高校家庭科教科書にみる家族や性の多様化、結婚・出産

高校家庭科教科書にみる家族や性の多様化、結婚・出産

ジェンダーの記述増す高校教科書

 3月末、文部科学省は2022年度から高校で使用される教科書の内容を公開した。「家庭科」、「保健体育」、来年度から成年年齢18歳引き下げを踏まえて新設された「公共」の教科書ほぼすべてで、LGBTQ(性的マイノリティ)が取り上げられた。同性パートナーシップ制度や同性婚、SOGI(性的指向・性自認)を扱うものも多くあった。
 高校教科書に「LGBT」という言葉が初めて登場したのは2017年度である。新学習指導要領に対応した22年度高校教科書にLGBT、同性婚、ジェンダーに関する記述が大幅に増えた背景には、15年に米国で同性婚合法化、渋谷区で初のパートナーシップ条例の施行、ダイバーシティ(多様性)を標榜する東京五輪の開催、といった社会環境の変化がある。
 そこで、家族・結婚・性に関わる事柄について、22年度高校家庭科では具体的にどのように扱われているのか、各社教科書の記述内容をみてみたい。

家族や性の「多様化」を強調

 まず、「社会の多様化」「家族の多様化」「性の多様化」など、「多様化」をキーワードに「LGBT」「同性婚」「夫婦別姓」を取り上げている教科書が多かった。
 例えば実教出版『Agenda 家庭基礎』の「自分・家族—多様化した社会に生きる—」の章では、性のあり方は多様で変化することを示す「多様な性の樹形図」を使って、自分の性のあり方(セクシュアリティ)について考えさせる構成になっている。
 同じく実教出版『図説家庭基礎』では、「自分らしい生き方と家族」の章で、「パートナーの対象として想定される相手は、必ずしも異性とは限らない」と、性的指向の多様性を強調する記述内容だ。
 また開隆社『家庭基礎 明日の生活を築く』も、性は男女の二つと捉えられてきたが、性は「性自認」「性的指向」「性表現」「身体の性」の組み合わせによって捉えられ、性のあり方は多様であると説明している。自分の性をどう認識しているかという「性自認」については、若い世代に混乱を引き起こさないよう慎重な記述が求められる。
 また、社会的関心が高まっている選択的夫婦別姓制度に関する記述も多くあった。例えば、内閣府の世論調査結果を示し、制度のメリット、デメリットを考えさせる記述がある一方、選択的夫婦別姓制度を導入していないのは日本だけであるといった、夫婦別姓を推奨するような記述もあった。
 夫婦別姓については、最高裁判所は先月、民法が規定する夫婦同氏は「合憲」との判断を下している。教科書では、日本の法制度、家族文化などを踏まえて幅広い観点から考えさせる内容が求められよう。
 新学習指導要領の基本的な考え方は、「知識及び技能」、「思考力・判断力・表現力など」、「学びに向かう力、人間性など」の三つの柱からなる「資質・能力」をバランスよく伸ばすことにあり、そのために「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)を重視している。
 アクティブ・ラーニングを意識し、コラム、資料や図表を使って、SOGI(性自認、性指向)、パートナーシップ制度を導入した自治体、世界の多様な家族形態、同性婚を法制化している国などを紹介しているものも多くあった。
 ただ、総じて「家族の多様性」「性の多様性」が強調されており、夫婦別姓や同性婚は世界の潮流であるといった扱い方になっている。

結婚・出産の意義に関する記述も

 一方、子供を産み育てることや子供と関わる力を身に付けることができるよう、命の誕生に始まる子供の発達過程を通して子供のいる生活をイメージさせたり、結婚・出産を通して家族を形成することの意味を考えさせたりする内容も多くみられた。
 東京書籍『家庭総合 自立・共生・創造』など、青年の自立、生き方、人生のライフコースを考えさせるライフデザイン教育を扱っている教科書もあった。
 また地域共生の視点で、家庭や地域と関わることの大切さ、赤ちゃんと触れ合う機会を持つことの大切さ、結婚の意義、子供を産み育てることの意義など、少子高齢社会を意識した記述が目立った。

家庭科を学ぶ意義と課題

 では、そもそも家庭科を学ぶ意義はどこにあるのだろうか。学習指導要領では家庭科の教科目標について「よりよい社会の構築に向けて、男女が協力して主体的に家庭や地域の生活を創造する資質・能力を次のとおり育成することを目指す。(1)人間の生涯にわたる発達と生活の営みを総合的に捉え、家族・家庭の意義、家族・ 家庭と社会との関わりについて理解を深め…」と記述している。
 また教育基本法第1条(教育の目的)は、「教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行わなければならない」と規定している。
 教育基本法が掲げる「人格の完成」は、愛情ある家庭においてなされる。これらの規定を踏まえれば、まず性の多様化の前に、婚姻・出産の意義を取り上げていくのが妥当であろう。
 家庭科という教科は家庭生活や社会環境の変化が反映されやすい。とくに記述内容が大きく変わったのは、ジェンダーの視点で社会のあり方を見直す男女共同参画社会基本法が制定された1999年以降である。
 また家政学や家族社会学などの学問分野において、家庭や家族に関する定義が曖昧で定まっていない。家庭とは何か、家族とは何かについて、学術的な議論が必要であろう。
 子供は学校教科書から人生に必要なあらゆる事柄を学ぶ。その意味で教科書の記述内容に偏りや事実誤認があってはならない。過去、性差を否定するジェンダーフリーが教科書の記述内容に影響を与えてきた経緯がある。ジェンダーの本質を見極め、教育的視点で教科書を見直していくことが重要であろう。

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