「海洋立国」日本の戦略考える —動き始めた我が国の洋上風力の現状下、さらなる海洋エネルギー利用推進に向けてやれること、やるべきこと—

「海洋立国」日本の戦略考える —動き始めた我が国の洋上風力の現状下、さらなる海洋エネルギー利用推進に向けてやれること、やるべきこと—

1. はじめに

 本稿では、まず我が国の再生可能エネルギーの導入ポテンシャルについて述べる。次に、洋上風力発電の経済性を上げるためには、タービンの大型化とファームの大規模化が必要だが、我が国がもつ課題について述べたい。そして、その課題解決の一つの方策として、海洋エネルギーの一つである潮流発電について述べたい。潮流発電で使われる小型発電機は、地産地消という地域振興に有効だ。また小型発電機は、アジアのソフト・シャープパワーになりうるし、我が国の国際競争力の強化にもつながる。最後に、筆者が日頃考える「人格の陶冶」とのアナロジーから見る「国家観の成熟」とSDGsの理念である「誰一人取り残さない」について述べたい。
 海洋再生可能エネルギーを広めていくには、地元の理解が非常に重要である。また地元の人々と一緒に進めていくことが重要である。筆者も長崎県や佐賀県を始め各地で行われる海洋エネルギーに関する会議には積極的に参加するようにしている。

2. 洋上風力発電のポテンシャルと課題

【洋上風力発電のポテンシャル】

 図1は、経産省による我が国の再生可能エネルギー導入ポテンシャルの数値(2020年)を表したものである。太陽光発電と洋上風力発電の2つが圧倒的に大きな割合を占めて、残りのものはわずかでしかない。太陽光発電は3,222 TWhで洋上風力発電は3,461 TWhである。日本の年間発電電力量1,023 TWhが、すべて再生可能エネルギーで賄える可能性は十分にある。

 我が国に十分な導入ポテンシャルのある洋上風力発電であるが、海外ではどのような現状か。現在、海外では既に着床式洋上風力発電が普及している。図2は、洋上風力発電を着床式と浮体式に分けて、世界のそれぞれのポテンシャルを比較したものである。着床式は、米国が6,333 TWhで最も高く、次いで欧州(28か国)が2,266 TWhで、中国は1,822 TWhで、日本はわずか30 TWhである。一方、浮体式は、欧州(28か国)が7,541 TWhで最も高く、次いで米国が5,846 TWhで、中国は142 TWhで、日本は2,223 TWhである。米国と欧州(28か国)は着床式と浮体式の両方で大きなポテンシャルを誇るが、現在は着床式から浮体式にシフトしつつある。


 アジア最大のポテンシャル国は日本と中国であるが、日本は浮体式が2,223 TWh/年と大きなポテンシャルがある。一方、中国は着床式が1,822 TWh/年で大きなポテンシャルがある。日本の浮体式のポテンシャルである2,223 TWhは、上記の日本の年間発電電力量1,023 TWhの2倍を超えた数値である。特に、浮体式洋上風車による離岸距離60 km以内の日本の発電ポテンシャルは中国の15倍、韓国の6倍である。日本には、アジアで圧倒的な洋上風力発電のポテンシャルがある。したがって、我が国こそ、洋上風力発電の開発に真っ先に取り組むべきである。

【洋上風力に対する我が国の施策】

 我が国ではどのような洋上風力発電の導入計画をもって進めているのか。図3は、我が国の2030年度の再生可能エネルギー導入見込量を表したものである。水力は2019年度導入量が50.0 GWで、2030年度導入見込量も50.7 GWでほぼ変わらない。水力は開発できる場所をすべて開発し尽くしたということが言えよう。太陽光は2019年度導入量が55.8 GWで、2030年度導入見込量が103.5〜117.6 GWでほぼ2倍になると見込まれている。


 それらに対して、洋上風力は図1の導入ポテンシャルがあるにもかかわらず、2030年度導入見込量が5.7 GWと非常に少ない。2030年に向けて洋上風力の導入を加速する必要がある。一方、陸上風力の2019年度導入量が4.2 GWであったのが、2030年度導入見込量が17.9 GWへとほぼ4倍と見込まれている。経済性のためには大型風車が必要だが、陸上風力は道路や橋の問題などがあり、達成には疑問が残る。
 2018年に、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(以下、再エネ海域利用法)」が制定され、翌2019年4月1日に施行された。再エネ海域利用法により、「促進区域」として①長崎県五島市沖②秋田県能代市・三種町・男鹿市沖③秋田県由利本荘市沖(北側・南側)④千葉県銚子市沖が選定された。2022年2月時点で事業者選定済となっている。また、「有望な区域」に、⑤青森県沖日本海(北側)⑥青森県沖日本海(南側)⑦秋田県八峰町・能代市沖⑧長崎県西海市江島沖が選定された。さらに、「一定の準備段階に進んでいる区域」に、⑨青森県陸奥湾⑩秋田県潟上市・秋田市沖⑪新潟県村上市・胎内市沖⑫北海道岩宇・南後志地区沖⑬北海道檜山沖⑭山形県遊佐町沖が選定された。まだ各区域に選定された区域は少ないが、一定の法律の効果が現れたものと認められる。我が国の洋上風力発電は、着床式がほとんどで、浮体式は1か所のみである。

【洋上風力に対する我が国の施策の課題】

 洋上風力に対する我が国の施策の課題について述べる。図5の表は、洋上風力が導入された海域毎の売電価格、方式、風車の規模、発電出力、操業開始時期を表したものである。操業開始時期を見ると、どの海域もまだまだ時間がかかることがわかる。

 技術開発の社会実装には技術開発レベルと、それに対応して商業開発レベルが必要である。浮体式洋上風力は、イギリスを中心としたEUでは、2025年頃から競争と市場拡大段階に入った。欧州以外への海外展開も始まっている。また欧州では複数の商業発電が開始されている(図6)。一方、日本は、商業規模へのスケールアップが始まった段階にあり、欧州に比べて遅れている。政府が商業化レベルに近い浮体式風車を対象にした実海域における実証発電や認証取得を政策支援している。日本も商業化への開発を加速する必要がある。韓国は複数の商業事業を開始しており、アジアでは韓国が先行している。日本は、技術大国であるとか、GDPが世界第4位だと言われるが、欧州や韓国の後塵を拝している状況である(図6)。

 日本で見られる大型の風車は、大きさが90 mほどのもので、定格出力が2 MWあまりである(図7左端)。ところが、世界で2030年に向けて建造が計画されている風車は、大きさが230〜250 mほどで、定格出力が15〜20 MWの規模のものである。しかも、それを10基、20基、30基建てた大規模ファームを計画している。大きさが230〜250 mほどある風車は、東京タワーやエッフェル塔ほどの高さになる。

 日本では、政府が主導して風力発電を進めることに今一つ積極的でない。民間企業の主体的な取り組みに任せている度合いが強い。東日本大震災時に発生した原発事故を受けて、欧米では洋上風力発電を加速したが、日本はそうではなかった。
 東京タワーほどの大きさの風車を年間に何十基も建設し、それらを大規模ファームとして管理するから、経済性が出るのである。短期間に大掛かりな工事を完了するためには、当然、莫大な資金が必要になる。また、設置・施工には広大な場所が必要で、専用船が必要になる。数基建てたら、次という速度では到底欧米には敵わない。
 風車産業は製作・組立・設置による機械産業なので、サプライチェーンが非常に広範囲に及ぶ。メンテナンスにも費用がかかり多くの人材が要る。サプライチェーンが非常に広範囲に及び、人材が要るということは、地元が潤うことになり地元にとってプラスである。過去の話になりつつあるが、日本はものづくり大国であったので、サプライチェーンの担い手候補はたくさんある。
 日本のサプライチェーンを活かしていくためには、民間をどう動かして、どのような仕組みを作れば各事業者がモチベーションを発揮してくれるかを考えるべきだ。しかし、日本の場合、その点が上手く行かないところがあるようだ。運転開始までの期間をなるべく短くして価格はなるべく低くしてほしいという縛りで入札を実施しているため、サプライチェーンとして企業が参入しようとしても、採算が取れないと判断してしまうからだ。
 そのような現状の中で、洋上風力を進めるためには、他国にタービン発電機の建造を依頼して日本に運搬しなければならない。依頼先が韓国や台湾ならまだしも、中国となると問題である。日本の海を中国に献上するようなことを日本は意識せずに行っている状況なのだ。
 洋上風力に関する我が国の問題点をまとめたい。まず、洋上風力のコストが我が国は高く欧州の5倍である。専用作業船の質・量両面が不足している。拠点港、分散電源用系統及びその制御システムが不十分である。技術面で見ると、欧州の技術に20年遅れている。マーケットに関しては、我が国のマーケットサイズは欧州の1/100しかない。技術導入は不可避だが、海外の技術に追いつき追い越す画期的な確りとした施策がなければ現状を打破できない。現在、タービン発電機市場は欧米3社に独占され、タービンを確保するのに長期間待たされる。太陽光パネルは、既に100%中国が独占している。近い将来、洋上風力のタービンも中国が独占する可能性が高い。大型化、大規模化を進める地元説得は実質は競合する複数の事業者に委ねられており、交渉は難航しがちである。そこで昨年ぐらいから事業者に代わり国が調査をすることになったが取りまとめは地元都道府県であり、残念ながらインセンティブに問題がある都道府県もみられるのが実情である。

3. 潮流発電と地方創生

【潮流発電を推す理由】

 明治維新の頃は、英国とフランスの2国が世界を席巻していた。しかし、今は中国が太陽光と洋上風力のマーケットを独占しようとしている。世界および日本はそのような危機的状況にあるが、その中でこの状況を打開し日本が生き延びる道についての私案を、これから後半で述べることとする。
 潮流発電の開発は現在、特に欧米で行われている。日本でも長崎県五島で行われている。スコットランドのメイジェン・プロジェクトは、出力計6 MW(1.5 MW×4基)で2016年から稼働している。1基あたりの発電機の重量は200トンである。
 洋上風力発電の風車と潮流発電の水車で何が違うのか。作動流体がそれぞれ空気と水でであり密度が大幅に異なるため発電機の重量が異なる。同じ出力を出そうとすれば、水車の方が圧倒的に小型になる。小型になれば、通常の作業船を使用して地元業者が設置およびメンテナンス作業を行うことができる。このように潮流発電には地域振興の観点からいくつものメリットがある。
 日本で潮流発電開発が行われているのは、長崎県五島の奈留瀬戸で、九電みらい奈留瀬戸潮流発電と呼ばれている。発電機はブレード長が約8 mで、重量が約1000 tである(図8)。2019年から稼働している。

 (株)IHIと(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2017年に鹿児島県口之島沖で海流発電システムの実証試験を行い、今後の実用化に向けたデータを取得した。この海流発電システムの定格出力は100 kWで、重量は約330 tである。
 世界で潮流発電を手掛ける代表的な企業の名前を挙げてみたい(図9)。アイルランドのパワーテクノロジー社、イギリスのアトランティスリソース社、オランダのTOCARDO社とブルーウォーター・エネジー社、オーストラリアのMAKO社、スコットランドのノバイノヴェーション社である。五島列島の海底に設置されたのは、イギリスのアトランティスリソース社の500 kWタービンである。

 潮流発電の意義について述べたい。世界において潮流発電は、SDGsの特に目標7(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)、目標13(気候変動に具体的な対策を)の実現に寄与することができる。日本においては、エネルギー源の多様性の獲得を目指すことに繋がる。エネルギー源の多様性を持つことで、我が国のエネルギー安全保障に寄与することになる。地域においては、新エネルギー源と新エネルギー供給事業を活かし、新産業の創出や地域雇用を増やし、地域振興に寄与することができる。小型潮流発電は、大型化大規模化とは異なる地域の地産地消電力としてのメリットがある。その意味で、小型潮流発電の価値は大きい。また潮流発電は、月の重力に起因するので発電量を何年も先までも正確に予測可能である。潮流発電はまだ我が国が利用可能な再生エネルギーと認められていないので図1には入っていない。

【潮流発電と地方創生】

 さらに、地産地消、地域振興に絞って潮流発電の意義を考えてみたい。潮流発電機が地元海洋工事会社が設置可能な大きさであることは意義がある。地元業者が発電機の設計・製作・運転・メンテナンスを行うことが可能になる。出力パワーが流速の3乗に比例するので、できるだけ潮流速の速い場所に発電機を設置すれば、発電機の小型化・軽量化が可能になる。瀬戸内海や有明湾のように潮流が速い所は潮流発電に適している。発電機については、個々の地元の潮流に相応しい、そして漁業実態と共存共栄できる発電機を個別設計することが望ましい。
 一方、潮流発電は海の干満の差で得られる位置エネルギーを利用するため、エネルギーを取り出すことによる周辺環境への影響はどうしても不可避である。その影響による漁獲量減少があるとすれば、それを補填する必要がある。その点に関して、藻場造成等による漁獲増を企画することが考えられる。潮流発電導入以前に漁獲量は年々減少していたところ、潮流発電とそれを補填する水産資源増大事業によって、地元漁業者の収入が増えることになれば、ウィンウィンの関係になる。

 地域への潮流発電の導入には、漁協の協力が必須である。また、人格者で見識があり、長年にわたり地元に何らかの形で貢献して、地元から絶対的な信頼を得ている人に賛同してもらうことが必須である。そのような地元の賛同者と一緒に各地漁業・商業・経済団体と事前交渉することが決定的に大切である。また、地域漁業団体の現状を知り、経営改善の歴史的取り組みを知ることが大事である。周辺組織との関係も重要である。さらに、国のエネルギー政策の動向も欠かせない。地元で発電したエネルギーの買取価格はビジネスにとって基本的に重要である。地元の行政組織の熱意は非常に重要であるが、エネルギー政策に対する基本姿勢は各自治体で異なる。熱意が高いところもあれば低いところもある。
 潮流発電の実用化と事業化という社会実装に向けて今後どのようにしたら良いかと考えたプランをご紹介したい。潮流発電によるビジネス展開先の「狭小海峡海域」は独特の地域文化や「特定企業・有力者の影響力が強い地域」と想像される。当該企業またはその当事者をビジネスパートナーとする事業展開を想定する必要がある。一般的に定量化が容易な条件の他に、適切なビジネスパートナー選定等、定性要素の強い条件データを合理的に合体して、定性的視点からの分析を加え、新しいビジネスパートナーとの信頼関係を構築しつつ事業展開を図ることが重要である。そこで、海洋発電株式会社はAIの発展が目覚ましい今日、AIを活用したトータル・マネージメント・システムによる成功および失敗経験を教師データにして、順次マネジメントシステムを整備して適海域選定作業の迅速化をはかることを考えている。さらに、ビジネス展開の基本的ノウハウを地元に伝えて地元が発電事業をするフランチャイズ(FC)方式、すなわち「コンビニ化」することが重要である。それらにより、投資と損益の想定計画の目途を事業開始5年目で単年度黒字化とし、10年目の累損解消を目指すことも可能となる。
 この社会実装へ向けたプランを実際に地域で実験を始めたところである。その中で地元地域との共同プロジェクトを組めないかを模索している。そこにおいては、漁業環境の維持向上は非常に重要である。また、地域で生産した電気の有効活用、それによる地域活性化を通して、地域に対する誇りを若者にもってもらいたい。
 実際、海には物を入れると魚が集まるという蝟集効果がある。洋上風力発電機を設置した立入禁止区域は、魚の蝟集効果に加えて、魚を育てる増産効果が期待できる。このことについて長崎県五島市で実証試験が行われている。
 図11は、洋上風力発電機の立入禁止区域になる可能性のある海域で収穫中のアカモクである。長崎大学の桑野和可教授が研究を行っている。このアカモクは、わずか4か月でこれだけ成長した。何もきっかけのない海ではアカモクがこれほど成長することはない。立入禁止区域をプラットフォームにすることにより、アカモクを成長させ、収穫を行うことができる。アカモクは高値で売れる。

 地元漁協の皆様への提案も重要である(図12)。事業計画開始1〜5年後は、商業発電準備期間として、傭船需要、設置工事関連需要、不動産借用需要、消費需要関係者、外部視察者等々来訪による消費需要がある。事業計画開始5〜10年後は、商業発電開始から約5年間の期間に当たる。地元漁協の賛同次第で、近隣商業施設との共同化が可能である。再生可能エネルギーミュージアム構想を模索することも可能である。事業計画開始10年後以降は、安定発電事業期として、「小型潮流発電の発祥の地」としてのブランディングが可能である。また観光事業の重点化も可能である。

 周辺地域への波及効果について述べたい。市に対しては、安定発電事業期での税収効果、人口増加要素の確立、働き口の確保といった効果が期待できる。隣接都市や県(全体)に対しては、上で述べた市に対しての3項目の効果がまず期待できる。さらに、潮流発電の長崎県効果(五島列島奈留瀬戸大型発電所(九電みらいエナジー社)施設と合わせ)や内閣府総合海洋政策事務局の政策への協力効果が得られる。地域に洋上風力、潮流発電をはじめとする海洋エネルギーを導入するには、地元の産学官の協力が大切である。その上で地元事業者中心のプロジェクトが大切である。産学官の協力関係が構築されつつある事例として以下をご紹介したい。
 (NPO法人)長崎海洋産業クラスター形成推進協議会、J☆SCRUM(佐賀県海洋エネルギー産業クラスター研究会)、中国地域カーボンニュートラル(CN)推進協議会、そして株式会社マリンエナジーである。株式会社マリンエナジーは、釜石市の産官学金が協力して、地産地消の海洋エネルギー事業を推進するための地元企業連合である。また、対馬市役所、利尻町役場、奥尻町役場で、浮体式洋上風力発電導入の産官学協力の取り組みが行われている。3年間ほど取り組みが進み、産官学の協力が出来上がりつつある。
 大型で大規模な洋上風力や大型潮流発電への足場固めとして、小型潮流発電は大切なステップとなる。未来世代のために、大型で大規模な洋上風力や大型潮流発電への足場固めとして、地産地消電力である小型潮流発電を進めようとするものである。これにより海洋発電の事業内容が可視化され、漁業者の理解が進む。次は地産地消電力である小型潮流発電の更なる価値についてお話ししたい。

【みんなの学校プロジェクト】

 地産地消電力である小型潮流発電を、海外で我が国が行っているODAの活動の一環として位置付けることができる。インドネシアを始めとするアジアの人口増加国やエネルギー消費増加国に、欧米・中国の覇権主義的再生エネルギー導入と異なる、国々の実情に即した個別設計のシステムを当該国にとって優しい思いやりのある援助(ODA)として提供可能となる。
 我が国が行って大成功しているODAとして「みんなの学校」がある(図13)。これは、アフリカに4万校の小学校を建設するものである。学校建設だけでなく、学校と地域コミュニティと保護者“みんな”の協働で、子どもたちのより良い学びの場をつくっている。

 「みんなの学校」では、運営の透明性が確保される。活発に活動する委員会の設立のために、住民や保護者が民主的な投票で委員を選出する(図13左)。学校の校舎の改善に、学校と地域の関係者が協働して自らが取り組んでいる(図13中)。図13右は、学校活動について話し合う住民の集会の様子である。行政の担当者がモニタリング・支援のために集会を訪れている。
 元々、現地の学校では、教育行政の地方分権化の方針の下、教員、保護者、地域住民などからなる組織、学校運営委員会をつくり、自律的学校運営(School Based Management:SBM)を行っていた。しかし、現地の学校は、コミュニティの地域住民や保護者にとって心理的に遠いままであった。
 そこで、みんなの学校プロジェクトでは、住民や教員、そして学校運営に責任のある人々が協働する仕組みづくりに取り組んだ。情報共有を進め、信頼関係を構築する取組みとして運営委員会のメンバーを匿名の選挙で選ぶことにした。そのことにより教員・保護者・住民が自ら取組むようになった。地域振興promotionには、情報共有、信頼関係にもとづく協働が必須である。
 「みんなの学校」が成功したポイントは、学校運営は地元の人々に任せて、地元以外の人はあくまでサポーターで援助するだけにしたことだ。サポーターはサジェスチョンはするが、決定権は地元の人々にある。

【インドネシアに小型潮流発電を】

 そこで、地産地消電力である小型潮流発電を、アジア地域に、「みんなの学校」の成功例に倣うことを筆者は提案したい。アジアの中でも、特にインドネシアは潮流発電の適地がたくさんある。インドネシア地域だけで、原子力発電所20基〜30基分の潮流発電ポテンシャルがある。潮流発電の適地の周辺には現在はまだ工場はおろか集落もまばらで、需要地は遠く、規模も小さい。したがって、大規模発電ではなく、小型発電からスタートするのが適した地域なのである。
 潮流発電の部品、設置、保守管理は地元の主な役割になる。それを地元で可能な個別設計をして、日本はそれを援助する。規模・効率向上の前に、地元の振興を優先に考えるべきである。このことにより、ODAを通じて強権的政治システム下の途上国の人々に民主主義の価値を根付かせることが期待できる。


 筆者が提案する潮流発電のプロジェクトと似たようなものが英仏海峡にある。しかし、それは先進国同士のプロジェクトであり、経済性市場価格をもって企画されている。筆者が述べたアジア版はより地元振興をターゲットにしている点で優れている。
 時代の趨勢を見ると、途上国振興、国際協力のコンセプトは、「もの」から「こと」へ、「箱もの作り」から「物語作り」へ、すなわち「人の繋がりのデザイン」というのが時代の要請である。「人の繋がりのデザイン」はCIVIC PRIDEという言葉でも表現できよう。そこでのキーワードは経済発展と脱炭素であるので、再生可能エネルギーや海洋エネルギーは親和性の高いテーマとなる。
 発展途上国における未熟な地域経済の問題は、マイナスに捉えがちで、いかにマイナスを補填するか(compensation)を考えがちだ。しかし、発想を転換して、地元との共創を図る(promotion)ことをテーマにすることが重要である。
 地元との共創を図ることで、ファームの大型化・大規模化を進めている日本の事業者が、地元の立場や事情を学び、理解することができる。その中で、地域の海洋エネルギーに対する理解も進む。それを経て、大規模ファームの建設が可能になる。発展途上国は、経済発展がなかなか進まない状態から脱却して、経済発展に進むことができる。遠回りに見えて着実に、発展途上国の経済発展とともに、我が国のエネルギー安全保障、国際的立場の強化にも寄与してウィンウィンの関係になるのである。これこそが、海洋エネルギーで先行する欧州が持っていないものである。日本の海洋エネルギー(洋上風力)の強みになる。
 従来の政策決定プロセスでは、経済産業省、国土交通省による決定事項が関係都道府県知事に伝達され、また農林水産大臣および関係市町村長に伝達される。そして、事業者、漁業組合その他の利害関係者、学識経験者に伝達されるトップダウン型である。しかし、それでは各担当者にインセンティブが形成されず、計画通りには物事が進展しない。従来の政策決定プロセスをトップダウン型からボトムアップ型にすべきである。すなわち、事業者、関係漁業者、学識経験者、関係市町村、関係都道府県、関係都道府県が必要と認める者で協議会を開き、政策決定を行ない、それを経済産業省、国土交通省、水産庁、環境省が支援するのである。ボトムアップの政策決定プロセスは、再生可能エネルギーの普及に大いに役立つに違いない。

4. 愛郷自由主義、人格の陶冶、絶対価値としての真善美

 筆者の提案に対しては、リアル経済を無視したユートピア論ではないかとの反論もあろう。それに対して筆者は、「人格の陶冶」とのアナロジーから見る「国家観の成熟」とSDGsの理念である「誰一人取り残さない」を最後の論点として述べてみたい。
 筆者は、以前から愛郷自由主義というものが哲学上非常に重要なポイントであると考えている(図15)。そこで、個人、社会、自由・統制ということを考えてみよう。

 個人については、強固な自我、確固とした自己、克己・修養による自己研鑽という面(Identityの確立)と、いやいや人は本来欲望、利己主義、その結果の階級対立こそが本性である、という両面がある。社会は、共同体組織Gemeinschaftsと機能体組織Gesellschaftsの2つに分類される。Gemeinschaftsでは組織における利益でなく各構成員の満足感を高めることが重要なテーマであるのに対して、Gesellschaftsは組織自体に目的があり組織利益のために構成員の犠牲が生じる場合がある。社会においてGemeinschaftsは家族と郷土、Gesellschaftsは国家、会社、組織、国家権力である。
 自由と統制については、思想・信仰・内省の自由による豊かな多様性(Diversity)から進歩発展が生まれるのに対して、それを阻害するのが統制・規制である。
 19世紀、20世紀は往々にしてIdentityを見失った個人がGemeinschaftsの大切さを軽視して、Gesellschaftsに偏った、“科学的“社会主義を信奉してきたが、それはその後衰退した。Gesellschaftsに偏った社会観と、統制・規制に走ったのが、全体主義、帝国主義、軍国主義といったいわゆる国家社会主義である。これもその後衰退したが、また最近世界各地で復活しているのが心配である。一方、不十分なIdentityと浅薄なGemeinschaftsから過剰な統制・規制に走るポピュリズムの台頭もまた心配である。そこで後島新平や新渡戸稲造が主張した愛郷自由主義の再評価が強く望まれる昨今である。愛郷自由主義は、確りとしたIdentityを持った個人がGemeinschaftsの大切さを噛みしめ、家族や郷土や仲間と連帯して、違いを認め合う多様性を基本としたものである。
 愛郷自由主義は、図15の個人、社会、自由・統制の右側に示した項目と左側に示した項目を対立的にとらえないでその真実を認めつつ左側に示した項目を重視する。
 図16は、「人格の陶冶」と題して、図15を若干修正したものである。図16のIdentityの中に、家族愛、郷土愛、国家愛、地球愛がある。図16のGemeinschaftsの中に、「友の憂いに我は泣き、我が喜びに友は舞う」とある。これは旧制高校の一高の有名な寮歌にあるGemeinschaftsを言い当てた名文である。Gemeinschaftsにおける友情は、損得勘定無しに情で繋がった関係なので、このような境地に至る。このIdentityとGemeinschaftsは重要であり、通常ここまでは誰でも何とか納得し賛同するかも知れない。しかし、もっと難しいのが、図16真ん中の「学びの原点」「Diversity」「多様性」の体得であろう。例えば、友人・知人と意見が異なるとする。友人・知人がなぜそのような考え方をするのか本当の所が今は分からないかもしれない。しかし、自分自身が時間の経過とともに、更なる学び、経験、人格の陶冶を経ることによって、理解できるようになるかもしれない。学問はそのようにして発展するものである。そこへの到達には、学問の精神に対する情操教育が一番重要であろう。

 図17は、図16の「人格の陶冶」の図を「国家観の成熟」をテーマに応用展開したものだ。国内と国際関係を考えてみる。国内には、国柄、風土、地産地消、地域振興、愛郷心が左側にあるが右側の効率的都市、都市集中と対置する。効率的都市と都市集中は効率性や経済性しか見ていない。国際関係におけるGemeinschafts側には、青年海外協力隊、移民、移住促進があり、Gesellschafts側には、大量生産・大量消費、市場拡大がある。

 その2つを見てわかるのは、何が我が国の失われた30年の原因であったかである。それらの原因を解決するためには、Identityとして家族愛、郷土愛、国家愛、地球愛とGemeinschaftsとしての「友の憂いに我は泣きと我が喜びに友は舞う」、の二つが必要であり、そこから更に、「格差なき世界」「Diversity」「多様性」に至らなければならないのである。そこに至ってはじめて、「誰一人取り残さない」「国際平和」が実現可能となる。この観点が優れた諸外国に比べて劣っていたのではなかろうか。
 図18は、実社会と絶対価値としての真善美をテーマに作成した図である。青い矢印は従来の関係性を表している。ルネサンスおよび産業革命以降の科学は、「それでも地球は動く」と言う、科学的な真実はどんなことがあっても揺るがないことを基盤にできていた。しかし、現代は、時代の変化に伴い、赤い矢印が必要になる。科学は真だけを追求していたが、今は倫理も追求しなければならない。技術もしかりである。経済学も、かつては真を追求すればよかったが、今は善をも追求しなければならない。現代は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の時代である。SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」は真・善・美、全てを追求するものであり、「誰一人取り残さない」を実現しなければならない。その思想を持つことができれば、地球文化の中心に立てる。
 最後に、教育の中心は情操教育にあり、我々を教育してくれる先生は、自然であり風土であることを述べて終わりにしたい。

(本稿は、2024年2月9日に開催したICUS懇談会における発題を整理してまとめたものである。)

政策オピニオン
木下 健 東京大学名誉教授、海洋発電株式会社会長
著者プロフィール
東京都生まれ。1976年東京大学大学院工学系研究科船舶工学専攻博士課程修了。その後、横浜国立大学助教授、東京大学生産技術研究所教授、長崎総合科学大学長を歴任し、現在、東京大学名誉教授、海洋エネルギー資源利用推進機構相談役、特定非営利活動法人・長崎海洋産業クラスター形成推進協議会副理事長。この間、英国エジンバラ大学、ブルネル大学客員研究員、英国サザンプトン大学客員教授、海洋エネルギー資源利用推進機構会長などを歴任。工学博士。専門は海洋工学。
日本は浮体式洋上風力だけで国内電力需要の2倍を賄えるアジア最大のポテンシャル国である。しかし欧州より20年遅れている。地産地消の潮流発電が巻き返しの契機になる。

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