政策オピニオン

2019年11月27日

物質循環と気候変動による人間社会への影響―環境・資源と将来の地球―

東京大学大気海洋研究所教授 川幡穂高
1955年東京生まれ。東京大学理学部化学科卒業、東京大学大学院理学系研究科修士課程化学専攻修了、東京大学大学院理学系研究科博士課程地質学専攻修了。理学博士。その後、通商産業省工業技術院地質調査所海洋地質部、カナダトロント大学ポストドクトラル研究員、科学技術庁研究開発局、東北大学理学部大学院地圏物質循環学分野教授、産業技術総合研究所地質情報研究部門物質循環研究グループ研究グル−プ長、東京大学海洋研究所教授、東北大学大学院理学研究科客員教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授を経て、2011年より現職。専門は、古気候・古環境、未来環境、次世代型同位体、資源、熱水鉱床、陸域水循環、生物地球化学循環、精密生物飼育。

1.はじめに

 なぜ元素の中でも炭素が重要なのか。まず、炭素は生物の主要構成元素であることが挙げられる。さらに炭素は、化合物が1000万種以上も存在し、化合物の中に情報を貯めることができる稀有な元素だからである。また、二酸化炭素は、気候に物理学的にも影響を与えて生物科学・物質科学と物理の両方を繋ぐはたらきをするので、テーマとして広がりがあるからである。
 ホモ・サピエンスの約1000世代前の先祖は東アフリカに生活していた。6万年前に東アフリカからアラビア半島を渡って世界に拡散して行った。なぜ6万年前にアラビア半島を渡ったのかという謎を解くため、その当時の環境を調査研究した結果、長期間にわたって乾燥していたが、この時期には湿潤期があったことが分かってきた。
 また、ホモ・サピエンスが日本に渡来した当初日本は縄文時代で、10世紀BCに弥生時代となった。大きく影響したのが気候・環境変動で、縄文時代から弥生時代、弥生時代から古墳時代への転換期、そして飛鳥時代・奈良時代・平安時代から武家時代への転換期には大きな寒冷期があった(図1)。


 環境変動は、氷期・間氷期という大変動と短期的に激変する環境イベントがオーバーラップしたものであるが、海で採取した堆積物柱状コアから同位体、特定有機物、微量元素、鉱物、花粉などを精密分析すると、水温、気温、乾燥・湿潤度などの気象パラメーターを復元することができ、文明の転換期には必ず環境変動が原因していたことが分かってきている。

 

2. 地球環境の概要

ごく短い時間に人類は地球環境問題を引き起こした
 現代の地球環境はどうなっているか。地球環境を最も端的に示したものは、宇宙から見た夜の地球の風景である(図2)。


 地球の歴史46億年を1年に例えると、我々の祖先であるホモ・サピエンスがアフリカに生まれた約20万年前は12月31日23時37分に相当する。そして20世紀は12月31日23時59分59.3秒に相当する。このように地球史からみると「わずか0.7秒」という短い時間に人類は地球環境問題を引き起こしたのである。この短い期間に地球上のエネルギー使用量が急速に増加した。この状態が継続すれば持続可能な社会は作れない。現代人の一番の特長は、地球上に出現した10億種の生物の中で唯一電波が発信できるということである。

地球は水惑星である
 もし、地球人位の頭脳をもった宇宙人が地球全体を俯瞰して見たら、赤外線で温度を計測できる。そして、地球上の海水温は2℃~30℃の間にある快適な星であることがわかる。地球上の水の97%程度を占める海から水が蒸発する時に、海を冷却するので、赤道付近といえども海水温は30℃を超えることはない。水1 gの温度を1度上昇させるのに必要な熱量は1calである。しかし、水1gを水蒸気にするには約540calもの熱量を必要とする。したがって、台風の水蒸気が水滴となる時にエネルギーが放出されて強大になる。
 地球に存在する水は、岩石がアルカリ性であるため地下水などもアルカリ性である。海洋のpHも8.2ほどになっている。しかし、日本の温泉は酸性のものが多い。それは日本の温泉が火山地帯にできるので、火山ガスの中にHClやSO2が含まれているからである。

金星と比較すると
 地球の平均気温は15℃と比較的良い状態に保たれているが、隣の金星では、480℃と非常に高温となっている。金星の気温が高温になった理由は、金星の大気が90気圧で,95%が二酸化炭素で、強烈な温室効果が生じているからである。地球にもそれに匹敵する二酸化炭素はあるのだが、そのほとんどは、地殻の中に固形物として貯蔵されている。その固形物の70%以上が炭酸カルシウムである。炭酸カルシウムは貝類などの構成化合物であるが、空気中でカルシウムとCO3が結合することはなく、液体の水が無ければ反応しない。そこで、地球の初期の段階で、液体の水が保持できるほどの温度範囲にあったことが重要である。熱水活動で岩石からカルシウムが溶出し、空気中の多量の二酸化炭素と反応することにより、膨大な量の炭酸カルシウムという固形物として沈殿した。2019年の大気における二酸化炭素の割合は415ppm程度となっている。
 地球の大気に二酸化炭素がないと気温はおよそ-15℃になると推定されている。二酸化炭素による温室効果によって30℃温かくなっている。15年ほど前には、「温暖化懐疑説」が唱えられたが、現在では極少数派となっている。温暖化を分かりやすく例えると、「夏の暑い日に薄い毛布にくるまっているような状態」である。

もともと無酸素だった地球
 地球は還元的な惑星なので、元々無酸素であった。岩石には、二価鉄や硫黄が含まれている。これらは還元的な化合物である。
 なぜ酸素が多くなったかと言えば、光合成が始まったからである。光合成では、二酸化炭素と水から有機物と酸素が作られる。しかし、作られた酸素を呼吸で使い切ってしまうと、酸素は無くなってしまう。今も私たちは酸素を吸っているが、酸素を吸っているということは、でき上がった有機物をどこかに反応しないように貯留していたということを意味する。そうでなければ空気中に酸素は残らない。酸素があるのは光合成があるからだという説明は答えの半分に過ぎず、残り半分は有機物を隔離したからなのである。「地球は植物の星」である。なぜなら炭素量で見た時に動物は全体の0.1%にすぎず、植物が二酸化炭素も含めて私たちに恵みを与えてくれているからである。

地球環境の重心は外洋
 地球環境の重心は外洋である。なぜならば、地球表層全面積の約70%を占める外洋は、質量にして大気の約270倍、熱容量にして約1100倍だからである。外洋が変化すると地球環境は全く変わってしまう。かつて氷期には、カナダ全土、アラスカと北欧が厚さ3kmの氷で覆われ、陸に水分が貯蔵されたので、海面は今より120m位下がっていた。当時の外洋は今とは異なっていた。現在、外洋域でも環境変化が始まっているという兆候が随所で出現しているが、人類は外洋に関してはどうすることもできないのが現状である。
 炭素の貯蔵場に関して、大気1に対して、海洋50、陸上生物1、土壌2である。仮に海洋の1%相当分、0.5だけ大気に移っても、大気は1.5倍になってしまう。このことから、海洋は地球環境にとり重要であると言われている。海洋は熱容量にして1100倍もあるので、将来の気候にも影響を与える。気候は毎日の気象データを平均して長期的に考えたもので、短期を対象としたもので数年間、長期を対象としたもので数十年間以上の期間での特徴を示す言葉である。

現代文明(化石燃料)とスーパープルーム


 現代の文明は、人類が化石燃料を燃やして営まれている。図3はスーパープルームを表した図である。図の真ん中にあるのが核で、その周囲にマントルがあるが、そのマントルが2億年周期で対流運動を起こす。これをスーパープルームと呼んでいる。私たちは、これを火山活動と認識するが、白亜紀には火山活動が活発になり、マントルの二酸化炭素が急速に移動し地球表層環境に供給され、それが地球生物サイクルを介して石油や石炭になった。このスーパープルーム無しには「原料の供給」がないので、石油と石炭はできない。

大昔の地球は高酸素環境にあった


 図4は地球の酸素環境を古代から表わしたものである。目盛100は1億年を表す。光合成すると酸素ができ、酸素が有機物と反応しないように、表層炭素システムより有機物を隔離すると酸素がたくさん残る。石炭と石油はスーパープルームの時にできたものである。石油ができたのが1億年前である。石炭は実際にはいろいろな時にできているが、その大部分が3億年前にできた。その時に有機物が地中に貯蔵されたので、その当時の大気中の酸素濃度は非常に高くなっていた。酸素濃度は現在20%であるが、白亜紀では30%。おそらく石炭紀には35%まで上昇した。仕組みが簡単な動物、例えば巨大なトンボのような生き物も出現した。酸素濃度が高くなると、大きな体をもつ生き物は出現したが、決して頭は良くならなかった。

美食が人類を進化させた
 私たちはいま石油文明をつくっているが、本来、2000kcal~2500kcalの食べ物を摂取すれば十分なはずで、それ以上に摂取すると肥満になり健康に良くない。しかし、現代の先進国の人々は、必要量の70倍~100倍のエネルギーを使用している。しかも世界人口は70億人に増加したので、地球環境問題が起きてしまった。過去5億年間に生まれた脊椎動物は約10億種と言われるが、人為的な環境問題を引き起こした動物はそのうちのたった一つ、電波が出せるホモ・サピエンスのみである。

 

3. 地球温暖化

 21世紀末に温度は2℃ぐらい上昇すると最近まで言われていたが、最近では、様々な状況から判断して3℃ぐらいまで上昇してしまうと予想されている。
 スイスではスポーツとしての登山を百年前からやってきたが、毎夏、氷河が最短となった場所に印をつけてきたが、その印より氷河が短くなっており、アルプスでも温暖化が進んでいることがわかる。
 北極海では、早ければ2050年夏頃には夏季に海氷が全部なくなってしまうと予想されている。北極海に氷が無くなれば、北極航路が開通し、例えば東京からドイツのハンブルグに行くのに従来の航路に比べて半分ぐらいになる。そうすれば、船から排出される二酸化炭素の量が減り、好都合であるという意見もある。しかし、次のような大きな困った問題が生じるおそれがある。
 海洋大循環について述べたい。海洋においては、ノルウェー付近の表層海水が最も密度が大きく、ここで海水が深部に沈み込み、地球を一周して戻って来るのに1500年かかる。地理で習う黒潮や親潮などの表層海流は風で駆動しており、せいぜい厚さ500mである。それに対して海洋大循環は厚さ3km~3.5kmと非常に厚い。仮に温暖化により北極海の氷が解けてしまうと、その付近の海水の塩分が下がり密度も小さくなる。そうすると、海洋大循環のベルトコンベアーの速度が遅くなる。すると、異常気象が加速する。北極海を開発すること自体は悪くはないが、地球環境が変化すると、全世界で異常気象が多発するということになることに注意しておく必要がある。
 日本にいるクマは主に木の実を食べて生息するが、シロクマはアザラシの子供が好物である。アザラシは息を吸いに水面に上がってくる。氷が張っていて息継ぎするところが1か所しかなければそこに上がってくる。シロクマはそこで待っていて餌を獲る。したがって、シロクマは寒くなると元気になるのである。
 1991年はフイリピンのピナツボ山が400年ぶりに大噴火した。その翌年には気温が全球で0.5℃下がり、極域はさらに降下した。翌年にはピナツボベイビーと名付けられた多くのシロクマの赤子が生まれた。ちなみにシロクマがなぜ白いかと言うと、肌は黒いのだが、毛が白いためである。毛が白いのは、毛がマカロニを長くしたような形状で、真ん中に空気が入っているからである。
 次に南極について述べたい。南極は現在、厚さ3kmの氷で覆われているので、この氷が解けると大変な状況になる。南極には東南極と西南極があるが、西南極には厚さ3kmの氷があり、その巨大な氷の重みで地殻は沈んでいるので、氷床の底面は海面よりも下のレベルになっている。したがって、海水が入り込んで氷床の溶融を促進しやすい。この付近の海水の温度は2℃程度だが、それでも氷よりは温かいので、氷が急速に解け出す可能性がある。特に西南極側の温度が上昇しているので、非常に危険な状態にある。(図5)


 南極の氷が解けると一番困るのがサンゴ礁の島である。ツバルはサンゴ礁からできているが、海面が上昇して最近困っている。海面が上昇している原因はまだ正確には分かっていないが、南極の氷が溶けて海面が上昇しているのではない。どうやら海流の流れ方が多少変化したのが原因で海面が上昇しているらしい。その他の理由としては、ツバルでは1年に1.6mmずつ海面が上がっているが、その半分の0.8mmは熱膨張が原因であるとされている。今後さらに地球温暖化が進むと、本格的にグリーンランドや南極海の氷が溶け出すのではないかと恐れられている。
 地球温暖化の影響でハリケーンも多発しているが、2018年にはハリケーンが原因でハワイの小さな島が無くなってしまった。
 人為起源で環境問題が生じている例として図6をお見せしたい。この図は黄土高原の様子を写したものである。写真上部は乾燥地帯である。高原の下の方に揚子江が流れている。崖手前の方にタクラマカン砂漠とゴビ砂漠がある。日本に飛来する黄砂は、黄土高原の砂ではなく、タクラマカン砂漠とゴビ砂漠の砂である。黄土高原は昔、両砂漠の砂が堆積してできたものである。かつて殷の時代には黄土高原の50%ぐらいは森林だったが、その後人為的に木を伐採したこともあり、砂漠化が進み、周の終わりごろには現在のような状態になってしまった。それ以降は木も生えなくなってしまった。


 20年ほど前、大気中の二酸化炭素を削減するには、地中や海に二酸化炭素を隔離すればよいという意見が唱えられた。しかし、海に二酸化炭素を隔離すると海のpHが下がってしまい、炭酸塩が溶解してしまう。大気中の二酸化炭素が多少上昇しても、海の炭素蓄積量が大気の50倍なので海に吸収されるから問題ないと1990年頃には解釈されていた。しかし、このようになるためには、深層水が炭酸を中和する必要があるが、深層水と表層水は混合しにくいために、実際には海は二酸化炭素をほとんど吸収しないのである。10年ほどの期間で調査すると、大気1に対して海が吸収したのがわずか0.5である。海洋は1500年ほどで大循環している。1500年ほどの長期間で見れば1:50の割合で吸収してくれるのだが、10年ほどの短期間ではごくわずかしか吸収しない。したがって、二酸化炭素は大気中に残留してしまう。

 

4. 海洋酸性化

 水のpHは7だと思われているが、実際に実験室等で水道水のpHを調べてみると5.6位になっている。つまり酸性である。ビールやしょう油は4.0位で、かなり強い酸性となっている。例えば刺身を食べる時、刺身は魚の死体なのでアルカリ性である。アルカリ性だと美味しくないので、しょう油につけて食べるのである。ポークやビーフもアルカリ性なのでそのままでは美味しくないからしょう油やレモンをかけたりして酸性にして食べている。人間の舌は酸性にならないと美味しいと感じない。
 酸性雨という言葉を聞いたことがあると思う。工場や自動車などで化石燃料(石炭、石油など)を大量に使用することで大気中に多くのSOxやNOxなどが放出される。それが酸化されて硝酸、硫酸に変化する。酸性雨は、これら酸性物質が溶け込んだ雨である。雨に二酸化炭素が含まれているとpHが5.6になるが、これは炭酸なので毒でない。5.6より低いものが酸性雨であると定義されている。pHが5.6より低くなるのは硝酸や硫酸などの酸性物質が入っているからである。
 近年、海洋はアルカリ性であるが、二酸化炭素が表層水に溶解し、pHが下がってきており、これは海洋酸性化と呼ばれている。海洋酸性化は二酸化炭素のみが原因で、汚染物質が原因で酸性になっているわけではない。実際に有孔虫で飼育実験をしてみると、今世紀末に予想されるpH 7.9やpH 7.7になると炭酸カルシウム殻の形成が難しくなる。産業革命前はpH 8.3であった。(図7)


 海洋酸性化は必ず起こると述べておきたい。図8の目盛1~5は飽和度を表すが、1ならば海水はちょうど飽和しており、1より大きい値つまり赤色から青色は過飽和で、炭酸カルシウムは溶解しにくく安全である。飽和度が1以下のピンク色のところは炭酸カルシウムが簡単に溶けてしまう。


 左側の図の赤道付近の海は青色なので問題ない。珊瑚もどんどん作れる。しかし、右側の図は2050年頃を表したものであるが、2050年になると南極海と北極海にピンク色が出てくる。この海水は冷たいので、ヘンリーの法則により、ガスが溶けやすく、どんどん酸性化する。650ppm位になると、北極海や南極海に炭酸に関して確実に不飽和な海水が現れる。そうなると2050年以降は北極海や南極海域では炭酸カルシウムが全部溶けてしまう。
 恐竜がいた中生代を見ていくことにする。この時代の二酸化炭素濃度(pCO2)は1000ppm~2000ppmと非常に高かった。恐竜がたくさんいた時代は火山活動が活発で二酸化炭素が多かったと言える。そこで、温暖化して、環境は非常に温かかった。そのような時にプランクトンも増殖して最終的に石油ができた。
 ドーバー海峡の両側に露出する地層は真っ白であるが、石灰岩でできていることは有名である。先ほど、二酸化炭素が増える来世紀頃(二酸化炭素が1000ppmを超える時代)になると炭酸カルシウムは全部溶けてしまうと述べた。しかし、1億年前の恐竜の時代は二酸化炭素がそれ以上あったのに炭酸カルシウムがあった。両者は矛盾する。なぜ矛盾するかということについて述べてみたい。
 1億年前の恐竜の時代は海水の組成が現在とは異なっていた。その当時は陸はアルカリ性なので、二酸化炭素を中和していた。換言すると、陸で炭酸カルシウムを溶かしていた。大陸で中和するといっても、そのスピードは非常に遅い。
 一方、5500万年前に二酸化炭素が噴出した時代があった。実際に噴出したのはメタンガスであるが、メタンガスは酸素が大気や海水中に存在すると、数年後に二酸化炭素になるので、二酸化炭素を放出したのと同じことである。このメタンガスの放出は当時1万年間継続したと推定されているが、現在排出されている二酸化炭素量はその30倍であるので、現在の流量に換算すると300年分となる。二酸化炭素の排出スピードが速く陸が中和できず、海洋に棲む有孔虫などの炭酸カルシウムをつくる動物が相当量絶滅し、その後、新たな種が出て来た。現在は、二酸化炭素排出スピードがあまりに速く陸が中和することができず、海洋が二酸化炭素を吸収した。そこで海洋の酸性化は厳しくなった。一方、白亜紀には変化スピードが遅かったので、中和できた。5500年前と現在との違いは、変化のスピードが速いか遅いかである。それに応じて、陸が中和できるかできないかが決まる。陸が中和できるならば海洋酸性化は基本的に起こらない。
 今後の予測に関して述べてみたい。北極海や南極海付近は水温が低いので、二酸化炭素が溶けやすく、炭酸カルシウムは溶けやすい。しかもその付近の海水は冷たいので、深層水となって沈み込む。すると圧力がかかりますます溶けやすくなる。すると5500万年前に生じたのと同様に、今世紀末頃から底生の炭酸カルシウムをつくる有孔虫などは絶滅するかもしれない。
 この状況は私たちの生活と密接な関係にあることを述べておきたい。サケは主に珪藻や翼足類を食べている。翼足類の仲間にクリオネがいる。生まれたばかりのクリオネには貝殻があるが、成長するとともに貝殻は退化して消滅する。つまり、貝殻のない貝なので、「ハダカカメガイ」という和名をもつ。北太平洋には殻をもったクリオネが多く棲み、サーモンの餌の3分の1は翼足類らしい。クリオネの仲間の翼足類がいなくなってしまうとサケも餌が少なくなるので、太れない。そうなると日本の食卓にも影響が出るであろう。
 海洋酸性化についてまとめてみたい。白亜紀の恐竜の時代は、二酸化炭素が多くても困らなかった。それは二酸化炭素が増えても陸が中和したからである。中和して石灰もたくさんできた。二酸化炭素濃度の高い時に多くのプランクトンが溜まった。問題は、二酸化炭素量ではなく、スピードが問題なのである。スピードがあまりに速いと海洋が酸性化してしまう。海洋のpHが下がると炭酸カルシウムの生物は生息できない。そのような状況がいま起こりつつあるのである。

 

5. 化石燃料資源を生み出した環境

石油
 石油の可採埋蔵量は3兆バレルと言われている。富士山と同じ量である。これが多いか少ないかは人によって評価は異なるが、あと100年位で無くなってしまうと言われている。図9の横軸は1920年から5年刻みで1975年までとなっている。この円の大きさが埋蔵量である。2つだけ巨大な円があって、他は小さな円である。50年前から現在までずっと石油はあと40年あると言われている。なぜなら、40年の定義は確認された可採埋蔵量を毎年の使用量で割って計算しており、毎年の使用量分の油田を毎年新たに発見しているからである。しかし、そろそろ本当に無くなりそうである。エネルギーを得るため、つまり燃焼するためだけに使用するのではもったいない。


 図9の中の巨大な2つの円はサウジアラビアとクウェートである。しかし、このような巨大な油田は、この50年間発見されていない。広域探査と地域探査を徹底して行っているので、大きな油田がないのは確実で、今後発見されるのは小さな油田しかない。したがって、オイルサンドなどの別の種類の石油が出てきてはいるものの、在来型の石油はあと100年経つと本当に無くなってしまうであろう。したがって、石油化学のような化合物の原料として石油を使用するならば良いが、エネルギーとして使用するだけでは、石油のもっている最大限の利点を活かせないと言える(図9)。

原料の供給
 南極大陸の中生代白亜紀後期の地層から恐竜の化石が発見されている。当時、火山活動が活発で温暖化により炭素が沈着し最終的に石油になった。当時の南極の海水温は17℃で、氷が無かった。現在の南極海の表層水の水温は2℃ほどである。中生代の海水の最高温度は38℃である。現在一番温かい外洋水の水温はインドネシアの北で29度である。


 図10のグラフの目盛の単位は100万年である。目盛100というのは1億年前である。ほとんどの石油はこの時にできている。この時は二酸化炭素が多く、温度も高かった。海洋地殻の形成速度も高かった。図中の黒色頁岩(こくしょくけつがん)とは、石灰岩の白い部分に有機物が5%~13%含まれて黒くなったものである。石灰岩であることに変わりはないが、この有機物が熱熟成などを受けると石油になる場合がある。黒色頁岩は、石油の原料になる。


 現在の地球では、原料となる炭素がないので、大規模の石油は形成されていない。白亜紀に地球内部の火山活動により二酸化炭素が供給されて石油ができ、現在の石油文明が成り立っている。そのように恐竜と石油は密接に結びついており、両者は表裏一体である。図11の赤点の所に黒色頁岩が多く溜まっている。その中で大きい油田は赤道湧昇帯の北部にある。赤道湧昇帯は非常に特殊な所で、栄養塩に富む中深層水が湧昇している。さらに、当時のアラビア半島やベネズエラの地域は、沿岸に近かったので、陸からの栄養塩の供給があった。そこで、有機物がヘドロのようになって溜まった状態となり、熱熟成を経て石油となり、最終的にサウジアラビアやクウェートに超巨大な油田ができた。


 図12を見ると、地表、海面に達するエネルギーを1000とすると、そのうち光合成で固定されるエネルギーは1で、食糧となるのは0.005、つまり5パーミル位である。非常に効率が悪いので、効率を良くすればエネルギーを採取できるかもしれないと研究が進められている。

石炭
 石炭が主に生成されたのは石炭紀である。前期は温かかったが、後期は冷たくなった。これは全休的な傾向で、赤道はいつも温暖湿潤だった。したがってシダ植物が繁茂して石炭になった。石炭の生成過程を説明した学説は200以上存在するらしいが、私はその中でも一番重要なのは以下の内容ではないかと思う。
 食物の中に食物繊維がある。ヒトの消化酵素で消化されない食物繊維は、野菜や果物に多く含まれており、食物繊維は消化されずにそのまま出てきてしまう。食物繊維の1つがセルロースである。セルロースを分解できるセルラーゼという消化酵素をヒトはもたないので、セルロースを消化することはできない。しかし、牛などの草食動物は腸内にセルロースを分解できる微生物を住まわせているので消化することができる。
 リグニンは高等植物の木化に関与する高分子のフェノール性化合物であり、木質素とも呼ばれる。ほとんどすべての生物はリグニンを分解することができず、リグニンは木材腐朽菌によってのみ分解される。リグニンは石炭紀の初期に出てきたが、それ以来、生物は食べても餌にならない。それで、植物が光合成を経て合成したリグニンを中心に、有機物が残ったためと思われる。リグニンは木材中の20%~30%を占めている。
 光合成によって生成された有機物が地中にシールされると、酸素と反応できないので、待機中に酸素が残るが、石炭紀には大気中の酸素が35%まで達してしまった。その証拠が地中の中に残されている。35%あると自然発火する。森林が自然発火したという証拠が地中に残っている。それで酸素が35%以上になると森林が燃えてしまうので、35%以上にはならない。石炭紀の3億年前の地球はそのような状態だったと言われている。

 

6. 将来の社会―資源と環境問題のジレンマ―

エネルギー
 エネルギーを得るのに際し放出する二酸化炭素が少なければ少ないほどよい。石油と石炭と天然ガスで二酸化炭素発生量を比較すると、石炭を100%とすると石油は75%しか出ない。天然ガスは57%である。NOxやSOxなどの有害物質に関しては、石炭の排出量を100%とすると、天然ガスはそれぞれ20%と0%なので優れている。したがって石炭を使用する代わりに石油を使用し、石油を使用する代わりに天然ガスの使用を促すのが環境保護になる。最終的にどの資源を使用するかはコストの問題となるが、先進国では天然ガスを使用しようとなるのに対して、途上国では石炭のままとなる傾向がある。
 究極の埋蔵量を生産量で割った数値が可採年数でE/P比というが、石炭はまだ1580年、石油は81年、天然ガスは107年となる。可採年数の視点で考えると、比較的短い石油と天然ガスを使用する代わりに比較的長い石炭を使用することが奨励される。今世紀は今後、「枯渇する資源は利用せずに残しておこう」という要請と「環境を保護しよう」という要請が一層強まって行き、石炭を使用するか、否かで葛藤がきつくなるであろう。
 スペインでは、太陽光の発電が非常に積極的に行われているが、新聞報道によれば、東京は1滴でも雨の降る日は全体の3分の1、つまり120日ぐらいある。雨が降る日は太陽光発電で電力を供給できないので、太陽光発電を行うことに関して、日本は非常に不利な条件下にあることを知っておく必要がある。
 石炭や石油は10円弱、原子力は4.4円である。ところが水力は13.5円、太陽光は37円~46円で高い。コストがかかり過ぎると、輸出不可となるなどの弊害が出てくる。日本ではもっと積極的に地熱発電を行ったら良いと思われる。110もの活火山を擁する日本列島では地熱発電こそが日本に与えられた恵みだからである。しかも地熱発電は安定している。風力発電は、風が吹いたり吹かなかったりといった不安定要素がある。
 世界的には再生可能エネルギーのコストは年々下がっている。特に、毎日が晴天である中東のカタールでは最安値の3円の値が付いた。これは原子力より安い。日照が良く、利用可能な広大な土地をもつ国で再生可能エネルギーを用いて発電すれば、この位の価格で可能であるということである。技術開発がさらに進んでコストが下がれば、太陽光発電は将来有望なエネルギー供給方法となる。
 原子力について述べておきたい。値段が安いというのは確かだが、ウランを燃やしているだけでは、量的に石油の代わりにはならない。なぜなら、ウランの可採埋蔵量は石油より少し少ない程度しか、地球表層に存在しないからである。高速増殖炉でウランを何倍にも使うならば石油の代わりになるが、基本的にウランは石油の代わりにはならないことを強調しておきたい。

アイスコア
 極地の氷床(アイスコア)は毎年少しずつ雪が溜まってできたものである。南極のアイスコアは深さ3000mになる。地球は10万年ごとに自然の働きにより氷期・間氷期を繰り返してきた。現在は間氷期である。二酸化炭素濃度は、氷期・間氷期で180ppm~280ppm幅で繰り返し変動してきた(図13左図)。しかし、このモデリングでの定量的再現については、現在でも完璧にはできていない。したがって、モニタリングを継続しながら環境改善策を実行し将来の進歩に期待しつつ、何かしらの改善策を実施して誤ったと判断すれば直ちに元に戻るという作業を地道にやっていく必要がある。


 図13の右側のグラフは、1億年前から現在までの氷期間氷期をプロットしたものであるが、二酸化炭素濃度は、白亜紀、つまり1億年前には、1000ppm~4000ppmであった。超長期の平均現象トレンドは1年あたり平均0.00001 ppmとなる。自然の働きで急激な変化が起こった氷期・間氷期でも、年あたり0.01ppmであった。現在は1ppm ~2ppmのスピードで上昇している。自然が経験したスピードの100倍から10000倍のスピードで上昇している。
 平均気温が2℃上昇することを標高差だと300mである。緯度では250km~300kmとなる。したがって、仮に3℃上昇すれば、緯度では400km位になるので、今後50年ほど経過すると、農業従事者は全く別のモノを栽培しなければならない状況になるかもしれない。
 今までの地球環境問題で成功した例としてフロンがある。オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書の時はフロン製造会社が先進国に数社しかなく、フロンの生産を段階的に規制することができた。
 二酸化炭素においては、皆が加害者で皆が被害者である。この問題をきちんと解決する手段を人類は有していない。今日指摘されているように、環境の観点からは、超高速の変化だということが一番のポイントになる。次善策でもよいので、少しずつ対処の方針を実行する必要ある。社会の合意形成を確立する手段は、同時併行で検討・実行する必要がある。リスク管理もしかりである。社会構造が改変した場合に誰が責任を持つのかについても解決すべき課題である。それで、科学・技術的に重要な点は長期モニタリングを行い、変化をきちんと把握する必要がある。100年先を推測するのに海洋観測では30年~40年のデータしか揃っておらず、50年分のデータさえ揃っていない。すなわち人類は1世紀以下の解析はどうにか解析のベースとなるデータを有しているが、それ以上の100年200年間を支配するプロセスの理解は不十分で、今後の創造的な科学的解析・技術開発が期待される。
 我慢して地球環境を救おうということが議論されることがあるが、我慢では地球環境を救えない。経済プロセスを勘案しながら創造的な新技術を開発して問題を解決していくしか方法はない。

(本稿は、2019年7月19日に開催した研究会における発題を整理してまとめたものである。発題で使用した図表は、個人的な集まりでの使用である。)