持続可能な開発目標(SDGs)と海洋  ―海を活かしたまちづくりによる地方創生―

持続可能な開発目標(SDGs)と海洋 ―海を活かしたまちづくりによる地方創生―

Ⅰ 持続可能な開発目標(SDGs)と海洋

1. 20世紀半ばからの海洋問題に対する新たな取組の進展

①法制度面
 20世紀後半から、国際社会における我々の海に対する取り組みは新たな進展をする。それ以前は、地球表面の7割を占める海で何をするかは、海洋自由の原則に従って行われてきた。第二次世界大戦後は、人々の目が海に注がれるようになった。そのきっかけとなったのが、米国の当時の大統領トルーマンが1945年9月28日に行ったトルーマン宣言であった。トルーマンはこの宣言で、メキシコ湾に面した大陸棚の天然資源に対する権利および沿岸保存水域の設定による漁業に対する沿岸国の権利を主張した。このトルーマン宣言後、各国が自国の沿岸海域に対する権利を主張し始めて一時騒然となった。
 1958年にジュネーブで第1回国連海洋法会議が開催されてジュネーブ海洋法4条約が採択された。ジュネーブ海洋法4条約とは、領海条約、公海条約、大陸棚条約、公海生物資源保存条約である。しかし、これらのジュネーブ海洋法4条約では各国の主張を整理するところまでは行かなかった。

②政策、活動面
 先進国の経済発展が急速に進む中、1962年にレイチェル・カーソンが環境破壊への警鐘を鳴らすため『沈黙の春』を出版した。レイチェル・カーソンは、アメリカ合衆国の生物学者で、『沈黙の春』は鳥たちが鳴かなくなった春という出来事を通して、農薬などの化学物質の危険性を訴えた作品である。
 人々の環境に対する関心が高まり、これに応じて「国連人間環境会議」が1972年に開催され、国連環境計画(UNEP)が1972年に設立された。
 さらに、同じく1972年には、ローマ・クラブが『成長の限界—人類の危機レポート』を発表した。以上により、かなり海に対しての関心と議論が高まってきた。

2. 海洋の総合的管理と持続可能な開発の取組スタート

①第3次国連海洋法会議開催(1973〜1982)および「国連海洋法条約(UNCLOS)」採択(1982)
 1.で述べた世界の動きを踏まえて、海洋の総合的管理と持続可能な開発の取り組みがスタートする。まず、1967年に国連総会で、マルタの国連大使であったアービド・パルド氏が、一部の先進国によって海底の資源開発が独占されることを憂い、深海底とその資源はすべての人類の共同財産と考えるべきであるとの演説を行った。この演説は各国に大きなインパクトを与えた。
 それを契機に第3次国連海洋法会議が1973年から1982年まで開かれ、10年にわたって議論した末の1982年に、「国連海洋法条約(UNCLOS)」が採択された。
 「国連海洋法条約(UNCLOS)」は、海洋法の原則を「海洋の自由」から「海洋の管理」へと転換し、その前文に「海洋の諸問題は、相互に密接な関連を有し、全体として検討される必要がある」と明記した。
 そして、海洋を内水・領海・群島水域、排他的経済水域、大陸棚、公海、深海底と海域別に区分して、領海の幅は、海岸の低潮線等の各国沿岸部に設定された基線から12海里までとし、さらに、領海の外側の領海の基線から200海里までを沿岸国が天然資源等に対する主権的権利等を有する「排他的経済水域」とし、沿岸国の管轄海域が拡大された。ちなみに、1海里は1,852 mである。
 同時に、海洋環境に対する関心の高まりに対応して、「国連海洋法条約(UNCLOS)」は、「海洋環境の保護及び保全」について部を設け、「いずれの国も、海洋環境を保護し及び保全する義務を有する。」(192条)と定めている。また、海洋は各国が協力してその保護、開発利用、管理に取り組んでいくべきであることから、海洋の科学的調査、海洋技術発展及び移転等についても部を設けて条文が盛り込まれた。
 国連海洋法条約は1994年に発効し、日本は1996年に批准した。国連海洋法条約は1982年に採択されてから発効までに12年を要している。国連海洋法条約の発効に時間がかかったのは、一つには、新条約の採択後も引き続いて準備委員会が設置されて、深海底開発に着手するためおよび海洋法裁判所設立のための規則・手続きの作成作業が行われたことによる。しかしそれ以上に、同条約が採択した深海底制度に対する先進国の反発がかなり強くて、そのままでは先進国の条約批准が進まない状況だったことによるところが大きかった。
(参照:国連海洋法条約第11部実施協定採択(1994.7))

②新海洋秩序と連携する海洋の総合的管理と持続可能な開発の行動計画の形成
 国連海洋法条約の採択から発効までの間に、この新海洋秩序を政策面から支える海洋の総合的管理と持続可能な開発に関する国際的な行動計画の形成が行われた。
 1984年に、国連総会決議により国連「環境と開発に関する世界委員会」(通称「ブルントラント委員会」)が設置され、同委員会は1987年に報告書“Our Common Future”『地球の未来を守るために』を発表した。その報告書は、環境・資源基盤を保全しつつ 開発を進めることが必要であるとして、環境保全と開発の関係について、「将来世代のニーズを損なうことなく現在の世代のニーズを満たすこと」という「持続可能な開発」の概念を打ち出した。
 1992年にリオ・デジャネイロで「国連環境開発会議(地球サミット)」が開催された。地球サミットでは、「持続可能な開発」原則とそのための人類の行動計画『アジェンダ21』が採択された。

③『アジェンダ21』第17章「海洋及び沿岸域の保護及びこれらの生物資源の保護、合理的利用及び開発」
 『アジェンダ21』は、持続可能な開発に向けて地球環境の様々な課題に各国政府をはじめとする社会の構成主体がともに連携協働して着実に取り組んでいくための行動計画を定めている。その第17章「海洋及び沿岸域の保護及びこれらの生物資源の保護、合理的利用及び開発」が海洋に関する行動計画である。
 この行動計画『アジェンダ21』第17章の採択は、折からその発効に向けた取り組みが国際的に進められていた国連海洋法条約による「海洋の管理」という新しい海洋法秩序の構築と政策・行動計画の面から連携して、新しい「海洋ガバナンス」の基盤を構築した点でも画期的であった。その背後には海洋の環境保護・保全を図りつつ持続可能な形で開発利用することに取り組んできた先人たちの努力があった。
 『アジェンダ21』第17章は、冒頭に、国連海洋法条約を海洋及び沿岸環境とその資源の保護及び持続可能な開発を追求する上での法的な国際的基礎と明記し、両者が新しい海洋ガバナンス構築の両輪であることを明確に示している。そして、海洋及び沿岸域の管理と開発に対する新しいアプローチが必要であるとして次の7つのプログラム分野について「目標」、「行動」、「実施手段」を定める行動計画を採択した。
A.沿岸域及び排他的経済水域を含む海域の統合的管理及び持続可能な開発
B.海洋環境保護
C.公海の海洋生物資源の持続可能な利用及び保全
D.国家管轄海域の海洋生物資源の持続可能な利用及び保全
E.海洋環境の管理及び気候変動に関する不確実性への対応
F.地域協力を含む国際協力及び調整の強化
G.小島嶼国の持続可能な開発
 上記7つの内でも、特に、「A.沿岸域及び排他的経済水域を含む海域の統合的管理および持続可能な開発」は、その後の各国の取り組み、そして、わが国の海洋基本法制定の基盤を提供した。ここでは、沿岸国は、自国の管轄下にある沿岸域及び海洋環境の総合的管理と持続可能な開発を自らの義務とし、地方と全国の双方のレベルで、沿岸域・海域とその資源の総合的管理と持続可能な開発のための適切な調整メカニズムを設立、強化すべき、このようなメカニズムは、適宜、学界や民間部門、NGO、地方共同体、資源利用者グループ等との協議を含むべき、等の「行動」を定めている。

3. 「海洋の総合的管理と持続可能な開発」に関する行動計画の継続・発展

①WSSDにおける『アジェンダ21』の海洋の行動計画の継承
 国連海洋法条約が発効するとこれと『アジェンダ21』第17章を基盤として、「海洋の総合的管理と持続可能な開発」に向けた取り組みが各国で始まった。そして2002年には地球サミットを引き継いで「持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)」が開催された。ところが、その直前に『アジェンダ21』第17章の海洋の行動計画がWSSD実施計画に継承されないのではないかという危機感が世界の海洋関係者の間に広がり、海洋関係者は総力を結集してこの問題に取り組んだ。その結果、南アのヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)」ではそこで採択された「WSSD実施計画」(2002)に『アジェンダ21』第17章の海洋の行動計画を継承する実施計画を盛り込むことに成功した。

②海洋の総合的管理と持続可能な開発に向けた新たな展開
 さらにその10年後の2012年の6月、ブラジルのリオ・デジャネイロで「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」が開催された。3日間にわたる全体会議の最終日に、成果文書「我々の求める未来」が採択され、『アジェンダ21』→「WSSD実施計画」と継承発展してきた海洋に関する行動計画が分野横断的問題のひとつとして盛り込まれた。
 さらにそれを受けて2015年9月には、国連本部で「国連持続可能な開発サミット2015」が開催され、17の「持続可能な開発目標(SDGs)」を掲げる「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。その中の海洋に関する目標が「目標14 海洋・海洋資源の保全、持続可能な利用」である。
 国連海洋法条約に基づいて海洋の問題にどのように具体的に取り組んでいくかというリオ地球サミットの『アジェンダ21』に盛り込まれた行動計画が、その後の10年ごとの持続可能な開発の世界会議の行動計画に受け継がれ、それを踏まえて2030年までのターゲットが「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標14に掲げられたのである。
 目標14は、次の10のターゲットを掲げている。
・2025年までに、あらゆる海洋汚染の防止、大幅削減
・2020年までに、海洋および沿岸域の生態系の回復
・海洋酸性化の影響最小限化、対処
・2020年までに、過剰漁業、違法・無報告・無規制(IUU)漁業及び破壊的漁業慣行を終了、科学的管理計画実施
・2020年までに、少なくとも沿岸域及び海域の10%を保全
・2020年までに、過剰漁獲能力や過剰漁獲につながる漁業補助金禁止、違法・無報告・無規制(IUU)漁業につながる補助金撤廃、同様の新たな補助金の導入抑制
・2030年までに、漁業、水産養殖及び観光の持続可能な管理などを通じ、小島嶼開発途上国及び後発開発途上国の海洋資源の持続的な利用による経済的便益を増大
・海洋の健全性の改善と開発途上国の開発における海洋生物多様性の寄与向上のために、科学的知識の増進、研究能力の向上、及び海洋技術の移転
・小規模・沿岸零細漁業者に対し、海洋資源および市場へのアクセスを提供
・国連海洋法条約(UNCLOS)に反映されている国際法を実施することにより、海洋及び海洋資源の保全及び持続可能な利用を強化
 2017年6月には、SDGs目標14の実施を推進するための初の「国連海洋会議」が国連本部で開催された。155の国と地域の首脳を含む約4,000人が参加し、国連機関、国際機関、市民団体、学術・研究機関、先住民、地域コミュニティ、民間団体も参加した。
 「国連海洋会議」では「Call for Action(行動要請)」が採択され、官民から1400を超える「Voluntary Commitment」(自発的約束)が提出され、これはその後も増加している。国連はこれらの「自発的約束」の実施をフォローアップし、新しい「自発的約束」を引き出し、様々な関係者間の協働とネットワーク化を促進するため「Communities of Ocean Action」(COA、海洋行動コミュニティ)を立ち上げてその取組を発展させている。
 なお、1992年の『アジェンダ21』の採択から20年余の間に、「海洋の総合的管理と持続可能な開発」は海洋ガバナンスの政策として世界に浸透したので、SDGsの目標14ではこれらを当然の前提として10のターゲットが定められている。

Ⅱ 海を活かしたまちづくりによる地方創生

1. 「沿岸域総合的管理」の取組出現、世界的に普及

 もう一度20世紀後半の世界に目を向けると、各地で人口が増加し、産業が発達し、科学技術が発展した。これに伴い、沿岸都市部に人口・産業が集中し、浅海域は埋め立てられ、大量の廃棄物・排水が発生した。沿岸域の環境・生態系は悪化し、生物資源は減少し、沿岸域の利用の競合が激しくなった。
 このような高度経済成長にともなって発生した問題に対応するために出現したのが、沿岸の陸域と海域を沿岸域として一体的に捉え、地域として沿岸域の環境保全と開発利用の問題を総合的・計画的に管理する取り組みであった。このような取り組みの始まりとして良く取り上げられるのが米国サンフランシスコ湾の事例である。
 米国サンフランシスコ湾地域では急速な埋め立てが進み、これに反対する住民運動が盛り上がった。これが発端となって環境と調和した沿岸域利用を推進する沿岸域管理法(カリフォルニア州法)が1969年に制定され、「Plan(計画)—Do(実行)—Check(評価)—Action(改善)」の順応的プロセスにより総合的に管理するサンフランシスコ湾計画が策定された。
 同じく1969年に米国は、海洋政策文書「Our Nation and the Sea」を策定し、海洋に関する総合的・計画的取り組みを開始した。さらに1970年に、連邦政府組織を再編成して「海洋大気庁(NOAA)」(沿岸域管理も所管)を設置した。また1972年には、沿岸域の社会と生態系の持続可能性を目指す「Coastal Zone Management Act 沿岸域管理法」が制定された。同法の中には、連邦政府が認可した沿岸州の沿岸域管理計画には連邦政府の行為も適合していなければならないとする「Federal Consistency 連邦一貫制」が定められた。また、各沿岸州で行われる沿岸域管理プログラムの運営に必要な資金を連邦政府から交付する「Sea Grant」(海洋交付金)制度も設けられた。
 米国で始まった沿岸域総合的管理(ICM)の取り組みは、世界的な経済発展の流れの中で同様に環境劣化、生物資源の減少、沿岸域の利用の競合などの問題への対応を迫られたカナダ、ヨーロッパ諸国、オーストラリア、そして中国、韓国、東南アジア諸国など世界の国々に広まっていった。
 日本でも、いわゆる沿岸域の環境問題は各地で発生して、政府や地方自治体もそれなりに取り組んできたが、それらは環境問題としての取り組みに留まり、沿岸域の総合的管理の方向に進まずに来たというのが我が国の状況である。

2. 「沿岸域総合的管理」は世界が共有する海洋の国際的行動計画に

 1992年の国連環境開発会議(地球サミット)は、「持続可能な開発」原則とそのための行動計画『アジェンダ21』を採択し、その第17章で「沿岸国は、自国の管轄下にある沿岸域及び海洋環境の総合的管理と持続可能な開発を自らの義務」とし、沿岸域・海域とその資源の総合的管理のための行動計画を定めた。これを契機に世界各国の沿岸域総合的管理の取組みは急速に進んだ。なお、関連して述べると、1982年に採択された国連海洋法条約がなかなか発効しないでいたが、1992年の国連環境開発会議(地球サミット)において、海の関係者が海洋・沿岸域の総合的管理と持続可能な開発が重要として熱心に取り組み、行動計画『アジェンダ21』に第17章が盛り込まれたこと、また、1994年には深海底に関する条項を見直す国連海洋法条約第11部実施協定が採択されたことを受けて、国連海洋法条約は1994年に発効した。
 この沿岸域総合的管理(ICM)の取組みは、その後の持続可能な開発の行動計画、即ち、「WSSD実施計画」(2002)、リオ+20の「The Future We Want」(2012)、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」のSDGs(2015)に引き継がれて、世界各国で取り組みが行われている。
 東アジアでは、1993年からGEF/UNDP/IMOプロジェクト「東アジア海域環境管理パートナーシップ PEMSEA」が始まり、各国が参加して沿岸域総合管理に取り組んできた。PEMSEAは当初は途上国を対象としたものであったため、日本は参加していなかったが、中国は参加した。その後PEMSEAはプロジェクトではなく、日本を含む東アジア各国の支持を受けて2009年に地域国際機関となり、マニラに拠点を置いて活動している。
 わが国は、なかなか沿岸域総合的管理の方向に進まず、環境問題にとどまってしまっている。しかし、アジアを含めた世界各国では、沿岸域総合的管理は既に常識的な制度となっていることを強調しておきたい。

3. 各国の沿岸域総合的管理の法制、政策

 各国の沿岸域総合的管理の法制、政策を挙げると次の通り。(括弧内の数字は制定年)
米国:沿岸域管理法(1972、1990)/カナダ:沿岸地域管理法(1972)、Canada’s Ocean Strategy(2002)/オーストラリア:沿岸水域法(1980)、Commonwealth Coastal Policy(1995)/ニュージーランド:The Resource Management Act(1991)/フランス:Seashore Act(1986)/イギリス:環境法(1995)、海洋・沿岸アクセス法(2009)/中国:海域使用管理法(2001)/韓国:沿岸管理法(2001)、沿岸統合管理計画。
 各国の取り組みは1970年代から始まり、だいたい1990年代から2000年代にかけて、沿岸域総合的管理に関する法制度を整備した。各国の法制度はそれぞれの特色があるにしても、沿岸域総合的管理に関する法律だと世界から認められるような法律を制定している。
 各国の海洋管理の取り組みは、沿岸域の管理からスタートして沖合へと伸びて行き、海洋全体の総合的管理へと進展して行った。以前は、Integrated Coastal and Ocean Management (ICOM)という用語がよく使用されていたことからも、沿岸域から始まり海洋全体の総合的管理を目指していたことが分かる。

4. わが国の沿岸域管理の取組

①海洋基本法制定以前
 海洋基本法の制定に至るまでに日本では沿岸域の管理に関して、国土保全を目的とし、あるいは環境問題に対応して各種法律が制定され、改正されるという経緯を経た。1950年に港湾法が制定され、2000年には目的に「環境保全に配慮」を追加する改正が行われた。1956年には海岸防護、国土保全を目的とする海岸法が制定され、水際線から50 m以内の陸地、水面を対象として海岸保全区域が指定された。その後、1999年に「海岸環境の整備と保全」と「公衆の海岸の適正な利用」を目的に追加する海岸法の改正が行われた。さらに、2014年には、堤防と一体的に設置される減災機能を有する樹林(「緑の防潮堤」)を海岸保全施設に位置付ける改正が行われた。また1964年には河川法が制定され、1997年に「河川環境の整備と保全」を目的に追加する河川法の改正が行われた。
 さらに、1967年に公害対策基本法、1970年に水質汚濁防止法、1972年に自然環境保全法、1973年に瀬戸内海環境保全特別措置法(2015年に「知事は、湾灘等を単位として府県計画を定める」旨の改正)、1993年に環境基本法が制定された。
 1998年には、国土総合開発法に基づく国土づくりの指針となる計画として第5次全国総合開発計画が策定された。この全国総合開発計画は、3年以上にわたる国土審議会の調査審議等を経て閣議決定され、『21世紀の国土のグランドデザイン』を提示している。『21世紀の国土のグランドデザイン』では、「沿岸域圏を自然の系として適切に捉え、地方公共団体が主体となり、沿岸域圏の総合的な管理計画を策定し、各種事業、施策、利用等を総合的、計画的に推進する「沿岸域圏管理」に取り組む」と定めており、沿岸域の総合的管理の取り組みの推進を念頭に置いて定められた。
 また、2000年には、「地域の選択と責任に基づく主体的な地域づくりを重視して、多様な主体の参加と相互の連携によって国土づくりを進める」とした「21世紀の国土のグランドデザイン」の基本的な考え方に立って、沿岸域圏の総合的な管理に主体的に取り組む地方公共団体や様々な民間主体が計画を策定・推進する際の方針を示す「沿岸域圏総合管理計画策定のための指針」が、国土庁(現国土交通省)の主導のもと、「21世紀の国土のグランドデザイン」推進連絡会議で決定された。
 その他、2001年には「都市再生プロジェクト」の一環として東京湾再生プロジェクトが決定され、2003年および2013年に「東京湾再生のための行動計画」が定められた。また、2002年には有明海・八代海再生特別措置法および自然再生推進法が制定された。

②海洋基本法制定へ
 2000年代に入ると、海洋ガバナンス(沿岸域総合的管理を含む)がなかなか進まないのを憂慮してその推進を求める提言が主要組織から次々と提出された。経団連意見書「21世紀の海洋のグランドデザイン」(2000)、日本沿岸域学会「沿岸域の持続的利用と環境保全のための提言」(2000)、日本財団「21世紀におけるわが国の海洋政策に関する提言」(2002)である。
 しかし、それでも海洋ガバナンスの取り組みはなかなか進展しなかったが、さらに、2005年に、海洋政策研究財団が取りまとめて提出した「21世紀の海洋政策への提言」がきっかけとなって事態は動き出した。この提言をもとに、2006年に、海洋ガバナンスを議論する政学産民の関係者、有識者等による海洋基本法研究会(関係府省もオブザーバー参加)が開催され、10回にわたってわが国の海洋政策のあり方、海洋基本法(案)が検討され、これに基づいて海洋基本法が2007年4月に議員立法で制定された。同法は2007年7月に施行された。
 海洋のガバナンスを進めるために立法された海洋基本法は12の海洋の重要施策を基本的施策として定めており、「海洋資源の開発及び利用の推進」、「海洋環境の保全」、「排他的経済水域等の開発等の推進」等々と並んで「沿岸域の総合的管理」もその一つとして取り上げられた。
 海洋基本法第25条(沿岸域の総合的管理)は次のように定めている。
 「国は、沿岸の海域の諸問題がその陸域の諸活動等に起因し、沿岸の海域について施策を講ずることのみでは、沿岸の海域の資源、自然環境等がもたらす恵沢を将来にわたり享受できるようにすることが困難であることにかんがみ、自然的社会的条件からみて一体的に施策が講ぜられることが相当と認められる沿岸の海域及び陸域について、その諸活動に対する規制その他の措置が総合的に講ぜられることにより適切に管理されるよう必要な措置を講ずるものとする。」(第2項 略)
 また、政府は、5年ごとに海洋に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため海洋基本計画を策定しており、2018年に閣議決定された第3期海洋基本計画では、「沿岸域の総合的管理」は「海洋環境の保全」と合体され、その一部として次のように定められている。

第2部 海洋に関する施策に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
 3.海洋環境の維持・保全
 (2)沿岸域の総合的管理
 ア 沿岸域の総合的管理の推進
○沿岸域の総合的管理に当たっては、森・里・川・海のつながり、流域全体の水循環や生態系管理を意識し、問題解決に必要な一定の広がりにおいて、人が関わって、よりよい海をつくって豊かな海の恵みを得るという「里海」づくりの考え方を積極的に取り入れつつ、自然災害への対応、生物多様性の保全や海洋ゴミ対策等を含めて総合的に取組む。こうした取組の推進において中心的な役割を果たすことが期待される協議会活動の普及拡大に向けて、関係府省が連携して、自治体や協議会組織に対する支援のあり方について検討を行い、具体化を図る。(内閣府、農林水産省、国土交通省、環境省)
 イ〜エ(略)

③「沿岸域の総合的管理」施策の不振とその理由
 海洋基本法制定から10数年が経過し、同法に基づく海洋の総合的管理の取り組みは大分進んだ。しかし、「沿岸域の総合的管理」は、(そして「排他的経済水域等の開発等の推進」も)、海洋基本法で基本的施策として定められたにもかかわらず、残念ながらわが国では現在に至るもあまり進展していない。
 「沿岸域の総合的管理」が進展しない理由としては以下のことが考えられる。
・国際的に共有されている「沿岸域総合的管理(ICM)」を正面から取り上げて実施する法律が制定されていない。わが国には各国が制定している沿岸域管理法のような法律が存在しない。わが国には、「国土のグランドデザイン」を定めた全国総合開発計画があったが、それ以上には進展しなかった(「3. 各国の沿岸域総合的管理の法制、政策」参照)。
・沿岸域総合的管理を所管してこれを中心となって推進する府省がない(cf.米国海洋大気庁(NOAA)、中国国家海洋局、韓国海洋水産部)。
・都道府県の海域は必ずしも明確に定められておらず、市町村区域には原則として海域が含まれていない。
・市町村が身近な海域を管理しようとしてもそのための財源が確保されていない。1つ例を挙げると、沖縄県の竹富町が、石西礁湖などのサンゴ礁海域は河川・湖沼と同様に日常的な生活域であり町が実質的に管理しているとして、その管理をきちんとするためにこれを町域に編入し地方交付税の算定面積に入れることを二度にわたって沖縄県を通じて総務省に申請したが、総務省は却下した。海域は原則的に市町村区域に含まれておらず、これを生活域として地方交付税の算定面積に入れることは認められないとの趣旨のようである。

5. 沿岸域総合的管理のあるべき姿

 ここで、各国が国際的な行動計画を踏まえて取組みを進めている「沿岸域の総合的管理」を参考にして、わが国が推進すべき「沿岸域の総合的管理」の姿を挙げると次の通り。
・わが国沿岸の陸域・海域を沿岸域として一体的にとらえて、その環境・生態系、開発・利用等の問題に国−都道府県−市町村が重層的に取り組むシステムを構築する。
・国は、海洋の総合的管理の一環として、わが国の沿岸域の環境・生態系の保全と持続可能な開発利用を目的とする「沿岸域の総合的管理」を推進することを明確にし、そのための制度・計画を定め、これに自らの問題として取り組む地方を政策・技術・財政面から指導・助言・支援する。実際の取り組みは基礎自治体である市町村と広域自治体である都道府県が中心となって、自らの沿岸域の開発・利用、環境・生態系の保全等の問題に総合的・計画的・順応的に取り組む。
・自治体では、住民を含めて地域の関係者が広く参加する協議会等を設置して、沿岸域総合的管理に計画的・順応的に取り組む。
・内湾や島と島の間の海域をはじめ、住民の日常生活に密接な関係を有する海域を市町村区域に編入することを認める。また、沿岸の一定の範囲の海域を都道府県の海域として定める。そして、これらの海域を適宜地方交付税の算定面積に加える。「沿岸域の総合的管理」は、地方創生、海洋の安全等にとって重要な施策であるから、その財源については国の制度として定める。
・「Plan(計画)—Do(実行)—Check(評価)—Action(改善)」のPDCAの連続的サイクルプロセスで順応的に取り組む。

6. 沿岸域の総合的管理に期待される効果「海を活かしたまちづくりによる地方創生」

 その期待される効果を列挙すれば次の通り。
・目の前の海を活かしてまちづくりに取り組む地方自治体の海域に対する管轄、権能、財源等を強化する材料として活用できる。
・沿岸域の陸域、海域に関する様々な機能別縦割りの管理制度に横串を通して、関係者が総合的な地域計画を共有することができる。
・様々な利害関係者が共通のテーブルについて議論することにより、個々に取り組むよりもより大きな利益(=共益)を連携協力して実現できる。
・市町村合併等により市町村が広域化する中で、これまで地域・集落が培ってきた生活共同体としての良さを維持し、地域を活性化する手段として活用できる。
・過疎化、高齢化の進行が著しい沿岸域・離島の問題への対策として活用が期待できる。

7. 大きな視点から見た沿岸域総合的管理の重要性

①国際的視点から
 沿岸域総合的管理(ICM:Integrated Coastal Management)は、海洋ガバナンスのうち沿岸域の管理の方策として国際的に確立している。わが国でも沿岸域でその環境回復を目指す住民運動や森・川・里・海の取り組みなど、これと類似した取り組みがあちこちで行われてきてはいる。しかし、国が法制度として、これに取り組む地方自治体を国が指導、助言、支援することを定めた沿岸域管理法はなく、国際的に確立している「沿岸域総合的管理」の取り組みが制度的に確立しているとは言い難い。わが国も沿岸域管理法を制定して国際的にICMとして通用する沿岸域総合的管理を実施していかないと、世界、そしてSDGs等の国際的な取り組みから取り残されることが危惧される。

<参照>リオ+20の『リオ海洋宣言』(2012)
1. 総合的海洋管理
成功している生態系に基づく管理(EBM)/統合的海洋沿岸域管理(IOCM)の取り組みを拡大(scale up)する。
・国家レベルでは、国家の管轄下にある海洋と沿岸を対象にして、海洋・沿岸に関する法律の制定を含む統合的海洋沿岸域管理のための制度と意思決定プロセスの強化を通じて、(以下略)

②わが国の沿岸域の管理と国の安全の確保の視点から
 沿岸の埋め立てなどに際して予め海域を市町村区域に編入することは行われているものの、わが国の市町村区域には、原則として海域は含まれていない。しかし、これでは、地元の市町村や住民が目の前の海のことに常日頃関心を持って関わっていくことは難しい。各国が実施しているように、内湾、島と島の間の海域をはじめ目の前の身近な沿岸海域を市町村区域に編入し、住民その他の関係者も参加してこれを沿岸域総合的管理で計画的に管理、利用していくようにすべきである。これがまさに海を活かしたまちづくりである。
 目の前の海が自分たち市町村の海であれば住民の眼が海域にも行き届き、沿岸域の持続可能な開発利用、海洋環境・生態系の保全をきちんと行なうことができるとともに、海からの不審船・不審物等の侵入などにも目が行き届き、海洋の安全にもきちんとした対応が可能となる。わが国の長い海岸線での沿岸市町村による海域の保全、開発、利用、管理が国の制度の下で行われるようになれば、沿岸市町村だけでなく、わが国の社会の健全な発展、さらにはわが国の安全の確保にも貢献する。
 本稿をまとめてみたい。 海洋・沿岸域の総合的管理は、広大な海洋まで対象とする地球規模のものではあるが、その原点は、市町村とその住民が目の前の海を管理するところからスタートして、海全体に広がっていったということが、世界のこれまでの取り組みを見て明らかである。このように、海の管理は、沿岸域の総合的管理がかなりの部分を担っている。したがって、沿岸域においても、海を活かしたまちづくりという形で、海の環境や生態系を保全し、持続可能な開発をしていくこと、そして、海を最大限に生かして自分たちの町づくりを行い、地方創生を行って行くことが重要である。

(本稿は、2021年8月3日に開催したIPP政策研究会における発表を整理してまとめたものである。)

政策オピニオン
寺島 紘士 日本海洋政策学会顧問
著者プロフィール
1941年生まれ。海洋問題を総合的に論ずる国際会議での我が国のプレゼンスのなさ、時流に後れた縦割り機能別の取り組みを憂慮し、日本および世界・アジア地域で海洋政策に関する研究・活動に積極的に取り組んでいる。日本海事科学振興財団評議員会議長、神戸大学経営協議会委員、日本水路協会評議員。運輸大臣官房審議官、世界海事大学理事、横浜市立大学客員教授、日本財団常務理事、シップ・アンド・オーシャン財団海洋政策研究所長、海洋政策研究財団常務理事、笹川平和財団常務理事・海洋政策研究所長、日本海洋政策学会副会長などを歴任して現職。著書に『海洋ガバナンス 海洋基本法制定 海のグローバルガバナンスへ』(西日本出版社)など、共著書に『海洋問題入門』丸善、『沿岸域総合管理入門』東海大学出版 など。
わが国は市町村区域に海域が含まれないため、沿岸域総合的管理は進んでいない。今後は、沿岸域総合的管理を通じた海の環境保護、持続可能な開発による地方創生が重要となる。

関連記事

  • 2021年3月31日 平和外交・安全保障

    姉妹都市交流の歴史的経緯と今日的意義 -姉妹都市の再活性化による地域振興への提言-

  • 2021年4月7日 持続可能な地域社会づくり

    ポストコロナの地方創生政策 -長崎県の地域経営戦略の事例から-

  • 2021年2月26日 家庭基盤充実

    地域の課題と全人教育

  • 2020年12月3日 家庭基盤充実

    家族療法による家族力・地域力の再生―家族と地域のきずなを考える―

  • 2021年1月6日 持続可能な地域社会づくり

    田園回帰と地域づくり ―持続可能な都市農村共生社会を目指して―

  • 2020年10月6日 グローバルイシュー・平和構築

    再生可能エネルギーの可能性と課題 ―洋上風力発電による地方創生―