメージが比較的少なかったのは、米国経済が極めて好況であり、失業率なども低いレベルに抑えられていることが要因になった。米大統領選でも中間選挙でも、有権者が最も関心を持つのは、家計に直接影響する経済の現状、経済政策である。失業率は3%台を維持し、好況下で実施した減税の恩恵もあって、年4%超の経済成長を記録した瞬間もあった。2018年2月には現在継続している景気拡大は過去2番目に長い景気拡大期間と等しくなり、2019年には史上最長となる。トランプ政権としてはこれを維持していきたい。
 もう1つは、トランプの支持層である白人労働者階層、保守派が多い州をはじめ多くの州で、トランプ自身が大統領選を彷彿(ほうふつ)とさせるほど積極的に共和党応援の遊説を行ったことである。例えば、テキサス州では2016年大統領選でトランプのライバルとして共和党大統領候補指名を争い対立したテッド・クルーズ上院議員が、挑戦者の民主党候補ベト・オルークを相手に苦戦していた。クルーズは2年前の敵だったトランプに応援を頼み、激戦ながらも勝利を収めた。トランプは、かつて「嘘つきテッド」と罵ったクルーズ上院議員の応援のためにテキサス州入りした。このほか、テネシー、インディアナ、ノースダコタなど保守派が強い上院接戦州で、トランプの応援が奏功して共和党が勝利した。多忙な大統領が、与党の議会選挙のためにこれほど集中的な応援を行うのは異例だ。
 とりわけ投票日の直前、トランプは精力的に激戦区を遊説した。クリントン民主党候補とつばぜり合いを演じた2年前の大統領選の最終盤で見せたトランプの姿を想起させた。今回の中間選挙では過密スケジュールで各地を回り、雇用者数の増加など経済の好調さや不法移民対策で実績を上げたとアピールし、自からの政策を訴え、共和党候補を応援する野心的遊説であった。

続く米国の分断

 もう1つの原因は、トランプ自身が米国民の大きな期待を受けて就任したわけではないことである。実際、トランプが大統領に就任するなどとは殆どの国民は予想もしていなかったし、大統領への期待もそれほど大きくなかった。その分、失望も少なかった。トランプ就任時にすでに米国は、トランプ支持、トランプ反対で2つに分断されていた。この2年弱で、トランプは公約の6割を実行し、トランプ支持派はますますトランプを強固に支持したが、トランプ反対派はますますトランプを嫌悪するようになって、米国の分断が続いている。
 思い起こせば1月末のトランプ初の一般教書演説も米国民の分断を反映したものだった。CNNによると、少なくとも14人の民主党議員が演説参加をボイコットした。この人数は史上最大規模である。分断を煽るような演説など聞きたくないというのが、ボイコットの理由の1つだった。演説に参加した民主党下院議員65人はじめ多くが一様に喪服を思わせる黒い服を着ていたのが印象的だった。
 中間選挙の争点としては、米経済の現状、医療保険、移民問題などがあったが、最大の争点はトランプ自身だったと言っていい。公約の6割が実行されている一方で、それほどトランプの個性、存在感は良しにつけ悪しきにつけ大きかった。トランプに反対する国民は、世界から自由と繁栄を求めてやってくる移民に門戸を開き、多様性の中に調和を求める米国の文化と伝統がトランプにより破壊されるという危機感を抱き、トランプを支持する国民はグローバリズムの中で弱くなっていた米国をトランプは再び偉大にしてくれると信じている。分断が続く米国にあって、トランプは米国の偉大さを維持するとのスローガンのもとに再選に挑む。

中道保守の流れ

 ワシントンポスト、ABCテレビの選挙直後の世論調査では、選挙登録した有権者のうち、50%が民主党支持、43%が共和党支持という結果だった。草の根の党員数では、民主党が共和党を上回る状況が続いている。これは大統領選挙や議会選挙では、民主党有利に働く。ただ米国民全体では中道保守の傾向が強く、民主党自体が左傾化を強めている状況のため、民主党への支持がこれ以上伸びない要因になる恐れがある。
 中間選挙では、オバマ前大統領がトランプほどではないにせよ、選挙応援で走り回った。トランプが、オバマにより実現されてきた環境保護、医療保険改革、移民などの政策をことごとく覆すのを、オバマは我慢して静観してきた。心の中に蓄積されてきたトランプへの批判が、一挙に堰(せき)を切って噴出した。
 しかしオバマ効果はそれほどなかった。これはオバマに代表されるような民主党リベラル派の政策がアピール力を失っていることを示す。民主党がトランプに挑戦し、2020年にホワイトハウスを奪還するためには、中道保守も含め米国民の支持を幅広く集めることができるリーダーが出てこなければならない。急進左派のウォーレンやサンダースでは、米国民を幅広く引き付けることはできない。民主党には、現在のところ、トランプに対抗し、中道派の浮動票を引き付けることができる指導者は出てきていない。

ねじれ議会

 来年1月に召集される新議会は、上院が共和、下院が民主という「ねじれ議会」になっており、トランプ大統領が国境の壁や減税など独自の政策を推進することは難しくなる。トランプは11月7日の記者会見で、通商政策やインフラ投資などの分野で民主党と協力する方針を示した。半面、メキシコとの国境の壁建設など民主党が反対する政策も引き続き取り組む姿勢を明確にした。
 またトランプは記者会見で、CNNのホワイトハウス担当のジム・アコスタ記者と中米から米国に向かっている不法移民集団が「侵略者」かどうかで口論を繰り広げ、CNN記者をホワイトハウス出入り禁止にするなど、挑発的言動を繰り返している。また選挙後すぐに、セッションズ司法長官を更迭し、親トランプでロシア疑惑捜査に懐疑的とされるマテュー・ウィタッカー司法省首席補佐官を司法長官代行に起用した。これは大統領が、ロシア疑惑捜査を継続しているモラー特別検察官の捜査を停止に追いやる動きではないかと疑われており、民主党を刺激している。
 民主党の下院主導権獲得で、下院議長になる可能性が高いナンシー・ペロシ下院議員は、笑みを浮かべ「明日、米国の新しい1日が始まる」と下院の奪還について勝利宣言。「トランプ政権に対する議会のチェック機能が強化される」としている。民主党が下院で多数の地位を得たことで、様々な形でトランプ政権にブレーキをかけることはできる。多数が入れ替わるということは、下院議長から各委員長まで、すべてのポストが民主党に移ることを意味する。

ホワイトハウスと議会

 今後のホワイトハウスと議会の関係は、民主党の出方に左右される。民主党としては、トランプと協力しうる分野で超党派的な協力を大統領に求め、実質的な法案可決の実績を積み重ねてゆくことも考えられる。しかしトランプの挑発的言動は鎮まる気配を見せておらず、遠からず党派対立が激化することが予想される。また民主党の議員は選挙運動では大統領弾劾に言及することを避けてきたが、民主党主導の下院がトランプ大統領弾劾訴追に動く可能性もある。トランプは、民主党指導者の不祥事で調査して対抗するという脅しも述べており、そうなると政党間の分裂、対立は決定的になる。
 ねじれ議会がワシントンの分裂政治につながってゆけば、トランプ政権の後半は国民のためになる建設的な法案が承認されない状態になり、トランプはますます大統領の憲法上保証される軍の最高司令官としての権限、行政府の長としての権限、官吏任命権をはじめとする行政権限、立法府である議会の議決や承認を経ずに大統領が制定する大統領令に依存する傾向を強めることになる。2020年大統領選までに経済成長の実績を獲得するべく貿易により米経済を助けることに力を入れるようになり、保護主義的姿勢を強めながら、日本や中国などへの市場開放圧力、貿易不均衡是正圧力を強めてくることが考えられる。

(2018年12月6日)