新しい世界解釈の土台づくりを

新しい世界解釈の土台づくりを

2013年8月17日

世直しの前提には哲学、世界解釈の再検討が必要である

「人づくり、家庭づくり、国づくり」の方針を立てるには、哲学、世界解釈の土台が必要である。そして、哲学、世界解釈の根本には、それを生み出す情動、動機がある。
 野田首相が施政方針演説で「意を誠にし心を正す」と『大学』の一節を引用した。その「格物致知誠意正心修身斉家治国平天下」の言葉にある通り、物事の道理を究明し知識を身に着けたうえで、「意を誠にし」なければ、その「心」に描く世界観や思想も、そこから作られる人格、家庭、国家、世界も「正」しく立つことはできない。
 そこで、まず、世直しを論ずる上で、現代のわれわれの社会を形作っている哲学と、その根本にある「意」が健全なものであるかどうかを確認する必要がある。

現代社会の諸問題の根底には、歪んだ唯物論無神論科学による世界解釈がある

 現代日本において、無意識のうちに人、社会、国のあり方を規定しているのは、唯物論無神論科学による世界解釈である。そして、それは、一神教国家に存在する、「神」「宗教」に対する怨みをもった戦闘的無神論科学者によって主導されてきた世界観である。
 その歪んだ世界解釈によって、価値相対主義が蔓延し、宗教的伝統が軽視され、倫理道徳が地に堕ちてしまった現代日本の惨状が生まれている。唯物論無神論科学の立場が、どれだけ、怨みや偏見に満ちた歪んだ情動に動かされているかは、『ID理論』のような、宇宙の根本に「デザイナー」の存在を認める立場に対する常軌を逸した敵意、迫害を通して知ることができる。
 彼らは、ダーウィン進化論の「自然選択の原理」を武器として、唯物論、無神論の価値観で世界を支配し、宗教的価値観やそれに基づく生き方や文化を根絶やしにしようとしている。

現代においては唯物論無神論科学の偏向性が指摘され、有神論科学に転換しつつある

 その唯物論無神論科学の影響を最も受けている国が日本である。寛容な国民性により、共産主義やダーウィン進化論を無批判に易々と受け入れてしまった。それにより「神」や「超知性」のようなものを持ち出すことは非科学的であるという思い込みが蔓延し、「宗教」に対しても怪しげな科学的根拠のないものとして軽んずる傾向がある。
 しかし、「宗教」と「科学」が対立しているという構図は虚構であり、実際には、有神論科学と無神論科学の対立があるだけである。そして、現代においては、ほかならぬ科学の立場から、なんらかの「超知性」「デザイナー」の存在を要請するような状況が生まれている。
 無神論哲学者として有名であったアントニー・フルーも、様々な観察事実や証拠に基づき、有神論に転向し、ID理論を支持するようになった。「宗教」と「有神論科学」が共通の世界解釈の上に立つ時代が到来しているのである。
 有神論科学と宗教に基づく新しい哲学、世界解釈が世直しの基盤となるべきである。この世界を、無神論唯物論科学者が言うように偶然の産物ととらえるならば、宇宙や人間の存在に意味や価値を認めることはできず、善悪の価値観の基準すら相対的なものになってしまう。そして、「宗教」と「科学(無神論科学)」は対立したものとして、世界解釈を巡る闘争と混乱が不可避になる。
 一方、この宇宙が、「超知性」「デザイナー」あるいは「神」という存在によって、目的と原理原則をもって創造されたという有神論科学の世界解釈の立場に立つならば、私たちは、人間存在(生命や心)の価値を尊いものとする根拠を見出し、自然解釈ばかりでなく、人間社会についても守るべき規範や、実現すべき理想があると考えることができる。
 もしも、私たちが人間相互の価値を尊重しあい、倫理道徳が正しく根付いた社会を志向して世直しをしようとするならば、統一された科学と宗教に基づく世界解釈を「人づくり、家庭づくり、国づくり」の基盤に据えるべきである。

政策オピニオン
渡辺 久義 京都大学名誉教授
著者プロフィール
1934 年岐阜県生まれ。京都大学文学部卒。同大学院修士課程修了。同大 学教養学部総合人間学部教授、摂南大学教授を務める。著書に『ヘン リー・ジェイムズの言語』『イェイツ』『意識の再編』『善く生きる』『ダーウィニズム 150 年の偽装』他。

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