教員免許更新制廃止と教員の専門性向上

教員免許更新制廃止と教員の専門性向上

「教員免許更新制」発展的解消へ

 少子化を背景に、教育現場では教師の人材不足が深刻化している。文部科学省は高い資質・能力を持つ教師を育成・確保する必要があるとし、中央教育審議会(中教審)の「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会教員免許更新制小委員会」で教師の養成・採用・研修等の在り方について審議を重ねてきた。
 8月23日、中教審の審議まとめ(案)が公表された。中教審の小委員会は教員免許更新制について、「『新たな教師の学びの姿』を実現する上で、阻害要因となると考えざるを得ない」とし、「発展的に解消することが適当である」と結論づけた。
 これを受け、萩生田光一文科相(当時)は「令和の日本型学校教育」を担う、高い資質・能力を身に付けた教師を確保する為に、再来年度から教員免許更新制を廃止する方針を表明した。

「教員免許更新制」見直しの論点

 教員免許更新制は教員の資質向上を図ることを目的に2009年度から始まった。10年毎の更新制で、教員は更新前に30時間の講習を受けなければ免許失効となる。制度導入10年が経ち、制度上の課題がいくつか指摘されるようになった。
 制度廃止の理由として一つは、多忙な教員への負担感である。約3万円の講習費や交通費などを教員が自己負担しなければならないため、教員への経済的・物理的な負担感が大きいことである。
 もう一つは、免許更新手続きに関わる問題である。多忙な教員が更新期限を忘れ、免許を失効してしまう「うっかり失効」や免許更新制導入時に更新した、現66歳の教員免許が失効するという退職前の教員の大量失効も起こっている。
 結果的に、退職教員が担ってきた非常勤講師や臨時的任用教員の確保が困難になるなど、教師の人材確保に影響を与える可能性が出てきた。
 これらは主に制度上の問題だが、廃止の理由として、社会変化の速度が増すなか10年更新制の在り方、講習の内容や学びのスタイルが教員の資質向上という目的に合わなくなってきたことが大きい。

現職教師の6割が制度に否定的

 文科省が今年4~5月に全国の現職教師を対象に行った調査では、現職教師の6割弱が制度に否定的な考えを持っていることが明らかになった。
 例えば、「受講した講習が最新の知識・技能を習得できる内容であったか」と尋ねると、「そう思う」「ややそう思う」(52.6%)と「あまりそう思わない」「まったくそう思わない」(44.8%)がそれぞれ半数程度を占めた。
 また「現在の教育現場に役に立っているか」との問いに、「役立っている」(「やや役立っている」を含める)が33.4%に対して、「役に立っていない」(「あまり役に立っていない」を含める)も37.8%とほぼ同割合いた。
 制度を検証してきた中教審教員養成部会は今年3月、「制度の効果は一定程度認められる一方、教師が費やす時間や労力に比べて、効果的な成果を得られる制度になっていない」との見解を示している。

新しい教師の学びの姿とは

 今年1月26日、中教審は「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」(令和答申)を答申した。そのなかで教師の在り方について、グローバル化、情報化といった社会の急速な変化に対応できるよう、教師自身が新しい知識・技能を常に学び続けていくことの重要性を強調している。
 令和答申が掲げる「日本型学校教育―全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学び」を実現するには、教師の学びの姿も新たに変わらなければならないということである。
 コロナ禍の学校現場では感染対策のほか、「新学習指導要領の全面実施」「学校における働き方改革」「GIGAスクール構想」「小学校の学級編成の少人数化」など、様々な施策に取り組まなければならない。こうした施策を進めていくには、教師一人ひとりが専門的知識・能力を身に付ける必要があり、自ら主体的に学び続ける、高度な専門職としての教師の学びの在り方が求められているということである。
 研修の在り方として例えば、座学中心の「知識伝達型」から、「現場の経験」を重視した、「協議・演習形式の学びや地域や学校現場の課題の解決を通した学び」を深めるなど、協働的で課題解決型の学びである。

専門性を有する教職員組織

 また教職員組織の在り方についても、「学校の教職員組織は、同じような背景、経験、知識・技能をもった均一な集団ではなく、より多様な知識・経験を持つ人材との関わりを常に持ち続ける組織や、当該人材を取り入れた組織であることが、絶えず変化していく学校や社会のニーズに対応していく上で望ましい」(令和答申)としている。
 多様な専門性を有する教職員組織をつくるには、民間企業等から外部人材を教育現場に参画させる柔軟な仕組みが必要である。教職員採用の仕組みを大胆に見直すとともに、萩生田文科相が年頭に「教師を再び憧れの職業に」と語ったように、教員養成の議論と同時並行で「学校における働き方改革」を進めていく必要がある。
 現下の教師はコロナ感染対策、新学習指導要領やICT活用への対応等で益々多忙を極めている。教師が新しい知識・技能を常に学び続け、高度な専門人材に育っていくには、教師を支える職場環境の整備など課題は多い。
 文科省は教師の養成・採用・研修等の在り方について、幅広い議論を重ねた上で、再来年度には新たな教員研修制度に移行させていく方針だ。

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