「こども庁」創設をめぐる課題と家族の視点

「こども庁」創設をめぐる課題と家族の視点

「愛育・育成・成育」の視点

 「こども庁」の議論は、自民党の若手議員有志が今年2月に勉強会を立ち上げ、3月に提言(「『こども庁』創設に向けた緊急提言」)を菅義偉首相に提出したことから本格化した。5月28日には「第二次提言」が公表された。
 我が国では少子化が進む一方、児童虐待に見られるように、生まれてくる子供たちの養育環境の悪化が大きな問題となっている。第二次提言はこの点を踏まえ、目指すべき社会は生まれたすべての子供たちが愛されて健やかに育ち、たくましく生きていく「愛育・育成・成育」の視点を基盤とした社会であり、子供を産み育てやすい社会を実現すると述べている。愛育は「愛着形成を基盤にすくすく健やかに育つ」、育成は「人格形成・個性の形成でのびのび学び活動する」、成育は「自己表現し、周囲と連携しながらたくましく生きていく力」を意味しており、この三つを政策の柱とするという。

縦割り行政の解消

 こども庁創設の大きな目的としてあげられているのは、縦割り行政の解消である。子供・子育てに関する政策は複数の府省庁にまたがり、これまでも弊害が指摘されてきた。象徴的なのが保育・幼児教育で、保育園は厚生労働省、幼稚園は文部科学省、認定こども園は内閣府と所管が分かれている。
 これらの課題に対して、こども庁を「子ども課題解決のプラットフォーム」に位置付け、専任大臣を置いて、強い権限を持つ総合調整機能や政策立案、政策遂行の権限を持たせるとしている。子供関連予算の一元的策定と確保も担う。これまで諸外国より低い水準が問題とされてきた子育て関連支出の対GDP比を2040年の見通しである1.7%から欧州並みの3%台半ばまで引き上げる。
 また、第二次提言では新たに地方との連携に言及し、地方自治体との「横割り」解消を謳っているのも特徴だ。国は子供が置かれている現場の問題を把握していなかったとして、現場の実態を徹底して調査し、エビデンスに基づく政策立案と実践を展開するという。

多岐にわたる課題

 さらに、こども庁が対象とすべき課題として、1.子どもの“命”を守る体制強化、2.妊娠前からの切れ目のない支援の充実、3.子ども目線での切れ目のない健康と教育の実現をあげる。
 そして、それぞれ多岐にわたる具体的な課題を提示した。例えば1では、児童虐待や自殺、教育現場の性犯罪、いじめ、さらに妊産婦の産後うつや孤独な育児などである。2では、貧困、ひとり親家庭、子育てと仕事の両立、ヤングケアラー、体験・外遊び時間の減少、乳幼児健診・学校検診の質など。そして3では、養育者目線での窓口の一元化、難病を抱える子供への支援、就学前の教育格差、医療情報や学習情報の引き継ぎ、教育費の問題などだ。

賛否の声

 こども庁設置に向けた案に対して、3月の緊急提言発表以降、賛否の声が上がっている。
 例えば教育新聞(4月26日付)が教員などを対象に行った読者調査では、4割以上が設置に賛成している。教育と福祉の情報が共有されることや、日本版DBS(子供に関わる仕事に就く際に無犯罪証明書の提出を義務付ける)の実現を期待する声などがある。
 逆に、否定的な意見では、他の省庁の政策の一部をこども庁に移管することで、かえって今までの関係機関の連携、継続性に支障が出るといったものがある。
 また、こども庁が担うことが想定されている施策には、厚労省や文科省、内閣府だけでなく、法務省や警察庁など多くの省庁が関わっている。それを一つの庁のレベルで所管するのは難しいのではないかという指摘もある。むしろ、現在も横断的に設置されている委員会などで連携を強化して進める方が効果的ではないかといった意見もあるほどだ。
 新しい省庁設置の前に政策の質の向上や、現在の組織改善を議論すべきといった声も少なくない。
 こうした意見を受けてか、5月の提言では、組織論が先行することを避け、子供最優先の政策議論を進めるために専門家の意見や地方自治体と現場関係者からの意見を求めながら、こども庁に必要な機能や仕組みなどの検討を進めるとしている。

求められる「家庭」のアプローチ

 ところで、「こども庁」の当初の案は「子ども家庭庁」だった。そこから「家庭」の文字が消え、現在の名称で議論が行われている。
 名称が変わったことについて、勉強会呼びかけ人の一人である自民党の山田太郎参院議員によると、被虐待経験のある女性が党の勉強会で講演した際、虐待を受けた子供たちは「家庭」という言葉で傷つくから名称を変えてほしいという指摘を受けたという(同議員のホームページ)。
 被虐待経験のある子供たちがそうした思いを抱くのは、ある意味当然であろう。それに対して、子供たちにより良い環境を整備する責任が行政と社会にある。
 ただ、子供に関する課題に取り組む場合、「こども」だけにアプローチするだけでは不十分である。むしろ「家庭」の視点が不可欠である。
 子供に関わる深刻な問題は、親子関係や両親の夫婦関係など家族が機能不全に陥っていることが多い。例えば、児童虐待において、親自身も虐待の被害者だったために心の問題を抱えている事例が少なくない。いわゆる虐待の世代間連鎖である。そこで、親が抱える問題に着目し、親自身を救済して児童虐待を防止するという専門家の取り組みもなされている。
 また、カウンセリングの現場では、心の問題を抱えた本人だけでなく、家族全員を対象に、家族の関係性から問題解決を図る家族療法も行われ、成果をあげている。
 家族が抱える課題を解決していくには、総合的に家族を支援する家族政策が重要である。家族政策について元内閣府参事官の増田雅暢氏は「家族機能を維持していくために、家族や家庭内の問題を未然に防いだり、解決したりすることを目的として、家計や生活面に対して社会的に家族を支援する政策」と定義している(『これでいいのか少子化対策』ミネルヴァ書房)。家族本来の機能を強化することが子供たちの幸福につながり、社会的な安定にもつながるというわけである。
 第二次提言が強調する「子供最優先」、「すべての子どもたちが愛されてすくすく健やかに育ち、のびのび活動する」「子どもを産み育てやすい」社会を実現するためには、「家庭」の視点を切り離すのではなく、これまで以上に総合的に家族を支援し、家族機能を取り戻す家族政策が求められる。

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