コロナ禍後の欧州 ―道徳的秩序回復が急務に―

コロナ禍後の欧州 ―道徳的秩序回復が急務に―

2020年7月14日
家庭基盤充実
平等の教育機会重視

 ヨーロッパ各国は5月に入り、新型コロナウイルスの流行による外出制限措置を段階的に緩和している。フランスは5月11日の第1段階の緩和措置から6月2日に第2段階に移行し、パリ首都圏を除き、全国で段階的に学校も再開している。
 同時にフランス政府は、この時期に実施される高校卒業資格試験(バカロレア)のフランス語の口頭試験の実施を中止した。大学ではネット授業が本格導入されている一方、学生の成績評価に関わる口頭試験をリモートで行う学校も増えている。
 フランスに限ったことではないが、ヨーロッパではコロナ禍後の世界は、完全に元の状態に戻るとは考えられていない。それよりも、これを機会に学校ではテレワークの効果の実証が進められ、同時にフランスでは同国が目指す少人数制教育を加速させている。
 マクロン仏大統領は4月末、学校再開について「ネット環境が厳しい地域で、教育の不平等が生じていることを早急に改善しなければならない」と述べた。特に国民が義務教育を平等に受ける権利が保障されており、IT環境による不平等は避けるべきという考えだ。
 そのため、自治体によってITデバイス購入予算にバラツキがあるなどの問題は、国家が責任を持つべきという方針を打ち出している。フランスはテレワークでの教育には熱心だが、働く親の休業補償、雇用保障とはセットで考えられている。さらに体育、文化活動などの授業の運営が今後の重要課題と認識されている。
 基本的にソーシャルディスタンスにより、過去と同じ規模の人数を学校が受け入れられない問題もある。5月11日の第1段階の緩和措置で小学校以下は、すでに段階的に82・5%の学校が再開した。政府は1クラスの人数の上限を15人程度とし、それ以上の人数のクラスは半々に分けるのが基本だとしている。
 5月11日以降、幼稚園児、小1から小5の授業再開を1クラス15人以下で再開したが、これらの学年は、もともと15人以下のクラスだ。さらに優先的学区内の学校の小1、小2クラスの約29万人は、すでに1クラスが12人になっている。クラスが15人未満の地方の学校の約6万5000人も通常授業を再開している。
 ただ、夏休み前までは通常登校、在宅学習、自習、自由の四つの形態の中から状況に合うものを自治体が適用し、市町村の首長との相談の上、スポーツ、健康、文化的活動を提案するとしている。さらに子供を登校させたくない保護者に対しては引き続き自宅でのテレワークを継続することもできるとしている。
 政府は長年掛けて、初等教育の少人数化を進めており、これを機会に全国で定着化させたい構えだ。教育に高い意識を持つマクロン大統領のこだわりでもある。無論、少人数化には教員の増員も課題だ。
 ブランケール仏国民教育大臣は5月29日、6月1日以降も衛生管理のルールは変えないことを表明した。ただ、学校再開後、ストレスを抱えた子供たちが学校で暴力的になることも懸念されている。これはドイツや英国、イタリアでも同様な懸念が指摘されている。

家庭内暴力の増加

 コロナ拡大に伴う外出制限により、家庭内暴力(DV)が欧州では3割以上増加したことが国連で報告された。国連組織「UNウィメン」はコロナの陰に隠れたDVのパンデミック(世界的大流行)と警鐘を鳴らしている。
 コロナ禍前からDV被害が深刻化していたフランスは、3月17日に外出制限令を出したわずか3日後にDV対策を政府が発表した。英国では同国最大の家庭内暴力被害者支援団体「リフュージ」のヘルプラインに封鎖措置後、通常の7倍もの数の相談電話を受ける日もあったという。
 英大手薬局チェーンのブーツは、全国の支店でDV駆け込みスペースの提供を始め、鉄道会社との協力でシェルター避難のために、無料で鉄道に乗れる制度も広げた。ロックダウンの長期化で家庭内暴力は女性被害にとどまらず、閉鎖された空間での児童虐待も急増させた。ロックダウン解除とともに離婚がますます増えると専門家は予想している。

危機から学ぶもの

 英国の政治学者デビッド・セルボーン氏は英高級政治評論誌ニュー・ステイツマンへの寄稿で「(コロナ禍は)医療関係者だけでなく、多くの人々が救済に努力しており、その社会的、道徳的秩序の種類を検証する機会となった。悲しいことにその答えは、今日の自由な社会においては、ウイルス性疾患以上のものから救う必要がある」と指摘している。
 つまり、コロナ禍は社会に潜在的に潜む病理をあぶり出し、その病理から救う必要があると指摘した。セルボーン氏は「進歩主義を装った左翼は英国を確実に劣化させた」と指摘し、キリスト教に支えられた「道徳的価値観が行き過ぎた市場主義の放置で影を潜め、個人の自由を尊重するあまり、離婚や家族崩壊を加速させている」と書いた。
 また、「市民社会の規範を忘れた自由市場主義者が個人を暴走させ、どこに向かっているのかほとんど考えられてもいない」と嘆いている。その意味ではフランスもドイツも欧州全体が同様な道徳の欠如の課題を抱えている。それが証拠に多くの宗教者は沈黙している。
 しかし、セルボーン氏は「英国市民の多くは市民社会の修復の緊急の必要性を認識している」という希望的見方も示している。欧州の若者の意識調査では、コロナ禍で環境問題への意識が確実に高まったことが確認されている。何かを学びつつあるのは事実といえそうだ。

コラム
ヨーロッパ各国は新型コロナウイルス流行による制限を段階的に緩和し、フランスでは少人数制教育を進めている。一方、各国とも家庭内暴力や児童虐待の増加を懸念、道徳の欠如が課題として指摘されている。 在仏ジャーナリスト 辰本雅哉

関連記事

  • 2020年8月6日 家庭基盤充実

    コロナが変えた世界 ―中国を警戒し始めた欧州―

  • 2014年4月18日 家庭基盤充実

    欧州の夢 ―欧州統合と平和構築のプロセス―

  • 2017年1月6日 家庭基盤充実

    英国のEU離脱と欧州統合の行方

  • 2020年2月13日 家庭基盤充実

    ハンガリーの新家族政策と西側リベラリズムへの警戒

  • 2015年1月8日 家庭基盤充実

    激変する世界と新世界秩序の展望 ―欧州からの見方―

  • 2015年3月24日 家庭基盤充実

    中東の平和に向けた日本の役割 ―欧州の視点から―