アタッチメント経験と夫婦関係への影響

アタッチメント経験と夫婦関係への影響

2020年3月24日
家庭基盤充実

アタッチメントと親密な関係

 アタッチメントとは、人が困難を感じているときに親密な人に近づき、慰めを得る経験を表す。人間は発達する過程で経験したアタッチメントの在り方によって親密な対人関係に対する表象(representation、イメージ)を形成する。これはアタッチメント表象と呼ばれ、過去の経験をもとに、自分が辛い時に親密な関係にある人が助けてくれるか否かを判断するメカニズムとして働く。そして、将来の配偶者・恋人への接し方に影響を与えるという。
 幼少期にアタッチメントを十分に経験しなかった場合、人は異性関係において負の反応を示すことがある。

異性関係と判断メカニズム

 米ミネソタ大学のジェフリー・シンプソン(Jeffry Simpson)氏らによれば、アタッチメント表象は異性関係における人の行動を二つの次元で左右する。
 第一の次元は「回避(avoidance)」と呼ばれ、関係において人が心地良いと感じる距離と感情的な親密さの程度を表す。シンプソン氏らによれば、回避指向の強い人は過去の経験から「配偶者や恋人に心理的・感情的近さを求めることは可能ではないし、望ましくない」という表象を持つという。そのため、「異性関係における独立性と、自己コントロール、自律性の維持に努力」し、それらを束縛する自身や配偶者・恋人の考え・行動に否定的な反応を示すという。
 一方、第二の次元は「不安(anxiety)」である。「不安」は、人が配偶者や恋人に正しく評価されなかったり、捨てられたりすることを心配する程度を表す。シンプソン氏らによれば、「不安指向の人は自分の価値を疑い、パートナーを失うことを恐れ、パートナーが自分から離れていくサインを見逃すまいと用心し続ける」という。そのため、時として配偶者や恋人に過度に働きかけ、かえって関係の維持に悪影響を与えることがあるという。

ストレスへの反応

 そうしたアタッチメント表象に由来する課題は、強いストレスがある時に顕在化しやすい。とりわけ、親への移行期はストレスにさらされ、課題が表出する。シンプソン氏らは、「不安指向の強い女性は夫からの支援が少ないと感じ」、「結婚満足度の後退がより急になり、抑うつ症状を増加させうる」と指摘している。回避指向の人は、特に男性の場合、「子供の世話に手間がかかりすぎる」と感じ、「結婚満足度において急な後退を報告する」ことがある。
 このように、不安指向の強い人は子育てにより配偶者の関心を失うことを恐れ、回避指向の強い人は自律性・独立性を欠くことを想像して結婚満足度を低減させている。シンプソン氏らは、こうした課題を乗り越えるためには、互いが配偶者・恋人のアタッチメントに由来するニーズに合った対応をすることが必要だとしている。

統計的研究も存在

 幼少期におけるアタッチメントの経験が、成人後の異性関係に与える影響を統計的に示した研究も存在する。米ニューヨーク大学のテオドール・ウォーター(Theodore Water)氏らは、成人愛着面接(Adult Attachment Interview: AAI)の結果を用いて大人のアタッチメントと異性関係の質の関係を調べた。
 AAIではいくつかの質問によって調査対象者自身の口から過去のアタッチメント経験を語ってもらい、専門の人員が「記憶の一貫性」(coherence of mind)と「安全基地スクリプト知識」(secure base script knowledge)という観点から点数化した。
 「記憶の一貫性」では、具体的なアタッチメントの経験を矛盾なく、詳細に、感情的に誇張せずに語ることができるかを、9点満点で評価した。点数が高いほど、対象者のアタッチメント表象は安定していることを示す。そして、「安全基地スクリプト知識」も同じく9点満点である。保護者との空間を安心して慰めてもらえる基地と認識し、自分に困難があった時の保護者の一連の行動(スクリプト)をいつでも期待できる反応と感じているかを評価した。対象者の異性関係の質は、AAIと並んで行われた配偶者・恋人とのワークを通じて、カップルの間にある衝突を短い時間で解決できるかを7点満点で点数化した。

衝突解消に影響

 上記のようなセッティングで回帰分析を行ったところ、記憶の一貫性が異性関係の質における違いをある程度説明した。ウォーター氏らによれば、「記憶の一貫性と安全基地スクリプト知識のいずれも、人口動態変数(母親の学歴、経済状況、性別など)を一定にして比較すると、観察された異性関係の質と小から中程度の関係があった」という。しかし、「二つを同時に分析すると、記憶の一貫性のみが異性関係の質における違いを説明した」と述べた。つまり、人に詳細に説明できるほど良好なアタッチメント経験を持っている人は、異性関係において配偶者・恋人との衝突を比較的容易に解消しうるということである。安全基地スクリプト知識は異性関係において統計的有意な結果は得られなかったが、親子関係の良好さに関係していることが示された。
 以上のように、近年は幼少期のアタッチメントが当人の健康な発達のみならず、成人後の異性関係にも影響していることが示唆されている。したがって、健全な結婚と夫婦関係の形成を支援するためには、アタッチメントからの視点を取り入れることも必要と言える。

 

参考文献

Simpson, J. A. and Rholes, W. S. (2017) Adult Attachment, Stress, and Romantic Relationships. Current opinion in psychology, vol.13, pp.19-24.

Water, T. E. A., Raby, K. L., Ruiz, S. K., Martin, J., & Roisman, G. I. (2018) Adult attachment representations and the quality of romantic and parent-child relationships: An examination of the contributions of coherence of discourse and secure base script knowledge. Developmental psychology, vol.54, no.12, pp.2371-2381.

コラム
我が国では、子供の発達過程におけるアタッチメント(愛着)の作用が注目されている。一方で、世界の研究では、子供の頃のアタッチメント経験が、成人後の夫婦関係における振る舞いにも影響を与えることがわかってきている。編集部

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