地方創生からデジタル田園都市構想への展開

地方創生からデジタル田園都市構想への展開

■地方創生政策—第1期—

 第二次安倍政権時の2014年に「まち・ひと・しごと創生法」が制定され、地方創生政策が開始された。その目的は「活力ある日本社会を実現するために各地域がそれぞれの特徴を生かして自律的で持続的な社会を生み出すこと」とされた。続いて、まち・ひと・しごと創生「長期ビジョン」と「総合戦略」が策定された。「総合戦略」は2015年から毎年改訂され、あわせて「基本方針」も閣議決定された。すべての都道府県及び市町村においても、「地方人口ビジョン」「地方版総合戦略」の策定が求められた。
 「長期ビジョン」では人口減少時代が到来するという基本認識のもと、①「東京一極集中」の是正、②若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現、③地域の特性に即した地域課題の解決を基本的視点として掲げた。国民の希望の実現に全力を注ぐことで、将来にわたって「活力ある日本社会」を維持することが可能となるとし、若い世代の希望を実現させることで出生率を改善し、人口減少に歯止めをかけることを目指した。
「総合戦略」では、①人口減少と地域経済縮小の克服、②まち・ひと・しごとの創生と好循環の確立を基本的な考え方として、「しごと(雇用の質・量の確保・向上)」と「ひと(有能な人材確保・育成、結婚・出産・子育てへの支援)」の間に好循環を生み出し、それによって地域課題を解決して「まち」に活力を取り戻すことを目指した。
 施策の方向性として下記の4つの基本目標を掲げ、「自立性、将来性、地域性、直接性、結果重視」の政策5原則に基づき施策を展開することとした。

【地方創生 第1期 基本目標】
①地方における安定した雇用を創出する
②地方への新しいひとの流れをつくる
③若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる
④時代に合った地域をつくり、安心な暮らしを守るとともに、地域と地域を連携する

■地方創生政策—第2期—

 地方創生政策が開始から5年が経過した2019年、第1期の5年間の成果と課題を総括したうえで、「長期ビジョン」が改訂され、第2期「総合戦略」が策定された。
 第1期は地方の若者や女性の就業率、訪日外国人旅行者数、農林水産物・食品の輸出額が一貫して増加傾向にあるなど、基本目標①に関連する「しごと」の創生に関しては一定の成果が見られた。一方、基本目標②、③に関連する「ひと」の動きに関しては、東京一極集中に歯止めをかけられなかった。東京圏への転入超過(2018年は13.6万人)は地方創生がスタートした2014年から一貫して増加しており、更なる取組が必要とされた。基本目標④に関しては目標達成に向けて進捗していると評価された。
 それらを踏まえて、第2期「総合戦略」においては、地方創生の目指すべき将来として、「将来にわたって『活力ある地域社会』の実現」と「『東京圏への一極集中』の是正」をともに目指すことが掲げられた。
 第1期「総合戦略」の政策体系を見直し、以下の4つの基本目標と2つの横断的な目標の下に取組むこととされた。

<地方創生 第2期>
【基本目標】
①稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする
②地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる
③結婚・出産・子育ての希望をかなえる
④ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる
【横断的な目標】
①多様な人材の活躍を推進する
②新しい時代の流れを力にする

 基本目標見直しのポイントとして、②に関しては、居住者ではなくとも地域の担い手となる人々(関係人口)を増やし、地方創生の当事者を最大化することを目指して「地域とのつながりを築く」という観点が追加された。基本目標①、④については、単に若者の雇用を創出することにとどまらず、賃金ややりがいの面で魅力的な仕事の場を創出する必要があることが強調された。加えて、豊かな自然や文化など、その地域の魅力を作ることが重要であるという認識から、④に「人が集う、魅力を育む」という観点が追加された。
 新たに設けられた横断的な目標①は多様な人々の活躍による地方創生の推進と誰もが活躍する地域社会の推進を目指し、目標②は地域におけるSociety5.0の推進や地方創生SDGsの実現などの持続可能なまちづくりを掲げている。
 第1期においては、まち・ひと・しごとの好循環を実現するため、基本的に「しごと」を起点として「しごと」と「ひと」の間に好循環を生み出し、それによって地域課題を解決して「まち」に活力を取り戻すことを目指した。しかし第2期においては、先に「ひと」を呼び込み交流を深めるなかで「しごと」を起こしていくアプローチや、文化・自然といった地域の資源をいかして「まち」の魅力を高め「ひと」を呼び込むアプローチなど、多様なアプローチの中から地域の特性に合ったものを選択し、まち・ひと・しごとの好循環をつくり出していくという方針が掲げられた。
 また、政策5原則についても第1期の「自立性、将来性、地域性、直接性、結果重視」から「自立性、将来性、地域性、総合性、結果重視」へと一部変更された。多様な主体との連携や、他の地域、施策との連携を進めるなど、総合的な施策に取り組んだ上で、直接的に支援する施策に取り組むことが重要であるとされた。

■デジタル田園都市構想

 2022年12月に岸田政権下で、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が「デジタル田園都市国家構想総合戦略」に変更された。この基本的な考え方は、①「市場も国家も」、「官も民も」によって課題を解決すること、②課題解決を通じて新たな市場を創る、すなわち社会的課題解決と経済成長の二兎を実現すること、③国民の暮らしを改善し、課題解決を通じて一人ひとりの国民の 持続的な幸福を実現することという新しい資本主義の基本的思想を具現化することである。
 「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の下で行われてきた取組については、デジタルの力を活用して継承・発展させていくことが肝要であるとしている。また、デジタル田園都市国家構想の実現にあたっては、これまでの地方創生の各種取組についても、デジタル活用に限定することなく、全国で取り組まれてきた中で蓄積された成果や知見に基づき、改善を加えながら推進していくことが重要であるとしている。
 基本的に①地方に仕事をつくる、②人の流れをつくる、③結婚・出産・子育ての希望をかなえる、④魅力的な地域をつくるという取組の方向性は地方創生政策を踏襲しており、それらに対してデジタル技術の活用が強調されている。具体的には、国によって「デジタル基盤の整備」、「デジタル人材の育成・確保」、「誰一人取り残されないための取組」といった基礎条件を国が整備することが掲げられている(図1)。「デジタル田園都市国家構想総合戦略」は2023年から2027年の5か年を対象としている。
 なお、2024年10月1日に誕生した石破政権は、デジタル田園都市国家構想実現会議を発展させて「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設し、今後10年間の基本構想を策定する意向を示した。今後の政策の展開にも注目していく。

 

<参考文献>

内閣官房・内閣府「まち・ひと・しごと創生『長期ビジョン』と『総合戦略』の全体像等」、https://www.chisou.go.jp/sousei/info/pdf/20141227siryou1.pdf(2024年8月30日閲覧)。

内閣官房・内閣府「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン—国民の『認識の共有』と『未来への選択』を目指して—」、https://www.chisou.go.jp/sousei/info/pdf/20141227siryou3.pdf(2024年8月30日閲覧)。

内閣官房・内閣府「まち・ひと・しごと創生総合戦略」、https://www.chisou.go.jp/sousei/info/pdf/20141227siryou5.pdf(2024年8月30日閲覧)。

内閣官房・内閣府「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン(令和元年改訂版)及び第2期『まち・ひと・しごと創生総合戦略』(概要)」、https://www.chisou.go.jp/sousei/info/pdf/r1-12-20-gaiyou.pdf(2024年8月30日閲覧)。

内閣官房・内閣府「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン(令和元年改訂版)」、https://www.chisou.go.jp/sousei/info/pdf/r1-12-20-vision.pdf(2024年8月30日閲覧)。

内閣官房・内閣府「第2期『まち・ひと・しごと創生総合戦略』」、https://www.chisou.go.jp/sousei/info/pdf/r1-12-20-senryaku.pdf(2024年8月30日閲覧)。

内閣官房「デジタル田園都市国家構想総合戦略」、https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/pdf/20221223_honbun.pdf(2024年8月30日閲覧)。

内閣官房「デジタル田園都市国家構想総合戦略(2023改訂版)の全体像」、https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digitaldenen/about/pdf/pdf_01.pdf(2024年8月30日閲覧)。

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