スコットランドで児童に性の自己選択権認める動き

スコットランドで児童に性の自己選択権認める動き

性の自己選択可能に

 英スコットランド政府が8月12日に発表した新しい性的マイノリティ(LGBT)の包括的ガイドラインによれば、4歳の子供でも保護者の同意なしに学校で名前と性別を変更することができるようになった。これは英国内でも衝撃的なものだった。
 70ページの文書は、生徒が男の子または女の子として生きるために性を変更したいと言った場合、希望する生徒に問いただすことなく、新しい名前と代名詞(彼、彼女)を教師に求めることができるというものだ。当然ながら、これを報じた英保守系高級紙ザ・テレグラフも「物議を醸すガイダンス」と書いている。
 同ガイダンスの一つのポイントは、性の変更を求める児童は、両親に知らせたくない場合は児童の意思を尊重すべきであると主張していることだ。つまり、親の知らない間に突然、子供が性を変えたことを知ることもありうるというわけだ。スコットランドでは、初等教育が5歳から始まる。
 スコットランドの学校ではトランスジェンダーの生徒は、選択したトイレや更衣室を使用し、彼らのために「ジェンダーニュートラル」な制服オプションを開発すべきとしている。教育に使用する資料や授業で教材を読む際に、トランスジェンダーの性格や役割モデルを含めるべきだとガイドラインは示している。

子供への影響

 当然ながら、スコットランドのLGBT擁護団体は、この動きを歓迎し、規則がすべての子供たちの「育成」に役立つと主張している。
 しかし、反対派は「危険なイデオロギーが学校に侵入している」と主張しており、自分の性の明確な自覚を持つ子供が、自分の性とは反対の性に関連する玩具で遊ぶ場合、逆にトランスジェンダーという誤ったレッテルを貼られるリスクがあると警告している。
 テレグラフは、「スコットランド女性のため」運動を展開する共同ディレクターのマリオン・カルダー女史が「重要なことは、スコットランド政府が推進していることに危険なイデオロギーが含まれていることだ」と強い懸念を表明していると伝えている。
 カルダー氏は「これまでは、服装や好き嫌いなどを通じて子供たちは男女の性別による役割分担を演じ、試すべきだと一般的に理解されていたが、この内容はその理解や児童の保護、親権の在り方を否定している」と指摘している。
 さらに子供に性転換の医療行為について教えるのは間違っているとも主張し、「子供たちが健全とはいえない方向に進まされようとしている。それは生涯にわたる影響を与えかねない」と警告している。
 同ガイドラインは、スコットランド自治政府が、障害のある子供たちと、それ以外の子供たちとを隔てなく教育するインクルーシブ教育で、LGBTについての新たな指針を示したものだ。
 そのため、さまざまな批判に対してスコットランドのシャーリー・アン・ソマービル教育長官は、このガイドラインはジェンダーの移行を「促進」しようというものではなく、自らのジェンダー変更を選んだ子供がそれを実践するうえで適切な環境と安全を提供するだけだと説明している。

保護者の知る権利

 アメリカでは、国連の児童の権利条約は、子供の自律権を全面的に認めたものであると解され、親の権威や家族の統合を破壊するとの立場から批准していない。一方、スコットランドを含む英国は批准しているが、条約はLGBTを前提とはしていない。
 子供の性変更を知る保護者の権利を否定するガイドラインは、当然ながら国内でも物議を醸している。スコットランドの著名な弁護士、エイダン・オニール氏は最近、「親に通知せずに性別を切り替えたいという子供の希望を支持する学校は違法である可能性がある」との法的見解を示したが、教師側は子供の希望を尊重するよう主張している。
 タビストックセンターとしても知られるロンドンの性同一性開発サービスクリニックに紹介された若者の数は、2010年時点で138人だったのが、2019年から20年には2748人に急増した。特に男の子の約2倍の14歳から16歳の女の子が診療を受けたとしている。
 一般的に多くの専門家の間では、子供が何年も自分の中に異性を見出した場合、それは彼らがトランスジェンダーである兆候だと考えられている。しかし、多くのトランスジェンダー患者を治療してきた心理療法士のボブ・ウィザード氏は「現在、この問題に関する13の研究があり、そのような子供たちの約80%は、治療せずに放置すると生物学的性同一性に戻ることがわかっている」と指摘している。

教師のスキルの問題

 同ガイダンスは、スコットランドの新学期に先立って、著名なバージンエアーの創業者で知られるビジネスマン、リチャード・ブランソン氏の長女ホリーさん(39)が、4歳から10歳まで少年として生きていたことを明らかにした数週間後に発表された。
 ホリーさんも過去を振り返り、自分の後に生まれた弟が親から愛される姿を見て、自分も男の子になりたいと思って男子の服装をすることにし、男子の排尿スタイルを真似ていたと書いている。それは10歳でやめて女の子であることを受け入れたという。彼女は両親が温かい目で見守ってくれたことに感謝していると語っている。
 スコットランドの教師は、自分の性が迷走する期間を否定し、児童の気持ちを「肯定する」ように促している。「不注意なトランスジェンダーの開示は、若者に不必要なストレスを引き起こしたり、若者を危険にさらしたり、法的要件に違反したりする可能性があるので、子供の見解や権利を考慮し、親や保護者と情報共有しないのが最善」という。
 シャーリー・アン・ソマービル教育長官は、「トランスジェンダーの若者は学校で多くの問題に直面する可能性があり、教師とスタッフは精神的、肉体的、感情的な健康をサポートする自信とスキルを持っている必要がある」というが、教師にそのスキルが備わっているかを疑問視する声もある。

政策コラム
スコットランドで、4歳の子供でも自分で性別を変更できるというガイドラインが発表され、物議を醸している。政府は子供に適切な環境を提供するだけだと説明する。これに対して一連の規則が子供の育成に役立つと歓迎する声がある一方、学校に危険なイデオロギーが入り込み子供にはリスクがあると警告する声もある。 在仏ジャーナリスト 辰本雅哉

関連記事

  • 2021年8月17日 家庭基盤充実

    高校家庭科教科書にみる家族や性の多様化、結婚・出産

  • 2022年3月18日 グローバルイシュー・平和構築

    イスラームにおける女性観