Ⅰ はじめに
太平洋新文明時代の到来
文明発展の歴史的変遷の軌跡を顧みると、まず古代においては「大河文明」としての四大文明が花咲いた。次いでギリシャ・ローマ世界(エーゲ海・地中海)から中世におけるインナーユーラシアのイスラム世界(ペルシャ湾・インド洋)が栄えた「ユーラシア周辺内海文明」の時代を経て、近世にはアウターユーラシアの西ヨーロッパ(大西洋世界)が繁栄の中心となる。さらに20世紀にはいると、覇権国家はイギリスから大西洋西岸の米国へ移動する。パクスアメリカーナは、キリスト教とヒューマニズム、近代科学を礎とするヨーロッパ文明を継承発展させ、その輝きを頂点へと高めると同時に、20世紀後半には太平洋新文明の幕を開く原動力ともなった。
近現代、それは、大西洋と太平洋という世界の大洋地域が人類繁栄の中心域をなす「大洋文明」の時代であり、その中心は大西洋から太平洋へと推移しつつある。現代は、パックスブリタニカ、パックスアメリカーナと続いた西欧を中心としたグローバル文明から、太平洋を中心とした新たなグローバル文明への移行期に当たっている。21世紀は「太平洋新文明」の時代であり、あらたな文明圏が台頭する時代を迎えたのである。
環太平洋圏は、世界経済の成長センターであり、近代西洋科学技術文明と東洋精神文明との出会いの場である。太平洋新文明は、①広大な地域を擁する海洋性の強い文明、②自由・民主主義を基調とする開放的な文明、③西洋文明と東洋文明が融合したハイブリッド文明、④多様性を帯びた多様性の中の共存の文明、⑤形成過程にある文明であるという点を特徴としている。異質の文化が融合し、あらゆる思想・文化・宗教が併存する新たな世界文明である。
太平洋新文明と覇権の行方
過去の史例から明らかなように、一つの文明圏が形成される過程においては、関係する大国間の権力闘争が繰り広げられてきた。そして激しい戦いの末に勝者となった国が覇権国家として新たな国際秩序を築くとともに、その枠組みの下で安全保障や貿易などの国際公共財やサービスを傘下の国々に提供するようになる。この覇権国家の庇護の下で諸国間の活発な交流や接触が重ねられ、その中から新たな文明圏が生成されていくのである。太平洋新文明の形成にあたって、その担い手の一つの柱はいうまでもなく米国であるが、近年その覇権と国力に陰りが見え始めている。
冷戦に勝利し唯一の超大国となった米国のジョージ・H・W・ブッシュ大統領は、新世界秩序を唱え、米国にポスト冷戦期の世界の平和と安定を担う覚悟と責務があることを強調した。ところが冷戦の終焉後、イスラム原理主義による暴力の挑戦を受けた米国は、対テロ戦争として相次ぐ対外戦争に踏み込み、リーマンショックも相まって、その国力と国民精神は大きく疲弊してしまった。その米国の覇権に挑戦しているのが中国であり、両者の争いは政治・経済・軍事など、あらゆる分野に及んでいる。
しかし、中国が米国に代わって太平洋新文明を担う覇権国家になることは考えにくい。なぜなら、太平洋新文明を担うことのできる覇権国家は、①世界文明を築くことのできる海洋国家である、②権力の集中がさほど強くなく、自由で開放的な政治システムを持つ、③世界各地に展開し、コミュニケーションを維持する力を持つ、④武力による威圧的活動よりも、相互利益の通商交易に通じている、⑤諸外国から支持受容される普遍的なシステムを生み出す力をもつ等の特徴を有する国家でなければならない。
中国が自由と民主主義の政治システムを採り入れず、現在のような閉鎖抑圧的な政治体制を今後も堅持する一方、大陸国家として強大な陸上兵力や宇宙・戦略核兵器の整備にとどまらず、海洋国家米国の海洋支配を覆そうと潜水艦や空母の建造など海軍力の増強を続けるならば、経済の行き詰まりや自由を求める民衆の不満が飽和に達し、最終的には共産党一党独裁の体制は内部から瓦解する可能性もある。
では、中国を抑え21世紀〜22世紀の覇権国家としてヘゲモニーを握るのは誰か。近世以降の覇権闘争のアクターはすべて国家であったが、主権国家を軸とする今日の国際体制は、国際秩序のパラダイムとしてはすでにその頂点の時期を過ぎたといえる。新たなヘゲモニーを握るのは特定の主権国家ではなく、自由と民主主義を掲げ、武力よりも公益を重視する、開放的性格を帯びた国々の同盟を想定することができる。
米国の影響力は相対的に低下しており、同盟国である日本の果たすべき役割は増大しつつある。しかし、日本一国で米国の肩代わりをすることは不可能である。それをカバーするのが、第一に海洋諸国家との多国間連携である。日米安保を軸(ハブ)とし、多くの海洋国家との連携協力の枠組みをスポークとして整備し、海洋の自由と海洋秩序の安定を実現する海洋同盟を形成する(海洋同盟構想)。Quad(日米豪印戦略対話)がそれにあたるが、その枠組みに自由思想が自国の生存と経済活動を支えている国々を加え、国際秩序の維持を図るために互いに連携協力を図ることによって、米国の影響力後退を補うという形で新たな文明を発展させていく道がある。
朝鮮半島の重要性
自由と民主主義を掲げる海洋国家を中心に太平洋新文明を築いていく立場に立つと、もう一つのより重要な柱が、日本、韓国そして米国の連携及び朝鮮半島の平和的統一を視野に入れた戦略的朝鮮半島政策である。これが太平洋新文明のもう一つの鍵となる。日本は太平洋新文明の軸として、米国と協力しその力を補うとともに、新たな国際秩序の形成にあたっても大きな役割を担う立場にある。さらに、北東アジアの平和と安定を確保するには、日米同盟に韓国を含めた日米韓の戦略的枠組みを整備する必要がある。朝鮮半島および台湾海峡は中国・ロシアの大陸国家のパワーと海洋国家によるパワーが衝突する戦略的ホットスポットである。その南に位置する韓国は海洋勢力の大陸勢力に対する最前線を構成しており、日本にとって戦略的利益を共有する最も重要な隣国であり、地政学的にも日本の安全保障にとって極めて重要な国である。
このため、様々な困難な問題を抱えながらも、日韓両国が政治・経済・外交などの各分野で緊密に連携することは、太平洋新文明圏の構築にとって不可欠であり、北東アジアにおける平和的発展を実現する上でも大きな意義がある。日本は太平洋新文明を発展させていくためにも、朝鮮半島に対して戦略的政策を確立してそれを実行していくべきである。
Ⅱ 戦略的朝鮮半島政策の構築に向けて—朝鮮半島政策のフレームワーク
(1)朝鮮半島の平和的統一
戦後日本は、朝鮮半島における南北分断の状況をいわば所与不変の前提として外交を進めてきた。しかし、南北分断が現状のまま永続するとは考えにくい。戦略的な視点に立ち、中長期的な観点から朝鮮半島政策を構築するとなれば、朝鮮半島の統一問題を除外することは出来ない。朝鮮半島が南北分断された歴史的経緯を鑑みれば、南北統一に関しては当該国である韓国と北朝鮮だけでなく、米国、中国、日本、ロシアといった周辺国の協力が必要となる。
金正恩政権の最大の関心事は、金王朝の体制存続である。そのため短期間に朝鮮半島の完全民主化や急速な武装解除、非核化をめざすことは、北朝鮮を逃げ場のない状況に追い込むことになり、却って朝鮮半島や北東アジア地域を不安定化させる危険が高い。朝鮮半島における南北の統一は、当面は現在の二国家が併存し、その上に連邦政府を設ける緩やかな統一方式にならざるを得ないのではないか。この緩やかな連邦制の実現に向けて、日米韓の連携の下、日本は朝鮮半島の南北統一に向けた動きに早い段階から参画すべきである。
韓国主導の統一がもたらす朝鮮半島の政治的安定と民主化は、社会主義勢力の伸張を防ぎ、北東アジアの緊張を緩和する。さらに拉致問題の完全解決、南北統一による新市場の獲得機会等日本の国益にとって大きな意義をもつ。
(2)日米同盟および韓米同盟を基軸とした対応
北東アジアの安定の基礎となるのが日米の同盟関係である。アジア太平洋地域において米国は、二国間の同盟体制からなるハブアンドスポークスの枠組みを重視しているが、そのなかでもコアの役目を担っているのが日米と米韓の安保体制である。朝鮮半島政策を展開する際も、日本と韓国が米国との緊密な調整と連携の下で取り組むことが肝要である。
(3)朝鮮半島に対する中国の過大な影響力拡大の阻止
朝鮮半島政策は対中政策でもある。中国にとって北朝鮮の存在は、民主化勢力の北進を防ぐ緩衝地帯としての価値を持っている。また、北朝鮮の後見役としての立ち位置が中国の国際政治における存在感や発言力を高めることにもなっている。ゆえに中国は現在、朝鮮半島における現状の維持、即ち南北分断の状況を基本的に支持している。しかし、中長期的には北朝鮮だけでなく韓国も自らの側に取り込み、中国主導で南北の統一、再編成を目指すことも考えられる。
中朝関係が緊密化する場合も、逆にぎくしゃくする場合のいずれのケースにおいても、中国が朝鮮半島に対する自らの影響力拡大に動く危険性があり、そうなれば中国の覇権は一挙に日本海にまで及ぶことになる。日本としては、朝鮮半島に対する中国の影響力拡大や南下膨張を阻止し、また中国の影響圏に組み込まれる形での統一という事態の回避に動く必要がある。
(4)戦略的視点と長期的ビジョンの確立
日本にとって死活的に重要な地域である朝鮮半島に係る政策立案にあたっては、日本外交にしばしば見られた状況対応あるいは現状追随の外交から脱却し、より「戦略的」でかつ「長期的」な視点に立脚した政策を築き上げるべきである。
「戦略的」とは、国との友好や親善、あるいは対立関係の和解それ自体を外交の目的にするものではなく、自由、民主主義、法の支配といった原則に基づき、日本の国益を精査しつつ、国際社会からも尊敬を得ることのできる政策でなければならないという意味である。「長期的」とは、日本外交の周期性がもたらす過剰介入と孤立閉鎖という振幅の大きい両極端の政策に陥らないということである。近年、嫌韓意識の強まりから、韓国無視や無関与の政策を唱える風潮も生まれているが、一時の感情に流されたこうした排他排除的な政策こそ最も慎むべき選択である。
Ⅲ 南北の平和統一を視野に入れた戦略的朝鮮半島政策への提言
1.日米韓同盟の強靱化
北東アジアの安全保障に関連して、既にインド太平洋を巡る海洋同盟としてのQuadがあるが、朝鮮半島の平和的統一を視野に入れつつ、日米韓を基軸とした枠組みを構築する必要がある。
(1)日韓戦略対話メカニズムの創設:日韓2+2
戦略的パートーナーシップの構築を進めるための枠組みとして、現在2+2(外務・防衛閣僚協議)が存在する。2+2は日米間に設けられている日米安全保障協議委員会(SCC: Security Consultative Committee)以外にも、日豪、日英、日仏、さらに日本とインドネシアの間で立ち上げられている。日本と韓国の間ほど政治、外交、安全保障等各般の分野における情報や意見の交換が必要になっている二国間関係はない。朝鮮半島の平和的統一を見据えて、戦略的朝鮮半島政策を構築するには、日本と韓国の間にも2+2を設置すべきである。
(2)日米韓戦略対話メカニズムの創設:トライアングル2+2+2
中国の脅威の高まりを背景に、アジア太平洋地域では既に、日米豪などトライアングルな戦略対話の枠組み整備が進んでいる。北東アジアの安定のためにも、米韓、日韓の二国間対話だけでは、日米韓三国の迅速な調整には不十分である。日米韓の連携は日米豪の枠組みをモデルとして、日米韓のトライアングルな戦略対話枠組みの整備が必要である。
(3)日米韓の緊密な連携や政策調整を
戦略対話枠組みの整備は、閣僚レベルの日米韓三国の情報交換や意見調整には有効であるが、同盟内の政策決定の迅速性と整合性の確保を図るには、戦略対話枠組みの整備に加えて、首脳相互が定期的そして頻繁に会合を重ねる体制整備が必要である。そのためにも、日米及び日韓、韓米首脳会談及び三国の首脳が一堂に会し直接意見を交換して連携して取り組む政策の決定に導くための会合を開催すべきである。
2.重層的地域協力のコアとしての日米韓連携
(1)北東アジア地域協力機構の立ち上げ
日米韓首脳会談の定例化や常設機構創設などの機能強化が図られた段階で、日米韓同盟の枠組みをベースとして、北東アジア地域協力のための枠組み作りに着手するとともに、同枠組みとASEANやSAARC(南アジア地域協力連合)、さらにはEU等他の地域協力機構との連携を図り、地域主義ネットワークの構築へと繋げていくべきである。さらには、台湾を加えての東アジア地域協力の枠組み整備も検討に値する。
日米韓に求められる朝鮮半島政策は、北朝鮮を中国ではなく日米韓の影響圏の中に引き寄せ、取り込み、平和的にその体制を変革させるためのアプローチであるべきだ。こうしたアプローチが功を奏し、北朝鮮が核を放棄することが確実となった場合、体制保障、経済再建のための包括的な支援を提供する主体となるのも日米韓であり、支援の円滑な実施を可能にするためには、三国の緊密な連携と調整を図るための場の設置が不可欠である。
(2)北東アジア信頼醸成メカニズムの創設に向けて
日米韓同盟の地域協力機構としての整備と機能発揮が進んだ段階で、日米韓の同盟ネットワークを母体に、当事国の北朝鮮及び中国とロシア他を加え、6カ国協議に代わる恒常的な地域安保協力機構を新たに立ち上げることも視野に入れるべきである。北朝鮮に即時の体制変更や核の完全放棄を迫るよりも、まずは北朝鮮にIAEAの査察を受け入れさせ、その代わりに周辺諸国が北朝鮮の安全を保障し、その孤立感を和らげることが肝要であり、そのための関係諸国間の信頼醸成構築及び政策協議の場として安保協力機構は必要である。
北朝鮮に対する中国の影響力の減殺、牽制に務める一方、中国を協議の場に取り込み、北東アジアの平和と安定の維持に一定の責任を負わせ、その行動に制約を課すことも必要である。
3.日韓トンネルの国家事業化
(1)日韓トンネルがもたらす政治・経済効果
日本と韓国、北朝鮮、それに中国の東北三省と極東ロシアを合わせれば、2021年時点で人口の総計が約3億2千万人となる。日韓トンネルを契機として北東アジア経済圏ができれば3億5千万人以上の経済圏を見込むことができる。そのGDPはEUを超える見込みであり、世界の中でも豊かな経済圏が実現する可能性がある。
日本と韓国を結ぶ海底トンネルが建設されれば、従来の北東アジア輸送システムの欠点は画期的に改善される。日韓両国がこれまで海運や航空輸送に頼らざるを得なかった物流ルートに陸運が加わることで、一次産品や部品、工業製品の輸送量は飛躍的に拡大し、日韓経済の発展に大きく寄与するであろう。
また、九州の中心である福岡と韓国南部の拠点釜山は、日韓トンネルの開通によって直接鉄道で結ばれることで、九州北部と韓国南部は一つの経済圏とへと拡大、発展していくだろう。九州はそのセンター、北東アジア経済圏のハブとなり得る。国民・地域便益という幅広い視点からその経済的便益を評価すれば、採算が取り得る事業となる可能性が高い。
世紀の一大プロジェクトにともに取り組むことで育まれる日韓の友好や連帯、一体化意識は、日米韓三国の同盟関係の強化という観点からも必要とされる。中国の台頭に対して、米国はアジアの同盟諸国間の関係強化を強く求めている。日韓トンネルの建設によって日韓の距離が国民レベルで近くなり、両国の紐帯が強まることは、日韓二国間の関係改善に留まらず、日米韓三国の連携と同盟の信頼性向上に繋がり、アジア太平洋地域の平和と安定にも大きく寄与することが期待される。
(2)自由で開かれた北東アジア経済圏を見据えて
北朝鮮の改革・開放が進めば、海底トンネルで結ばれた日韓の高速鉄道網を将来的には北朝鮮に延伸させ、朝鮮半島縦断鉄道へと発展させることも構想の視野に含められる。韓国と鉄道が連接することで、北朝鮮は線路使用料を収入として得るだけでなく、外貨の獲得も可能になる。北と南の双方から伸びる鉄道網によって北朝鮮をこの新たな物流システムに取り込むことが出来れば、閉鎖的で社会主義経済の桎梏に苦しむ北朝鮮を開放的な自由主義経済圏の一員へと導くことが出来る。北の経済体制や社会システムの変革を促すことは朝鮮半島の平和的統一を加速させ、東アジア共同体を実現に導く起爆剤ともなろう。日韓トンネルは、北東アジアの経済発展と経済共同体実現の礎となるばかりか、この地域の安定と朝鮮半島の平和的統一を促す事業なのである。
(3)国家事業化の決断を
日韓トンネルは、日韓の経済交流拡大と両国の関係改善、両国民の友好親善促進に資するばかりでなく、長期的な観点に立てば、北東アジアにおける自由で開かれた広域経済圏の構築や、さらには同地域の平和と安定、共生共栄の政治共同体を実現に導く事業でもある。
世界的に国際海底トンネルへの関心が高まりを見せるなか、中国も黄海の海底をトンネルで韓国と結ぶ構想を暖めている。仮に日韓トンネルよりも先に、中国が計画している中韓トンネルの構想が具体化するようなことになれば、韓国の中国への傾斜が一層強まり、北東アジアの経済地図は中国主導で塗り固められてしまうことも懸念される。そのような事態にならぬようにするためには、中韓トンネルよりも構想や調査活動等で先行してきた日韓トンネルを一刻も早く政府レベルの事業に格上げし、その構想を具体化させる必要がある。
4.日韓姉妹都市交流の推進
(1)日韓姉妹都市交流の意義
政府間における信頼醸成が難しい局面でこそ、地方自治体間の姉妹都市交流が重要な役割を果たしうる。姉妹都市交流の今日的意義は、第一に国際公共財として、地域社会相互の国際交流の土台(プラットフォーム)を提供すること、第二にグローバル未来人材育成のプラットフォームを提供することにある。
また、日本と韓国は、少子高齢化とそれに伴う地方衰退の厳しい現実、多文化社会への移行に伴う問題、環境汚染、若者をめぐる社会状況など、多くの共通する社会的課題を抱えている。政治外交問題では相手の主張に同意できなくても、地域社会における共通の課題を解決し、よりよい社会を実現するという互いの意思を確認することで、共感を得ることは可能である。地方自治体やその住民が直面する諸課題を共有する日本と韓国がともに手を取り合って協力することは有効な方法である。
さらに、地方議員や市民団体などの地方自治体レベルでの韓国との交流が、地方選出の国会議員を通じて間接的に外交に影響を与えることの可能性を過小評価すべきではない。相手国との交流を通じて得られた市民の知識と経験が、ひいては日韓の対立を抑える「安全弁」の役割を果たすことを期待したい。
(2)若者の草の根交流による未来の平和への基盤づくり
近年の日韓関係は、歴史認識問題等を中心に折り合いのつかない状況が「常態化」しており、それが人々の対韓感情にまで及んでいる。マスコミやネット上には嫌韓・反韓感情をあおる内容が多く見られ、韓国をネガティブに見る人が少なくない。しかしながら、姉妹都市間の交流は、直接的な対話によってメディアからの情報では得ることができない他者への理解を促しており、両国間の相互理解に草の根レベルで貢献している。
国レベルの日韓関係がぎくしゃくする背景には、日韓の政治家や経済人のかつてのような太い絆・パイプが細くなっていることがあると言われて久しい。外交ルートによる努力とは別に、草の根レベルで形成された相互理解と相互信頼に基づく都市と都市、市民と市民の公的なチャンネルを土台とした交流が活発化することによって、外交がより円滑に進むための基盤を形成し得る。姉妹都市は、グローバル未来人材育成のプラットフォームとしての役割が期待されるだけに、今後日韓の青少年を中心として心情的な紐帯をむしろ深めてくれる基盤となりうるだろう。
Ⅳ 結語
太平洋新文明が幕を開けつつある現在、世界に占めるアジア太平洋地域の重要性は各段に高まっている。それと同時に、日本が位置する北東アジアの国際情勢は緊張の度を強めている。そのような情勢のなか、日本の外交はアジアに大きく回帰する必要があり、日本外交の視座を朝鮮半島に据え置く時期が来たといえる。そして、覇権主義の横溢や抑圧と独裁の体制がアジアに広まることを防ぎ、北東アジアにおける平和と安定、及び朝鮮半島に真の平和と発展を実現する上で、ともに自由と民主主義を掲げ、唇歯輔車の関係にある韓国との連携を深め、米国と共に積極的に朝鮮半島の平和的統一にも関与すべきである。
それは単に和解や交流促進の域に留まるものではなく、南北の双方を視野に収めた包括的かつ戦略的な朝鮮半島政策の構築に向けた熱き取り組みでなければならない。朝鮮半島の緊張緩和は北東アジア地域及び世界の平和と安定に寄与するばかりでなく、日本の国益にとっても大きな意義を持つ。
朝鮮半島問題への日本の貢献は、日本の存在感をアジア諸国及び世界にアピールし、平和的な戦略大国の評価を勝ち得る契機ともなろう。米国の影響力の後退と強まる中国の覇権主義を前にして、日本には地政的視座と戦略的発想に立ったアジア外交の展開が求められている。その嚆矢となるのが南北の平和的統一を見据えた戦略的朝鮮半島政策であり、21世紀日本のアジア外交の成否は、まさに一衣帯水の地である朝鮮半島に対する取り組みの如何に関わっているのである。