コロナ禍における子供への影響と家庭への支援

コロナ禍における子供への影響と家庭への支援

心身を蝕まれる子供たち

 最初の緊急事態宣言が発出されて1年が経つ。学校は一斉休校、分散登校、オンライン授業の実施など多岐にわたる新型コロナウイルス感染症予防対策に追われた。また乳幼児を預かる保育園や幼稚園ではマスク着用や黙食の実施など、コロナによる養育環境の変化が子供の心身に大きな影響を与えている。
 うつ病など健康問題を理由とする子供の自殺が大幅に増え、文部科学省のまとめによると、昨年の全国小中高校生の自殺者は前年比4割増の479人と過去最多だった。
 また警察が児童虐待の疑いで児童相談所に通告した件数は10万6991件(前年比8.9%増)。摘発した児童虐待検挙件数は2133件(同8.2%増)。いずれも過去最多となった。

コロナ禍における子供への影響

 とくにコロナによる環境変化の影響を大きく受けたのは、ひとり親、貧困、孤立など家庭基盤が脆弱な家庭である。
 4月、大阪府立大学大学院の山野則子教授のグループがコロナ禍における子供への影響に関する大規模調査(昨年11〜12月実施)の結果を公表した。
 報告書「コロナ禍における子どもへの影響と支援方策のための横断的研究」によると、何らかのストレスを抱えている子供は9割弱、そのうち高いストレスをもつ子供は約3割強に上った。とくに家族の間における信頼感が高いほど、子供は「家族との仲がぎくしゃくした」と感じない傾向が見られたと分析している。
 さらに休校解除後に学校に行きづらいと感じる子供が約3割。またPTSD症状があると回答した子供は93.1%。うちPTSDの可能性が高いとされた子供が17.8%いた。
 精神的・身体的・その他の負担が増えた保護者は4人に1人に上り、親の精神的健康状態が悪いほど、子供もコロナによるストレスレベルが高かった。
 保護者への調査では、保護者が困った時の相談先として、配偶者・パートナー、親兄弟など大半が親族で、学校・福祉関係の行政機関は極めて少なかった。
 家族員の信頼感が高く、家族関係が良好であるほど、コロナの影響から免れ、子供もストレスを受けにくいこと。家庭や子供の問題を相談できるのは、身近な親族や近隣の知人・友人であること。家族員相互の良好なコミュニケーション、家族の信頼関係、社会資源としての家族の重要性が浮き彫りになった。

IT活用が進む韓国の虐待予防

 コロナ禍の子供の問題で、とくに児童虐待の増加は世界的に深刻な社会問題となっている。そこで、(一財)自治体国際化協会のレポート(「日韓比較から見る児童虐待対策の現況と課題」 Clair Report No.511 2021年3月)から、韓国の取り組みを紹介する。
 まずコロナ禍の児童虐待対策として、韓国は高リスク要素が認められる全児童約2万5千人の養育環境を調査する目的で20年7〜9月に家庭訪問を実施した。さらに被虐待歴のある児童のうち、とくに危険性が高いと判断される8500人に対して6〜11月に安全確認を行った。また今年1月に親権者の懲戒権の条文を削除する法改正をしている。
 IT先進国と言われる韓国では福祉分野へのITの利活用が日本より進んでいる。高リスク要因を持つ家庭の児童虐待予防対策として、3年前にビックデータを活用した「e児童幸福支援システム」を導入した。
 過去の虐待情報、ライフラインの停止情報、社会保険料の滞納状況、乳幼児健診や予防接種などの実施状況、学校の長期欠席の有無などから、一定水準以上のリスクが推定される児童に対して、行政が家庭訪問し、状況確認を行っている。
 コロナ禍の虐待予防として一斉の家庭訪問、安全確認がいち早く実現したのは保健福祉部所管の「e児童幸福支援システム」が整備されていたからだ。
 その他に韓国は、警察庁に「虐待予防警察官(APO)業務管理システム」があり、女性家族部は9歳から24歳の青少年を対象とした「危機青少年統合情報システム」を構築中である。韓国政府の「児童・青少年虐待防止対策(案)」では、省庁を超えて、高リスク児童・青少年に関わる情報のネットワーク化が進んでいる。
 また未婚女性の支援に特化した「未婚母子家族福祉施設」が全国64カ所に設置されていて、妊娠中から3歳未満の乳幼児を持つ親を全面的に支援している。産後ケア施設も充実しており、これが児童虐待のリスク軽減につながっているとレポートしている。 

多機関・職種の連携、情報の一元化

 日本は昨年、児童虐待防止法に体罰禁止を規定、体罰によらない子育てに取り組む一方、弁護士や医師・保健師の配置、児童福祉士の増員など児童相談所(児相)の体制強化、関係機関間の情報共有、児相と警察、児相・市町村、学校・教育委員会と警察との連携強化など対策を強化している。ただ縦割り組織の弊害があり、韓国ほどには情報の共有や連携は進んでいない。子ども家庭福祉の専門人材の資格化の議論も道半ばだ。
 山野教授の報告書では、子供のリスクを発見する仕組み・スクリーニングの導入、福祉と教育行政の連携に向けたデジタル化、地域資源の活用などを提言している。福祉と教育、児相と警察、機関同士の連携を進めるために、高リスク家庭を拾い出し、専門機関につなげる情報の一元化とデータ化は必須だ。
 また広い意味では、子育て家庭を孤立させない家庭支援の仕組みづくりが重要だ。今、子供関連政策を担う省庁横断的な新たな組織の創設が議論されている。社会全体で親支援、家庭支援に取り組むという観点から、家族全体を取り扱う家庭省(家族省)のような組織が必要であろう。

政策レポート

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