COVID-19(新型コロナウイルス)のパンデミックによって、世界各国は社会経済的に深刻なダメージを受けており、紛争を抱える脆弱な途上国も例外ではない。このような情勢下において、世界の紛争プロセスにどのような影響が出ているのか。また、平和構築にはどのような課題が存在しており、日本が今、果たすべき役割とは一体何であろうか。
1.COVID-19のパンデミック前後の世界の変化
Global Structureの変化
COVID-19のパンデミックにより、先進国では疫学的かつ社会経済的に深刻なダメージが出ている反面、感染拡大防止による移動制限によって、これまでの物流やサプライチェーンのあり方が変容し、社会のデジタル化が推進されている。オンラインでのコミュニケーションや、Eコマースを通じての売買の機会が一層増え、新しい働き方であるギグエコノミーも普及してきている。
一方で、デジタル・ディバイドの問題が深刻化している。インターネットアクセスにおける先進国と途上国の間の格差だけでなく、同じ途上国においても大都市と地方、都市の中でもWifi環境の整っている高級ホテルとスラムとの間の格差ができている。同時に、経済的な理由でスマートフォンといったディバイスを所持することができない人や、読み書きができずデジタルディバイスを使いこなすITリテラシーがない人は、デジタル化から取り残される現状がある。現在、学校教育のオンライン化が進んでいるが、その恩恵を受ける環境にない人は、取り残されてしまう。これまでなかったところに格差が生まれ、分断線が引かれるデジタル・ディバイドの問題は、今後より深刻になると思われる。
また、国際情勢に目を向けると、ここ一年で米中関係がさらに悪化している。南シナ海への中国の勢力拡大や、技術覇権、中国の香港やウイグルでの人権問題等を巡って、米中間の対立が深まっている。中国は、一帯一路やマスク外交・ワクチン外交を通して、パンデミックの最中でも途上国との関係強化を進めている。米ソの東西冷戦終結以降、アメリカの一極体制が続いていたが、中国の台頭により、国際経済のデカップリングも進み、新たな世界の二極化を再来させるかもしれない。あるいは、長期的にみれば、グローバルシステムの覇権を中国が脅かすプロセスにあるとも捉えられ、いずれにしても、米中対立に伴って、世界のシステムは変容する過程にある。
中東情勢においては、イランに対する包囲網が顕著となってきている。2021年1月初めに、GCC(湾岸協力理事会)の首脳会議で、サウジアラビア、バーレーン、UAE、エジプトが、イランのサポーターであったカタールと和解することに合意し、3年間の断交状態から回復している。このことは、中東においてイランを孤立させる観点からは大きな意味を持つ。また、アメリカはトランプ政権の下、中東諸国によるイスラエルの国家承認を進めている。2020年8月にUAE、同年10月にバーレーン、スーダンが国家承認している。スーダンは、これまでアメリカにテロ支援国家の指定を受けていたが、イスラエルとの国交樹立の代替条件として、この指定が解除されている。モロッコにおいても、係争状態となっている西サハラをモロッコの領土としてアメリカが認めることを条件に、モロッコがイスラエルを承認した。これまでパレスチナ問題はアラブ諸国にとってイスラエルとの対立の象徴であったが、サウジアラビアとイランの関係変化やアラブ諸国とイスラエルとの接点が増えることで周縁化し、顧みられなくなっている。将来、深い禍根を残す事態になることが懸念される。
パンデミックの途上国への影響
途上国における感染の影響は限定的だが、社会・経済的なダメージは深刻である。その中で政府の債務が重くなってきており、債務危機が懸念される。債務のGDP比は新興国で2018年に48.9%だったが、2020年には66.7%に上昇しており、途上国においても43%から49%に上がっている。ザンビアは2020年11月に債務不履行(デフォルト)を宣言している。債務に苦しんできた国々では、パンデミックにより国内経済が悪化し、追加支援が必要な中、債務危機がより深刻化している。
COVID-19の影響で貧困も増大している。世界銀行のレポート1によると、貧困削減はこれまで非常に順調に進んできていたが、コロナの影響で変化が生じ、楽観シナリオでも悲観シナリオでも2019年から2020年にかけて貧困者数は増加している(図1)。また、貧困者の45%は世界人口の10%にも満たないFCVの国々に集中している(図2)。FCVとは、Fragility、Conflict、Violenceの略であり、ガバナンスの機能が弱い脆弱国、紛争影響国、およびギャングなどの暴力に苦しんでいる国を指し、これらの国々への支援が貧困削減、開発の問題を考える上で避けて通れない課題となっている。
社会不安や人々の不満について、デモ発生数に関するデータ2をみると、2019年11月までは増加傾向にあったが、2020年3月に限りなくゼロに近づいている。COVID-19の感染拡大によるロックダウンで外出が禁止されたことで、デモが減ったと推察できる。しかしながら、その後あらゆるところで不安・不満が高くなってきており、マリのクーデターやタイの民主化デモ、あるいはBlack Lives Matterが起こり、デモ発生数は跳ね上がっている。
紛争、テロリズム、脆弱層の状況
紛争の状況はどのように変化したのだろうか。PRIOのデータ3によると、過去10年で紛争の数は伸びており、特に最近の傾向としてInternational Civil Warsの増加がみられる(図3)。これは、シリアのように国内紛争が国際化し、様々な外国のパワーが関与することで紛争が複雑化している様相を示している。また、地域的にはアフガニスタン、シリア及び周辺国、ソマリア、イエメン、ボコ・ハラムのいるナイジェリア北部、サヘル地域、コンゴ民主共和国の東部といった地域で紛争が発生している。
テロリズムは、イスラム国の弱体化により2014年をピークに犠牲者は減少していたが、COVID-19のパンデミック以後、再び活性化している。イスラム国やアルカイーダは拠点を移しながら勢力を拡大し、ボコ・ハラムも活動を活発化させている。その要因は、政府がパンデミックの対応に手一杯でテロリズムへの対処に手が回らなくなっていることとともに、人々の生活に対する不満が増大していることである。また、国連PKOの要員派遣が限定され、監視の目が行き届かなくなっていることもテロリズムを助長する要因として挙げられる。
なお、PKOについては近年、国連安保理における合意形成が難しくなっており、機動的で強制力を持つオペレーションは困難になっている。治安要員の大半を途上国出身者が占めているのが最近のPKOの特徴であり、PKO要員の実施能力の強化やモラルの向上が課題となっている。また、国連PKO以外の平和維持活動が増加してきており、AU軍など国連以外のオペレーションが増えている。
和平プロセス(移行期正義プロセス)に関して言えば、これまで進んできたプロセスがパンデミックの影響で後退する現象がみられる。例えば、トーゴやガンビアにおいては平和の配当としての賠償金支払いが遅延し、和平プロセスが滞っている。今まで和平プロセスに参加していた人々に補償がなされなくなったため、和平プロセスから離脱し再び戦地に戻っていくことが予想されており、和平プロセスが頓挫することが懸念される。
難民は2011年以降、毎年増加しており、戦後最多の記録を更新している。ヨーロッパにおいては難民の流入が深刻な社会問題になっており、様々な文化の人々が社会に加わるようになり、インターネットを通して情報も行きかう中で、Home-Grown Terrorismが発生していると言われている。国内の治安が悪化し、国内避難民として住むところを追われる人々が増加している。2019年時点で、発生国ではシリア(660万人)、ベネズエラ(440万人)、アフガニスタン(300万)が上位3カ国である。受入国ベースでは難民の85%を途上国が受け入れており、受入主要国はトルコ(360万人)、コロンビア(180万人)、ドイツ(140万人)となっている4。この大量の難民流入が途上国の社会環境に非常に大きな影響を与えているというのも最近の特徴である。
難民や国内避難民のほか、エスニック・マイノリティや無国籍者、女性、障がい者、高齢者などの脆弱層がCOVID-19のパンデミックにより深刻な状況に陥っている。脆弱層の多くは非正規雇用や季節雇用であり、景気後退の中で失業して生計手段を失い、また身分証がないために医療サービスや生活保護を受けられない状態に陥っている。そのため、生計を立てるために自分の身体や臓器を売って生活の足しにするような事態が起きている。また脆弱層が攻撃のターゲットになっている。社会不安によってデマが発生し、難民などマイノリティへの迫害が発生している。
平和構築は非常に長いプロセスと継続的な努力がなければ実現しないが、これまで見てきた状況をみると、COVID-19の感染拡大によって長い平和のプロセスが頓挫し、逆行する事態が起きている。
2.取り組むべき課題
現在の状況の中で我々は何に取り組むべきだろうか。現在、超大国間の合意形成が難しく、Major Power間のコンセンサスづくりのためにも国際協調主義(multilateralism)を推進していく必要がある。それとともに、いくつかの取り組むべき課題を指摘したい。
人道・開発・平和のNEXUS
かねてより、①人道支援、②開発協力、③平和構築に関わるアクター間には認識のギャップが存在していると言われており、このギャップを乗り越えて三者のNEXUS(連携)を実現することが課題となっている。
例えば、人道支援と開発協力の分野では、活動の目的や方法が大きく異なる。人道支援に関わる機関は、相手国政府を迂回して受益者となる住民に直接的に支援する。相手国のカウンターパートである政府をバイパスして実施するため、人道支援のやり方を誤ると、十分な公共サービスを提供できない政府に対し、住民間で非難が広がる可能性もある。また受入国政府が人道機関の支援に依存し、基本的なサービスの提供を怠る恐れもある。一方で、開発機関は相手国政府を実施主体とし、彼らが自立することを目的として、あくまでも後方から支援することに重きを置いている。すなわち、両者には考え方の視点や支援対象に違いがある。
開発と平和(PKO・治安維持)の間にも同様の難しさがある。PKOや治安維持の軍事オペレーションは早期に紛争を止めて、平和な環境を作ることを目的としている。一日駐在するだけで高額の資金を使うために、迅速に成果を出すことが要求される。それとは対照的に、開発協力は時間をかけて関係者間のコンセンサスを作ることを重視している。このように、人道、開発、平和に関わるアクターの間における認識の相違は大きく、アクター間のNEXUSを実現することは容易ではない。
これらのギャップを乗り越えるためには、三者が共通の青写真を持ち、それぞれがどのような形で行動すれば最適かという視点で考えることが重要である。すなわち、支援を実施することを通してどのような社会を実現していくかという共通認識が必要である。
さらに言えば、援助関係者の間では、「Stabilization」(安定化)という言葉が最近使われるが、この「安定」がどのような状態なのかを熟慮すべきである。例えば、サヘル地域にあるマリ共和国では遊牧民と農耕民との争いが起こっているが、その争いの原因を封じ込めれば紛争の根本原因が解消されるわけではない。どのようにすれば両者が共存できる社会をつくることができるかという視点が必要である。この視点がないままに治安維持だけを進めるならば、住民の納得感を得られない抑圧になってしまう恐れがある。
日本は、オールジャパンでそれぞれのアクター間をファシリテートしていくことに取り組んでいる。例えば、日本はPKOと開発の双方を実施している立場から、国連平和構築委員会に対してInstitutional Building(組織・制度作り)の重要性を訴えている。また、国連のPKO局に対しても、紛争解決や紛争の根本原因の分析方法について知ってもらう機会を設け、治安維持の観点だけでなく、紛争後の社会づくりに対する認識を持てるよう取り組んでいる。
歴史認識のギャップへの理解
我々が避けられないもう一つの課題が、歴史や国際秩序に関する認識の違いである。例えば、歴史的に「帝国」だった国では、我々と世界の見え方が違うかもしれない。旧帝国のトルコ、イラン、中国といった国々はかつて広大な領土を治めていた。広大な領土があった時点を国家の原点とし、現在は国際社会のパワーポリティックスの結果、不当に自国の領土が狭められていると捉えた場合、それを回復するための行動を取ろうとするインセンティブが働く。
また現在、国際社会が注視しているロヒンギャを巡る問題も、歴史認識の問題が根底にある。ロヒンギャのルーツについては諸説あるが、19世紀に起こった英緬戦争でバングラデシュからイギリス軍の一部として入り、のちにミャンマーに住み着いた人々であるとの見方がある。かつて、ミャンマー政府はそのような人々を排除するわけでもなく黙認していたが、近年、ナショナルアイデンティティにかかる議論が起こり、ロヒンギャの人々はミャンマー国民ではなくバングラデシュ人ではないかとの考えがミャンマー国内である程度支持されるようになった。その結果、ロヒンギャの人々の国籍が問題となる状況が生じている。歴史認識に差異があるために、ミャンマー政府とロヒンギャの人々の間で違った形で世界が見えているのではないだろうか。
このように歴史や国際秩序の認識は見る立場によって一様ではないために、どちらが正しいということだけでなく、違う立場からはどのように世界が映っているかを理解した上で世界の現状をみていくことが必要である。
この視点は国際支援を行う際も必要であり、我々の身近にいる人々だけでなく、それ以外の現地の人々がどのように思っているかを認識する必要がある。もし国内に対立構造がある場合、一方のみを支援してもその溝は埋まらない。むしろ、その間を取り持つことも考慮してローカルコンテクストを理解し、ローカルレベルで信頼醸成することが重要である。その点、紛争で対立する両者と話ができる人物の役割は大きい。
格差の是正
前述したように、貧困や格差はより深刻化しており、格差の是正は大きな課題である。ただし、格差について考える際には途上国や紛争国だけでなく、先進国も含めて社会から取り残された人々の問題を考慮する必要がある。
イギリスはEUから脱退する決断をしたが、これはEUというコスモポリタンなシステムの中でイギリスの国益が毀損しているという危機感、あるいは自分たちはヨーロッパ人である前に英国人であり、英国の国益を優先すべきだという自国第一主義に起因する。後から来た移民などへの優遇により自分たちの利益が阻害されていると考える人々が多数いるのである。自らが守られていないと感じて社会の体制に不満を持ち、後から社会に入ってきた移民や難民、マイノリティを排除しようとする排外主義の台頭が現在、世界の様々なところでみられる。
このような環境の中では国民から多国間協調主義に賛同を得ることは難しい。したがって国際協調を進めるためには、途上国だけでなく先進国においても、このような取り残された人たちへの救済、格差の是正や包摂的な社会づくりを進めていくことが必要である。
3.日本の国際協力
包摂的な社会づくりに向けて
社会の包摂性は、テロリズムとも関連があることが分かっている。UNDPはテロリストグループから投降した人にインタビューを行い、なぜ彼らがテロリストグループに志願したかを調査した(図4)5。その要因として、生まれ育った環境、教育、宗教、経済状況、軍警察、政治システム、昇進の早さなどの雇用面などが挙げられているが、その中でも政府に対する不満の割合が83%となっており、また政府の行動がTipping Point(転換点)として指摘されている。目の前で親が政府や軍によって不当な扱いを受けたことで、今の社会に落胆し、テロリストグループへの加入を決めたというような人が71%にも上っている。
この調査をもとに暴力的過激主義が支持を獲得する要因について整理すると、貧困問題、政治的・経済的な不平等、阻害、差別、多様性に対する不寛容(特定の宗教に対する弾圧)、特定集団に対する不当な対応(拘束・殺害等)、政府(政治家、警察、軍)への信頼の欠如(不正義や汚職)、民主主義的なシステムの欠如、政府の統治能力不足(治安維持能力等)、期待と実態のギャップ(高学歴者の失業)、ブラックエコノミーの介在(麻薬取引、組織犯罪、武器の違法取引、書類偽造等)、刑務所における過激化などが挙げられる。これらの要因をみると、暴力的過激主義そのものだけでなく、彼らが育つ社会環境、秩序やガバナンス自体を考え直す必要がある。その点で、国内よりも国際社会全体のガバナンスの問題を問うこともできる。
紛争が発生・再発しない国づくり、社会づくりに向けて、政府が国民に対し、法の支配などの普遍的な価値に基づき、「分け隔てなく」(包摂的)、公正かつ機能的で、また民意を反映したサービスを提供すること(inclusive, fair and functional government)がポイントとなる。同時に、多様なメンバー間で共存できる公正かつ包摂的な社会づくり(Co-existing Society)や、政府と国民間の信頼醸成(Legitimacy)が必要である。JICAは、このような社会を実現していく取り組みを通して、紛争要因を跳ね返す力を持つ強靭な国家が実現できると考えている。
COVID-19下における国際協力
JICAはパンデミックという特殊な状況下において、感染症への対応し命を救う「Save Lives」、社会に対するダメージに対処し、生きていける環境を作っていく「Save Livelihood」の二つに急速に取り組んでいる。それと同時に、感染症のパンデミックに耐えられる強靭な国・社会づくり「Resilient State / Social Building」を目指している。
しかしながら、COVID-19のパンデミックの影響で物理的な移動が制限されており、従来のやり方では十分に対処できない。このような状況下でも平和構築の取り組みを進めるため、デジタル技術の活用が有効である。
例えば、カウンターパートとの対話や彼らへの技術移転の際には、デジタルコミュニケーションツール(ZOOM等)を使用している。また、物理的な移動・流通が難しい中では3Dプリンターの活用も有効である。ネパール地震のケースでは、直後の移動や物流が滞る中、現地の3Dプリンターを使って瓦礫の下で生き埋めになった人を救出するための器具(インフレーター)が活用された。
新たな金融アクセスの手段として、ブロックチェーンも注目される。難民など身分証がない人たちや、銀行の支店がない国境付近や難民キャンプにいる人々は、銀行から金を借りることができず、新規事業を起こすことも困難な状況にある。ブロックチェーンは、そのような人々にも金融アクセスを可能にする。他にも、AI・機械学習の技術を利用した紛争予測・難民発生予測、衛星データやドローンによるモニタリングといったデジタル技術も活用していくべきである。
パンデミックの制約下におけるもう一つの有効手段が、社会的インパクト投資、ESG投資、クラウドファンディング、民間資金の活用(財団等との連携)といった新たなるフィナンシャルモダリティの活用である。特に、クラウドファンディングは非常に大きなインパクトを持っている。紛争国から難民や移民として避難した人たちの中には資産家もいて、祖国のことを気にかけているが自らは祖国に帰れない事情を抱えている。そのような資産家からクラウドファンディングを通して多くの資金が集まっている。ODAや政府の援助は受入側に支援の依存体質を生むという課題があるが、国家アクター主体に頼らない新たなフィナンシャルモダリティの活用は、受益者や脆弱層に対する新たな支援のあり方として注目すべきである。
三つ目がローカライゼーション(事業の現地化)である。JICAではローカルコンサルタントや、現地の国際機関等と協力・連携をし、彼らに支援を行なうやり方も進めている。移動の制約がある中で現地のリソースを使い、パートナーを広げて事業を遂行していくことは可能である。
日本の役割
日本は、今どのような役割を国際社会で担うべきだろうか。かつての「Japan as No.1」の時代は終わり、ともすれば、「Japan passing」になりかねない状況である。現在、英国に同様の傾向がみられ、外交政策も自国の現在の利益を優先する方針に軸が切り替わっている。しかし、COVID-19の影響で先進各国が内向きになる中にあっても、今後も相互依存社会で生きていかなければならないことを認識し、日本は国際協調主義の推進役を担うべきである。
これまで、平和構築の実現に向けて様々なアクターが努力してきたにも関わらず、紛争の解決には程遠い状況にある。COVID-19は世界全体に深刻なダメージを与えており、なおも解決の見通しは立っていない。特に紛争影響国、脆弱国では、より深刻なダメージが発生し、脆弱層が危機的な状況に陥っている。COVID-19の影響は当面続くことが予想されるが、ウィズ・コロナの時代を「ニューノーマル」と捉えるとともに、事態のさらなる悪化に備え、予防的に支援を行っていくことが重要である。そして、欧米各国がCOVID-19の被害で内向きになる中、日本は国際協調主義の推進役となり、積極的に国際社会に関与・貢献することが必要である。
(本稿は、2021年1月21日に開催したIPP政策研究会における発表を整理してまとめたものである。)
注)
1 World Bank, Poverty and Shared Prosperity 2020: Reversals of Fortune, 2020.
2 World Bank, World Economic Outlook, 2020.
3 Palik, Júlia; Siri Aas Rustad & Fredrik Methi, Conflict Trends: A Global Overview, 1946–2019, PRIO Paper. Oslo: PRIO, 2020.
4 UNHCR, Global Trends: Forced Displacement in 2019, 2020.
5 UNDP, Journey to extremism in Africa, 2017.